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2 俺の名は?

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## 来たれ勇者

 純粋な魔力が空気を揺らし、地下の薄暗い儀式上でありながら、すべての影が失われんばかりに光であふれている。

 20人ほどのローブをまどった者たちが3層の円状にならび、中心では2人の少女が声を発している。

 中央でひときわ輝く魔力はおぼろげな輪郭で、竜人、有翼人、獣人と転々とうつっていき、静かに光が収まると一人の裸の男が立っていた。

 筋肉のついてない、細身の長身、白く短いヒゲのナイスミドルな姿でありながら、堂々とした仁王立ちと全身からただよう気迫から、全裸であることが当然で、その姿に自然とみなが頭を垂れていく。

 そんな中でも、数人は慎重に、厳しい顔で仁王立ちの男に注視していた。

 勇者召喚の儀式は、高度な魔術儀式なのである。そして、その隠された儀式の秘密を知る者にとっては、今が一番油断できない場面であった。

 ともすると、その裸の男にこの場の人間が惨殺されてしまう、そういう事態もあり得るのだ。

 長い白髭の老人が裸の男に尋ねた。

「新天地へよくぞ参られました。私の名はガウン、してあなた様はこの新天地で何を望みまするか?」

「そうだな、しばらくゆっくりと過ごしたい気もするし、授かった力を試したいって気持ちもある。ガウンさんは、俺にどうしてほしいんだ?」

「話し合いはできそうですな。こんな場所で立ち話もなんです、場所を変えましょう」

 裸の男はマントを受け取り、地下迷宮の深い層の儀式上から地上へと向かった。


## 砂時計のミニゲーム

 俺は、精神の能力値が低いにもかかわらず、天運を最大にしていたおかげか不思議と堂々としていることができた。

 これが王者のふるまいというやつなのかもしれないが、小さな少女からその他大勢に全裸をご披露するというのは奇妙な体験だった。

 召喚された場所はそれこそファンタジーもののダンジョンのような石造りのもので、薄暗い道を進んでいった。

 なんとなく、目で見えている以上に、地形がうっすらとわかる気がする。

 太陽の見える窓のある地上の一室へと招かれて、俺はやっと裸にローブという装備からひとしきりの服を着ることができた。

 少女2人と、ガウンと名乗った老人、そして屈強な戦士1人に俺という構成で、話し合いの場となった。

「さっきから、えらく警戒されているようだな。勇者として招かれたから、お祭り騒ぎとはいかなくても、歓迎されるのかと思ったが」

「我々からは儀式が成功したのか、人間の姿をした悪魔を召喚してしまったのか、判別がつかんのです。ご容赦くだされ」

「それはとんだ欠陥だな。まぁ、話を進めよう」

「はい、こちらの2人の少女は、若くして才能あふれた魔術師のミーンとレーメ、そちらの無骨な男がハンゲルニール、そなたはどうお呼びしたらよいかの?」

「名前か……どうしたものかな、どう名乗るか……これまでの名前を引き継ぐ気はあまりないんだ」

 ふと、少女2人がこちらを見ていて目が合った。

「じゃぁ、ミーンとレーメ、俺に名前を付けてくれないか」

「どうしようお姉ちゃん、召喚の儀式だけではなく、名前を付ける大役までいただいちゃった」

「ミーン、浮かれてはいけないんだから……でも、どうしよう……」

 嬉しそうであり、困惑もしているような少女達の反応は心地よかった。子供の無邪気さが心を癒される。

「ガウンさん、時間をはかる道具はあるか?」

「砂時計がありますな……1回落ちきるのに3分です」

「よし、それじゃぁ3分だ、3分で考えて決めてくれ。他の人は助言禁止な」

 ぎょっとして慌て始めた少女2人の反応に、とても楽しくなってきた。

「もし、決められなかったら、授かった異能の実験体になってもらうからな」

 さらに、ぎょっとした2人はさらに焦り、慌てた相談がはじまる。

「ちょっと待って、そもそもあなたの異能は何なの?」

「ふふふふふふ、怖いか?」

 邪悪に笑ってみた。

「お姉ちゃん、こういう時は歴代の偉人の名前やそこをアレンジするのだけど……」

「待って待って、偉人、偉人、偉人、偉人、えーっと」

 妹のミーンのほうが冷静で、姉妹の行動の違いも見ていて面白い。

 とっさに、ミーンは振り返り、棚にあった本に手をのばす。バサバサっとページをめくって斜め読みをしている。

 姉のレーメもそれにならって、本をめくりはじめたが、同じ本をなんども繰り返しバサバサしている。

「あと、半分だ」

 姉がこちらに振り替えってつげた。

「お願い、なんでもするから実験体にするのは私だけにして」

「いいだろう」

 即答だった。

 とはいえ、すぐさまレーメは本に戻り、今度は少し冷静に読み取っていく。

 ミーンはそんな行動を気にも留めず、抜群の集中力で本を次々と読み飛ばして散らかしていく。

「これどう? 魔王クレイドルを倒した英雄とともに戦った賢者ワーワンド、その意味は星の英知」
「これは? 北方の世界を雪原へと変えた大魔王ゲオハールト」

 そして、すっと砂時計の砂は止まった。

「時間切れだ!」

 2人の驚愕した、ほんの少しの恐怖と、とまどいの顔が非常に心地よい。

「残念だが、決まりはしなかったな」

 難しい顔をした、ガウンが言う。

「その、少女にむたいなことをされるのは……」

 立っているハンゲルニールが、今にも武器を取りそうだ。

「ははははは、なに、傷をつけたり体罰なようなことはせんさ、安心しろ。しかし、名前が決まらないと不便だな……フェルマンという名前にしよう」

「ふむ、フェルマン殿も人が悪い……この3分で考えておったのじゃろ?」

「ははははは、そんなことはないさ」

 そう、決まらなかった時の代案を用意しておいただけである。名前などどうでもよかった。

 だから、さっきのワーワンドでもグランでも、どちらでも構いわしなかったが、レーメのなんでもする、とまで言ったところはきっちりと果たしてもらいたくもあった。

 どうしよう、いたいけな少女になんでもしてもらえるチャンスができてしまった。2人っきりにさせてもらえるだろうか?


## 肉を切らせて骨を断つ

 そして、だいたいのこの国、ハーマルーン王国の事情や、やってほしいこと、俺にどのような選択肢があるかの話が済んだ。

 魔族との戦いへの参戦が表向きの希望であるものの、防衛線は厳しくはないらしい。
 魔族との防衛線が短い分、他国と比べて押し返してもメリットが低く、それゆえに小さな国でとどまってしまい、政治的な力も弱く、国王の代替わりの時期が近い。
 後継者の不安要素もあるなかで、現在の国王は少しでも、他国との政治的な力をのばしたく、勇者がいる、という力の象徴が欲しかった、というのが本音らしい。

 そして、俺の選択肢は、勇者として国に雇われた特別な傭兵となるか、それを蹴って根無し草となるか、という2択である。
 どうするか、5日間、考える時間がもらえ、それまではささやかに豪華な宿と、食費がもらえるので、ひとまず今日はその選択を考えることを止めて、宿へと向かった。

陽は高く、昼を過ぎて街がにぎわっている。

ハンゲルニールとレーメとともに、寄り道はせずに宿へと向かった。

 さて、宿の部屋へレーメだけではなく、ハンゲルニールも付き添うとなかなか譲らなかった。なかなかの頑固者である。
 俺がどんな人間か、見定まりきっていない中で、そうそう、譲ってもらえるはずもない。
 だが、あまり異能を知られたくはないし、堅物と一緒というのも楽しくない。
 なんとか「そんなに俺が信じられないなら、俺の男根を切り落としてくれて構わない」という一言で、納得してもらえた。もちろん、切り落とされずにも済んで、しぶしぶ帰ってもらえた。
 われながら、新天地だからと挑戦的なことを言ってしまったかもしれない。
 当然だが、切り落とされるのはもちろんごめんだが、少女と2人っきりでなんでも言うことを聞いてくれるという心躍る場面を俺は護りきりたかったのである。

 そして、最悪、男根が切り落とされたとしても、実のところ少女にいやらしいことをすることは、できるのである。子種は宿せなくとも、お尻はさわれるのだが、おそらくハンゲルニールはそのことに気づいてはいまい。

 そう、戦いは二手三手先を考えて行うものだ。
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