「君が好きな小説と僕が好きな君の話」

夜碧ひな

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普段鳴らないはずの時間に目覚ましがうるさく響く。
日曜朝7時。普段なら当たり前のように寝ている時間だ。
だが、今日は違う。予定がある。いや、正式には普段より時間が早いだけなのだが。
いつもは白シャツに黒いパンツで図書館へ向かう。だが今日は違う。人に会う。これはそのままの意味だ。
オシャレ、など生まれてこの方したことがない。
持っているのはモノトーンばかりだった。
仕方なく普段とは上下逆の配色コーデに決めた。歯を磨き、顔を洗った。髪のセットなどしたことがない。
気持ち程度に髪をとかした。

駅前の図書館に着いたのは8時半頃だった。いつもなら三十分で準備できるのに、何故かこの日は一時間もかかった。
早速いつもの定位置に座り、原稿用紙にペンを走らせた。そういえば、明李音になんで今どき紙に書くのか聞かれたことがあった。そんなのロマンがあるからに決まっているだろと答えると少し表情がくもった。
あまりにも薄すぎたか。
文字の丁寧さでその時どのような心境だったのか思い出すことができる。
これを後付けしておこう。せっかく会うんだ。話すことでも決めておこうか。いや、あいつの事だ。こっちが話題を出さずとも勝手に話が進んでいくに違いない。
今日はやけにペンの走りがいい。まだ一度も手を止めていない。明李音、今日書きあげたものを読んだら、どんな顔をするだろうか。もっと読みたいとはしゃぐだろうか。内容に入り込みすぎて泣くだろうか。
どちらにせよ、いい反応が待っていることは確定している。

この時、僕はまだ知らなかった。この日、彼女に会うことはできないなんて。
図書館にある時計の針は、まもなく11時を指そうとしていた。
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