上 下
453 / 525
第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第442話 木村君のお仕事 (5)

しおりを挟む
「ほうほう、それでその後どうなったん。」

いや~木村君の話し超凄いんですけど、何その現場、大スペクタクルなんですけど。
そりゃ疲れるよね、バイオなハザードだよね。アミューズメントパーク内の全ての観客から襲われるってどんな状況よ、意味解んない。ゾンビもののパニック映画じゃないんだから、しかもこっちから手出し禁止って縛りきつすぎ。ゲームだったら糞ゲー認定間違いなしでしょう。

「あぁ、そこから先は俺も覚悟を決めて一切逃げるのをやめた。大崎先生がいつも言ってただろう?自分が何のためにそのランウェイを歩くのかよく意識しろって。
各ショーごとのデザイナーの意図をちゃんと意識して、服を見せるだけじゃなくそのメッセージを伝えて初めてモデル足り得るって。
今回のショーのコンセプトは”王子の凱旋”。激戦激闘を勝利した究極の王子が自らの城に戻って行くんだ、逃げたり隠れたりするのは変だろう?
民衆は熱狂するだろう、王子に近付きたいと群がるだろう。だが彼の行く手を阻むことは許されない、俺が許さない。それが騎士であり俺の使命。
騎士たるものその覚悟が無ければ務まらない。歩みの一つ一つ、指先の動き一つに渡るまでしっかりと意識し、デザイナーの意図を表現し切って見せたさ。」

おぉ、木村君、その領域は世界のランウェイのソレだから。実際に経験しないでその領域に達するって木村君どれだけ凄いのよ。

「いやいやいや、俺なんかは今までの経験やお前って見本があったから出来た事だ。とんでもないのは高宮の方だ。アイツ完全に王子様に成り切っていたぞ。いや違うな。あいつのあれは王子様に成り切るんじゃない、そのものに成ったんだ。
これからのあいつはヤバいぞ、世界に通用する王子が生まれたんじゃないか?」

げっ、マジかよ。益々ひろし君旋風が吹き荒れるじゃん。これからひろし君全国ツアーとか控えてるのよ、観客の整理とかどうするのよ、彼の警備うちの仕事なのよ。

「あぁ、その点は大丈夫じゃないか?あいつ本気で半端なかったからな。」


(side:木村英雄)

中央都ディスティニーランドのシンボル、プリンセス城。今やその周辺はアリの這い出る隙もないほどの混雑を迎えていた。
彼女たちの目的はただ一つ、”hiroshi”君である。
”hiroshi”君がこのアミューズメントパークの取材に来ているという情報は、SNSを通じて全国に一斉に広がって行った。その後の”hiroshi”ファンの行動は早かった。時間を追うごとに増える観客、中にはリニア新幹線を利用して逢坂から来たという猛者も。すべてはただ一目でもいい、”hiroshi”君に会う為に。
だが彼女たちの思いはそんな程度では収まらなかった。
一目会いたい、触れ合いたい、彼の全てをものにしたい。
膨らむ欲望は狂気へと。中央都ディスティニーランドパーク内における”hiroshi”君捕獲合戦は、もはや誰にも止められない熱狂へおちいってしまった。

”ダンッ”

「道を開けよ、王子の凱旋である!!」

鋭い一言が会場に響く。あれだけざわついていた観客が、熱に浮かされていた人々が。
熱いナニカが走る。道が、群衆が割れ、そこに一本の道が現れる。

”カツンッ、カツンッ”
鋭い足音が響く。一人の騎士が歩く。その歩みは力強く、主人をすべての厄災から守り切る決意と意思が感じ取れる。

”パタンッ、パタンッ”

彼はその亜麻色の髪を風になびかせながら現れた。広がる甘い香り、それは全ての女性を幸せにする天使の祝福。

「みんな、俺の為に集まってくれてありがとう。でもみんなが立っていては後ろの者は見えないんじゃないかな?さあ、座っておくれ。」

王子様の甘いささやきが響く。群衆野獣の群れは乙女へと変わる。
前列の者から一人、また一人と次々に座って行く。
やがて会場は大人しく座り込んだ乙女たちによって埋め尽くされた。

「殿下、参りましょう。」

騎士様の低くそれでいて優しい声音。

「あぁ、待たせたね。では行こうか、我が城へ。」

王子が歩く。その一歩一歩に彼女たちはため息を吐く。ここに来てよかった。
幸せの思いが波のように広がって行く。

「ご心配をお掛けしました、遠野ディレクター、吉野さん。木村高宮班、只今戻りました。」

「あ、うん。無事に戻って来てくれてよかったよ。でもこの後一体どうしたらよいのか。」

「その事ならご心配はいりませんよ、我々には世界的スターの松村紫音先輩が付いてるじゃないですか。ねぇ、松村先輩。」

「な、お、おう。こ、こんなのいつものステージに比べたらどうと言う事はないな。」
引き攣る顔の松村紫音馬鹿二号。まあ無理しているのはまるわかりだが。

「本来なら松村先輩に一言頂くだけで場は収まると思うんですが、ここで先輩にその様な図々しいお願いをするのは筋違いかと。こんな失態を犯したのは我々ですし。
ですのでここは我々が歌を歌う事でファンのみんなに納得してもらってはと思うのですがいかがでしょうか?出来れば先輩にもご協力いただけると心強いのですが。」

「ま、まぁ、協力するくらいなら構わんが。どのみちこれだけの騒ぎを放置も出来んだろうしな。」

「流石先輩、器が違います。ありがとうございます。そこで歌はジャイアントの歌とお願いしたい所ですが流石にそこまで厚顔無恥にもなれませんし、ジャイアントの名曲を我々如きが歌いテレビの電波に乗せるなど恐れ多い事です。ですのでここは責任を取ると言う事で、この”hiroshi”の歌”Summer Beach"ではいかがでしょうか?それでしたら先輩もカラオケ感覚で参加できるのではないかと思うのですが。」

「そうだな、俺らの歌なんて糞生意気な事を言うようならぶん殴っている所だが、そう言う形なら協力してやらん事も無い。」

「そうですか、ありがとうございます。遠野ディレクター、吉野さん、そう言う事ですので準備の方をお願いします。」

ふぅ、何とかなったか。
そうそう、吉野さん、帰りに高宮の奴にニッキーのぬいぐるみを準備して貰っていいですか?代金は俺が払うんで。すみませんがよろしくお願いします。

「木村、お疲れさん。大変だったな。」

あ、石川先輩も御疲れ様です。石川先輩いつもこんな感じなんですか?先輩の苦労が少しわかった気がします。

「ハハハ、その言葉マジで嬉しい。”hiroshi”の相手はシャレにならんからな。でもお前の手口、佐々木そっくりだったぞ。」

先輩、それ全然嬉しくないです。でも誉め言葉と受け取って起きます。
さあ、ステージが待ってます。

ステージではニッキーをはじめとしたディスティニーランドのキャラクターたちが会場を盛り上げている。

松村先輩、石川先輩、皇先輩、高宮、行きましょう。

”歌っていただきましょう。曲は「Summer Beach」”
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...