枯れたユリは天使の羽だ

ゆるふわ詩音

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オレンジ色

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 夕刻になっても、雨は強いまま降り続いていた。

延長保育の子を無事に返したから、オレンジのパーカーに着替え、帰路につく。

もちろん、差す傘もオレンジ色。
   
それはパーカーも傘も両親から贈られた就職祝いだから……自分たちと同じ保育士になったことを今までで一番喜んでくれたんだ。


 不妊で悩んでいた両親が体外受精によって生まれた赤ちゃんを‘‘良い男の子になるように’’と意味を込めて良太郎と名付けられた僕。

学生時代は成績トップとスポーツ万能を強いられ、生徒会長と誰もが認める良い子だった。

見た目も赤毛とパーマ以外は悪くないから、それなりには可愛がられていたと思う。

保育士になったが、実家から近い職場にしろと言われたのを素直に受け止めた僕は過保護にされていた。
  
 しかし、それは4ヶ月前までの話になった。


   僕はまばらな人と通り過ぎる重い足取りを止め、空を見上げる。

「父上、母上……今、何していますか?」

か細い声で呟くけど、雨に掻き消されてしまいそうだ。


   今年の6月のある日、帰ってきた僕が見たのはズタボロの人形に変わり果てた両親だった。

何十回も刺されていたから最初は両親とはわからなかったくらいだ。

そして、赤黒い世界の中に白い紙が置かれていた。

恐る恐る中を見たが、未だにその意味をわかっていない。


その犯人も見つかっていないし、もう待っている人もいない。

1ヶ月休んでから復帰した今は怖さも恨みもないのが唯一の救いだ。
  
  
 淋しい気持ちを抱きながら僕はまた歩き出した。
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