あなたの朝日になりたい

ピンクのカレ

　「トリックオアトリート……お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ♪」

さっきのとはちがうたかい声がきこえてきて、なんだろうと顔をあげる。

ピンクの髪がみみまであって、はながたかいおとこの子が口のはじっこをあげていた。

とりにくのあとり……よくわからない。

それに、カレにはぼくのことが"視えている"んだ。

「なにを言ってるんですか？」

ことばのイミもかおのかたちのイミもわからないぼくはとまどうしかない。

カレはぼくを見つめながらボサボサのクロい髪を左手でなでる。

「日本人じゃないの？」

とてもキレイな顔。

カレの方が日本人じゃない気がする。

「日本人ですけど」

つぎはわかった。

だから、ちゃんと伝えた。

「名前は？」

どうしよう。

ほんとうの名前を言ったら、カレはいなくなっちゃうのかもしれない。

でも、ウソをついてもカレのまっすぐな目でわかってしまいそうだから、しょうじきに言うことにした。

「御前おんまえです」

"最高峰の神の手を持つのは御前一族のみ"

このセカイではゆうめいな名前をビクビクしながら言ったのに、カレはクスリと笑っただけだった。

「かわいそうに……こんなかわいい子を隠し持っていたのがあのくだらない一家だなんて」

もったいないなとカレはため息をつく。

そして、髪をさわっていた左手を首へすべらせてきた。

くだらないとはっきりいうなんて。

御前家を知っていて、御前家をきらっているんだね。

たしかに御前家はたくさんの人にうらまれてるってきいたことがある。

カレもその人なんだ。

「じゃあわかるように言うよ。僕にとってのお菓子、君の命をちょうだい」

てんしのようにキレイに笑う顔とは正反対のあくまのようにざんこくなヨウキュウをしてくるカレ。

でも、スッとすなおに受け入れようと思った。

あぁ……ああ、ぼくはこの人に殺されるんだ。

ぼくの命がお菓子だなんて、申し訳ないな。

ゴミみたいにされてきたから、同じようにしたらいいのに。

「いいですよ」

ぼくはこたえるため、すこしでもいたくないように目を強く閉じる。

カレは首をしめるんだとおもったから、すぐに準備した。

どんなことをされようとも、ムダなていこうはしない。

ぼくのできることはそれだけだから。

ああ、あっけないな。

息がしづらいのはたぶんあばら骨が折れてるから。

いつもボコボコにされて、かるくてあてをされるんだけど。

今日はいちばんヨウシャなくて、ボコボコのままだから。

すごくいたい。

どこかわからないくらい。

そんなぼくにカレはトドメをさす。

でも、なんでだろう。

ぜんぜんこわくないんだ。

もともと、生きたいと思ったことがないし。

「君の首って細いんだね……まるで俺に折られるのを待ってたみたいに」

フッと鼻で笑ったのをきいて、ぼくはチカラをぬいたんだ。

　
　カミサマ。

カミサマ、お願いです。

もし、ほんとうにカミサマがいるのならお願いいたします。

カレをワルい人にはしないでください。

そして、ぼくを生きかえらせないでください。

ぼくはもうこりごりですから。

でも、もし。

もし、生きかえるのであれば……カレにちかい人がいいです。

コロしてくれたカレをたすけるためならば、いいのです。

カレにはぼくが"視えていた"から。

あの家の人たちとはちがうってわかったから。

だから、カミサマ。

どうか、お願いいたします。