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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第451話 警護任務 (9)

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不死鳥、それは不滅の存在。
その身が朽ち果てようとも炎の中より蘇る。
永遠なる炎、それがこのタスマニア公国の象徴。
タスマニア公国の国旗に描かれている不死鳥は、そんな国の在り方を示すシンボルと言えるでしょう。
タスマニア公国の建国の歴史は、辛く長い放浪の歴史でもありました。権力争いに敗れ、再起を誓い海へと飛び出した初代タスマニア公爵、彼は長い航海の末このタスマニア大陸を発見するに至りました。
「我は誓う、決して挫けぬ事を。敗れようとも炎の中より蘇る不死鳥の様に、強く逞しい国を作ると。我はこの大地に国を興すことを宣言する!」
初代タスマニア公爵の思いは、今も尚、この国の人々に強く受け継がれているのです。
(「タスマニア来訪記」 著者 平田恵子)


こんもりと盛り上がった黒い灰の塊、その灰がゆっくりと崩れ始める。
”ゴウッ”突如立ち上る炎、その炎は渦を巻き一つの意思を形どっていく。

”キュオーーーーーーーッ”

この大陸中へ宣言するかの様に、ソレは大きく雄叫びを上げる。

”我こそはこの国の神、尽きる事のない永遠なる炎、不死鳥である。”

”バサッ”

広げられた巨大な翼、光り輝く神々しい身体。それは希望、それは力、この御方こそが我がタスマニア公国守護神、永遠なる不死鳥フェニックス
人々はその威光に自然とひざまずき、こうべを垂れるのであった。

ただ二人を除いて。

「おぉ、焼き鳥、復活しましたね。実験は成功です、私は大変満足していますよ。」

「文献は本当だったんですね、不死なる存在が死ぬって矛盾しているって思ってたんですけど、死と再生、その両方を司る権能、故に不死鳥。納得出来ました、ありがとうございました。」

”き、貴様ら~~~、よくも我を、この屈辱、完全復活を遂げた我に敵うと思うてか!”

「おぉ~、生まれたては新鮮な上に生きがいいね~。もうワンラウンド行っちゃう?いいよ、私、食後の運動頑張っちゃうんだから。」
張り扇を手にブンブン振り回す私。

「水の供給だったらお任せください、魔力は全快ですんで。」
腕まくりをして宣言するブリジット。
それにしても魔術って便利だよね、あれだけ水浸しにしたのにも拘らず、いつの間にか綺麗さっぱり消えてるし。あれって物体としての水じゃなくって魔術による再現なんだろうね。つまりただの事象。魔力が消えれば消えちゃう実体を持った映像。質量迄あるんだから魔術って凄いよね。詳しくは知らんけど。

”ふ、ふん。我は寛大だ、今日の所はこの辺にしといてやる。いずれ裁きをくれてやろう、覚えておくがよい。”

不死鳥(笑)がより強く輝く。そしてその光が収まった時、そこには・・・やあ、さっき振り。それじゃ、始めようか。
”バスコンッ”

今宵の精霊剣は血に飢えておる。

「いやいや、まだ夕方前ですから。時間があまりに濃厚なんで気持ちは分かりますが、一日の終わりはまだまだ先ですから。」

う~、ブリジットの冷静なツッコミが辛い。気分よ気分、ノリが悪いな~。

”ズバコンッ”

うん、なんか食事前より身体の切れが良いわ。やっぱり焼き鳥って最高よね。

”な、なんたる不敬、お主たちは我の事を一体何だと思ってるのか!”

「「最高の食材。」」

”ヒィーーーーーッ”

再び光輝く焼き鳥、”何故じゃ、何故ここから移動出来んのじゃ!”ってそりゃ結界張ってますし。だってお前熱いんだもん。さっきも熱かったのなんの、私じゃなければ汗ダクダクよ?

”バスコンッ”

”や、やめろ、やめてくれ~、謝る、謝るから、もうその張り扇は嫌なのだ~!”

床に伏し、震えながら許しを請う焼き鳥。
え~、もう終わりなの~。まだまだこれからじゃん、もっと厚顔無恥に唯我独尊にいこうよ~。ボコボコにして二度と立ち直れない様にして、自分が食材だって事を叩きこんであげるからさ~。

”すみませんでした~、勘弁してください、二度と逆らいませんから、お願いします~。”

「あ~あ、心折れちゃったじゃないですか~。どうするんですかコレ。連れて帰るんですか?また代表に怒られますよ?」

いやいやいらないから、これでもこの国の象徴らしいし、食材にならない鳥なんて連れてっても仕方がないじゃん。貴重な鳥は国際法で保護されてるのよ、密輸なんてしたら捕まっちゃうんですからね。
アンタもこれに懲りたらむやみやたらに人を襲わない、ペットの躾は主人の問題だって言うけど、国中から傅かれてたからって調子に乗らないの、分った。

”は、はい分かりました。偉そうにしていてすみませんでした。清く正しく生きて行く事を誓います。”

ならいいんだけどね。”パチンッ”
ほら、結界を解いたから自分の家に帰りなさい。しばらくゆっくり休養を取れば心の傷も癒えるでしょうからね。

”はい、お心遣いありがとうございます。失礼いたします。”

焼き鳥はそう言うとぺこりと頭を下げ、静かに姿を消していくのでした。

それじゃ、私たちもホテルに向かいましょうか。ひろし君の様子も気になりますし。

「そうでした、私たち警護の任務中でした。なんかすっかり終わった気分になってましたよ。早く現場復帰しないと代表に怒られますもんね。」

それでは我々は帰ります。執事長、案内をお願いできますかって駄目そうですね。
そこには完全に魂の抜けた公爵家の面々。
”パンッ”
打ち付ける柏手、ハッと正気に戻る人々。

『帰りますので玄関までの案内をお願いします、執事長。』
”パチンッ”
”パリーーーン“

公爵閣下一行を取り囲んでいた結界が消える。

『あ、あぁ、我も行こう。ジャンジバル、立てるか?』

『は、はい、無様な姿をお見せし申し訳ございません、公爵様。』

『よい、それは我も同じこと。今はこの生を喜ぼうではないか。』

『はい、誠にその通りでございます。我々はいつの間にか驕り高ぶっていたやも知れません。』

『であるな。警護担当者殿、確か佐々木殿と言ったか。此度の件国を代表して心より謝罪しよう。誠に申し訳ない。その方らのいかなる要求であろうと公爵の名のもとに叶える事を約束しよう。』

『そうですか。それでしたらここに来るのに使用した車、しばらくお借りしてもいいでしょうか?やはり足があると何かと便利ですので。それと先程までのお約束、しっかり履行してくださいね。』

『委細承知した。必ずや行う事を誓おう。』

扉を開き長い廊下を進む。ここに一つの出来事が終わりを迎えるのであった・・・かの様に見えた。

”ガチャガチャガチャガチャガチャ”

”お前たちは完全に包囲されている、大人しく投降しろ。今すぐ公爵閣下を開放するんだ!!”

玄関前を取り囲む大量の軍用車両、無数の兵士がこちらを睨みつける。浴びせられるレーザーポインターの光はすでにスポットライトの様になっている。

ですよね~、すぐ隣軍の基地ですもん。こういった際のケアはマニュアルに載ってるでしょうに。

上空にはヘリが待機、狙撃何時でも行けますって感じです。
まぁ、撃たれてもいいんですけどね、効かないし。結界あるし。
でもそれもね~。

『公爵?これ、貸しですからね?』

”ゴウンッ”

突如吹き荒れる強大な力の奔流、上空から舞い散る無数の煌めき。これは羽根?炎で出来た燃え盛る無数の羽根がゆっくりと舞い降りる。手に触れるそれは熱くはなく、むしろ優しく身体を心を癒してくれる。

”キュオーーーーーーーッ”

天空より響く鳥の叫び。

”ブワッ”

舞い降りる巨大な燃えさかる炎の鳥、あれこそは我が国の象徴、不死鳥!?

その御方は公爵閣下の御前に降り立たれた。

”この者たちは我が使者である。此度国を揺るがす事態があった故、特別に我が派遣した者である。公爵よ、驕れる国はいつか滅ぶ、しかと心せよ。”

跪きこうべを垂れる公爵閣下、警戒に当たっていた兵士がその手の武器を仕舞、一斉に跪く。

『公爵閣下、我々の使命は果たされました。不死鳥様よりのお言葉、しかとお伝えいたしました。これ以上の接触はお互いに不幸を呼ぶことでしょう、我々はここで失礼させて頂きます。
不死鳥様の導きのままに。』

私は胸に手を当て一礼をすると、踵を返しその場を後にする。

『すみません、ここにあった車は何処でしょうか?』

『はい、それでしたら駐車場に回させて頂いております。』

『案内をお願いできますか?』

『はい、ご案内いたします、使者様。』

その様子を見守っていたのであろう、使者の去る姿を見送った不死鳥は大きく翼を広げ、天高く舞い上がる。

”キュオーーーーーーーッ”

聞こえるは彼の御方の叫び。
不死鳥様は上空高く舞い上がり、ゆっくりとそのお姿を消されていきました。
多くの者に目撃されたその光景は国中に広く伝わり、”奇跡の日”として長く語り継がれる事になるのでした。


いや~、車が壊されてなくって良かったわ~。流石戦車にも耐えうる高級車、軍人さんも丁寧に扱ってくださったのね。

「ご主人、さっきのあれ、全部ご主人ですよね?いいんですかあんな事しちゃって。」

いいんじゃない?公爵には貸一つって言ってあるし、誰も不幸になってないし?信仰心が高まって国が纏まっていい事ずくめ?
宗教家がペテンをやるのなんて昔っからじゃん。要はバレなきゃいいのよバレなきゃ。ま、もう頼まれたってやらないけどね~。

「ご主人っていつもこんな感じで行き当たりばったりですよね、今回は破壊行為をしなかっただけましって所ですか?」

でしょ~、私今回大破壊してないの、凄いと思わない?導きの女神、ハニ子の誕生じゃないかしら?

”あ~、ご主人がまた阿呆な事言ってる。”
呆れながらもホテルへと向かうブリジットなのでした。
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