上 下
422 / 525
第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第413話 母の肖像

しおりを挟む
「Saki様、ただいま戻りました。」

ノエル達が帰国した。ブリジットが特務捜査に協力していた事件も犯罪組織の一斉検挙と言う形で幕を閉じたらしい。ブリジットが提出した膨大な捜査資料の解析は未だ続行中との事だが、重大な人権侵害が今現在継続中の案件が複数あり、国としても重い腰を動かさざるを得なかったらしい。
そうなると組織的な激しい抵抗が予想されるところだが、そこはエリちゃん(エリザベスさん)が古い馴染みに声を掛けあっと言う間に鎮圧したとか。普段の農家のおばちゃんスタイルからは考えられない辣腕ぶりに、捜査陣も脱帽である。驚きの余り全員顔を青くしていたと言うくらいだから相当な事をしたんだろうな~。
当のエリちゃんは暫く里帰りしてから戻るとの事。旧交を温めるのは良い事です、ゆっくりして来て下さい。
今回の主役ブリジットと言えば帰ってそうそう部屋に引き籠り。なんでも大好きなVツーバーの見逃し配信を見るとの事、生配信が見れなかったのがよほど悔しかったらしい。
「Vツーバーこそ乙女の夢なのです。」とはブリジットの言葉。彼女滅茶苦茶大和のオタクカルチャーに嵌っています。
お前一応俺の付き人なんだからちゃんと仕事しろよ、後メイドの仕事も、名目上は付き人兼メイドなんだからな~。
”は~い。分かりましたです、ご主人。”って言いながら部屋にこもりまくるブリはやっぱり残念な大人三号だ。

「ノエル、今回は本当にご苦労様でした。ブリの件は何とか一段落したみたいだけど、ノエルの方の用事は上手く言ったの?」

そう、今回ノエルがユーロッパ王国迄赴いたのにはブリジットの護衛以外に目的があったはずだ。なんでも忘れ物を取りに行くとかなんとか。

「はい、無事手に入れる事が出来ました。」

そう言ってノエルはカバンから一つの小箱を取り出した。その中に入っていたモノは小さな肖像画、大和風の着物を着た美しい女性の横顔であった。

「これは母のことが描かれた唯一の物なんです。」

肖像画を見て優しげに目を細めるノエル。彼女はキッチンに入ると二人分の紅茶とお茶菓子を用意して戻って来た。

「Saki様、少しお話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
紅茶を軽く口に含んでから、ノエルはこの肖像画の女性の事について語り始めた。

ノエルの母親は元々この国で貿易商を営む家の長女であったらしい。彼女の家は広く商いを行っておりユーロッパ王国の商会とはその関係でとても親しくしていたそうだ。
とある晩餐会の夜、その会場に招かれたユーロッパ王国のとても高貴な身分の男性に見初められた彼女は、その会場で結婚を申し込まれた。しかし既に婚姻を約束した意中の男性がおり、その申し出は丁寧に断ったそうである。
だがそこは高貴な身分の生まれ、断られる事自体をまるで想定していない自己中心的な思考の持ち主であった男性は、その晩配下の者を使い彼女を拉致、そのまま本国であるユーロッパ王国に連れ帰ってしまったらしい。
男性の邸宅に連れて来られた彼女の生活は決して楽なものではなかった様だ。
見知らぬ土地、周囲から浴びせられる侮蔑の目。身分も低い東洋の島国の娘にとって、ユーロッパ王国の貴族社会は苦痛以外の何ものでもなかった事だろう。
そんな歴史の闇に葬られた女性が唯一残した生きていたあかし
この肖像画には、そんな彼女の思いが込められているのだと言う。
肖像画の裏には大和の言葉でこう書かれていた。
”わがおもひ いつの日かふるさとへ かえらむ”


ねぇノエル。ノエルはお母さんからこの国の言葉を習ったんだよね。その時お母さんの故郷の話しとか聞いてないかな?

「母は余り故郷の話しは。ただ一度”横浜の港の船はとても大きくて”と言っていた事がございます。」

そっか、じゃあ明日行ってみようか。俺もあんまり詳しくないから町田さん辺りに聞かないとだね。
俺はスマホを取り出し町田さんに連絡を取るのだった。


「若、横浜と言ったら中華街ですよ、やっぱりあそこの食べ放題は見逃せませんって。」
翌日俺たちは町田さん運転の車で横浜に向かう事になった。
でも町田さんこんな事していていいの?今新人が入ったから忙しいんじゃなかったの?

「いいんですよ、今日は久々のオフ日ですから。でもお昼の奢りの約束は忘れないでくださいね。」

はいはい、ついでに事務所のみんなに肉まんの差し入れも買っていいから。どうせ人数多いんだからお店から送って貰っていいから。何カ所か回るけど案内よろしくね。

「了解です。これでも若い頃は何度も来てますんでそれなりに道も知ってますから、大船に乗ったつもりでお任せください。」

うっ、凄く心配。でもよろしくお願いします。

俺は後部座席の隣に座るノエルに目をやった。彼女はいつも以上に静かで、何か物憂げな表情をしているように感じられた。

「ここが有名な外国人墓地ですね。ここは横浜港開港当初からある歴史的な場所なんですよ。あの黒船の水兵さんが埋葬されたのがココの始まりって言われているんです。」

そこは何カ所目かに回ったこの町の観光名所であった。この町の変化は早い、その中で残るノエルのお母さんの時代を感じさせる場所。
歴史あるこの地であれば、ノエルも母親の故郷を感じる事が出来るのではないだろうか。

”ありがとう”

ふいに聞こえる呟き。見ればノエルの持つあの肖像画の入った小箱から、キラキラとした輝くナニカが煙の様に天に向かい立ち昇って行くところであった。

「お母様・・・」

”幸せになりなさいノエル、愛しの我が。”

それからしばらくの間、俺たちはただ空を眺めるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...