384 / 525
第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…
第378話 何をしに来たの? (6) (side : クリスティーヌ・カサンドラ)
しおりを挟む
閑静な住宅街、辺りには学校帰りの児童が連れだって笑顔で走り去っていく。
そんな何気ない日常の中に、突然場違いにも現れた高級車の一団。
”バタン、バタン、バタン”
そして車内から現れたこれまた場違いな高級な服装に身を包んだいかにも”偉い人”と言った様な雰囲気の人達。
『クリスティーヌ卿、本当にこの場所であっているのか?ここはどう見てもただの一般住宅にしか見えないんだが。』
疑問の声を上げたのはジェームス卿、彼の言わんとする事は尤もである。我々は大使館を崩壊させ神性に山の管理を任せるというとんでもない存在に会う為にここまで来たのだ。それが蓋を開ければただの一般住宅街、目の前の目的地はそれこそ普通の市民が暮らす一軒家ではないか。
『ジェームス卿、気持ちはよく分かります。しかし我々には後が無いのです、ここはどんな小さな糸口でも縋るしかないのです。』
私は己の気持ちを鼓舞し、目の前の住宅を訪問するのでした。
『なんか大勢さんがいらしたんでどこのだれかと思ったらユーロッパ王国の有名人じゃないかい。こんな東方の島国に一体どんな用があって来たって言うんだい?』
そこで待っていたのは意外な人物でした。
それは東方の凄腕術師としてユーロッパ王国でも名の知れた者、”見鬼”と呼ばれる女性でした。
『突然の訪問、申し訳ありません。見鬼殿はすでに我が国大使館崩壊のニュースはご存じかと思います。我々はその事件を引き起こした超常の存在と交渉を行うためにこの国へ派遣された友好使節団です。こちらの場所については御劔山の神性山姫様よりお伺いしてまいりました。”見鬼”殿にはぜひ彼の存在とのお取次ぎをお願いしたいのです。』
『あ~、あれね~。話しは聞いてるよ。なんか対応をミスったらしいじゃないかい。それで今度は賢者と呼ばれるアンタとユーロッパ王国の二番手、ジェームス卿がお出ましって所かい。』
『お恥ずかしながら我が国の現状は大変危険であると言わざるを得ません。なにとぞご協力をお願いしたい。』
”ガチャ”
それは玄関が開き誰かが家へ入ってくる音でした。
「ただいま~、お母様玄関前に高級車がずらりと停まっていますがどなたかお客様でもお見えでしょうか?」
入ってきた人物はあまり特徴がなく、緊張感の欠片もない青年でした。
「おぉ息子、いい所に帰って来た。こちらアンタのお客だよ。」
見鬼殿はご子息へ私たちを紹介するのでした。しかし我々には時間が無いのです、こんな所でのんびりほのぼのとしている訳にもいかないのです。
「いや、”見鬼”殿。我々は今回話し合いに来たのです、ご子息を紹介していただけるのは光栄ですが、我々が会いたいのは彼の超常な存在。すぐに会わせられないと言うのは分かりますがそこを曲げてお願いしたい。」
私はあえて大和国言語を使い、見鬼殿とそのご子息にこちらの心情を訴えかけるのでした。
『だからさっきから言っている、我々は山の神性に揶揄われているんだと。このようななにも力を感じない様な場所にそんな強大な力を持った存在がいるはずがないだろうが。ベンジャミン氏の仰ることが真であるならばそのような存在のおわす場所は神域か異界にでもなっているはずだ。ここはただの住宅街の一軒家ではないか。力なぞ微塵も感じないんだぞ、ありえないだろうが。』
それは使節団の一員でもある国内でも有数の力を持った術師の男性でした。彼はこの家に訪問する際も疑問の声を上げていた者の一人でもありました。
『だから私がさっきから言ってるではないですか、この場所もしくは人物と言った特殊条件が彼の超常の存在に繋がるのではないかと。
その条件を目の前にして今更言い争うなど言語道断、我々はすでに追い詰められていると言う事をいい加減自覚していただきたい。』
本当に我々には後が無いのです、私はこの使節団代表として皆に訴えかけました。
『だからそもそもその考えがおかしいと言うのです、幾らベンジャミン氏の言葉とは言え我々はユーロッパ王国が誇る術師の最高峰ですよ、それがどうしてこんな島国にまで来てコケにされなくてはいけないんです。
あの神性についてだって確かに力は感じましたがそれほどのものかと聞かれれば疑問しか残りません。この国の政府はあの場所を非常に危険視していましたがそれはこんな辺境の国の術師の言う事、我々とは土台レベルが違うのです。比べる事自体がおこがましいのです。』
今度は他の女性術師が反対の声を上げます。
この場にいる術師はそれぞれがユーロッパ王国における頂点、そのプライドがこれまでの一連のやり取りに我慢の限界を迎えたのでしょう。
話し合いは平行線のまま私と使節団員たちの間に開いた溝は埋まる事がありませんでした。結果私は使節団長を解任され、後の交渉はジェームス卿が引き継ぐ事となりました。
「失礼した。ここから先はこのジェームスが取り仕切らせて頂くとしよう。
ま、こんな東方の島国の者に言っても分からんとは思うがこれでもユーロッパ王国最強との自負がある。言葉にはよく気を付けて発言して貰いたい。
それで我々が知りたいのは先だって我が国の大使館を襲った怪異についての情報だ。奴は不遜にも我が国に脅しを掛けて来た。我々はその事を重く受け止めている、決してないがしろには出来ないとね。
その者は我が国に喧嘩を売ったのだ、放置など出来るはずがないだろう?
この報いは必ず受けさせなければならない、その為には我々はあらゆる手段を用いるだろう。
無論我々は知的文化を愛するユーロッパ王国国民だ、いきなり暴力的な行為など行う訳ではないさ。ただ君たちには協力して欲しいだけなんだ。
素直に力を貸してくれると我々としても大変助かる。無用な血は見たくもないのでね。」
ジェームス卿の物言いに私は空いた口が塞がりませんでした。彼は丁寧な口調で力いっぱい相手を馬鹿にしたどころか脅し迄かけたのです。これでは協力どころかこの家を叩き出されても文句は言えません。
しかしここで私には一つの疑問が生じました。不敵に笑うジェームス卿に対しどうしたものかと思案するご子息、そしてそんな二人の様子をニヤニヤと楽しそうに眺める見鬼殿。何かがおかしい、何でこの二人はそんなに平気なんだ?見鬼殿なら我々の実力には気付いているだろうし、ご子息もこれだけの術師からプレッシャーを掛けられているのにも拘らずなぜそんなに平然としていられるんだ?
私の中の感が警鐘を鳴らします、”ここにいてはいけない、今すぐ逃げろ”。しかし私は使節団の一員、すべてを見届ける義務があるのです。
「ねぇマイマザー、こちらのジェームスさんは結局のところ何が言いたいの?」
ご子息が見鬼殿に問い掛けます。
「うーん、要約すれば"痛い目に合いたくなければ言う事を聞け"かな?」
見鬼殿の回答はとてもシンプルで分かり易いものでした。
「え~っと、ジェームスさん?ジェームス卿とお呼びした方がよろしいでしょうか、先ほど母の言った解釈で間違いはございませんでしょうか?」
ジェームス卿は肩をすくめる様な仕草をし、了承の意を示しました。
"ピンポ~ン"
それは玄関チャイムの鳴る音でした。
ご子息はインターホンに手を掛け、訪問者と何やらお話をされているようでした。
「なぁそこの君、さっきから自由気ままにしているが良いのかな?私も決して気長と言う訳ではないのだよ。それに舐められると言う事にも慣れていなくてね。」
"ボフゥッ"
声を荒げ不機嫌を隠そうとしないジェームス卿、彼の身体から溢れる濃密な力の奔流が辺りを覆いつくそうとしていました。これはすでに攻撃、彼は本気で力を行使しようとしているのです。
「突然膨らむ気配、その存在が屋敷全体を覆って行く。素人目にもハッキリと分かる上位存在の証、彼こそがユーロッパ王国の最強、誰もが逆らえない絶対正義ジェームス卿その人であった~。」
「ぶははは、止めて助けて、そのタイミングでナレーションぶちこむって、流石息子。あははは、腹が腹が、痛い痛い痛い、ジェームスさんに痛い目にあわされちまったじゃないか、ぶははは。」
しかし見鬼殿たちは全くその事を気にしていないどころか、そんな恐るべきユーロッパ最強を相手に彼を揶揄い始めたのです。
”あぶない”、私は咄嗟にジェームス卿を止めに入りました。ここで彼が暴れてしまえばこれまでのすべてが無駄になる、私にはほかに選択肢がありませんでした。
「Saki様、ただいま戻りました。何やらお客様がお戯れのご様子ですが、宜しければお帰り願いましょうか?」
”殺される”
私たちに向けられた気配、それは濃厚な”死”そのモノでした。
今まで激高していた者が、東方の島国と馬鹿にしせせら笑っていた者が。
今は等しく”死”に迎え入れられようとしている。
我々は自らの死を公平に幻視していたのでした。
『第一級怪異”ユーロッパの悪夢”、なぜ奴がココに・・・。』
絞り出される様に紡がれたジェームス卿の呟き、それは我々の絶望を意味していました。
「そうでした、ご紹介致します。友人のエリザベスです。」
玄関からゆっくりと入室してきた黒い影、黒いドレスに黒い帽子、ベールに覆われた顔は美しい赤い唇がやけに目を引く、そんな喪に伏したような女性。
『あ、あぁ、”嘆きの貴婦人”、大聖堂に封印されていたはずじゃ!?』
すべてを見取り黄泉路へと案内する、かつて一国を滅ぼしたとされる第一級怪異”嘆きの貴婦人”。
「お~い、ご主人今帰ったぞ!黒丸もご機嫌だぞ、何かおやつくれ~。
あ、なんだノエル帰ってたのか?悪いんだけど、あたしと黒丸に何かおやつくれないかい。」
その声に背後の庭を振り向けば、これもまた強大な力を秘めた第一級怪異クラスの二体の化け物。
先程迄の怒りの形相から一転、真っ青な顔をしたジェームス卿がガタガタ震える身体を必死に抑えている。残りの使節団員も意識を保つのでやっとの状態、すでに下半身は大変な事になっている。かく言う私も同様の状態なのでした。
”チリ~ン“
耳に響く鈴の音、そしてまた一体、第一級怪異が。
ここは何だ、我々はいつの間に魔界に入り込んでしまったのか。
「何かお客さんがたくさん来たので面倒な"お客様"はお帰り頂きましょうか。」
ご子息がそう呟きこちらに向き直る。
"ゴウッ"
彼の御方から溢れ出す力の奔流、それは海、遥か彼方水平線よりやって来る大津波。
ハハハハハ、これが王宮筆頭執事ベンジャミン氏の仰っていた怒らせてはいけない存在、超常の神。
国王陛下、申し訳ありません。我々はその責務を全う出来ませんでした。
皆様よりの叱責はヴァルハラにてお伺いいたします。
"ユーロッパ王国はこの俺に喧嘩を売った。
お前たちの答え、確かに受け取ったぞ。"
言語を越え直接魂に届くその言葉、それがこの場での私の最後の記憶でした。
そんな何気ない日常の中に、突然場違いにも現れた高級車の一団。
”バタン、バタン、バタン”
そして車内から現れたこれまた場違いな高級な服装に身を包んだいかにも”偉い人”と言った様な雰囲気の人達。
『クリスティーヌ卿、本当にこの場所であっているのか?ここはどう見てもただの一般住宅にしか見えないんだが。』
疑問の声を上げたのはジェームス卿、彼の言わんとする事は尤もである。我々は大使館を崩壊させ神性に山の管理を任せるというとんでもない存在に会う為にここまで来たのだ。それが蓋を開ければただの一般住宅街、目の前の目的地はそれこそ普通の市民が暮らす一軒家ではないか。
『ジェームス卿、気持ちはよく分かります。しかし我々には後が無いのです、ここはどんな小さな糸口でも縋るしかないのです。』
私は己の気持ちを鼓舞し、目の前の住宅を訪問するのでした。
『なんか大勢さんがいらしたんでどこのだれかと思ったらユーロッパ王国の有名人じゃないかい。こんな東方の島国に一体どんな用があって来たって言うんだい?』
そこで待っていたのは意外な人物でした。
それは東方の凄腕術師としてユーロッパ王国でも名の知れた者、”見鬼”と呼ばれる女性でした。
『突然の訪問、申し訳ありません。見鬼殿はすでに我が国大使館崩壊のニュースはご存じかと思います。我々はその事件を引き起こした超常の存在と交渉を行うためにこの国へ派遣された友好使節団です。こちらの場所については御劔山の神性山姫様よりお伺いしてまいりました。”見鬼”殿にはぜひ彼の存在とのお取次ぎをお願いしたいのです。』
『あ~、あれね~。話しは聞いてるよ。なんか対応をミスったらしいじゃないかい。それで今度は賢者と呼ばれるアンタとユーロッパ王国の二番手、ジェームス卿がお出ましって所かい。』
『お恥ずかしながら我が国の現状は大変危険であると言わざるを得ません。なにとぞご協力をお願いしたい。』
”ガチャ”
それは玄関が開き誰かが家へ入ってくる音でした。
「ただいま~、お母様玄関前に高級車がずらりと停まっていますがどなたかお客様でもお見えでしょうか?」
入ってきた人物はあまり特徴がなく、緊張感の欠片もない青年でした。
「おぉ息子、いい所に帰って来た。こちらアンタのお客だよ。」
見鬼殿はご子息へ私たちを紹介するのでした。しかし我々には時間が無いのです、こんな所でのんびりほのぼのとしている訳にもいかないのです。
「いや、”見鬼”殿。我々は今回話し合いに来たのです、ご子息を紹介していただけるのは光栄ですが、我々が会いたいのは彼の超常な存在。すぐに会わせられないと言うのは分かりますがそこを曲げてお願いしたい。」
私はあえて大和国言語を使い、見鬼殿とそのご子息にこちらの心情を訴えかけるのでした。
『だからさっきから言っている、我々は山の神性に揶揄われているんだと。このようななにも力を感じない様な場所にそんな強大な力を持った存在がいるはずがないだろうが。ベンジャミン氏の仰ることが真であるならばそのような存在のおわす場所は神域か異界にでもなっているはずだ。ここはただの住宅街の一軒家ではないか。力なぞ微塵も感じないんだぞ、ありえないだろうが。』
それは使節団の一員でもある国内でも有数の力を持った術師の男性でした。彼はこの家に訪問する際も疑問の声を上げていた者の一人でもありました。
『だから私がさっきから言ってるではないですか、この場所もしくは人物と言った特殊条件が彼の超常の存在に繋がるのではないかと。
その条件を目の前にして今更言い争うなど言語道断、我々はすでに追い詰められていると言う事をいい加減自覚していただきたい。』
本当に我々には後が無いのです、私はこの使節団代表として皆に訴えかけました。
『だからそもそもその考えがおかしいと言うのです、幾らベンジャミン氏の言葉とは言え我々はユーロッパ王国が誇る術師の最高峰ですよ、それがどうしてこんな島国にまで来てコケにされなくてはいけないんです。
あの神性についてだって確かに力は感じましたがそれほどのものかと聞かれれば疑問しか残りません。この国の政府はあの場所を非常に危険視していましたがそれはこんな辺境の国の術師の言う事、我々とは土台レベルが違うのです。比べる事自体がおこがましいのです。』
今度は他の女性術師が反対の声を上げます。
この場にいる術師はそれぞれがユーロッパ王国における頂点、そのプライドがこれまでの一連のやり取りに我慢の限界を迎えたのでしょう。
話し合いは平行線のまま私と使節団員たちの間に開いた溝は埋まる事がありませんでした。結果私は使節団長を解任され、後の交渉はジェームス卿が引き継ぐ事となりました。
「失礼した。ここから先はこのジェームスが取り仕切らせて頂くとしよう。
ま、こんな東方の島国の者に言っても分からんとは思うがこれでもユーロッパ王国最強との自負がある。言葉にはよく気を付けて発言して貰いたい。
それで我々が知りたいのは先だって我が国の大使館を襲った怪異についての情報だ。奴は不遜にも我が国に脅しを掛けて来た。我々はその事を重く受け止めている、決してないがしろには出来ないとね。
その者は我が国に喧嘩を売ったのだ、放置など出来るはずがないだろう?
この報いは必ず受けさせなければならない、その為には我々はあらゆる手段を用いるだろう。
無論我々は知的文化を愛するユーロッパ王国国民だ、いきなり暴力的な行為など行う訳ではないさ。ただ君たちには協力して欲しいだけなんだ。
素直に力を貸してくれると我々としても大変助かる。無用な血は見たくもないのでね。」
ジェームス卿の物言いに私は空いた口が塞がりませんでした。彼は丁寧な口調で力いっぱい相手を馬鹿にしたどころか脅し迄かけたのです。これでは協力どころかこの家を叩き出されても文句は言えません。
しかしここで私には一つの疑問が生じました。不敵に笑うジェームス卿に対しどうしたものかと思案するご子息、そしてそんな二人の様子をニヤニヤと楽しそうに眺める見鬼殿。何かがおかしい、何でこの二人はそんなに平気なんだ?見鬼殿なら我々の実力には気付いているだろうし、ご子息もこれだけの術師からプレッシャーを掛けられているのにも拘らずなぜそんなに平然としていられるんだ?
私の中の感が警鐘を鳴らします、”ここにいてはいけない、今すぐ逃げろ”。しかし私は使節団の一員、すべてを見届ける義務があるのです。
「ねぇマイマザー、こちらのジェームスさんは結局のところ何が言いたいの?」
ご子息が見鬼殿に問い掛けます。
「うーん、要約すれば"痛い目に合いたくなければ言う事を聞け"かな?」
見鬼殿の回答はとてもシンプルで分かり易いものでした。
「え~っと、ジェームスさん?ジェームス卿とお呼びした方がよろしいでしょうか、先ほど母の言った解釈で間違いはございませんでしょうか?」
ジェームス卿は肩をすくめる様な仕草をし、了承の意を示しました。
"ピンポ~ン"
それは玄関チャイムの鳴る音でした。
ご子息はインターホンに手を掛け、訪問者と何やらお話をされているようでした。
「なぁそこの君、さっきから自由気ままにしているが良いのかな?私も決して気長と言う訳ではないのだよ。それに舐められると言う事にも慣れていなくてね。」
"ボフゥッ"
声を荒げ不機嫌を隠そうとしないジェームス卿、彼の身体から溢れる濃密な力の奔流が辺りを覆いつくそうとしていました。これはすでに攻撃、彼は本気で力を行使しようとしているのです。
「突然膨らむ気配、その存在が屋敷全体を覆って行く。素人目にもハッキリと分かる上位存在の証、彼こそがユーロッパ王国の最強、誰もが逆らえない絶対正義ジェームス卿その人であった~。」
「ぶははは、止めて助けて、そのタイミングでナレーションぶちこむって、流石息子。あははは、腹が腹が、痛い痛い痛い、ジェームスさんに痛い目にあわされちまったじゃないか、ぶははは。」
しかし見鬼殿たちは全くその事を気にしていないどころか、そんな恐るべきユーロッパ最強を相手に彼を揶揄い始めたのです。
”あぶない”、私は咄嗟にジェームス卿を止めに入りました。ここで彼が暴れてしまえばこれまでのすべてが無駄になる、私にはほかに選択肢がありませんでした。
「Saki様、ただいま戻りました。何やらお客様がお戯れのご様子ですが、宜しければお帰り願いましょうか?」
”殺される”
私たちに向けられた気配、それは濃厚な”死”そのモノでした。
今まで激高していた者が、東方の島国と馬鹿にしせせら笑っていた者が。
今は等しく”死”に迎え入れられようとしている。
我々は自らの死を公平に幻視していたのでした。
『第一級怪異”ユーロッパの悪夢”、なぜ奴がココに・・・。』
絞り出される様に紡がれたジェームス卿の呟き、それは我々の絶望を意味していました。
「そうでした、ご紹介致します。友人のエリザベスです。」
玄関からゆっくりと入室してきた黒い影、黒いドレスに黒い帽子、ベールに覆われた顔は美しい赤い唇がやけに目を引く、そんな喪に伏したような女性。
『あ、あぁ、”嘆きの貴婦人”、大聖堂に封印されていたはずじゃ!?』
すべてを見取り黄泉路へと案内する、かつて一国を滅ぼしたとされる第一級怪異”嘆きの貴婦人”。
「お~い、ご主人今帰ったぞ!黒丸もご機嫌だぞ、何かおやつくれ~。
あ、なんだノエル帰ってたのか?悪いんだけど、あたしと黒丸に何かおやつくれないかい。」
その声に背後の庭を振り向けば、これもまた強大な力を秘めた第一級怪異クラスの二体の化け物。
先程迄の怒りの形相から一転、真っ青な顔をしたジェームス卿がガタガタ震える身体を必死に抑えている。残りの使節団員も意識を保つのでやっとの状態、すでに下半身は大変な事になっている。かく言う私も同様の状態なのでした。
”チリ~ン“
耳に響く鈴の音、そしてまた一体、第一級怪異が。
ここは何だ、我々はいつの間に魔界に入り込んでしまったのか。
「何かお客さんがたくさん来たので面倒な"お客様"はお帰り頂きましょうか。」
ご子息がそう呟きこちらに向き直る。
"ゴウッ"
彼の御方から溢れ出す力の奔流、それは海、遥か彼方水平線よりやって来る大津波。
ハハハハハ、これが王宮筆頭執事ベンジャミン氏の仰っていた怒らせてはいけない存在、超常の神。
国王陛下、申し訳ありません。我々はその責務を全う出来ませんでした。
皆様よりの叱責はヴァルハラにてお伺いいたします。
"ユーロッパ王国はこの俺に喧嘩を売った。
お前たちの答え、確かに受け取ったぞ。"
言語を越え直接魂に届くその言葉、それがこの場での私の最後の記憶でした。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる