犬猿なのに、甘々なんです。

ゆるふわ詩音

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イランイラン

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 出会いはアロマテラピーアドバイザーの講習会だった。

「君って男だよね?」

人見知りで普段は色がついたメガネを付けているから、あんまり声は掛けられない。

それなのに、けんいぬは飄々と話し掛けてきた。

「隣、いい?」

クールそうな顔が微笑むと子どもみたいに可愛いかったから、ボクは一瞬で恋に落ちた。

「どう、ぞ」

上手く言えなかったけど、けんいぬはありがとぉと言って隣にドンっと座る。

僕はドキドキしながらも、レジュメを下読みする。

クン、クン

なぜか急にボクの肩に鼻を寄せてきたから、びっくりして身体を震える。

「ん……イランイランって俺を誘ってんの?」

イランイランは嫌いな女性が多いって聞いたから付けてきたんだ。

あと、エキゾチックなところがボクは好きだから。

「君と俺だけだよ、男……あとこの精油、エキゾチックなところが好きなの」

それを聞いたら、嬉しくなってボクも!と言ってみた。

「アッハッハ、君とは気が合いそうだ」

豪快に笑うけんいぬの方を見ると、三角の耳も鼻先も黒くなっていた。

黒コーギーなんて珍しい。

「小さい茶色い毛と大きくなった瞳……メガネザルの獣人に会えるなんてラッキー♪」

犬猿の仲ってことわざがあるけど。

ボクが猿、けんいぬが犬だってわかっても仲は悪くならなかった。

ボクも封印していた人懐っこさを発揮することにしたし。

それから、『発情促進用の香水の調香』という夢を叶えるためにボクは調香師に、けんいぬは『発情を抑えたり、軽減させる施術をする』という夢を叶えるためにアロマセラピストになった。

2人で店を構えて、ずっと頑張ってきた。

今、行なっているのも施術の一つ……定期的に発情させて癖付け、自然と発情期が来るようにするためのもの。

ボクとけんいぬの共同研究の題材なんだ。

"発情は愛ゆえの感情だ"

子孫繁栄に狂うのではなく、愛を確かめる儀式だと思うボクとけんいぬの共通認識から生まれたんだ。

その実験台がボクなんだ。
   

でも、ボクなんかのはもう習慣みたいなもんなんだからさ、とっくに飽きているはず。

『髪茶色いと雰囲気柔らかくなるんかなぁって。おそろにしてきた』

それなのに、こげ茶のボクに合わせて、街中の美容院で同じ色に染めてくるけんいぬの気持ちがわからないんだ。

『いや、黒コーギーじゃないじゃん』

『でもさ、共食いされてるみたいでテンション上がるでしょ?』

あれはただの施術のはずだろ?

自然と発情できるようになったら、もうこんなことしなくなるんだろ?

仲はいいままがいい。

でも、それ以上は期待させないでくれよ。


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