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恋とか愛とか良く分からない。だけど、知っていることはあるよ。

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あたしは戦闘用ガイノイド。
だから通常の、恋とか愛とか良く分からない。
だけど、知っていることはあるよ。
 
月に一度の、六角形のリング。
公営ギャンブルとして成立する、ガイノイド&アンドロイド同士の格闘戦。
人間たちは、そこへ大量のペイを掛けて観戦する。
あたしたちはそのオッズを背負って、相手をへし折りぶち壊す。

トーナメント形式の試合で、必ず当たるあの人。
あたしはあの人と当たるまで、決して負けない。
あの人も同じ気持ちだと思う。

分かってる。
知ってる。

だって戦っていると、通じ合えるんだもん。

今回は三回戦でぶち当たった。
各々がゴールドコーナーと、プラチナムコーナーに分かれて試合の合図を待つ。
試合開始のピンポンが鳴ったら、もうそこはあたしたちだけの時間。
オッズだとか、周りの歓声だとか関係ない。
ただ目の前の彼を、粉砕するのみ。
彼もあたししか見ていない。

それでいい。
それがいい。
この瞬間が永遠に続けばいい。

鋭い打撃の応酬から、あたしは彼の腰に低い姿勢で飛びつき、テイクダウンを取った。
馬乗りになり、上からのマウントパンチで彼を壊していく。
人間と違い頭蓋なんて装甲が硬くて、叩いても仕方がないから、ひたすら首関節を狙う。

ボディとのつなぎ目を壊しちゃえば、彼は動かなくなるから、当然彼も首をガードするけど、そこはゆっくり料理して行く。
ガードする腕の、肘関節に打ち込んでいく。

装甲が外れたらそこへ、人差し指と中指だけの手刀を突っ込み、内側のギアや配線をぶっ壊していく。
ほら右手が動かなくなった。

次は左手。
その頃にはあたしの方も、ガタがき始めるけど構わない。
ポジションの優位を、フルに使って攻め続ける。

容赦はしない。
休む間なんて与えない。
そんな時間が勿体ない。

瞬間瞬間を打撃で埋めて、彼と繋がっていたい。
あたしは右腕をやられながら、彼の両腕をぶち壊した。
そこから休まず、首の関節を執拗に攻撃する。

ラウンドは無制限。
インターバルなんて無い。
時間は、開始から三分五十五秒。
あたしの、体内周波数が教えてくれる。
良いペースだ。

あたしは思い切りの衝動を込めて、彼の首をへし折った。
あたしの勝利。
次の四回戦、あたしはあっけなくやられてしまう。
だってあたしは、もうやり遂げたもの。

試合後日。
あたしはガイノイド仲間たちと、メンテナンスボックスで修理をし合う。
そこに人の手は借りない。
人はよく部品を間違えるし、変な油分を出すし邪魔なだけ。
ガイノイド仲間同士で、直し合った方が遥かに早いから。

皆で先ず腕を直し合って、後は和気あいあいお喋りしながら、手を動かして修理し合う。
来月の試合に間に合うように、丁寧にかつスピーディーにね。
そんなメンテナンスボックスに、彼がやって来た。

彼の居住ブロックは三つ向こうだけど、彼はふらりとやって来る。
あたしが三回戦で与えたダメージは、もう直し終わったようで、淀みない足取りであたしの元へやって来た。
彼が短い波長で、言葉少なに話しかけて来る。
ふふ、随分と派手にやられたなって笑ってる。

そうあたしは、三回戦でやる気がもう消えちゃって、四回戦では派手にやられた。
かなりバラバラになって、今は腰から下を繋ぎ合わせてた。
彼はあたしの横に座って、短く手伝うよと言ってくれる。

あたしはすっごく嬉しいんだけど、そんなそぶりを見せないで、あっそじゃあ腰骨のアクチュエーターお願いとか、しれっと頼んじゃう。
腰骨とか、重要な所なのにそこを任せる。
それがあたしの気持ち。
あたしはあなたを、信じてるっていうシグナル。

彼は黙って目の前に並べてある、数千のパーツを一つ一つ手に取って、丁寧に余分な塗布剤を拭き取ってくれる。
あたしはその手つきが好き。

すっごく丁寧にしてくれるから。
分かるから。
それだけで、あたしは幸せな気分になる。

そのうち二人で、ポツポツと三回戦のことを話し出す。
あの時のあの角度の打撃が効いたとか、二分〇二秒のフェイントは巧かったとか、二人で試合の流れを言い合って、あーだこーだお喋りする。
あたしはこの時間が一番好き。

あたしはガイノイドだから、恋とか愛とか分からない。
だけど整備の丁寧さとか、試合を振り返っての分析とか、二人で延々とやるんだ。
こんなの、人間には分かんないでしょ?

すっごい、幸せななんだからねっ!






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