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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第362話 キャンプに行こう (6)

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 ”フ~ッ”
吐き出される息、鎮まる己の心。
覗くスコープ、今回のターゲットである一人の男子生徒が映る。
彼に恨みなどない、これから行うはただの仕事。
一切の感情を排し、ただ任務を全うする。
引き金に指を掛け、今ゆっくりと「かせないよ~。」
”ボキッ”

”@rちゅいおpkjhg”

いや~、引き金に手を添えた状態で右に捻ると指が折れるって本当だったんだね~。前世の映画で見てうっそだ~って思ってたけどそんな事なかったのね。セガールさんてやっぱ最強だわ~。
どうも、裏方一筋十五年、のっぺり佐々木です。
俺が今何をしているのかって?うん、キャンプ場を狙ってる変な気配がいくつかあったんで排除中。こいつで三人目、しかもターゲットがひろし君って言うね、何考えてるんだこいつら。まぁ後でじっくり聞き出せばいいでしょう。
それと気になるのが王女殿下の護衛の動き、だってあんなにあっさり不審者三人大接近よ?おかしいでしょ。あいつら絶対囮じゃん。

って訳で葛の葉いるんでしょ、こいつらの回収お願い出来る?

「げ、ご主人いつから気が付いてたの?私相当気合入れて気配消してたんだけど。」

そんなもんつくねがうろちょろしてる時点でバレバレじゃん。
どうしたの、そっちはまだ学園のごたごたが片付いてなかったんじゃないの?

「あぁ、何か山姫から連絡が入ってな、ウチの山で勝手している馬鹿がいるから何とかしてくれって言われたんだ。山姫の奴、人のごたごたには介入出来ないからな。
そこらへん面倒な取り決めがあるって言ってたぞ、今回はうちの山に直接ちょっかい出された訳じゃないから静観するしかなかったんだと。」

ふ~ん、まぁいいや。もしかして他にもこんなのがいるの?だったらきっちり責任取って貰わないといけないよね~。
葛の葉、悪いんだけど増山のおっちゃん達に連絡入れてくれる?今夜中に片付けたいから。

「了解した。それじゃあたしはこいつらを九条に引き渡してくる。」
”ボグッ”

葛の葉はいつの間にか逃げ出そうとしていた不審者を一撃で仕留め、他の仲間の元へ向かった。
俺は目を瞑り山の気配を探る。

”…”
ミツケタ
”この俺のシマで勝手をしたんだ、分ってるよな?”
俺はゆっくりと山の中へと歩を進めた。


(side:??)

”強襲班、連絡途絶えました。”
”狙撃班、音信不通です。まったく反応しません。”
”部隊A部隊B、共に連絡取れません!”

何がどうなっている。今回の作戦は入念に練られたものだったはずだ。
キャロライン王女を奪還し本国へ連れ帰る。そして王女が国を離れた原因を完全に排除する。
我々は正義だったはずだ。それがなぜこんな事になっている。

「各部隊、まったく連絡が取れません。ジャミングされている痕跡も見られない事から最悪の事態も想定しなければならないかと。司令官、いかがいたしますか?」

何を馬鹿な事を言っている、彼女たちは我が国の精鋭中の精鋭だぞ、こんな島国の連中になど負けるはずが無いだろうが。

「司令官、事は一刻を争います。一度大使館に戻り状況の確認と態勢の立て直しが急務かと。」

「致し方が無い、この拠点を引き払い一度本部まで戻る。急ぎ準備を行え。」

「「「了解!」」」

”ゾクッ“
一瞬にして全身に悪寒が走る。長年の軍人の感が、最大値の警戒音を鳴らす。

”コツンッ、コツンッ、コツンッ”

周囲から一切の音が消え、ただ靴の音だけが聞こえてくる。
奥歯が、全身が、その震えが止まらない。

「お前ら、人の庭で何好き勝手してやがる。」

それは低く闇の底から響く様な声音。
この国の言語で語られたそれは、言葉の分からない者にもダイレクトに伝わる。
”怒り”
我々は何か触れてはいけないモノに触れてしまったのか。

「お前がお偉いさんだな、ちょっと話を聞かせて貰おうじゃないか。」

じっとこちらを見据えて一歩一歩近づくナニカ。
故郷の娘よ、すまない。どうやら私の命運も尽きた様だ。


(side:??)

「部隊との連絡が取れないとはどう言う事だ!ちゃんと交信は行っていたのだろうが!」
私は怒りのままにデスクに拳を叩きつけた。

「マクベス卿、落ち着いて下さい。まだ失敗したと言う訳ではないのですから。判断は状況がはっきりしてからでもいいのではないですか?」

”コンコンコン”

「失礼いたします。大使にご報告申し上げます。
キャロライン王女殿下は本日学園主催のキャンプに出席され、先ほど邸宅へと戻られたとの連絡がございました。
何事もなく楽しいキャンプであったと語っておられたと屋敷の者よりの報告でございます。また例の青年に関しては大変紳士的で素晴らしい御方であったと顔を赤らめておられたとか、私共もこの報告を聞いて喜ばしい気持ちになりました。
では報告を終わります。失礼いたします。」
一礼をして退室していく大使館職員。その後ろ姿を苦々しい顔で見詰めるマクベス卿。

「マルソー大使、これでもまだ冷静でいろと言うのかね?我が国の精鋭一個小隊が連絡を絶ち、王女殿下が無事に帰宅、これが何を意味するのか分かっているのかね!?」
”バンッ”
デスクを激しく打ち鳴らすマクベス卿、その顔は怒りで真っ赤に染まっていた。

「大体我が国王室にこのような島国の猿の血を入れようなどと言う事自体言語道断、王室とは我が国の権威そのモノなのだぞ。今王宮の無能どもが行っているファッションショーなどと言うお遊びとは訳が違うのだ、国家の威信を揺るがす大事なのだ。
愚民どもはそれが分かっておらん、ならば我々貴族がその考えを改めねばならんのだ。これこそが忠誠、王家の威信は我々が守らねばならんのだ。その為の犠牲は皆覚悟していたはずだ、その聖戦士たちがなぜ消えた、一体何が起きたというのだ。」

”ズンッ“

突然かかる重圧、まるでいきなり深海の底に引きずり込まれたかのような、身体全体に掛かる無言の圧力。

「はぁ~、くだらん。」

行き成り聞こえる声、その声音は低く深く、深淵の闇より響くかの様に。

「お前たちはそんなくだらない事の為に俺の庭を害そうとしたのか?」

部屋の中央にある応接ソファーにはいつの間にか一人の男性が座っており、優雅に紅茶を啜っていた。

「な、なんだお前は、ここをどこだと思っている、ユーロッパ王国大使館だぞ!
何を勝手に侵入してきているのだ、誰か、誰か居らぬか!侵入者だ、すぐに捕らえろ!」

騒ぎ立てるも物音ひとつしない室内。机の裏にある防犯ブザーは先ほどから鳴らし続けているというのに。

「無駄だ、誰も来はしない。全員眠っているからな。
で、お前が今回の件の首謀者って事でいいんだよな?だったらこの落とし前、どうやって着けてくれるんだ?」

じっとこちらを見詰める男性。その瞳は獲物を前にする狼の様に、静かにその牙を向ける。

「な、なんなんだお前は、この私をマクベスを愚弄するつもりか、もはやお前に明日はない、ユーロッパ王国を敵に回した事を後悔するがいい。」

「ほう、ユーロッパ王国はこの俺を敵に回したと、そう言う事でいいのか?そこの執事。」

マクベス卿はまたまた驚きに表情を変える。
部屋の片隅の暗がりから現れたのは、スリーピーススーツを着こなした柔和な表情をした一人の老紳士であった。

「これは初めまして。わたくしユーロッパ王家に仕えさせていただいております。ベンジャミンと申します。以後お見知りおきいただきたく存じます。
先程のお話しですが、ユーロッパ王国はあなた様と敵対するつもりは一切ございません。すべてはこの男の独断、処断はこちらにお任せいただきたくお願い申し上げます。」

執事はゆっくりと頭を下げ、男性に許しを請うた。

「ククククッ、アハハハハ、それで誤魔化せると思っているとは嘗められたもんだな!」
突然膨らむ気配、その重圧は先ほどの比ではない。すでに大使館で意識を保っているのは執事のベンジャミンただ一人。それもガタガタ震える身体を抑え、意識を保つのがやっとと言った所であった。

「お前、自分に相当の自信があったのか?愚かだな。相手を侮った結果がこれだ。
この馬鹿の計画が成功すればそれも良し、失敗すれば馬鹿を消すだけ。国粋主義を取るも民衆を取るも、どちらでも良かったんだもんな。
この国に借りを作らせること、ひろしとやらの見極め、ずいぶんと上から目線だなおい。
王家、いや、ユーロッパ王国、潰すか?」
”ゴウッ“
溢れ出す力の奔流、音を立て弾け飛ぶすべてのガラス。

「後はお前たち次第だ。」

執事ベンジャミンが意識を保てたのはそこまでだった。

”コツンッ、コツンッ、コツンッ”

気配のなくなった無人の廊下には、ただ靴の音だけが響いていた。
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