上 下
31 / 47
シナリオ

30

しおりを挟む
走る。
あの時と同じように。

あの時ヘタレていたはずの橋地点では、今や颯爽と駆け抜けることができる。
さっきまで汗が滲んでいたのに、日が暮れるに連れて寒さが際立つ。
病院に着いた頃には、すっかり日が沈んでいた。
対面時間残り二分。受付を押し切って少しでいいと話し明李音の病室に向かった。
息を整えてドアを開けた。

「あい、、ね。。」

彼女は、ナイフを手にし自分に向けていた。

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

病院内は、彼女の発狂で包まれた。
最悪の事態。
あと数秒遅かったら、彼女は、明李音は、死んでいた。

助かった。救えた。
僕が、こんな僕が、彼女の命を、救えた。

「暖、、。」

「遅くなってごめんね。明李音。
ここまで追い込ませて、ごめん。」

「怒らないの.....??」

「悪いのは、僕だから。
もう逃げないって、約束したのに。。
自分が、わからなかった。。
自信が、なかった。」

「明李音!貴様ァ!!」

「待って!!
お父さん、暖は、私を助けてくれたの。
死にたくなった私を、私の命を、救ってくれたの。」

ナイフが転がっているのを見た父親は、僕が明李音を殺そうとしたと勘違いした。
しかし明李音の言葉によって、その誤解は解けた。

「明李音、どうしてそんなことを。」

「暖と会えないんじゃ、生きてたって意味がない。
彼は、私に生きる希望をくれたの。
生きたいと思わせてくれたの!

お願い。私から彼を、暖を奪わないで。」

「暖くん、明李音を助けてくれてありがとう。」

「お母さん、。」

「一番近くにいたのに、それに気づかないなんて、親失格ね。
忘れないで。明李音は、私たちにとって宝物なの。
でもそれだけじゃ、この子が可哀想だもの。
暖くん、明李音の側にいてあげて。私たちじゃ、話せないようなことも、話せるはずだから。」

その夜は、看護師が交代で一晩中明李音に付いていたそう。
明李音の両親と別れ、僕は家に帰った。
久しぶりに開いたスマホには、明李音からの「大好き」の文字が送られてきていた。
それにならって、「僕も大好き」とだけ返信し、スマホを閉じた。
今日は少しだけ、ゆっくりと寝られる気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

処理中です...