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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第511話 夢の舞台、バトルフィールド (4)

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(side:ジョアンナ・マーシャル)

”コンコンコン”

『お嬢様、お目覚めでしょうか。』

『えぇ、大丈夫よ。やはりビーストモードは身体への負担が大きい様ね、全身が悲鳴を上げているわ。でも動けない事もない様ね、ここは病院かしら?』

『はい、番組側が手配していた病室になります。番組ディレクターのMiss植松はこの事態を想定していた様です、対処も完全に整っておりました。
他のお二方もこちらで入院されています。症状は全身の筋肉が複数断絶していたようですが、すでに目覚められているご様子です。』

『分かりました。やはりあの伝説の番組”第二回逃走王決定戦”を作り上げたディレクターは優秀だった様ね。今日の所はこちらで夜を明かします。明日には帰国いたしましょう、準備を行いなさい。」

『畏まりました、お嬢様。』

一礼をし病室を下がるメイド。ジョアンナは再びベッドに横になり、先の戦いに思いを馳せる。
赤の騎士との戦いは本当に素晴らしかったと。
フロンティア連合で行われた逃走王フロンティア大会、あの大会は歴史に残る名勝負と言っても過言ではなかった。参加した鬼役が全て気絶するという死屍累々の激闘、テレビ番組史上稀に見る男と女の本気勝負に全フロンティアの人間が湧き立った。
その主役がすぐに帰国してしまっていたことを知らされたのは病院のベットの上であったが。
これまでも色々な事にチャレンジしその力を存分に発揮してきたジョアンナにとって、全力を出しても壊れない相手、否、遥か高みにあり届かぬ相手など出会った事も無かった。
永世逃走王Saki、彼女はすぐに彼にコンタクトを取ろうと試みた、しかしそれは叶わなかった。彼の素性は知れているはずなのにその人物に辿り着けない。不可解な状況に苛立ちよりも困惑の方が先に立っていた。
そんな中齎された一つの情報、あの伝説の番組、世界に”逃走王”と言うものを知らしめた金字塔”第二回逃走王決定戦”を制作演出した植松咲子ディレクターが新たな鬼ごっこ番組を作ろうとしている。これはと思った。Sakiにつながるヒントが絶対にあると確信した彼女は部下に指示、Miss植松にコンタクトを取りつけた。”逃走王の実績のあるMiss植松の番組をフロンティアでも放送したい”、番組の海外展開を仲介する形で新番組への参加権を獲得した。
お母様の会社が大手スポンサーを務めるFNN(フロンティアニュースネットワーク)がこの話しに飛びつき、フロンティア連合における番組放映権及び番組制作権を買い取る契約を結んでくれたことも大きかっただろう。
今回”チームフロンティアの星”として参加した三人はそれぞれが一流のアスリートとして名が売れている者たち、海外での番組紹介の為にもフロンティアの有名人が参加するのは意味がある事だからだ。
そして予想通り、Sakiは番組に係わっていた。その名を”のっぺり佐々木”と変え仮面の男”赤の騎士”として登場したのだ。驚くべきはSakiの姿が仮の姿であり、覇気の乏しいのっぺりとした顔の青年の姿こそが真の姿である事であったが。

窓の外を眺める。夕闇に沈んだ街は街灯がともり、静かな眠りについている。
何もかも足りなかった。それぞれの特技を生かした連携も、身体能力の極限の更に先を強引に引き出した本能解放ビーストモードも。
全てを掛けてなおも届かぬ存在、そんな男性に抱かれたい、自分の全てを捧げたい。
これが恋と言うもの?
生まれて初めての感情に混乱する、だが決して悪い気分ではなくむしろ幸福感に包まれている。
これまでどんなに求めても決して得られなかった心からの充足。

”のっぺり佐々木様、いえ、佐々木大地様。私は必ず会いに来ます、その時は決してあなたを逃がしませんからね。”

深い笑みを浮かべたジョアンナ・マーシャルは、彼との戦いで負った身体の痛みも愛おしいと思いながらベッドの眠りにつくのであった。

(side:植松咲子)

「植松ディレクター、編集作業の方は順調かね。」

「浅田社長、これは凄い番組になりますですよ。視聴率獲得間違いなし、逃走王に続いての大ヒットですよ~。本当にのっぺり氏には感謝しかありません。」

植松咲子はこの企画を提案してくれたのっぺりこと佐々木大地の事を思い出す。あの時もカップル企画で行き詰っていた時に力を借りたんだったと。
彼の企画力、演者としての才能は群を抜いていた。決して主役を張るのではなく、脇役に徹しながらも異彩を放つその手腕。何度放送作家として我が社に来てくれないかと願った事か。作家でも良し、タレントとしても最高に使い勝手がよい。一社に一人のっぺり佐々木である。

「しかしこの組み合わせは大正解だったね。クール系イケメン木村英雄、爽やか王子高宮ひろし、謎の覆面のっぺり佐々木。だが番組テロップにはっきりと名前を載せてよかったのかね?あえて伏せておいた方が視聴者の興味を引くと思うのだが。」

「そこはのっぺり氏との約束でありますね。Sakiではなく覆面の赤の騎士として出る以上、憶測がSakiとなる事は契約上看過できない。あくまで鬼ごっこの一種目としての提案に注意を向けて欲しい。その為なら多少のバラエティー演出は問題ない。
彼はきちんとその役割を果たしてくれたのです、こちらが約束を反故にするわけにはいかないのでありますよ。」

「皇帝”hiroshi"を守る鉄壁の守護者だったかな、確かに彼の戦いぶりなら”hirosi"と直接対決が出来ずとも誰も文句は言えないだろうからね。”チームフロンティアの星”、構成メンバーが豪華すぎだから、何だったんだいあの超一流アスリート軍団。ギャラが発生してたら制作費用がなくなってた所だよ。」

「それも含めてのっぺり氏様々であります。彼女たちの目的はSaki、つまりのっぺり氏との再戦でありましたから。」

「逃走王フロンティア大会での初代逃走王だったか。国内ではあまり騒がれなかったが他国では相当なニュースになっていたらしいじゃないか。」

「今や逃走王Sakiは世界的スターですからね~。Sakiのギャラなんて我が社じゃ絶対払えませんから。」

「そう考えると佐々木君は欲がないというか何と言うか、それもあっての”のっぺり佐々木宣言”な訳だったのか。」

「”それにのっぺり佐々木なら中央都テレビも文句は言わないでしょう、あそこはイケメン大好きですから~”とも言ってましたよ。本当にどこまで考えているんだか、感心を通り越して呆れちゃいましたですよ。」

「これからものっぺり佐々木君には世話になりそうだな。植松ディレクター、先ずはこの番組をよろしく頼むよ。」

「この植松、全力で取り組ませて頂きますです、はい。」

この会話を聞いていた編集室スタッフたちは思った、これは今夜も徹夜だと。
だがその目はやる気に満ちていた、何故なら使命感に燃えていたから。
イケメンたちの煌めく汗、激しい息使い、最高である。
彼女達もまた一匹の野獣恋する乙女なのであった。
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