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第三章 ある少年の回顧録
第333話 転機
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「「「ひろし君、おはよう♪」」」
「うん、おはよう。みんなも元気?あれ?髪型変えた?前のも良かったけどこのシャープな感じも良いよね♪
おはよう。」
私立桜泉学園中等部に入学して二年が経った。僕の周りはやはり女の子で溢れていた。
小学校時代と違うのは、それが組織だったものになった事。女の子の集まりはいつしか部活動となり、その交流も部活動の一環として取り扱われる様になっていった。
桜泉学園が他の学校と違うのは、学園が率先して男子生徒の芸能活動を応援している点だろう。
僕はこの学校に入学してすぐに歌手としてデビューする事となった。
デビュー曲は小学校六年生の時に中学校受験を頑張る女の子たちを励ますために歌った曲「君と二人で」と、新しく作られた夏ソング「SummerBeach」であった。
これは始め音楽配信サイトでの小規模なリリースであったが、すぐにレコードレーベルからシングルCDとして発売され、いつしか爆発的ヒットとなった。
僕の音楽活動は学校側の配慮もありかなり限定的に行われた為、学園生活に支障をきたす事もなく自由にのびのびと過ごす事が出来た。
「ひろし君、ちょっと良いかしら?」
転機は不意に訪れた。それは中央都テレビのバラエティー企画「第一回逃走王決定戦」と言う番組に出場した事が切っ掛けであった。
この番組は最近ヨウツーベで話題の鬼ごっこ企画を、全国から男性参加者を募って行おうと言うものだった。
僕は始めこの番組自体あまり興味を持てなかった。お正月に見た鬼ごっこ企画番組の余りの酷さに辟易とした事を思い出したからだ。
でもそれは大きな間違いだった。目の前を駆け抜ける少年たち、飛ぶ、跳ねる、避ける。繰り広げられる見たこともない激闘。
アハ、アハハハハハ。
身体が、心が、これ迄になく興奮するのが分かる。僕は沸き上がる喜びを抑える事が出来なかった。
僕がここまで全力を出したのは何時ぶりだろうか、小学校六年生の時の運動会リレー以来じゃないだろうか。
いや、これはあれ以上、ここまでのワクワクは初めてだ。
僕は己の力を全力で出し切る事の出来るこの瞬間に酔いしれていた。
結果、僕は逃走王の称号を手に入れる事が出来た。この称号は、僕の中で数少ない宝物となった。
「ひろし君に第二回逃走王決定戦のオファーが来てるんだけど。」
声を掛けてくれたのは美穂先生だった。美穂先生は小学校の時の先生で六年間何かと面倒を見てくれた優しい人。中学校に進学する事でお別れになると思っていたけど、先生はこの私立桜泉学園のマネジメント部に再就職していて、僕の事をよく知っていると言う理由から、僕の担当マネージャーになっていた。
歌手デビューから次第に増える芸能の仕事に、学園は遂に芸能事務所を設立。僕は学園が主幹するこの芸能事務所、"スタジオCherry"の所属となり、以降様々な仕事を受ける事となった。
美穂先生は事務所設立の際学園側からの出向と言う形で参加、現在その代表を務めている。
「第二回逃走王決定戦ですか?ぜひ参加させて下さい。あの番組凄いですよね、あの鬼役の人達、全員オリンピック選手なんですよ。やっぱり超一流は迫力が違いますよね、参加者もみんな凄い実力者だし、僕あの番組大好きなんです。」
「そう、ひろし君が喜んでくれるなら良かったわ。事務所としても凄い宣伝になって大助かりよ。頑張ってね、ひろし君。」
「"これより、第二回逃走王決定戦本選を開始致します。"」
いよいよ始まった逃走王。
"タッタッタッタッタッタッ"
やっぱりそうだ。このゲーム、ある程度主催者側からコントロールされている。積極的に狙われる選手もいればあえて逃がされている選手もいる。
もしかしてゼッケンの色?うん、間違いない、寒色系の選手がやたら追いかけられている。
でもやるな~、あれだけ集中的に狙われているのに全然負けてない。あそこの選手なんか完全にロックオンされてるのに笑いながら逃げ切ってるし。
あははは、これが全国から駆け上がって来た精鋭。番組側の思惑なんか歯牙にも掛けてないじゃないか。
僕は前回の事を考えれば後半、おそらくラスト三十分が勝負!
クックック、いいさ、その思惑乗ってあげるよ。さぁ来い、世界。
「アハッ♪ひ・ろ・し・君~❤️
お姉さんと遊びましょ。」
やっぱりだ。ラスト三十分、ここからが僕の本番だ。
「お姉さんはオリンピック選手何でしょ?何の競技をやってるの?」
「ウフッ、お姉さんはね、女子二百メートルの新庄好美って言うの。これから私の事を君の身体に確りと刻み付けてあげるね♪」
「あはは、よろしくお願いしますね、新庄好美お姉さん♪」
「アハハ、玉取ったら~!」
"うゎ、速い、前回より動きが鋭い!?"
「アハハ、凄い凄い、もう全力で行くね~!」
"ブンブンブンブンバッズバッ、タッタッタッ"
"アッハッハッハッ、凄い凄い、何これ何これ。人間ってこんな動きが出来るの!?何このヒリヒリする様な緊張感、息継ぎする暇すらないんですけど!"
「「「十分過ぎたわ、解禁よ~!」」」
"ドッバババババババッガバッドバッガッズバッ"
"呼吸が、くそーーーーっ"
「ワタシ、ガ、ガーーーッ!」
"バッバッバッバッバッ"
"ウォーーーーーーーッ、負けるかーー!"
"ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン"
「ウォーーーーーーッ!」
「「「ウォーーーーーーッ!」」」
"ガシッ"
"ビーーーーーーーーーーッ"
「タイムアーーーーップ、終了で~~~~す!」
"ドサッ、バタッ、グシャッ"
「ヒロシ、クン・・・ヤッタワ、ヨ。」
"バタッ"
"酸素だ、酸素持って来い!!"
"こっち泡吹いて意識不明、担架急いで!"
「あは、あはははは、僕生まれて初めてだよ、全力を出してなお届かない事があるだなんて。
膝が震えて立てないや、この世界舐めてたのかもしれない。」
お母さん。
僕はお母さんがいなくなってから、ずっと理想の王子様を演じて来ていたんだ。周りの人はそれを喜んでいたし、それで良いと思っていたんだ。
でもそれだけじゃダメみたい。この世界は僕が思っていたよりずっと凄いみたいなんだ。
僕、もっと真剣に生きる事にするよ。なんてったって高宮律子の息子なんだから、こんなところで負けている訳には行かないよね。
己の心に宿った熱い想いがなんなのか。
まずは一歩、今一人の男が自らの人生を歩み始めた。
「うん、おはよう。みんなも元気?あれ?髪型変えた?前のも良かったけどこのシャープな感じも良いよね♪
おはよう。」
私立桜泉学園中等部に入学して二年が経った。僕の周りはやはり女の子で溢れていた。
小学校時代と違うのは、それが組織だったものになった事。女の子の集まりはいつしか部活動となり、その交流も部活動の一環として取り扱われる様になっていった。
桜泉学園が他の学校と違うのは、学園が率先して男子生徒の芸能活動を応援している点だろう。
僕はこの学校に入学してすぐに歌手としてデビューする事となった。
デビュー曲は小学校六年生の時に中学校受験を頑張る女の子たちを励ますために歌った曲「君と二人で」と、新しく作られた夏ソング「SummerBeach」であった。
これは始め音楽配信サイトでの小規模なリリースであったが、すぐにレコードレーベルからシングルCDとして発売され、いつしか爆発的ヒットとなった。
僕の音楽活動は学校側の配慮もありかなり限定的に行われた為、学園生活に支障をきたす事もなく自由にのびのびと過ごす事が出来た。
「ひろし君、ちょっと良いかしら?」
転機は不意に訪れた。それは中央都テレビのバラエティー企画「第一回逃走王決定戦」と言う番組に出場した事が切っ掛けであった。
この番組は最近ヨウツーベで話題の鬼ごっこ企画を、全国から男性参加者を募って行おうと言うものだった。
僕は始めこの番組自体あまり興味を持てなかった。お正月に見た鬼ごっこ企画番組の余りの酷さに辟易とした事を思い出したからだ。
でもそれは大きな間違いだった。目の前を駆け抜ける少年たち、飛ぶ、跳ねる、避ける。繰り広げられる見たこともない激闘。
アハ、アハハハハハ。
身体が、心が、これ迄になく興奮するのが分かる。僕は沸き上がる喜びを抑える事が出来なかった。
僕がここまで全力を出したのは何時ぶりだろうか、小学校六年生の時の運動会リレー以来じゃないだろうか。
いや、これはあれ以上、ここまでのワクワクは初めてだ。
僕は己の力を全力で出し切る事の出来るこの瞬間に酔いしれていた。
結果、僕は逃走王の称号を手に入れる事が出来た。この称号は、僕の中で数少ない宝物となった。
「ひろし君に第二回逃走王決定戦のオファーが来てるんだけど。」
声を掛けてくれたのは美穂先生だった。美穂先生は小学校の時の先生で六年間何かと面倒を見てくれた優しい人。中学校に進学する事でお別れになると思っていたけど、先生はこの私立桜泉学園のマネジメント部に再就職していて、僕の事をよく知っていると言う理由から、僕の担当マネージャーになっていた。
歌手デビューから次第に増える芸能の仕事に、学園は遂に芸能事務所を設立。僕は学園が主幹するこの芸能事務所、"スタジオCherry"の所属となり、以降様々な仕事を受ける事となった。
美穂先生は事務所設立の際学園側からの出向と言う形で参加、現在その代表を務めている。
「第二回逃走王決定戦ですか?ぜひ参加させて下さい。あの番組凄いですよね、あの鬼役の人達、全員オリンピック選手なんですよ。やっぱり超一流は迫力が違いますよね、参加者もみんな凄い実力者だし、僕あの番組大好きなんです。」
「そう、ひろし君が喜んでくれるなら良かったわ。事務所としても凄い宣伝になって大助かりよ。頑張ってね、ひろし君。」
「"これより、第二回逃走王決定戦本選を開始致します。"」
いよいよ始まった逃走王。
"タッタッタッタッタッタッ"
やっぱりそうだ。このゲーム、ある程度主催者側からコントロールされている。積極的に狙われる選手もいればあえて逃がされている選手もいる。
もしかしてゼッケンの色?うん、間違いない、寒色系の選手がやたら追いかけられている。
でもやるな~、あれだけ集中的に狙われているのに全然負けてない。あそこの選手なんか完全にロックオンされてるのに笑いながら逃げ切ってるし。
あははは、これが全国から駆け上がって来た精鋭。番組側の思惑なんか歯牙にも掛けてないじゃないか。
僕は前回の事を考えれば後半、おそらくラスト三十分が勝負!
クックック、いいさ、その思惑乗ってあげるよ。さぁ来い、世界。
「アハッ♪ひ・ろ・し・君~❤️
お姉さんと遊びましょ。」
やっぱりだ。ラスト三十分、ここからが僕の本番だ。
「お姉さんはオリンピック選手何でしょ?何の競技をやってるの?」
「ウフッ、お姉さんはね、女子二百メートルの新庄好美って言うの。これから私の事を君の身体に確りと刻み付けてあげるね♪」
「あはは、よろしくお願いしますね、新庄好美お姉さん♪」
「アハハ、玉取ったら~!」
"うゎ、速い、前回より動きが鋭い!?"
「アハハ、凄い凄い、もう全力で行くね~!」
"ブンブンブンブンバッズバッ、タッタッタッ"
"アッハッハッハッ、凄い凄い、何これ何これ。人間ってこんな動きが出来るの!?何このヒリヒリする様な緊張感、息継ぎする暇すらないんですけど!"
「「「十分過ぎたわ、解禁よ~!」」」
"ドッバババババババッガバッドバッガッズバッ"
"呼吸が、くそーーーーっ"
「ワタシ、ガ、ガーーーッ!」
"バッバッバッバッバッ"
"ウォーーーーーーーッ、負けるかーー!"
"ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン"
「ウォーーーーーーッ!」
「「「ウォーーーーーーッ!」」」
"ガシッ"
"ビーーーーーーーーーーッ"
「タイムアーーーーップ、終了で~~~~す!」
"ドサッ、バタッ、グシャッ"
「ヒロシ、クン・・・ヤッタワ、ヨ。」
"バタッ"
"酸素だ、酸素持って来い!!"
"こっち泡吹いて意識不明、担架急いで!"
「あは、あはははは、僕生まれて初めてだよ、全力を出してなお届かない事があるだなんて。
膝が震えて立てないや、この世界舐めてたのかもしれない。」
お母さん。
僕はお母さんがいなくなってから、ずっと理想の王子様を演じて来ていたんだ。周りの人はそれを喜んでいたし、それで良いと思っていたんだ。
でもそれだけじゃダメみたい。この世界は僕が思っていたよりずっと凄いみたいなんだ。
僕、もっと真剣に生きる事にするよ。なんてったって高宮律子の息子なんだから、こんなところで負けている訳には行かないよね。
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