「君が好きな小説と僕が好きな君の話」

夜碧ひな

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「君が好きな小説と僕が好きな君の話」

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-1-
僕は小説家だ。
あんまり売れてないけど。
それでもいい。
だって、お金のためじゃない。
最低限食っていければ、それだけで、あ。

あと、あの時君が好きと言ってくれた、あの物語を。書き続けることができるなら、それで。


高校二年、夏。
蝉が忙しく鳴き、太陽は照りつけ、何もしなくても汗をかく、そんな日和。
僕は放課後、図書室で一人小説を書いていた。
趣味の一つ、と言ってもこれしか趣味はないのだが。
クーラーの効いた涼しく静かな部屋に一人、外からは様々な部活動の声が聞こえ、廊下からは他愛のない話し声が聞こえる。
そんな空間が、とても居心地がよく、僕が持つペンは休むことを知らなかった。
だが、そんな空気を壊すように、見覚えのある顔が僕の前に現れた。
彼女は図書室のドアを開け、その場で挨拶をした。


「えへへ。久しぶり。」



-2-
「何の用だ。」

「え!?酷くない??
せっかく逢いに来てあげたのに。」


彼女は渡邊 明李音。僕の幼稚園からの幼なじみだ。


「会いに来て欲しいと言った覚えはないが。」

「会いに来ないで欲しいとも言われてませんので!」


昔はとても仲が良かった。いつも二人一緒だった。
互いの親は仲が良く、家族ぐるみの付き合いで、今でも母同士は連絡を取り合っているのだとか。
だが、僕と明李音は年齢が上がるにつれ生きる世界が変わっていった。いつも一緒だった僕らはいつしか廊下であってもすれ違うほどになった。
いや、僕が避けてただけかもしれないが。

「何の用だって聞いてんの。」

「今日は特別にお姉さんがいつも一人で可哀想な暖と一緒に帰ってあげようかと、、」

「断る。明李音は友達いるんだからそっちと帰りなよ。あとお姉さんって同期だろ。」

「もぉー!君はそういうところがいけないの!
だから友達いないんでしょ!」

「いらないね!一人でいる方が気楽だ。」

「そういうこと言う!ほら!
こんな可愛い現役JKと帰れるチャンスなかなかないんだよ?」

「自分で言うな。」


そう、そうだった。
この日、僕たち二人の時間は、またゆっくりと動き始めたんだった。



-3-
「人が会いに来たのにずっと手止めずに何書いてんの?」

「小説。」


彼女は驚いた様子で僕の後ろに回り込み、僕の手元をそーっと覗いた。


「へぇー。小説家なんだ。」

「そんなんじゃないけど。ただの趣味。」

「これ、もしかして、恋愛系?」

「だったら?」

「マジ!?私恋愛小説大好きなんだよね!」


彼女はまるで小さな子供のように目を輝かせて言った。


「ちょっと見せて!」

「あ、ちょっ、、!」

「主人公の女の子は、渡部 明李菜。。
バスケ部で、高校二年、、
もしかして、、モチーフ私なんじゃ、」

「んなわけねぇだろ!」

「だって、苗字も名前も一文字違いだし、バスケ部だし、高二だし!」

「たまたま!」

「あー!照れてるぅ!私のこと好きなの?いいよ!
彼女になってあげても!」

「断る!!生きる世界が違うんだ。やめてくれよ。」

「えぇー!先帰っちゃうの?待ってたのに?」

「部活サボろうとすんな。早く行け。」

「このバカ真面目!!」

「馬鹿でも阿呆でも結構。じゃな。」

「あ、暖!!」

「あんだよ。」

「暖のファンとかいたりするの?」

「どこにも出してないからいない。趣味だから。」

「じゃあさ!」


彼女は今度も目を輝かせながら、優しく言葉を放った。


「君の初めてのファンになってあげるよ!」



-4-
秋の訪れが香ってきてもいいはずなのに、
まだ汗は滲み、冷房や扇風機をしまうには早い時期。
いつもと変わらず、図書室入って左側。
手前と奥に長い机がひとつずつあり、横に十、計二十もの机が均等に並べられている。
僕はいつも手前の先頭から三番目の机の端に座る。
ここなら時計も見やすく、カウンターも近い。
誰もいない空間が素晴らしくいい、だが今日は違う。


「なんでいつもの僕のせきにいるんだ!」

「いいじゃん!先生の場所温めておいたんだよ!」

「冬にやれ。暑いだけだわ。
あとその先生いじりキツイからやめてくれ。」

「この間の続き書いてくれた!?」

「はい、どうぞ。」

「やったー!「放課後の図書館」!
こんな素敵な話を無料で読めるとか最高すぎ!」

「出世払い。毎月千円。溜まっていってますので。」

「たっか!じゃあいいです!」

「じゃ、持ち帰ります。」

「うう、、!やっぱ読む!せめて百円!」

「十分の一。。まぁいっか。はいよ。」

「楽しみだったんだぁ!
暖にこんな才能があったなんて知らなかったよ。」


素人の趣味をここまで喜んで貰えるとは。
正直思ってもみなかった。


「あ、そういえば!
今は初恋の話だけど、暖の初恋って誰なの?」


僕はこの時、いや、この後も分からなかった。
恋とは何か、好きとは何か。あの日が来るまでは。



-5-
少しずつ寒さが目立ち始める頃、私は一人図書室にいた。
時計の秒針の音が響くこの部屋は、何故か懐かしいような気持ちになった。


「お前早いんだよ。」


この子は私の幼なじみの「柳瀬 暖(やなせ はる)」
彼がここに来る理由は、、


「はい。今週の分。」


書いている恋愛小説を私に見せるため!


「ありがとう!今週も面白かったよ!柳瀬先生!」

「いいからそのいじりやめろって。」


暖は嫌がってるけど、私は結構本気で小説家になれると思う。だって素敵だもん。


「ところで暖って、好きな人とかいるの??

「え、は??な、なんで。」

「だって、こんなにリアルな恋愛模様かけるなんて、ちゃんと恋愛してなきゃ無理でしょ??」

「そんなことねぇだろ。」

「いるの!?」

「いないよ...!
まず、ちゃんと好きっていうのとか恋とか愛とか全然わかんない。全部、妄想の創造。」

「ふーん。
あ、休日とかなにしてんの??」

「図書館行って小説書いてる。」

「放課後と変わらない。」

「いいだろ別に。」

「じゃあ今週日曜、駅前の図書館十時集合!
執筆のお手伝いします!じゃっ!ありがとね!!」

「その日は予定、、」

「なんて、どうせないでしょ!じゃっ!!」


この時はまだ知らなかった。
私の身に、あんなことが起きるなんて。



-6-
普段鳴らないはずの時間に目覚ましがうるさく響く。
日曜朝七時。普段なら当たり前のように寝ている時間だ。
だが、今日は違う。予定がある。
いや、正式には普段より時間が早いだけなのだが。
いつもは白シャツに黒いパンツで図書館へ向かうだが今日は違う。人に会う。これはそのままの意味だ。
オシャレ、など生まれてこの方したことがない。
持っているのはモノトーンばかりだった。
仕方なく普段とは上下逆の配色コーデに決めた。
歯を磨き、顔を洗った。
髪のセットなど、したことがない。
気持ち程度に髪をとかした。

駅前の図書館に着いたのは八時半頃だった。
いつもなら三十分で準備できるのに、何故かこの日は一時間もかかった。
早速いつもの定位置に座り、原稿用紙にペンを走らせた。
そういえば、明李音になんで今どき紙に書くのか聞かれたことがあった。そんなのロマンがあるからに決まっているだろと答えると少し表情がくもった。
あまりにも薄すぎたか。
文字の丁寧さでその時どのような心境だったのか思い出すことができる。
これを後付けしておこう。せっかく会うんだ。
話すことでも決めておこうか。いや、あいつの事だ。こっちが話題を出さずとも勝手に話が進んでいくに違いない。
今日はやけにペンの走りがいい。まだ一度も手を止めていない。
明李音、今日書きあげたものを読んだら、どんな顔をするだろうか。もっと読みたいとはしゃぐだろうか。内容に入り込みすぎて泣くだろうか。
どちらにせよ、いい反応が待っていることは確定している。

この時、僕はまだ知らなかった。
この日、彼女に会うことはできないなんて。
図書館にある時計の針は、まもなく十一時を指そうとしていた。



-7-
この世には、幸福と不幸のジンクスがあるらしい。
幸福が来れば次は不幸が、不幸が来れば次は幸福が。
僕にとってこれは、不幸以外の何者でもなかった。


「え、交通事故?」

「そう。今、明李音ちゃんママから連絡があって。
駅前の交差点で車と正面衝突したんだって。
ちょっと?もしもし?暖?ちょっと?大丈夫?」


走る。彼女が運ばれた病院まで。
バスや電車を使った方が確実に早く着く。そんなことは知ってた。
でも体が言うことを聞かない。
こんなことなら運動しておくんだった。体が限界を迎えようとしている。ここで僕まで倒れたら意味がない。そんなことはわかってる。
でも、そんなことを冷静に考える余裕はなかった。
とにかく早く。少しでも早く。もう体力はないのに、何故か足は止まらなかった。
この時。そう、この時だった。自分の気持ちのくせに、少しも理解していなかった。やっとわかった。
やっと理解した。彼女に、明李音に抱いた想い。
それは、紛れもない、恋だった。
きっと、次は、幸福が訪れる。はずだ。



-8-
走り続けてどれほど経ったのだろうか。
体感は二,三時間。でもよく見ると時計は三十分ほどしか進んでいないようだった。
僕がようやく病院に着いた時にはもう治療は終わっていた。
病室には明李音の両親と静かにベットで眠る明李音がいた。
話を聞くと、事故の原因は運転手の過失運転致死傷。信号待ちしていた明李音と衝突したらしい。奇跡的に目立った損傷はなかったが、医師の検査と事故現場の調査により頭を負傷していることが判明した。
医師の口から直接的な説明はなかったが、最悪の場合、記憶喪失に陥る可能性があると両親は話していた。
明李音が目を覚ましたら連絡を入れることを明李音の両親と約束し、僕は一度家に帰った。


「ただいま。」

「どうだった..!?」

「とりあえず無事だった。深くはまたあとで言う。」


そう言って僕は二階の自分の部屋に閉じこもった。
ベットに横になると、普段なら気づかなかったであろうシミをライトのすぐ近くに見つけた。
目に涙が溜まる。
あの時、約束を断っていれば。。
明李音はこんな目に遭わずに済んだ。自分を責めても何も変わらない。
自分の無力さに、醜さに、腹が立ってしょうがなかった。
所詮はこの程度だ。物語など、僕の書くものなど、大事な時に何の役にも立たない。
必要のないことを今までずっとしてきた。挙句の果てに大切な存在を傷つけた。
僕は、彼女の人生を、奪ったんだ。



-9-
明李音の母親から連絡があったのは事故から三日後の事だった。
頭の損傷により回復が遅れたが、何とか目を覚ました。
食欲もあり、正常な状態を保っている。
だが、、

「はい。」

「明李音。」

「イケメンさんだ。
初めまして、渡邊 明李音です。」


彼女は、記憶を失くした。


目を覚ました彼女に僕の両親は会いに行ったが、僕はどうしても体が動かなかった。
記憶喪失。
そのワードが絡まったイヤホンのように、いつまで経っても解けず引っかかっていた。
僕が会いにいったのはそれから三日後の事だった。
もしもう会えなくなったら。
そんな恐怖心が重い腰を上げてくれた。
なるべく早く着くように、この間走った道を横目にバスに揺られながら病院を目指した。
病室は彼女だけのものらしく、かなり広かったと、明李音の状態の後に母が話してくれたのを思い出す。
彼女の病室のドアをノックし、聞き覚えのある声が聞こえてから開けた。


「明李音。」


彼女はこちらを向いて。微笑んだ。
この日は日差しが優しかったからだろうか。
無重力空間にいるように、ふわふわと、白く、
まるで天使のような彼女は、


「イケメンさんだ。
初めまして、渡邊 明李音です。」


そう丁寧な挨拶にお世辞を含め、また少し優しく、微笑んだ。



-10-
「調子、どうなの?」

「すっごく元気だよ!ほら!」


そんなの知ってる。互いの両親から散々聞いた。
会いたかった。けど、怖かった。
そんな思いのまま来てしまったからだろうか。全然会話が思いつかない。
二人の会話が進んでいたのは彼女のおかげだった。100%、彼女の技量だった。


「あ、えっとー。」


沈黙を破ったのは彼女だった。
少し気まずそうに何か言いたげな彼女は、何かお願いする時の彼女と変わらない様子だった。


「名前、聞いてもいい...?」


彼女と会う恐怖の正体はまさにこのことだったとすぐに確信した。
わかっていたこと。でも恐れていたこと。
僕は気持ちを悟られないようになるべく明るく答えた。


「柳瀬、柳瀬 暖。
君と同じ、高校二年生。」

「暖。暖くんか。素敵だね。
なんか、君にピッタリ。」


何なのだろう。まるで初対面の人に喋る感覚。
なのにそれを補うように一言褒める。
むず痒さが増してしょうがない。


「あ、お母さんから聞いたよ!
私たち幼なじみだって。」

「あ、あぁ。」


僕が返事をした後、今の今まで笑っていたのに、
その表情が嘘だったかのように彼女は涙を目に浮かべた。


「ごめんね。私、あなたのこと覚えてなくて。
正直、じぶんの名前もしっくりこないというか。
お母さんもお父さんも、全然わからなくて。。」


何かが爆発したように、彼女は綺麗に涙を流した。


「だから、、教えてほしい。
私の事、あなたのこと。
私のことを知っているあなたに、こんなことお願いするのは非常識だってわかってる。
でも。。
私は、あなたに教えてほしい。暖くん。」


よく表情が変わる人だ。
泣いているのに、少し微笑んでそう言う彼女を、彼女に負けないほどの優しさで包み込んだ。
ずっと一人で抱え込んでいたのだろう。平気なフリをして。ずっと我慢してきた。
僕は彼女が抱える恐怖を吐き出せる存在であれたことがとても嬉しかった。


「じゃあまず一個、明李音を教えてあげる。」


キョトンとして首を傾げる彼女に僕は優しくこう言った。


「僕を呼ぶ時は、下の名前で呼び捨て。」


さっきの泣き顔が嘘のように今度は晴れ晴れとした笑顔を浮かべた彼女はやっぱり天使にしか見えなかった。


「暖!」



-11-
「お母さんから聞いたんだけど、暖ってお話作ってるんでしょ??」

「あぁ。まぁね。」

「今度見せてほしいな!
だから、また逢いに来て...?嫌...?」

「ううん。わかった。また来る。」

「うん!」


なぜ明李音のお母さんは僕が小説を書いていることを知っているのか。
そう疑問に思ったが、すぐに答えが出た。
きっと明李音が喋っていたのだろう。

『でも、今は怖くて書けてないんだ。』

なんて、瞳をキラキラさせている君には言えなかった。
元はと言えば僕が悪い。あの時断っ、、。
何度後悔しても、しきれない。
僕が書いたものが、僕らを再び繋いでくれた。
そんな気がしていた。
だが、その物語が彼女の人生を奪った。
大切な記憶を、僕は、奪った。
また、大切なものを奪うかもしれない。
今度は、殺めてしまうかもしれない。
そんな恐怖が、僕の時間を止めていた。
家に帰り、部屋に戻る。
机の上には乱雑に原稿が置かれていた。
以前の彼女は、僕の物語を喜んで読んだ。
だが、今の彼女は、喜んでくれるだろうか。
少し前まで書くことがあんなに楽しかったのに、今はとてつもなく身体が重い。
やっとの思いで椅子に座り、ひとまず原稿をまとめた。
今まで感じた喜びと恐怖が頭の中で交差する。
心も頭も整理はつかぬままだったが、また少しずつペンを動かし始めた。



-12-
「はい、これ。
前に言ってたやつ。」


そう言って僕は前にも渡した原稿をもう一度渡した。
彼女は以前と全く同じ表情を浮かべ、読んでいい!?と心を踊らせているようだった。


「私、恋愛小説好きかも。
この主人公の女の子、可愛いね。」

「でしょ。好きなんだ、この子。」


当たり前だ。
その子のモチーフは、他でもない明李音なのだから。
僕の作る物語のヒロインは、いつだって君だった。
いいところ、好きなところをちょっとずつ散りばめる。
だが今回は、全部彼女だった。
今思えば、書き始め当初から、
いや、もっと前から彼女の、明李音のことが好きだった。


「へぇー。。小説家なんだ。」


ふと、学校の図書室で再開した時のことを思い出した。


「そんなんじゃないよ。ただの、趣味。」

「ううん。小説家さんだよ。
暖なら、ほんとになれると思う。」


僕の方を向いて優しく笑ってそう言い、また視線を原稿に戻した。
どこからともなく湧いてくる涙。必死に抑えても何故か止まらない。
ただ、この涙が嬉し涙だということは、分かっていた。
そして彼女もまた、静かに涙を流していた。



-13-
彼女は涙を隠すように僕に背を向けて横になった。


「どうしたの?」

「なんでもない。」


涙を隠そうと声を控えていたが、震えていた。


「僕、何か。。」

「違うの。なんだっけ。明李菜ちゃん、だっけ。
女の子。」

「うん。」

「この子見てたら、
こんな風に生きたいなって、思っちゃって。
私、今までどんな風に生きてたんだろ。」


さっき担当の看護師から聞いた話だが、明李音は毎日のように夜は泣いているそう。
目が覚めたら、じぶんも周りもわからない。
知らない世界にたった一人放り出された。
怖くないわけ、ない。
それでも、彼女は絶対に笑顔を絶やさない。それは、周りのためでもあり、自分のためでもある。
恐怖に、不安に、飲み込まれないために。
僕は、彼女の体に手を回し包んだ。
華奢で小さく柔らかい。
だけど、どこか強くて軸のある、そんな心の強さと温かさを感じた。


「君の生きてきた、世界を。。
君の見てきた、色を。!
書かせてくれないかな。」

「え...?」

「ムダかもしれない。
何の役にも立たないかもしれない。
むしろもっと君を悩ませるかもしれない。
でも君を、泣いてる明李音を、放っておけない。
もう、手を離したくない。
僕にできるのは、書くことぐらいだから。」


言い終わってから気がついた。
僕は一体何を言っているのか。何をしているのか。
恐怖を煽っただけじゃないか。放った言葉をなんとかしようと彼女から離れようとした。だが、思った反応とは百八十度違うものが返ってきた。


「ヤダ。離れないで。」

「え、?」

「暖、温かい。意外と、体大きいんだね。」

「....明李音?」

「書いてほしい。私の人生を、あなたの紡ぐ言葉で。」



-14-
記憶を失くした高校二年生の渡邊 明李音。
彼女の病室に毎日のように通う理由は、幼なじみだからという訳ではない。
僕は、彼女の物語を紡いでいるんだ。
昔を書き、今を繋ぐ。そんなような事。


「ねぇ、暖。」

「ん?どした??」


彼女は見覚えのある言いにくそうな顔をして、こちらを向いた。
言いにくそうとも取れるが、少し照れているようにも見える。


「このお話って、私の物語なんだよね?」

「そうだけど...??」

「放課後の図書館に、というか明李菜ちゃんにすごく似てるんだけど。。」


君の物語を書く。なんて自分から言い出したくせに、少し書くのが嫌だった。
様々な小説を書いてきた僕だが、
今回の【放課後の図書館】は正真正銘主人公ヒロインは明李音だった。
だから名前も明李菜と一文字違い。バスケ部で高校二年という設定も一緒だ。
そのため、自らそのネタばらしをするようなことはしたくなかったが。
こんな機会でもなければ一生言わずに終わる気がし、白昼堂々と恥をさらした。


「実は、明李菜のモチーフは、、
明李音なんだよね。」

「そうだったんだ。どうりで似てると思ったw」


彼女はまるで他人事のように言った。
明李菜=明李音で、僕は明李菜が好き。
ということは、つまり明李音が好き。
というところまで推測されると思っていたがその予想は外れた。個人的には気づかれて、好きだよ。とか言ってみるつもりだったのだが。


「私、もしかしたら。」


彼女はそう言うと少し顔を赤らめ、一拍置いてから言葉を繋げた。


「君のこと、
暖のこと、大好きだったかもしれない。」



-15-
シンプルに喜ぶべきか、それとも聞こえなかった振りをするべきか、どうするべきか。
全く検討もつかなかった。
「大好き」と言われた時の対処法。ググッておくべきだった。


「な、なんてね、、!
ごめん。私何言ってんだろ。。」


彼女は先程よりも顔を赤くし、その様子を見られないように隠しているようだった。


「可愛いよね、明李菜。」

「え?」

「僕、好きなんだ。明李菜のこと。
可愛くて、華奢で、だけど強くて、自分を持ってて、温かい。
僕の大好きな人。」


僕はそう言いながらベットの横の椅子に腰掛け、覗き込むように明李音の顔を見た。
彼女はわかりやすく、火照っているようだった。


「どうしたの?僕は明李菜ちゃんの話をしてるんだよ?」

「......!!///」


何か言いたげだが、思うように言葉が出ない。と言ったところだろうか。
だが、あまりにもこれは茶化しすぎではなかろうか。少しイチャイチャしてみたいという密かな欲望が、不本意に爆発していることを今更ながらに知る。


「それって、、」

「そう。僕も大好きだよ。明李音。
あ、でも君は好きだったかもしれないだけで、今は好きじゃないのか。。
忘れて!」

「いや、!
い、今も、、好きだよ。暖。」


この幸せが、永遠に続けばいいのに。
そんなことを思ったのは何年ぶりだろうか。それほどまでに幸せだった。
だが、やはりこの世のジンクスは解けないらしく。
幸せの次は。


「明李音...?明李音!!」



-16-
彼女が倒れてから、すぐに検査が行われた。
事故発生後の検査によって発覚した頭部への損傷が日に日に脳内を蝕んでいたらしい。
当時は小さく、発見まで至らなかった。その後定期的な検査でも異常はなかったが、ここ数日で一気に悪化脳に影響を及ぼす腫瘍となり、今日の発見に至った。
そして、神様とは本当に不平等なもので。


「残念ながら、明李音さんは、もって一年の命かと。」


明李音の両親は医師と話をしていた。正式には娘の命を助けてくれ、という懇願だったが。
涙を流す両親と同じ空間にいるのがあまりにも辛く、明李音の病室に戻ることにした。


「明李音。」

「あ、暖。」

「大丈夫なの?」

「もちろん!ちょっと頭が痛むけど、全然平気だよ!」


彼女はまた何か言いにくそうな顔をこちらに向ける。


「暖。
さっき、言いそびれちゃったから、言うね。
私と、付き合ってください。」

「え。?」


僕は、どうしたらいいのだろうか。
彼女を救える方法は。そんなことよりも今付き合っていいのか。彼女に余命は伝えないのか。
どっちつがずの考えが頭の中を駆け回る。
全身パニック状態だった。
ムダに涙が止まらない。どう止めようとしても、止まらない。彼女の温もりを肌で感じる。
触れてなくても、この空間が、声が。とっても。


「どうしたの?私と付き合うの、嫌?」

「違う。。違う。」


違うんだ。そうじゃない。付き合いたい。大好きだから。でも、もしこれ以上関係を持ったら、君は死ぬのが怖くなる。僕も離れるのが、怖くなる。
そんなこと、考えたってしょうがないのに。
やっぱり涙が、。


「ねぇ、暖。」

「ごめん。僕からも、言わせてほしいな。」

「え?」

「明李音、僕と、付き合ってください。」

「はい!」


僕の涙などお構い無しに満面の笑みを浮かべる彼女にさすがの涙も晴れてくれた。
たとえ、終わりが見えたって。終わるまでは終わってない。
最後の最期まで、僕は彼女の手をつかみ続ける。
そんなことをそっと心に誓った、今日だった。



-17-
昼下がり。暖かな日差しが、まるで僕らを歓迎するように丸く包み込んだ。
優しい空間が、どこかふわふわとしているようで、とても心地よかった。


「明李音??」


彼女は「ハッ」とすると、恥ずかしさを紛らわせるようにこちらを向いて微笑んだ。
そのまま視線を落として小説に目を向ける。
だが、文字を読むどころか瞼を閉じてしまった。
どうやら眠いようだった。
静かに寝息をたてながら、頭がコクコクと動いている。


「明李音。」

「ね、寝てないよ。!」

「昨日眠れなかったの??」

「...うん。
最近ちょっと頭が痛くて眠れてなくて。
でも、、大丈夫。ほら、元気だよ!」


そう言うと彼女は動いて見せた。


「眠いなら眠れるかもよ。寝れる時寝ときな。」

「だって、折角暖が会いに来てくれたのに。」

「そんなのいいから。」

「私が嫌なの!
一緒にいる時ぐらい、、同じ時間過ごしたい。。」


彼女は少し拗ねた顔で上目遣いでこちらを見た。


「何それ。可愛いんだけど。」


少し頬を赤らめ照れた彼女は、まさに天使のようだった。


「いつでも来るから。大丈夫。安心して寝な。まだいるから。」

「ほんと??」

「うん。大丈夫。」


僕の言葉に安心したのか、彼女は素直に目を瞑った。


「ねぇ、暖。」

「ん??」

「私たち、付き合ってるんだよね。」

「うん、そうだよ。」

「その、、き、、
いや、やっぱなんでもない。!」


寝るどころか、目が覚めているように見える彼女の額には少しだけ汗をかいているようだった。


「き、、?」

「.........///」

「き、、
なに...?」

「き、キスとか、しないのかなって。
ほ、ほら!この小説にも出てくるし、、!」

「じゃあ、寝て。」

「え??」

「目を閉じたら、してあげる。キス。」


僕がそういうと、彼女は目を泳がせた。じぶんから言っておきながら、心の準備にはまだ時間がかかるようだ。また、それは僕も同じくだった。


「じ、じゃあ、おやすみ、、」

「うん。おやすみ。」


彼女はそっと目を閉じた。瞼がピクピク動く。緊張が目まで伝わっている。
僕は息を整え、眠るように目を閉じる彼女の唇にそっと自分の唇を重ねた。
柔らかく、少し温かい感覚が、とても新鮮だった。
僕らの繋がりが離れると、まるで目を覚ましたように、目を開きこちらを向いた。
瞳は綺麗に輝き、まつ毛は長く、肌が白い。
まるで本物のプリンセスのようだった。
いや、僕に言わせれば、彼女は本物のプリンセスだ。
手を奪われる感覚。彼女は起き上がって僕を引き寄せた。それからのことは、あまり覚えてはいない。



-18-
「ねぇ、君って明李音と仲良いの?」


四限終わりの昼下がり、僕ら高校生には昼休みがある。何一つ不思議なことじゃない。
そして僕は一人図書室で弁当を食べる。
別に不思議な事じゃない。
だが、目の前に見覚えのない女子が立っている。
それだけは、不思議で不思議で仕方のない事だった。


「えっと、どちら様?」

「明李音の友達の白石。」

「友達。」

「君さ、ここでよく明李音と会ってたよね。
何してたの?」

「あんたに言う筋合いはないが。」

「明李音は事故にあって記憶を失くしたの。知ってる?」


いちいち角の立つ言い方が耳障りだった。
一体何が言いたいんだこの女。検討がつかなかった。


「何の用だ。結論から言え。」

「あんたのせいでしょ。」

「は?」

「明李音はあんたと会うようになってからどんどんクラスから離れていった。何故かうちらのことも避けるようになった。
そんな時に、明李音は事故にあった。
あんたが明李音をおかしくした!そうでしょ。?」


違う!
その反論の言葉は喉につっかえて出てこなかった。
彼女が言ったことも一理あった。僕が明李音の人生を。。
明李音が僕を認めてくれた。その事実だけがあったまま、僕はじぶんのしたことを忘れていたようだった。
その後、白石と名乗った女は沈黙の図書室から出ていった。
反論しなかった僕への解釈はきっと「YES」。明李音は僕が殺めた。そういったものと同意であることを悟った。
冬も中盤に差し掛かり、寒さは一段と増していく一方だった。
だがなぜか、この図書室からは暑いような気がした。そんな僕の手は、微かに震えていた。



-19-
「どうした??元気ないね。?」


そう言われてハッとした。あの白石とかいう女の言葉が頭から離れなかった。

『あんたが明李音をおかしくした。』

間違ってない。
その言葉を言われて数日、日に日に僕に対するいじめが始まった。と言ってもそこまで酷いものでもなかったが、クラスに僕の居座る場所がないことはすぐに分かった。
元々。と思えば苦しくもないが、明李音のことになると途端に胸が痛くなる。
一度母親にじぶんのせいだと弱音を吐いたが、当たり前のようにあんたのせいじゃないと言ってくれた。だがそんな言葉も今の僕には聞こえてこない。
その罪悪感から毎日通っていた明李音の病室も、数日通り過ぎて家に帰っていた。


「久々に会えたのに。。
ほら!君の愛する彼女だよ!」


そう笑顔で明るく言うと、大きく両手を広げてくれた。
ここまで幸せなことはない。
だが、彼女が明るければ明るいほど、『あんたのせい。』という言葉が重くのしかかる。


「なんかあった??私でよければ、話聞くよ??」

「いいよな。明李音は。
友達も元から居て。救ってもらえて。守ってもらえて。
僕とは生きる世界が違った。だから交えなかったのに。
どうして。。
なんで。どうして君なんだ。
僕が、僕の記憶が消えればよかったのに!」


「そんなこと、、言わないでよ....」


言い終わってから気がついた。
僕は、、
最低だ。



-20-
その日以来、明李音に合わせる顔がなかった。
彼女は記憶をなくした。それでも強く生きてる。
今を見て、明日を見て、そうやって毎日を繋いでる。
なのに。僕は、。

先日明李音の母親から聞いた話だが、見舞いはたくさんの友達が来ているらしい。
当たり前と言えば当たり前だが、少し心の中で何かが擦れたような気がした。


「最近、明李音ちゃんどうなの?」

「最近全然行けてない。」

「何?また私情持ち込んで理由つけて逃げてんの?」

「そんな言い方しなくても。」

「いい?人生は、時に逃げちゃいけない時があるの。
何度も何度も同じことが繰り返されると忘れてしまうんだけどね。
暖の場合、今その時。
明李音ちゃんから逃げちゃダメ。大切な人くらい、守れる人になりなさい。」


よく、辛かったら逃げなさいという言葉を目にし、耳にする時代だが、逃げちゃいけないこともまたある。
もうとっくの昔に知っていたような、今の今まで知らなかったような、不思議な気持ちになった。

その夜、柄でもないくに夜更かしをし、明李音の物語を書いた。
泣きそうになるのが収まらぬまま、僕はただ黙々とペンを動かしていた。



-21-
朝日が昇っても、結局寒いのは変わらない二月中旬。
今日は週終わり、金曜。
普段同じように制服に着替え、いつもと同じ時間に家を出た。だが、目的地は違った。

駅前の図書館で一時間ほど時間を潰し、その後駅を通らずそのまま街の病院までバスに揺られる。
この道もこのバスも、随分ご無沙汰だった。
いつも病院近くのバス停前の道に川の流れる橋がある。この川の輝きはいつ見ても美しい。
そんなこともわざわざ思い出すほどに懐かしかった。

病院に着いて受付を済まし、明李音の病室まで向かった。
四階の一番奥。エレベーターを降りて右手。
心の中で唱えながら行動してることに気づいたのは病室の前に着いてからだった。
軽く息を整え、それからドアをノックした。


「はい。」


彼女の声はいつだって透き通っている。軽くふわっとしているのに、バラけることなくしっかり届く。
そんな彼女の声を聞いた僕は、今一度深呼吸をして、息を整えた。



-22-
「暖、、」

「ごめん!僕、明李音から逃げてた。じぶんのことでいっぱいになって、あんなことを。」

「謝らないで。暖は何も悪くない。
一番に私の事考えてくれてた。
それだけで、幸せだった。」

「明李音。」

「でも、一つだけ、。
もう、会えないと思った。
そう思ったら、寂しくてしょうがなかった。」

「もう、逃げない。
何があっても、もう絶対離さない。」


こんな簡単なことに気づくことができなかった。
そして僕は、彼女をまた傷つけてしまった。
涙で顔が崩れる前に僕は彼女を抱きしめた。温かい。彼女の温もりが、より一層頬を濡らした。
でも、これでやっと気づくことができた。
彼女には、僕が必要だ。
そして、僕にもまた、明李音が必要だ。


「これ。渡せてなかった分。」


昨日、というか今日、朝方までかけて書いた。明李音の人生の物語。僕はカバンから原稿を出し、ファイルごと渡した。


「ありがとう。あ、ねぇ。
今日、学校は?」

「あぁ、。休み。」

「ほんとに?ズル休みはいけないんだよ??」

「だって。
明李音に会いたかったんだもん。」

「じゃあもっと早くに迎えに来いよ!
ばか。ウサギは、寂しいと死んじゃうんだからね。」


彼女は口を尖らせ、少し頬を赤らめそう言った。


「約束。」

「ん?」

「私が死ぬまで、私の生きた人生を紡いで。
昔も、今も。両方。
で、できたら私に会いに来て。そして見せてほしい。」

「わかった。」

「絶対だよ?約束。もう、逃がさないから。」

「あぁ。もう逃げない。」


僕は不自然ながら、彼女の頭に手を置いた。
病室は秒針の音だけが響いている。だがこの空間が、とてつもなく幸せであることは、言うまでもなかった。



-23-
「余命を伝えない気ですか?」

「これは、俺たち二人で決めたことだ。
例え暖君であっても、そこは譲れない。」


明李音の父親が口にした言葉は、僕には異例な事だった。


「どうしてそのような決断を?」

「あの子は昔から様々な物事を背負いやすい。何でもかんでも一人で。」

「だから、余命を言ったら、また怖くて泣き出すんじゃないかって。
恐怖と戦うより、何もないままで。。」

「そんなの、、酷くないですか?
明李音はそんなに弱くありません。
彼女は、しっかりと明日を見て自分のために笑うことのできる人です。
子供を守ってあげることも大切かもしれません。
ですが!彼女を信じてあげることも親の使命のはずです!」

「黙れ。この部外者が。
これは、家族の問題だ。君には関係ない。」


母親は思い出したかのように涙を流して床に崩れた。
そのまま一度両親は家に帰った。
両親の考えも一理ある。だが、知らないまま急に死が来るなんて、あまりにも辛くないか?
今このドアの向こうに明李音がいる。
僕は一体、、どう話せば。。
そんなことを考えながらドアの前にいると部屋の中から声がした。


「暖?何してんのー!
かくれんぼは外でやらなきゃ楽しくないよぉー。」


透視!?
そんなわけない。ただただ彼女のセンサーには驚く。だが肝心のどう話していいかが決まっていなかった。


「やっぱり~w
そんなドアの裏に居たって暖の気配ならわかるんだから!やましいことできないよ?」


彼女はニヤニヤしながらこちらを見た。


「あ。この病院に来るまでの話。
とっても分かりやすかった。ありがとう。」

「どういたしまして。どうだった?」

「この話読んでたら、割と記憶が失くなったことなんてどうでもいいのかもって思った。失くなっても、誰かが覚えてくれてれば、私は誰かの元で生きてられる。軽いものであって、とっても重い。」


どことなく、慎重に言葉を紡いでいるようだった。


「明李音。
もし、じぶんの寿命が一年くらいしかなかったとしたら、どんなことしたい?」



-24-
この質問は、僕にとって賭けだった。変に感ずかれたらまずい。だが、聞けないことが聞けないままじゃ意味がない。
小説は散々書いているくせに言葉が全然出てこない。まだまだひよっこだった。


「そうだなぁ。やっぱり、暖と過ごしたい。デートしたいかなぁ。!」

「そっか。いいじゃん。。!」

「ふーん。私とデートしたくないんだ。へぇー。」

「え。したいよ...?」

「そんなこと微塵も思ってないような空返事でしたけど。?」


もしかしたら、怖いのかもしれない。
彼女が本当に消えてしまったら。僕は一体どうなってしまうのだろう。
もし余命を伝えて、ショックで状態が悪化したら。
彼女を信じてあげてなどとほざいた、そんなじぶんが一番彼女を信じてあげれてないのかもしれない。


「はーるぅ。」

「あぁ。ごめん。何??」

「ほんとに行きたくないの、、?」


彼女は少し頬を膨らませて前のめりでそう言った。


「じゃあ。
早速、今週の日曜日。病院抜け出そ。」

「いいの!?やったぁ!!!」



-25-
日曜朝七時半。
いつもなら鳴るはずのない時間に目覚ましが鳴る。
だが目覚ましが鳴るだいぶ前に目は覚めていた。

眠くないと言ったら嘘になる。
いつもならこの時間は熟睡中で、持っているはずのないものを手に入れて箱を開けようとした良いところで夢から目が覚める。
その後二度寝して休日の幸せを堪能する時間だ。

クローゼットを開けても、タンスを開けても、やっぱり入ってる服はモノクロばっかりで。
白のパーカーに黒のパンツを合わせて着た。
今日は病院には行かない。明李音は病院に居ない。
抜け出すと言ったがもちろん許可は取った。
明李音のためとなれば、大人たちはすぐに動き始める。面白い位だった。
昔懐かしい。と言ったら少し悲しいが本当に久しく彼女の家を尋ねていなかった。
ちょっとだけ緊張しながら、インターホンを鳴らす。
目の前の玄関ドアから出てきたのは天使だった。
そういえば惚気になってしまうだろうか。でも僕にはそう見えた。
彼女は少し大きめの水色のトレーナーに、膝上丈のチェックスカート。少し前の髪を巻き、後ろの髪を束ねて丸めている。
何ていうファッションで何という髪型なのか、さっぱりわからないが、可愛いことは確かだった。


「初めてこんなにお洒落した....!
どうかな、、??」

「むっちゃ可愛い、、」


どう褒めたらいいのか。いつもパジャマだったからか、より一層女の子らしく、可愛らしい。


「行こっか!」

「あぁ、うん。」


彼女に見とれていたことに初めて気づく。
歩き始めようとした時、左手に少し冷たい感覚を覚えた。


「手、繋ごうよ。」

「え、?」

「恋人繋ぎ。」


彼女は少しばかり頬を赤らめ、僕の左手に指を絡ませる。
今まで、世のカップルに疑問を抱いていた。どうして公共の場所で恥ずかしげもなく手を繋げるのだろうと。
でも今ならわかる。人の目など気にならなくなるほど、相手を愛しているから。二人の愛に勝る目線など、ないのだと。
僕は今、本当に幸せだ。



-26-
幸せを泳ぐように、少しだけ冷たい風が頬をきる。
さっきまで冷たかった左手の感触は、いつしか汗をかくほど温かくなっていた。


「今日、どこ連れてってくれるの??」


デートプラン。など知らない。今までカップルっぽいことは数々の恋愛小説を読んでいたために知っていたし、小説にしてきた。
だがデートプラン。
共通性がない。明李音は何がしたいだろう。どこに行きたいだろう。そんなことを考えていたら日が暮れ夜が明けた。


「ごめん。僕、そういうの疎くてどうしたらいいかわからなかったんだ。だから、、
明李音は、どこに行きたい?」


引かれるの覚悟だった。
やっば。無理、さよなら。と言われて急に関係が終わることだって有り得るわけだ。


「私、水族館行ってみたい。」

「うわぁ~!!」


可愛い。何だこの生命体は。
水族館に着いてから、まるでずっと欲しかったおもちゃを買ってもらった子どものように、目をキラキラさせてはしゃいでいる。


「ずっと来てみたかったんだ!
前にお母さんが、明李音は昔、水族館が大好きだったんだって教えてくれたの。
ネットで調べたらすごく綺麗で、、
連れてきてくれてありがとう!暖!」

「良かった。喜んでもらえて。」

「うん!」


水族館が好きだった。知らなかった。
そう考えると、『彼女の物語を書く』というのは、ただの僕の主観でしかない。わかっていたつもりだが、当たり前に僕が明李音の全てを知っている訳ではない。


「はーるぅ..!
せっかくのデートなのに、そんな暗い顔しないでよぉ。
もしかして、水族館、好きじゃない...??」

「あぁ、ごめん!ちょっと考え事。大好きだよ。明李音と一緒なら、どこだって楽しい。」


ちょっとクサイな。そう思ったがもういいんだ。
今は、精一杯、彼女とのデートを楽しもう。
その瞬間、近くで鈍い音が聞こえた。


「明李音...!?」


そう、そうだ、そうだった。
幸福の次は、不幸なんだった。



-27-
「君のせいだ。」

「え?」

「君のせいで明李音は...!こんなふうに。。」


また言われた。僕のせい。
彼女のことを不幸に導く悪魔。それが、僕。。


「もう二度と、娘に近づかないでくれ。」

「僕は、ただ、明李音に笑ってほしくて。。」

「君の単純で愚かな考えのせいで、娘は倒れた。
そもそも、君との待ち合わせに出かけなければ!娘は記憶をなくさずに済んだ。
彼氏だかなんだか知らないが、君の存在は俺たち家族にとって不要だ。
娘は君のものじゃない。俺たち夫婦の大切な宝だ。たとえ記憶がなくてもそれは変わらない。
失望したよ。
金輪際、二度と、!
俺たち家族の前に顔を見せるな。いいな。」


そう言うと、明李音の父親は愛する娘の病室に入っていった。
思えば、白石に「お前のせいだ。」と言われたあの時。あの時に、関係を切ればよかったんだ。もう、傷つけたくない。大好きな人に、これ以上苦しい思いをしてほしくない。
検査を終え、明李音が病室に戻った頃には日を跨いでいた。
そして僕はたった一人、病室の前のベンチで、泣くことしかできなかった。



-28-
高校三年、春。
桜も全て散った四月下旬。
いつの間にやら、あの時のいじめは消えていた。
というより、より一層孤立した。
一日ずっと一人。
どちらかと言えば、楽だった。

二度と顔を見せるな。
そう言われてどれくらい経っただろう。もう二ヶ月ほど経つだろうか。
あれ以来、明李音と会っていない。
今彼女は、幸せだろうか。悪魔が消えて、清々しているだろうか。
あれから、彼女の病室には常に親がいるようになった。
監視、だと。比喩を使うなら、織姫と彦星と言ったところだろうか。小説に使えるか。あぁ。もう全部辞めたんだった。
もう逃げないなんて言ったのに、僕は正真正銘の嘘吐きだ。
じぶんで言ったことすら実行できない。元々こうなる運命だったのかもしれない。
いつの日からか、彼女の物語を書くことが生き甲斐だった。幸せでたまらなかった。
そして何より、書いた小説を嬉しそうに読む明李音が、大好きだった。

少し額に汗が滲む。もうすぐ、一年が経つ。
再開したのは、暑い夏の日だった。
あぁ、今日はヤケに汗が垂れる。頬をボロボロ流れていく。目が痛い。きっと、ゴミが入っただけだ。
僕は一体、どうしたらいいんだろうか。

「暖!」



-29-
夢。それでも良かった。
明李音と会えるなら、夢だって。
暖。
そう呼ばれて、聞こえた声が聞き覚えのある声で。
ゆっくりと振り返ると、、
そこに立っていたのは、紛れもなく、白石だった。


「最近、暑いね。」

「どの口開いて世間話してんだ。お前に用はない。」

「いいじゃん。スタパの新作奢ってあげてるんだから。そんなボソボソしゃべる人だっけ。
印象違う。」


彼女の声と聞き間違えるなど言語道断。だがそれほどまでに、彼女と会っていないことが裏付けられた。


「何の用だ。」

「謝りたかった。図書室で言ったこと。」

「え?」

「私たちを避けるようになったって言ったでしょ。あれ正式には、一緒に帰ったりしなくなったってだけで、私たちを毛嫌いするようになったわけじゃないの。
明李音が記憶喪失って知って、動揺して。
あんたに、当たっただけなの。
デマを言いふらしたのも私。感ずいてただろうけど。
本当にごめんなさい。明李音のお見舞い言った時、あの子、あんたのことすごい嬉しそうに、楽しそうに喋るの。」

「え....?」

「あの子にとって、あんたが大切な人なんだって思ったら、胸が痛くて。許してほしいとか、そういうのじゃない。ただ、謝りたかったの。ごめん。」

「今更、遅い。」

「え??」

「僕は、悪魔なんだ。彼女を、悪い方向へと導く、死神なんだ。
君の言ったことは、間違いじゃなかった。
あんたのせいだ。
その通りだよ。」

「だから、!
それは本当に思ってた訳じゃなくて!」

「だとしても、合ってる。明李音の父親からも言われた。お前のせいだって。
もう、彼女に合わせる顔がない。」

「だっさ。」

「え..?」

「ダサいって言ってんの。合わせる顔がない?
あんたが見つけようとしないからでしょうが。
明李音のこと知らないからそんなこと言えんのよ。
明李音はね、誰に何を言われようと、あんたを愛してんの!
どんなに苦しくたって、どんなに怖くたって、暖がいてくれるから生きていたいって思うって。
暖が私を生きさせてくれたって。
もし私が死ぬ時は、側にいてほしいって。
こんだけあの子はあんたを愛してるのに、何生ぬるいこと言ってんのよ。
あんただって知ってるんでしょ。明李音の余命を。!
ダラダラしてる場合?もう二度と、あの子に会えないかもしれないのに?
ちゃんと正面から、ぶつかってあげなさいよ。
こんなこと言える立場じゃないってわかってる。わかってるけど、!
それでも、、
あの子を救えるのは、あんたしかいないの。!」


僕は、
やっぱり最低だ。



-30-
走る。
あの時と同じように。
あの時ヘタレていたはずの橋地点では、今や颯爽と駆け抜けることができる。
さっきまで汗が滲んでいたのに、日が暮れるに連れて寒さが際立つ。
病院に着いた頃には、すっかり日が沈んでいた。
対面時間残り二分。受付を押し切って少しでいいと話し明李音の病室に向かった。
息を整えてドアを開けた。


「あい、、ね。。?」


彼女は、ナイフを手にし自分に向けていた。


「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


病院内は、彼女の発狂で包まれた。
最悪の事態。
あと数秒遅かったら、
彼女は、明李音は、死んでいた。

助かった。救えた。
僕が、こんな僕が、彼女の命を、救えた。


「暖、。」

「遅くなってごめんね。明李音。
ここまで追い込ませて、ごめん。」

「怒らないの.....??」

「悪いのは、僕だから。
もう逃げないって、約束したのに。。
じぶんが、わからなかった。。
自信が、なかった。
でも、、本当に良かった。。」

「明李音!貴様ぁぁ!!」

「待って!!
お父さん、暖は、私を助けてくれたの。
死にたくなった私を、私の命を、救ってくれたの。」


ナイフが転がっているのを見た父親は、僕が明李音を殺そうとしたと勘違いした。
しかし明李音の言葉によって、その誤解は解けた。


「明李音、どうしてそんなことを。」

「暖と会えないんじゃ、生きてたって意味がない。
彼は、私に生きる希望をくれたの。
生きたいと思わせてくれたの。!
もちろん、お父さんやお母さんと、一緒にいる時間も大切だし。とっても好きな時間だよ。
でも、暖は。私の人生を教えてくれた。
いなくなってしまった私を、もう一度教えてくれたの。
お願い。私から彼を、暖を奪わないで。
私の物語を、終わらせたくないの。」

「暖くん、明李音を助けてくれてありがとう。」

「お母さん、。」

「一番近くにいたのに、それに気づかないなんて、親失格ね。
暖くん、忘れないで。
明李音は、私たちにとって宝なの。
でもそれだけじゃ、この子が可哀想だもの。
暖くん、私たちから避けておいて、こんなことを言うのは非常識だってわかっています。
でも、どうか。時間のある時でいい。
明李音の側にいてあげてくれないかしら。
私たちじゃ、話せないようなことも、話せるはずだから。」

「お母さん、。」

「はい。。
もちろん、喜んで。」

その夜は、看護師が交代で一晩中明李音に付いていたそう。
明李音の両親と別れ、僕は家に帰った。
久しぶりに開いたスマホには、明李音からの「大好き」の文字が送られてきていた。
それにならって、「僕も大好き」とだけ返信し、スマホを閉じた。
今日は少しだけ、ゆっくりと寝られる気がする。



-31-
「えーっとー、、
柳瀬が志望してるのは、私立大学の、文学部。四年制?」

「はい。」


高校三年ともなれば、進路の話は当たり前になってくる。ありがたいことに、両親とも頭が良くて、見事僕はその遺伝を受け継いだ。少し勉強をすれば、学校の勉強には軽くついていける。


「ところで、柳瀬の将来の夢はある?」


将来の夢。幼い頃はたくさんあった。
寿司が好きだから寿司屋とか、ドラマの影響で医者とか、小学校時代の先生に憧れて教師とか、まあコロコロ変わっていたが、今となっては、目指せるようなものはない。


「小説家。小説家になりなよ!」

「無理。どれだけ狭い門か知ってる??」

「だって!暖の小説素敵だもん!
私、大好きだよ。暖の言葉。温かくて。」

「ありがとう。」


だが厳しい。本の出版なんて、夢のまた夢だ。
呑気に現実味のない夢を追い続けられる歳ではない。


「いいなぁ。夢って。」

「え?」

「私がもし、ただの女の子だったら。
たくさんしたいことある。」

「例えば??」

「まず、プリクラ撮ってみたい。
制服着てみたい。それで、学校に通いたい。
お父さんとお母さんと一緒に暮らしたい。
可愛い服がたっくさん欲しい。
好きなこと思いっきりしたい。
あとは、暖のお嫁さんになりたい。」

「明李音、、」

「でも、あと半年弱しかないんだもんね。」

「なんで、、それを。。」

「お父さんたちとお医者さんが話してるのこっそり聞いちゃって。
暖、君のせいだよ。」

「え....??」


君のせい。その言葉が僕の脳内に悪く響く。
でも、明李音に限っては、そんなことなかった。


「君のせいで、
私、生きたくてしょうがない。」



-32-
「明李音!」

「暖!!」

「どうしたの??」

「どうしたのって、会いたかったから呼んだの。」

「え??」

「もしかして、嫌だった...??」

「いや、嫌じゃないけど。。
何かあったのかと思ったよ。早く来てっていうから。」


学校終わりの放課後、メッセージには
『早く来て。』と明李音から送られてきていた。


「あ、せっかくだから、はい。これ。
一話分にはなってないんだけど良かったら。」

「ん??
なにこれ。ラブレター?w」

「いや、w
小説だよ。放課後の図書館。」

「え!?暖が書いたの!?すごい!」

「何言ってるの?今までもずっと読んできたでしょ.....??」

「そう、だったっけ??
とりあえず、ありがとう!!」


明李音の様子を見る限り、ふざけている訳ではないようだった。
するとここの病室のドアからノックが聞こえた。
明李音の担当医である藍沢先生から、僕は少し外に呼ばれた。


「柳瀬くんだね。」

「はい。」

「彼女の脳のことだ。
彼女は、少しずつ記憶力が低下している。」

「え?」

「脳の腫瘍がどんどん大きく成長している。
もしこのままいけば、最悪の場合、半年持たない可能性がある。」

「そんな、、
どうにか、どうにかしてください!
何か、何か明李音を救う方法は!」

「暖、、」



-33-
「あぁー面白かった!!
ねぇ、この放課後の図書館って最後どうなるの??」

「読者が結末を聞くなんて、もう読みたくないと言ってるのと同じことだよ。」

「そ、そうだよね、ごめん。」

「もしかして、本当に読みたくなくなったの??」

「ううん!!そんなことない!
できることなら、読み続けたい。
ねぇ、暖。私の物語は、どこまでいったんだっけ。」

「病院に入って、僕と再開したところ。
そこまでを書いて、今は小説の方に専念してる。」

「そっか。
暖、!もし億劫じゃなかったらさ、
再開の後も書いてくれないかな。」

「いいけど、、
どうして??」

「ちゃんと、文章で読んでおきたいなって。
暖の言葉で。」


『彼女は、記憶力が低下している。
最悪の場合、半年持たない可能性がある。』


「明李音。。!」

「なんでもない。目にゴミが入っちゃって。。」


僕は咄嗟に彼女を抱きしめた。
僕の背中に小さく力強い感触を覚えた。


「いつでも、なんでも書くから。
何回だって思い出せるように。何回だって知れるように。」

「私は、忘れたくない。じぶんのことも、家族のことも、暖のことも。思い出も、幸せも、全部。忘れたくないよ。。
暖、、」

「全部書く。全部伝える。
明李音は、ちゃんと生きてるよ。思い出だって、みんな覚えてる。失くなったりなんか、絶対しないから。」

「大好きだったことが、大好きだったものが、、
私の中から、、消えちゃう、、」

「消えないよ。!絶対消えない。
絶対消えない。!
ちゃんと残ってるから。大丈夫だから。」


明李音は今まで抱えていた死への恐怖が、一気に押し寄せて来ているようだった。
あぁーあ。
いくら小説を書いたって、彼女を元気づけられる言葉が浮かんでこないようじゃ、なんのためにもならない。



-34-
昼下がり、という言葉がピッタリあうような暖かい日差しが差す。
夏の匂いがし始める五月中旬、少し冷たい風が心地いい。
僕らは病院の屋上に来ていた。普段なら施錠されてるはずなのだが、明李音が許可を取ったらしい。
取る方も取る方だが、許可する方も許可する方だ。


「暖、気持ちいいね。」

「そうだね。」


月日が流れ続ける度に、季節が変わっていく。
それは、彼女が消える日が迫っていることを知らせるようだった。
明李音は少しずつ弱っていった。体は元気なはずだが、日に日に増す頭痛と、それによる睡眠不足。薬の副作用で思うように体が動かない。
あれだけ元気だった明李音の姿は、随分と変わった。


「暖、、」

「ん??」

「私、お花畑に行きたい。
あぁ、死にたいってことじゃなくて。物理的な方。」


一瞬でも前者かと思ったじぶんを殴ってやりたかった。


「どうして急に??」

「男の子はね。女の子に教えてもらったお花をずっと覚えてるの。そして、そのお花を見る度に、女の子を思い出すんだって。
私が死んでも、私のこと忘れないでほしいから。」


そんなことしなくたって、、


「そんなことしなくても、僕は明李音のこと忘れたりしないよ。」

「忘れなくても、思い出すことはなくなっちゃうかもしれない。
他に好きな子ができて、その子のことばっかりになっちゃったら、寂しいし。
もちろん、!暖にはちゃんと恋愛して、幸せになってほしい。だけど、たまには私も思い出してほしいから。」

「わかった。春のうちに行こっか。」

「うん!!お花たくさん勉強しなきゃっ!!」

「そろそろ戻ろ。」

「うん。付き合ってくれてありがとう。」


僕たちは病室に戻り、すぐに明李音は眠りについた。
さっきまで晴れていた空は、奥の方で曇り始めていた。



-35-
「暖って、もしかして今年受験??」

「そうだね。高三だから。」

「そっか。もう高校三年生なんだね。。」

「明李音も一緒だよ。」

「私は、高校生じゃないよ。」


病は気から。ということわざは本当のようで。
つい最近までポジティブだった彼女の思考は、いつしか腫瘍に飲み込まれてしまったようだった。


「じゃあ勉強しなきゃ。
私に無理に会いに来なくていいからね。
勉強の邪魔したくないし。」

「ご心配なく。これでも両立は得意なんだ。小説を書きながら勉強もする。
じぶんのことも、明李音のことも。しっかりと、両方。

明李音!?」

「大丈夫。ちょっと痛むだけだから。」

「少し寝たら??」

「うん。ありがとう。今日はもう帰って大丈夫だから。
いつもありがとね。」


最近明李音の様子がおかしい。
僕に対して少しそっけないような。
ただの勘違いか、それとも。
僕には彼女の思考を読み取る能力は、微塵もないようだった。



-36-
「おはよ。調子は??」

「大丈夫。」

「よかった。。
そうだ、お花畑行きたいって明李音言ってたじゃん?
それで色々調べたんだけd、、」

「あれ、そんなこと言ったっけ。」

「え??」

「お花畑なんて、興味ないな、、
行くなら他のところがいい。」

「明李音。

その冊子、、」

「なんだろこれ。また忘れちゃったのかな。
暖、捨てといて。」

「明李音...!!」

「そんな大きな声出さないでよ。
怖いよ、暖。」

「僕、そんなに頼りない?
明李音にそんなに気を使わせるほど、弱く見える?
いつもいつも、どうして明李音ばっかり我慢しなきゃいけないの?
どうしてそんなに、無理ばっかり。。」

「どうしたの、、?そんなに泣かないで。
今日の暖、ちょっと変だよ。
今日は帰って休みな。いつも来てくれてありがとね。」

「明李音!」

「....今日は朝から検査あるんだ。また今度。
先生に怒られちゃうよ。

またね。」


いくら鈍感で無頓着な僕でもわかる。
彼女は、明李音は僕に気を使っている。
なるべくじぶんから遠ざけようとしている。


「明李音。」



-37-
平日。授業終わりの学校の図書室はいつも静かだ。
誰が来る訳でもない。利用者はもちろん僕のみだった。
最近は明李音のところに真っ直ぐ行っていたために、随分とご無沙汰の雰囲気だった。
静かな図書室には、時計の秒針と司書の寝息、外の雨音、それから小説を書く僕のペンの音が響いていた。
そんな静寂を突き破ったのは、図書室のドアが開く音だった。

白のロングソックスに今にもパンツが見えそうな丈のスカート。制服のリボンをだらしなく着用し、髪は毛先をクルクルと巻いている。メイクは、、よくわからない。


「ジロジロ見ないでくんない?そんなに私が魅力的?」

「勘違いもその辺にしてくれないか。気色悪い。」

「へぇー。そんなこと言っちゃんだ。じゃ、帰りマー....」

「明李音のことだ。」


まさか、僕がこいつを呼び出すことになるとは思ってもみなかった。
白石 美裕(しらいし みゆ)
僕へのいじめが始まったのはこいつのせいだ。
まぁ僕もまた、悪いのだが。


「明李音が、どうかしたの??」

「最近僕を避けるようになったんだ。
今年が受験年だって気づいてから、僕に気を使ってるみたいで。」

「ふーん。それでまたあんたも避けてるわけ??」

「そうじゃなくて。僕はもう明李音から逃げないって決めたんだ。
ただ、気を使わないでって話したけど、明李音は本気だった。」

「迷惑かけたくないのかもね。」

「そうなんだろうけど、、」

「それで、?あんたはどう思ってるの??」

「そりゃ、できるなら、一生側にいたい。」

「なら。!」

「でも、どうしたらいいかわからない。
明李音になんと言ってあげたらいいのか。」

「あんたは。
あんたは、なんて言ってあげたいのよ。」

「え?」

「はぁ。前にも言ったけど、明李音はあんたのこと一生分愛してんの。あんたが生き甲斐なの。
明李音が避けるからって、あんたが避ける理由にはならないでしょ。?
何のための小説なの。何のために明李音の人生を書いてるの!?
もし、このままもう二度と会えなかったら?
さよならも言わないまま終わってもいいの!?
そんなの、あまりにも明李音が可哀想だよ。
もっと、正面からぶつかりなさいよ!
あんたの行動は気遣いじゃない。傷付きたくないじぶんの心を必死に守ってるだけ。
そんなにじぶんが可愛いわけ?
色んな視点を書くくせに、中身はただのエゴイスト?
笑わせんじゃないわよ。別にあんたが後悔しようと何も思わない。
でも、明李音を後悔させるのは、許さないから。」

「偉そうに。
お前の悪事を明李音に伝えてもいいんだ。」

「うぅ、それは、、謝ったでしょ。。」

「ふっ。確かに。白石の言う通りだ。
僕は、明李音のことになると理性を失う。
じぶんがどう行動していいかわからなくなる。」

「大丈夫。あんたは、明李音の命を救った。」

「どうしてそれを。」

「あの子が言わないと思う?
泣きながら言ってたよ。
暖に何回命救ってもらうんだろうって。
悔しいけど、あんたじゃなかったら止められなかったと思う。
じぶんのこと、信じてみてもいいんじゃない?」


僕の中に、じぶんを信じるという引き出しはなかった。
それだけ、人に頼って生きてきた証拠だ。
じぶんの趣味に固着して、他のものに目を向けようとしなかった。その結果がこれだ。


「悔しいけど、お前が。
白石がいて、よかった。」

「今度スタパ奢ってね。」

「気が向いたら。」


朝から降っていた雨は、明るい月とともに上がっていた。


「今日は、来ないのかな。」



-38-
パッと目を覚ますと、見慣れた風景の外に、見慣れない景色があった。
最近はずっと晴れていたからか、なんだか不思議な気分だ。
ちょっと憂鬱な朝に、私は体をただ起こす。


「暖、、」


弱音を吐くな渡邉明李音。
暖には、まだ未来がある。私とは、違うんだ。


「おはよう。明李音ちゃん。」

「鈴木さんおはよう。」


私の担当をしてくれている看護師の鈴木さん。
若くないけどかなり若い。笑顔が素敵でいつも元気を貰ってる。私の第二のお母さんみたいな人。


「今日は久々に雨だねぇ。腕失礼します。」

「桜、散っちゃうね。」

「病院前の葉桜綺麗だったのにねぇ。」

「精神美、純潔、優美な女性。」

「お、桜の花言葉。」

「鈴木さん知ってるの??」

「こう見えてもお花好きなのよ。
昔はちっとも花なんて興味なかったんだけどね。
歳を取る度に、花が好きになっていったのよ。
可愛らしいのに、一生懸命生きてる姿がとっても力強くて。
まるで明李音ちゃんみたいね。」


ふふふといつもの明るい笑顔を鈴木さんは見せてくれた。
私は、そんなに強くない。
むしろ、誰かがいてくれなきゃ、私は生きることすらできない。
弱くて弱くて、じぶんが嫌になる。


「悩み事??」

「え??」

「もしかして、恋の病??」

「そ、そんなんじゃないよ。」

「彼氏くんイケメンだもんねぇ。クラスメイトだったら絶対惚れてるわ。好きになっちゃう。」

「..........」

「そんな顔しないでよぉ。冗談よ。
ちょっとからかいたくなっちゃっただけ!!」

「もぉー。」


そんなに変な顔をしてただろうか。冗談なんて、わかってるのに。
暖のこととなると、どうしてこうも余裕がなくなるのだろうか。よくわからない。


「何に悩んでるの??私で良かったら聞くよ??」

「暖、今年受験なの。だから、迷惑かけたくなくて。
だけど、もう、長くないから。会いたくて。
私、どうしたらいいかな。」

「長く、、
そっかぁー。私だったら、たくさん会いに来てもらうかなぁ。
たしかに、彼のことを考えてあげるのはとっても大切だし、じぶんよりも長く生きるならって思うけど。」

「けど??」

「じぶんへの未練がたっぷりのまま消えちゃうよりは、いいのかなって思うのよね。こんな事言うのはあれだけど、、学校だけが全てじゃないし。命は取り返しのつかないものだから。
彼に甘えてあげるのも、大切なことなんじゃないかな。
って、決めるのは明李音ちゃんだもんねっ!
こんなおばちゃんの言うことまともに聞かなくていいからね?」

「おばちゃんって、鈴木さんそんな歳じゃないでしょ??」

「もぉーおだて上手なんだからぁ!!
も、なんにも出てこないわよほんとにもぉー!!」


苦しくても、辛くても、私のそばで笑っていてくれる人がいると、私まで笑顔になる。
鈴木さんも、その一人で。
大人になったら、こんな人になりたい。。
なれたら、良かったのにな。


「あ、明李音ちゃん。
こんなおばちゃんの話でも忘れないでほしいことがあるの。
私はいつでも、明李音ちゃんの味方だからね。」

「鈴木さん、、
ありがとう。」

「何かあったら呼んでね。飛んでくるから。」


鈴木さんは、またニコッと笑って病室を出ていった。
広々とした病室には、また私一人になった。
雨の音が少しうるさい。
まだ私の中では、答えが出ていなかった。


「今日は、来てくれるかな。」



-39-
空に雲が悠々と浮かぶ。
こんなに空が明るいのに、もう十七時過ぎだなんて馬鹿げている。
随分と日が伸びた。同時に、彼女の命は日に日に短くなっていく。
ここまで嫌な反比例があっただろうか。
僕は少しご無沙汰な彼女の病室の前で深呼吸をした。
というのも、さっきスマホに連絡があった。

『会いたい。話がある。』

もしかしたらフラれるかもしれない。僕を気遣って。
いや、もし仮に本当の意味でフラれたとしたら??
一丁前に普通の高校生男子であることがバカバカしかった。
だが話があるのはこっちもだった。
僕はもう一度だけ深呼吸をしてノックしてから病室のドアを開けた。

彼女は円な瞳をして、少し上目遣いでこちらを見ていた。僕がベットに近づき喋ろうとした瞬間、彼女は僕から目線を外し、代わりに両手を広げた。


「明李音??」

「ぎゅー、したい。」


顔を真っ赤にしながら僕を待つ彼女は、さすがに可愛すぎた。
僕は明李音の胸に優しく飛び込んだ。温かい。いや、なんなら少し暑い。でもそれぐらいが、とっても心地良かった。
僕たちは互いに一度離れて顔を見合わせ、少し照れ笑いをした。


「暖、会いたかった。
ずっとずっと、会いたかった。
ずっと我慢してた。暖のためにって。
でも、改めて気づいたの。
私、暖がいなかったら大切な一日が、曇ったままなの。冷たいままなの。
未練を残して、死にたくない。
大事な時期だって言うのはわかってる。
だから、迷惑はかけないから。
だから、、その。。!」


僕は今にも泣きそうな彼女をそっと抱きしめた。さっきより強く、優しく。


「明李音ばっかりずるい。僕にも喋らせてよ。
そばにいたい。
もう逃げないって約束したから。
君の、明李音の物語を紡ぐって決めたから。
僕は明李音のことになると、視界がぼやけて、何が正しいかわからなくなる。
でも、明李音が望んでくれるなら、僕はずっと君のそばにいたい。
それだけは、ちゃんと見える。」


結局明李音に頼りっぱなしだ。
僕はじぶんから、明李音から、逃げ続けてる。


「ありがとう。
暖がいてくれて良かった。
暖が私の大好きな人で、私を、
好きになってくれた人で、本当に良かった。。」


そんな言葉、僕にはもったいない。
言おうとしてやめた。
どれくらい経っただろう。もう時間は覚えていない。
それほどまでに、ゆっくりとした温かい時間だった。



-40-
夏の匂いが心地よい七月中旬。
僕は明李音の家の前で待っていた。
お花畑、と言ってたはずがいつの間にか夏になってしまった。
この時期の花畑、といったらひまわり畑しか思い浮かばない。どう調べたって、ネットにはそれしか出てこない。僕の調べ方が悪いのか、それともスマホがダメなのか。


「おまたせ。」


そう言って現れた彼女は、まるで本当の天使みたいだった。
白いワンピースには所々にレース生地が使われ、いかにも夏っぽい様子だった。そして手には麦わら帽子を持っている。


「可愛い。」

「ありがとう。
行こっか!」

「待って。」


僕は彼女が持っていた帽子を取ってそのまま被せた。


「可愛い。」

「ちょっと幼くない。。?」

「ううん。似合ってる。」


彼女は少し顔を赤らめ、上目遣いでニコッと笑った。


「見て暖!!ちょー綺麗だよ!!」

「こら、走んないよー。」

「えへへ。暖お母さんみたい!」


彼女はそう言うと無邪気に笑った。
その笑顔に僕は、内心ほっとしていた。
もしかしたら、もう二度と会えないかもしれないと、ついこの間まで思っていた。
彼女の願いを叶えられたこと、彼女と同じ時間を過ごせること、彼女と一緒にいられること。
この瞬間瞬間が、心から幸せだった。


「わっ!」

「うをっ!」

「まーたぼーっとしてる。
そんなに私といるの楽しくない?」

「.........」

「え、、楽しくないの....??」

「ううん。そうじゃなくて。
幸せなんだ。明李音と一緒にいられて。
もう、会ってくれないかと思ってたから。」

「それは、、!」

「わかってるよ。僕を気遣ってくれたの、知ってたし、気づいてた。
でも、もしもう二度と会えなかったらって思ったら、心から怖かった。
僕が明李音と会わないようにしてた時、こんな気持ちさせてたのかなって思ったら、申し訳なかったなって。
未来も大事だけど、未来のために今を生きたら、未来で今日に後悔する。
今がせっかくあるなら、僕はしっかりと今を生きたい。」

「暖。」


一丁目なことをよく言うと、我ながら思ってしまった。
だが、そう思わせてくれたのは、紛れもない彼女なのだ。
僕が言えたことではない。
でも、そんな考えにしてくれた明李音に、今のじぶんを伝えておきたいと思った。


「ごめんね明李音。こんな僕で。
物語にしか脳がない僕には、難しすぎる。
人の気持ちも、じぶんの気持ちも。」


そう言い終わって彼女の方を向こうとした瞬間、体が暖かい感覚で包まれた。


「明李音?ちょっと、、何しt.....!」

「離さないから。
そんなこと、言わないでよ。謝らないでよ。
私は、暖がいてくれたから生きたいって思えたんだよ。
何もかもわからない世界で、たった一人暖は、私が生きた世界を描いてくれた。
知りたいって思えた。生きたいって思えた。
暖がいる世界で、暖と生きた私を。
記憶がなくても、私らしく生きたいってそう思えたのは、暖の言葉があったからだよ。」

「明李音。」


ゆっくりと離れた彼女に僕はもう一度くっついた。


「わっ!」

「仕返し。」


最近、涙脆くなった気がする。
どんなに感動する映画を見ても泣かなかった僕が、明李音の自然な言葉にすぐ涙が頬を濡らす。


「ちょっと、みんながこっち見てるよっ。!
泣かないでよ。私が悪いことしたみたいじゃんか。」

「泣いてないもん。
ありがとう、、
大好き。」


彼女の小さく優しい手が僕の頭をゆっくり撫でた。
その不器用さに、また涙がこぼれる。
何のためにもならないと思っていた僕の物語は、彼女の心の中でずっと生き続けている。
その事実は、その言葉は、一生分報われた気分だった。


「あー楽しかった。ご飯も美味しかったしっ。
あ、ご馳走様でした!」

「いいえ。喜んでもらえて良かったです。」

「あ、!忘れもの!」

「えっ!何忘れた!?」

「花言葉!言ってない!」

「なんだぁ。」

「なんだぁって!それが趣旨なのに!
もう言ってあげないもんっ。」

「あ、このままじゃ明李音のこと忘れちゃうなぁ。」

「むぅ....いじわる。」

「可愛い。」

「茶化さないでっ///」

「ごめんごめん、教えて。」

「よく聞いててね。向日葵の花言葉は、
憧れ、情熱、、
あなただけを見つめる。
素敵でしょ...??」

「あなただけを、見つめる。。」

「あ、私に執着してほしいとかそういう意味じゃなくて!あくまで花言葉であって、その、、」

「わかってる。
良かった。明李音に教えてもらえて。
向日葵、好きになった。ありがとう。」

「うん。」

「じゃあおやすみ。て言っても夕方だけど。」

「まだ早いね。w
送ってくれてありがとう。」

「うん。じゃあまた。」

「うん。今日はありがとう。」


少しずつセミが鳴き始め、肌に陽が当たるだけで汗をかく。
だが、何故だろうか。そういう時に限って、空はとても大きく広く見える。
夕焼けに染まる大きな雲は、陰るわけでも照らすわけでもなくただ悠々と浮かんでいる。


「はるっっっ!!」

「ん?」

「また二人で、どこか行こうね!」


正直、お互いわかっていた。
もう二度と、二人で遊びに行くなんて叶わない。
それでも、僕は。
夕日と同じくらい、彼女を照らし続けたい。
暑いくらいに、彼女の人生を、道を。


「うん!」



-41-
八月中旬、世の中には夏休みという学生に与えられる休暇がある。だが、受験生においては、休暇ではなく闘争なのである。


「って、思ってそう。」

「そんな大河ドラマのナレーターみたいなこと思ってないから。」


確かに、僕は今絶賛受験生であり、夏休みなどあってないようなものだ。
だがそれと反対に、彼女との時間は僕にとってオアシスであり、最高の夏休みだった。


「でも、確かに。前の僕なら、そんなことも言ってたかもしれない。
でも今は、じぶんのことも、大事な人も、両方大切にできる。」

「私は、ずっと前から両方大切にできる人だと思ってたけどね。」

「ううん。これは明李音のおかげだよ。
明李音がいたから、僕は変わることができた。
明李音の存在が、僕を変えてくれた。ありがとう。」

「私は何もしてないよ。暖の優しさだよ。」


彼女の病状は刻一刻と進んでいた。周りにはわからない程度の微々たる変化が明李音を苦しめていた。


「明李音。」

「ん?」

「後悔、ない?」

「後悔?」

「僕は、明李音がいなくなることが、信じられない。
だって、こんなにちゃんと近くにいるのに。。」

「暖、、??」

「でも、だからこそ、後悔してほしくない。
後悔を残してほしくない。」


ずっと言いたかったこと。聞きたかったこと。
でも言えず終いだったこと。
彼女になんと言えば想いが伝わるのか、どう言えば傷つけないのか、僕に答えは浮かばなかった。
幾ら小説を書いたって、幾ら物語を読んだって、僕にはなんの役にも立ってくれなかった。


「後悔は、たくさんあるよ。
普通に学校に行って、普通に家族と過ごして、かっこいい彼氏とたくさんデートして、好きな仕事して、暖と結婚して。。
もっと、生きたい。
こんなこと、最初に目が覚めた時は思わなかったのに。
今は、生きたくてしょうがない。
でもさ、生きれないから。だから、、
生きてる間、たっくさんぎゅーってしよ。
私が死んでも、忘れられないくらいぎゅってする。」


どれだけ弱っていっても、記憶が消えても、表情がコロコロ変わるのは昔から変わらないようだった。
彼女の前で、できるだけ泣かないと決めた。
涙を笑い飛ばそうとした。
だがそんな考えは儚く、そんなじぶんの顔を隠すように、僕は明李音を優しく包んだ。
初めて感じた彼女の感覚よりも少しだけ小さく、少しだけ温かかった。


「ねえ暖。私とイチャイチャしよ。」

「え...!?」

「あ、変なのじゃないよ?先生にバレたらやばいし、いくら個室って言っても、鈴木さん来るし。。」

「わかってるよ。わかってる。」

「暖くん、何想像してたの...??」

「何も想像してないっ!!」

「可愛い。
いっぱいぎゅーして、いっぱいちゅーして、、
いっぱいいっぱい、大好きって言う。
そうしたら、少しは、後悔なく死ねると思う。」

「明李音が、そうしたいなら、幾らでも付き合う。」

「それはダメだよ。暖お勉強しなきゃでしょ?」

「もうそんなのどうでもいいもん。」

「こら。私の分まで、生きてもらうんだから。
って、そんなこと言ったら負担だよねごめん。」

「明李音の分まで生きる。絶対、約束。」

「暖。。
私ね、暖なら本当に小説家さんになれると思うんだ。
もちろん無理にとは言わないよ。暖の人生だし、したいことがあるならそれを優先してほしい。
でも、もし、もし将来の夢とかやりたいことが決まってないのなら。
私の小説、書いてよ。」



-42-
「私が死んだら、暖はどんな子と付き合うのかな。」


まるで似合う服選びでもしてるかのようなテンションで、彼女は話し始めた。


「明李音っぽい子。」

「えぇー!
私っぽい子の枠は私で埋まってるもん。
天国で嫉妬しちゃうぞ。!

「可愛い。」

「あぁーそんなこと言う、!!
ヘラって化けて出るぞ!」

「願ったり叶ったり。」

「ぶぅー。」


たまに吹く風が冷たくなり始める十月。
半年持たないと言われていた明李音の体は、全くその様子を見せることなく元気だった。


「暖、
ちゃんと、幸せになってね。」


ただ彼女は、まるでもうすぐ死ぬと言わんばかりに、周りのものを片付け、あちらこちらに手紙を書いてはしまい、僕に対してさよならのない別れを告げることが多くなった。


「明李音。僕は、幸せだよ?
明李音と出会えて、明李音の恋人になれて、すっごく幸せ。」

「そうじゃなくて。私は、泣いててほしくない。
私ばっかりに囚われて、一生苦しんで。
そんなの、私が辛い。」


僕は泣きそうな彼女の口に口を合わせ、そのままベットに押し倒した。


「ずっとなんて、泣いてやるもんか。
すぐに可愛い子見つけるもん。」

「ふぅーん。泣き虫のくせにそんなこと言うんだ。
私以外と付き合えるかなぁ。」

「泣き虫じゃない。」

「昔は、泣いてばっかりだったもんね。」

「どうして、、その記憶、、」

「暖が書いてくれた、私たちの小さいころの物語。
読んでて思い出したの。そういえば、暖こんなに小さくて、泣き虫で、可愛かったなぁって。」

「明李音。。」

「大きくなったね暖。」

「明李音も、ちゃんと大きくなってるよ。
可愛いお姉さんになってる。」

「良かった。
暖。私の人生は、あなたが作ってくれたんだよ。
ありがとう、暖。大好きだよ。

あぁーあ。もっと、生きたかったなぁー。
もっともっと、笑いたかったな。
死ぬの、嫌だな。怖い、。」

「大丈夫。側に居る。」

「絶対?」

「絶対。絶対、。」

「私が死ぬ時も?」

「約束する。」

「やった。
なら、ちょっとだけ怖くない。」

「明李音。
何があっても、僕は明李音の味方だからね。」


僕は、彼女の背中を抱きしめながら、
さすることしかできなかった。



-43-
受験日が迫る一月下旬。
明李音の様態は、脳の腫瘍が大きくなり、記憶力も徐々に低下。
いつ息を引き取ってもおかしくない状態まで悪化していた。
この日病室には、僕の他に明李音の両親と僕の両親が集まっていた。
今日、最後かもしれないと担当医の藍沢から言われていた日だった。
だがこの日、最近消えつつあった明李音の記憶が戻っていた。


「みんな集まって、大袈裟だなぁ。
まだ死なないよ。っていうか、勝手に人の寿命決めんなって話だよね。」


腫瘍のせいで、さほど元気はない。
でも、彼女は一生懸命、できる限りたくさん喋った。
今の気分、今の調子、今日の天気、見た夢の話。
他愛のない話ばかりだった。でもそれが、何より嬉しかった。
彼女の楽しそうな顔、嬉しそうな表情。
それが、何よりも嬉しかった。


「私、元気のうちにたくさん手紙書いたんだ。
色んな人に。この病室に隠したから、見つけて。」

「わかった。」


「暖、明日受験でしょ?勉強しなきゃ。」

「バッチリだから大丈夫。」


「そういえば、将来の夢決まった?」

「小説家、頑張ってみようと思って。」


彼女は、小さな力を必死に出して、たくさん喋った。ここにいる全員一人一人と、会話を重ねる。
その意図は、また、全員がわかっていた。


「明日も朝来るね。」

「待ってる。
暖。頑張ってね。」

「終わったら、すぐ来るから。」

「うん。
暖、大好きだよ。」

「僕も、大好きだよ。」

「暖、キスして。」

「ハグもしてあげる。」

「温かい。私、幸せものだね。」

「絶対、頑張ってくるから。」

「楽しみに待ってるね。」




「始め!」

翌朝の試験当日。
彼女は、僕に別れを告げずに
息を引き取った。



-Last Episode-
明李音がいなくなって、三ヶ月が経った。
早かった、と言えば早かった。
僕は、第一志望だった大学に合格した。
正直、明李音に会っていた分、勉強は身に入らなかった。それでも、合格できたのは、言葉で表せないほど、たくさんの人の力のおかげだ。
あとは、そうだな。
気味が悪いほど、僕には何もないことを知った。
趣味だった小説も、いつしか明李音に見せるためのコンテンツになっていたし。
何より、居ていい場所が消えてしまって、会いたい人に、会えなくなってしまって。

時より、彼女がいないことを忘れて病院に行こうと思い立つことがある。
彼女が亡くなって以来、あの病院には一度も行ってない。
受験が終わった直後、母からの電話。
明李音が息を引き取った。


「一緒にいるって、約束したのに。」


僕はまた、約束を守れなかった。
それが、どれだけ大きなことか。
明李音が息を引き取った時、彼女の病室には、明李音の両親が一緒にいたという。
ただ僕は、。
明李音は、どんなことを思いながら、目を閉じたんだろう。


「暖ー!」

下の階から母の声が聞こえた。

「なに?」

「明李音ちゃんの担当の看護師さんから電話!」

「明李音の?」


バス、それでも良かった。
でも、今日はなんだか歩きたかった。
初めてこの道を通った時、僕は頭が真っ白で。
無い体力を必死に振り絞って走った。
もう、懐かしい。
この一年で、僕は大きく変わった。
人生も、価値観も、じぶんへの考え方も。
全部、明李音がくれたもの。
そう考えるだけで、自然と目が熱くなる。
僕は彼女のいない、空っぽな病院に向かった。


「柳瀬、暖くんだよね。
これ、明李音ちゃんから預かってたもの。」


僕に電話をかけてきたのは愛嬌のいい中年女性で明李音の担当看護師、鈴木さんという人だった。


「明李音から?」

「家族に任せるのは恥ずかしいから、私から渡してほしいって明李音ちゃんが。
私が死んだら、聞いてほしいって。
何回も私に鈴木さんは聞いちゃダメって言ってたのよ。
彼女が亡くなって、院内もあたふたしてて渡しそびれちゃって。わざわざ、来てもらっちゃってごめんなさいね。」

「いえ、送ってもらうのも提案していただいたのに。無理言って来させてもらったのは僕の方なので。
ありがとうございました。
あの、病室、寄って行っても?」


まるで、時が止まっているのかと思った。
このドアを開けて、こんなに寂しかったことが、今まであっただろうか。
テーブルの上には、花が添えられた花瓶が置いてあった。
虚無感、とはこの事で。
すっぽりと、心に穴が空いたような。
僕は、彼女に、何を残せただろう。
何をしてあげられただろう。
明李音は、幸せだと言っていた。
本当に、そうだろうか。

鈴木さんが僕に渡してくれたのは、ICレコーダーだった。明李音は少しずつ、僕に伝えたいことを吹き込んでいたらしい。
病院を出たばかりの空は少し暗く、月が遠くの方で輝いていた。
僕は最後かもしれないと思いながら、病院前の橋を渡り、レコーダーにイヤホンをさして音声を聞いた。


「えっとー、、
こんにちは。。?いや、こんばんはかな、、
まぁいいや。この音声を聞いている頃には、きっと、私は死んでしまっているんだろうな。
んふふ。言ってみたかったんだぁーこのセリフ。
これって死ぬ事が確定している人じゃないと言えないんだよねー特権!
えっとぉ、、今、暖はどうしてますか。
受験は受かったかな。私の事想って泣いてるかな。
泣き虫さんだから、心配です。
あ、でも泣き虫じゃないって言ってたもんね~。
実際はどうなのかなー。
天国で見ておくからねっ!!
そうだ私の手紙!全部見つけた??
漫画でそういうのあって憧れてたんだぁ。
なんてやつだっけ。暖と一緒に見たいなぁって思ってたんだけど、、忘れちゃった。。
えへへ。こんなことをしていつつ、特に話す内容とかは決めてなくて。。
あ、そうだ。放課後の図書館。あれ、最後まで読みたかったなぁって、思ってた。天国からでもそれは見れると思うし、最後まで書いてくれたら嬉しいな。あとはー、、
生きてる間に、いっぱい話したから、改まって話すこともないんだけどさ、寂しがり屋の暖くんに、天の女神の明李音ちゃんからプレゼントです。大切にしてね。
あ、でももし新しい彼女ができて、そのレコーダー嫉妬するって言われたら、すぐ捨てるんだよ!
あくまで一時的にと思っただけで、ずっと大切にしなくていいからね!あ、やっぱ捨てるのは悲しいから暖の実家の押し入れにでも置いといて!
ぜっったいにお母さんとお父さんには聞かせちゃダメだからね!約束!
はぁー。暖が恋しい。ぎゅってしたい。
イチャイチャしたい。
もっと、生きられたら良かったのにね。
ごめん!
とにかく、!えっとー、、何が言いたかったんだっけ。
忘れちゃった。。
えっとー。。
暖。私の彼氏になってくれて、ありがとう。
私の物語を、書いてくれてありがとう。
私を、認めてくれてありがとう。
私を、好きだって言ってくれてありがとう。
私を、愛してくれてありがとう。
いつまでも、大好きです。
あ、!今思い出したことがある!
暖がなんで小説を書く時、紙に書くのか。
ロマンがあるからって言ってたよね!思い出した!
良かった。生きてるうちに、何か思い出したいって思ってたんだ。泣き虫なとこと、紙に小説書く理由!!
記録に残ったよ!暖!褒めて!
あ、そうだ。あと最後に。
私は、暖に出会って、心から、幸せでした。
本当だよ。あなたに、いっっぱい助けてもらって、いっっぱい好きをもらった。
そして、私という物語をくれた。
私を教えてくれて、空っぽな私を埋めてくれて。
もう一度、恋をして。
こんな素敵な人に、一生分愛してもらえて、私は幸せものです。
終わりたくないなぁ、、w
これ聞いてる時の暖の顔が見たい。
でも、長すぎても、良くないもんね。
もし寂しくなったら、またこれ聞いてね。
何回でも私の声聞けちゃいますっ!!
自分のこと、責めちゃダメだからね。
私はいつでも、いつまでも、暖の味方だよ。
絶対幸せになるんだぞっ!
天国で見てるからなっ!
大好きな暖へ。
あなたの愛する、明李音より。」


そこで、メッセージは終わってしまった。
さっきまで薄暗かった空は完全に暗くなり、逆に街々が綺麗に色づいていた。
寒空の中、ゆっくりと歩く僕の頬には余計に冷たい感覚があった。



-Another Last-
10年後


「もう、十年経ったんだね。」

「早かったな。」

「ほんとにね。」


七月中旬。
僕と白石は、一緒に明李音のお墓参りに来ていた。


「うちらも三十路だねー。」

「呑気なこと言ってられんのか。
その年で彼氏もいないって。」

「この年で彼氏いない人なんていくらでもいますけど?」

「高校の時はモテたのにな。」

「知らん口叩くな!
そっちこそ!彼女いないじゃん!
明李音の願いだったんでしょ、幸せになってほしいって。」

「いいんだよ。今でも、十分幸せだ。」

「そんなの、、」

「それに、僕には明李音がいる。
姿はなくたって、それは変わらない。
人の身より、じぶんのこと心配しろ。」

「余計なお世話ですっ!」


明李音が亡くなって、もう十年が経った。
今年二八の歳。いまだに、彼女の感触が全身を走る。
幸せになってほしい。そう明李音は言っていた。


「幸せってなんだろうか。」


僕は、彼女の願いを胸に小説家を目指した。
明李音が大好きと言ってくれたデビュー作、
「放課後の図書館」は大ヒットを果たし、多くのファンが着いた。
ただ、まだ明李音と僕の物語は、描けていない。
当時に書いたものはいまだに残っている。
あれをもう一度書き直せば、すぐにでも連載できる。
本だって、出そうと思えば出せる。
それほどまでにビックになった。とでもほざいておこうか。
だがそれに至らないのは、明李音の物語を、過去にしたくないじぶんがいるからだった。
もし書いてしまったら、本当に終わってしまう気がして。
明李音との物語が、終わってしまう気がして。
いつまでも書けずに、気づけば十年経っていた。


「久しぶり。
明李音。放課後の図書館完成したよ。
どんな顔して、読んでくれてるかな。」

僕は白石と別れてすぐ、明李音と最後に来たひまわり畑に寄り道していた。
毎年、お墓参りの後は必ず寄るようにしている。
あの時よりも人は少なく、静かな印象だった。

あ、今日は平日か。

家にいての仕事だと、曜日感覚は確実に狂う。
しょうがないと言えばしょうがないが、それは寂しくもあった。
もし明李音が生きていたら、どんな仕事に就いただろう。
彼女から貰ったレコーダーも、数年聞いていると心にくる。
一人暮らしを始める際、実家に置いていくか迷ったが結局持ってきてしまった。
声が聞きたい。そんな時に聞くと、呼吸が苦しくなるほど泣いてしまう。
僕は、まだ彼女のことを忘れられない。
でもそれでいいような、ダメなような。

家に帰ると、学生の時よりも整った材料が置いてある。


「紙に書く、ロマン。か。」


彼女のことを、一度だけ忘れられたことがある。
といっても、寂しさじゃなく、じぶん自身、今を見ることができた時。
放課後の図書館を書く最中だけは、それだけを見ることができた。
だがすぐに戻ってきてしまう。
今は、明李音の事が書きたい。

静かな家の中に響き渡る家のチャイム。
新しい担当者が来ると連絡が入ったのは先週木曜の事だった。
僕はインターホンで確認し、ドアを開けた。
その時、息を飲んだ。新しい担当者は、


「明李音。」


他でもない、明李音だった。
多少大人びてはいるが、確かに明李音だった。


「どうして。。」

「先生、どうされました?
あ、申し遅れました!
私、先生の新しい担当になった
渡部 明李菜(わたべ あいな)と申します!
本日よりお世話になります。よろしくお願いします!」

奇跡、とは本当に存在するもので。
顔も声も名前も、まさに明李音だった。
しかも放課後の図書館の主人公と同姓同名。
偶然。では済まないほど奇跡が重なりすぎていた。
僕は彼女を上がらせ、明李音の写真を見せた。


「この子に、見覚えは?」

「いえ、ありません。
ですが、自分でもびっくりするくらい、似てます。
この方は、先生の彼女さんですか?」

「うん。彼女。
十八の歳に、脳の腫瘍が原因で他界したんだけどね。」

「えっ。そんな、、
し、失礼しましたっ!」

「ううん。気にしないで。
なんだか、君と話していると、明李音と、彼女と。
話している気がして、不思議な気持ちになる。」

「はあ。」


彼女は少し俯いて、困惑した表情でこちらを見つめていた。
本当に、まるで明李音のドッペルゲンガーに会ってしまった感覚がした。
まさか、死んだと思わせて実は生きてたんじゃ。
それはない。しっかりと納骨した。
涙を流しながら毎年お墓の前でしっかりと手を合わせてきた。ありえない。
だが、彼女と出会ったことで、僕の中にあった水風船のようなものが割れた感覚があった。


「ごめん。私的な話。。
ねえ、君、僕の新しい担当者なんだよね?」

「は、はい!」

「次の連載の話なんだけど。」

「連載。」

「僕の大好きな人の話を書きたいんだ。」

「それって。。」

「それが、彼女の願いでもあった。
タイトルは、
君が好きな小説と僕が好きな君の話。」


僕は小説家だ。

あんまり売れてないけど。

それでもいい。だって、お金のためじゃない。
最低限食っていければ、それだけで、あ。

あと、あの時君が好きと言ってくれた、あの物語を。
僕が好きな君の物語を描くことができるのなら。
それで。
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