上 下
365 / 525
第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第361話 キャンプへ行こう (5) (side:那須葵)

しおりを挟む
「薪から立ち上る炎、その熱にあぶられて、その身を焼かれて。
上空より降りかかるは白い粉、これは粗塩?
焼けて焦げ目の付いた皮、その身から立ち昇る芳香。
大きな口がそれを捉える。」

「「「旨い、川魚最高~!!」」」

「って言うかのっぺり、さっきから変なナレーション入れるな!私たちは怪物か、悪魔か何かなのか?
ただ川魚を塩焼きで食べてるだけじゃないか、なに荘厳な雰囲気を出そうとしてるんだお前は。」
焼き立ての川魚を頬張りながら文句を言う篠原さん。

「え~、だって俺頑張ったじゃん、一人二匹ずつ、全部で八十匹よ?もっとありがたがって食べてもいいと思わない?」

「「「ご苦労だった、のっぺり。また頼む。」」」

「うわ~、こいつらひで~、ありがたみの欠片も無いでやんの。」
がっくり肩を落とす佐々木君、まったく報われない話だ。

それにしても彼は凄かった。その辺の木の棒を銛の様に加工し、わずかな時間でクラス全員分の川魚を仕留めるその技。傍から見ていてもなにが起きているのか分からない光景だった。彼が銛を打てば魚が掛かる。何匹か捕るところを見ていたが、まるで魚が自《みずか》ら銛に撃たれに行っているかの様であった。

「ん?」

「どうしたのっぺり?トイレか?」

「そんなんじゃないわい!ちょっと抜ける。俺の分の肉取っといてね~。」

「「「それは保証できない。」」」

「酷い、せめてお野菜だけでもお願いします。」
深々と頭を下げる佐々木君。

「「「仕方がない、玉ねぎとピーマンは焼いておいてやろう。」」」

「ありがたき幸せ~。」
そう言うと、佐々木君は離席しどこかへ向かい歩いて行った。

「葵、のっぺりどこかへ行っちゃったけど、どうするの?」
そんな事は決まっている。

「無論、後をつけます。」
「そう来なくっちゃ。ほら、彩夏いつまで食べてるのよ、行くよ。」
「”ふぉむふぉむふぉむ”」
「何言ってるのか分からん。ごめんね皆、私たちこれからのっぺりの尾行をして来るから、先生が来たら上手く言っといて~。」

「OK、面白い事があったらあとで教えて~。」
ノリの良いクラスメートで助かる。こうして私たち三人は佐々木君ターゲットの尾行を開始した。


「おいっす木村君、康太君も丁度良かった。」

佐々木君が向かっていたのはAクラスのキャンプスペースであった。
彼は以前共に部活見学に来ていたAクラスの木村英雄君と同じくAクラスの高木康太君に何やら話し掛けていた。

「親友、それってマジな話なの。」
「うん、おそらくもうすぐ始まる。他の生徒に被害が出ないようにさりげなく誘導してくれると助かる。あっちは下手に弄ると被害が拡大しそうだし、多分大丈夫なんじゃない?彼だし。
こっちは他の対処に回るから。」
「分かった、佐々木もあまり無理はするなよ。」
「了解~。うまい事やっとく~。」

佐々木君は話しは終わったとばかりに手を振りながら二人のもとを去っていった。
残った二人は数グループの班に声を掛け、端のテーブルへと移動を促していた。

「ねぇ、これからどうする?のっぺりどこか行っちゃうよ?」

「う、うん。」
私が一瞬躊躇しているとき、それは起こった。

「君たちはウチの生徒じゃないよね?どうしたのかな?」
声をした方を振り向くと、そこには三人の女子生徒と対峙する一人の男子生徒。
あれは私の憧れ、愛しのひろし様。

「いやだな、行き成り何を言うんですか、高宮君?私たちはそちらのキャロラインさんにご挨拶に来ただけですよ。それがどうしましたか?」
キョトンとした顔で答える女子生徒。

「う~ん、どこから言った方が分かってもらえるのかな?まず僕の事を高宮君って呼ぶ人はこの学園にはいないよ?それにこっちにいるのはキャロルさんであってキャロラインさんじゃないんだけど。それにね、君たちのそのウイッグ、良く出来てるけど見る人が見たらバレバレだよ?最後に僕って中等部の生徒会長をやってたからこの学年の内部進学生徒の顔は全部覚えてるんだよね。それじゃ私たちは外部進学生徒ですって言いそうだけど、少なくとも君たちみたいな外部進学生徒はいなかったかな?」

ひろし様は事も無げにそう答えました。とたん動きを止める女子生徒、いえ、侵入者たち。

「本当ならもっと穏便に事を運びたかったのですが仕方がありません。キャロライン様、どうかこちらに来てはいただけないでしょうか?我々も乱暴な手段に出るのは本意ではないのです。」
腰をやや低く構えを取りながら語り掛ける侵入者、それに対し怯えながらも毅然と立ち上がる、あれは留学生の女子生徒。
彼女は引き留めようとする別の留学生の女子生徒を振り切り、一歩踏み出そうとする。
そんな二人の間に割って入る形で立ち塞がるひろし様。

「ひろし様、もうよろしいのです。私の我が儘で多くの生徒を危険にさらしている。今、私が取るべき態度はこの身をとして多くの者の安全を図る事。これだけ堂々と現れているのです、ここにいる彼女達だけの犯行とも思えません。
皆の安全の為に盾になる、これは王家の人間としての務めなのです。」
凛とした態度でそう己を鼓舞する留学生、しかし恐怖からくる体の震えは隠せない。

ひろし様はそんな彼女の頭にポンと手を添え優しく微笑まれます。

「そんなに頑張らなくってもいいんだよ?君はただの留学生キャロルさんなんだから。」
ひろし様はそう言うと再び侵入者の方を向き今度は優しい笑みを浮かべました。

”ガバッ“

背後から大ぶりのナイフを引き抜き警戒する侵入者、そんな彼女たちに彼は語り掛けます。

「どうしたんだいお嬢さんたち、そんな物騒なものを握りしめて。」

その潤んだ瞳はとても悲しく、悲痛な思いが伝わってくる。

「僕は君たちがそんなものを振り回し暴力に支配されていくのを見るのがとても辛い。君たちだって本当はこんな事したい訳じゃないんだ。でも見えないナニカに支配されて、本心を偽って。
今まで辛かったね、悲しかったね。
もういいんだよ、今までずっと頑張って来たんだもん。
さあ、こっちにおいで。」

スッと差し出された右の手。
ひろし君はゆっくりと彼女達へと近づきます。
彼の頬に流れる一筋の涙。

”カランッカランッ“

彼女達の手にはもうナイフは握られていません。
そこには幼子の様に泣きながらひろし君に抱き縋る三人の女性がいるだけでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...