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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第410話 体育祭、午後の部です。

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現在お昼休憩、生徒たちは各教室に戻ってそれぞれお昼のお弁当を頂いているところ。高校の体育祭は保護者の観覧てないんですね。小学校の時はお昼はみんなでお弁当だったのに、ちょっと寂しいかも。
でも仕方がないかな、この学園は全国から生徒が集まって来る名門私立、保護者が観覧出来るって事になったら逆に保護者に負担が掛かってしまいますからね。
今日ばかりは学食もお休み、寮生は寮で用意してくれたお弁当持参。中にはコンビニ弁当って生徒もいるけど、そこは各ご家庭の事情で致し方ないかと。

”ボ~~~~~~~ッ”
あの、クラスメートの皆さん?午後からもまだ競技が残っていますんで、お昼はちゃんと摂られた方がいいですよ。さっきから箸が止まっていますが、ご飯粒が口からボロボロ零れていますよ。

まぁ、致し方が無いと言えば致し方が無いんですが。
午前の部最後の競技は男子生徒学年対抗リレー、各学年から選ばれた十六名同士によるぶつかり合い。
小山君は最初の方の走者だったけど、黄色い声援が飛びまくってました。
問題は後半、前半大差のリードで迎えた二年生チーム、追い掛けるは一年生三年生チーム。残りの走者三人と言う所で怒涛の追い上げ開始です。
一年生は高木康太君に始まり木村英雄君、高宮ひろし君と言うスーパーイケメンズ。対して三年生は皇一先輩、石川洋一先輩と言った学園探偵ゼットのゴールデンコンビに加え、唯我独尊絶対王者尾崎秀悟先輩の参戦。
彼らただのイケメンじゃないの、その身体能力もスーパー級、二年生を完全にぶっちぎっちゃうんだもん。
二年生アンカーの鏑木先輩超かわいそう。彼もハイスペックイケメンなのにね、比べる相手が悪すぎでしょう。
でも木村君とひろし君の身体能力は群を抜いてたな~、流石オリンピック選手とタメを張るだけあるわ、最終的にトラック半周差のリードだもん、女子生徒も教職員もお口ぽか~んでしたから。
尾崎秀悟先輩が”お前らには負けたよ。”って言うのってめちゃくちゃレアらしいですよ。生徒会役員がそれ聞いて固まったって言うくらいですから。

で、そんな夢の競演を見ちゃったらもうね。
学園中の女子生徒及び教職員が放心しております。
結論、最強イケメンは正義。
うん。勝てんわ、あれ。
午後の競技大丈夫かな~っと、一抹の不安を覚えるのっぺり佐々木なのでありました。


(side:高宮ひろし)

午前の競技楽しかったな~。特に最後の男子生徒学年対抗リレー、二年生の大幅リードで迎えた後半戦、同じクラスの高木君、彼って普段は大人しいけどこう言う時ってめちゃくちゃ張り切るよね。彼絶対負けず嫌い、中等部の頃から五十メートル走とかで俺に負けると凄い悔しそうな顔してたからな~。あの頃俺に対抗出来てたのって彼くらいだったんじゃないだろうか。
それに次の走者の木村君、彼は外部進学生徒でやっぱりクラスメートだけど、彼ってスポーツ推薦じゃないよね?なんであんなに速いの?
三好さん、彼の事って何か分かる?えっ、第一回逃走王決定戦の覇者?それって俺も出てた奴じゃん。あれに生き残ってたんだ、全然気が付かなかった。それじゃ凄い訳だよ、彼オリンピック選手並みって事だもん。
それに三年生の先輩方も想像以上にやるよね、中等部の頃は気が付かなかったけど尾崎先輩も皇先輩もあんなに出来る人たちだったんだね。あの頃いかに周りが見えていなかったかって事だよな~。後石川先輩だっけ、あの人は外部進学生徒なんだ。やっぱり世の中には凄い人がまだまだいるんだね。
午後の競技も楽しみだよ。

「”皆様、午前中の競技お疲れ様でございました。ここで本日の来賓を紹介させて頂きます。本学園のOB・OGの先輩方になられますね。
先ずはこの方、昨年夏に行われました世界陸上選手権大会にきましてわが国初の金メダルに輝きました陸上男子二百メートルの最速王、伊達一馬選手です。”」

「”こんにちは、伊達一馬です。本日はお招きいただきありがとうございます。後輩の皆さんの勇姿、この目で見させていただきました。特に男子諸君、君たちは俺が学生の頃の数段上だ。誇っていいぞ、いい走りだった。”」

「”続きましてこの方、やはり昨年夏の世界陸上選手権にきまして夢の二連覇を達成されました女子陸上界の女王クイーン、女子四百メートル金メダリスト本条まなみ選手です。”」

「”皆さんこんにちは、本条まなみです。今日は素晴らしい競技の数々を見させていただいて、学生の頃に戻った様でとても楽しい時間を過ごさせて頂いております。
皆さん午後の競技も頑張ってください。”」

「”はい、お二人ともありがとうございました。そして何と、今回伊達一馬選手より嬉しいサプライズ提案がございました。先ほどの学年対抗リレーを見てぜひ一緒に走ってみたい生徒がいると言う事で、急遽エキシビジョンレースを行う事となりました。
木村英雄君、高宮ひろし君前へお願いします。”」

急な呼び出しに驚くも俺は大会本部前に移動する。エキシビジョンレースって事はあの伊達一馬選手と走れるって事?それってなんてサプライズ?
久々に体中の血が滾るのを感じる。

「”それと、これも急遽の提案ではありますが、本条まなみ選手と本条選手推薦のある人物が一緒に参加してくれることになりました。”」

「ひろし君、お久し振りです。先ほどのレース見させていただきました。また成長されたみたいですね。」

「本条さんお久し振りです。第三回逃走王以来ですね、ご活躍はテレビで拝見しています。」

「ありがとうございます。あなたには以前”世界を知りなさい”と言いましたね。今日はいい機会です、世界の一端と言うものを、そして真の逃走王と言うものを知ってください。」

「真の逃走王ですか・・・。」

”タンッ、タンッ、タンッ”

彼は喧騒の中から現れた。
そのユニホームから覗く鍛え抜かれた肉体は、見るもの全てを魅了した。
そして全身より漂う強者の風格、誰もがこの人物がただ者ではない事を直観するモノであった。

「”ご紹介します。第一回第二回逃走王に輝き、永世逃走王の称号を与えられし絶対王者。彼の走りを誰が止められるのか、ファッションモデルSaki、ここに登場です。”」

「皆さん、お待たせしました。ファッションモデルのSakiです。本条選手のご推薦でこの場に立つ栄誉を頂けたこと、心より感謝いたします。」

彼は俺たちに向かい深々と礼を述べた。その動きの一つ一つが、まるで完成された芸術の様であった。

「伊達一馬選手、あなたとは湯の華神社奉納レース以来ですね。その後の活躍は耳にしていますよ。」

「あぁ、あの敗北は俺の目を覚ましてくれたからな。お陰で今じゃ金メダリストだの最速王だの言われているが、俺の中ではいまだにアンタの背中を追いかけてるんだ。
今日はその恩返しをさせて貰うよ。」

「本条選手、あなたと走るのは一年ぶりですね。あの熱い戦いを期待しても?」

「はい、Saki様。私の全力、この一戦に捧げます。」

「木村英雄君、負けませんよ?」

「それは俺のセリフだ。今日こそ絶対勝ってやる。」

彼は他の出場者に挨拶を述べた後、俺の目を見て語り掛けて来た。

「高宮ひろし君、貴方は逃走王を目指しているそうですね?」

「あぁ、俺はあの熱い戦いの中で己の全てを出し切る瞬間を知ってしまった。逃走王の称号は俺の中の輝かしい憧れ。今のあのお遊びじゃない、第二回逃走王の様な熱い戦いをもう一度と願っている。」

「そうですか、あなたもあの本物を知ってしまったんですか。」

”ブワッ”

熱い何かが吹き抜けた。途端、目の前の彼の雰囲気が一変した。

「ならば挑むがいい。我こそは逃走王、その称号に命を掛けた男。今ここに”世界”と言うものをご覧に入れよう。」


陸上部の部員たちがいそいそと準備を行う。
レースは二百メートルトラック一周。

”ON YOUR MARK”
全員が配置に付く。
高鳴る鼓動、流れる汗。
どんどんと上がるボルテージ、それと反比例するかのように静まり返っていく心。

”ビー-------ッ”

走り出す俺たち、速い、これが世界の走り!
スタートダッシュは伊達選手がやや有利か?
いや、本条選手がそれに食らいつく。
空間が時間が、一秒がまるで一分の様に長く感じる。
”ほう、なかなかやるじゃないか。”
なぜかSakiさんの声が聞こえる。この静寂の世界で、彼の声だけがはっきりと耳に残る。

”よく見ておくがいい、これが最強の逃走王の走りだ。”

”グンーッ”

時が加速する、身体が引っ張られる、全身が悲鳴を上げる。
彼が、彼の走りが、俺たちを次のステージへと導こうとしている。

「「「ワァー-------!!」」」

戻る歓声、世界の静寂は破れ、俺たちは再びこの空間に帰って来た。
彼の背中は遥かに遠かった。
これが逃走王、そして”世界”。

彼の背中は語っていた。
”世界を知れ、それこそが逃走王への唯一の道。”

これは第一歩、俺の夢への道は、まだ終わらない。
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