男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora

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第三章 ある少年の回顧録

第327話 俺ってこの世界の主役じゃね? (3)

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”ひろし君~、お昼出来たわよ~。”

「は~い、今行きま~す。」

あれから数時間、僕は只管瞑想を続けていた。自分が転生したって事はある程度折り合いがついた。でも心と思いはやはり別だ、納得は出来ても得心するとは限らない。
瞑想はその隔たりを解消するのにとても役に立った。
社畜の記憶がこんな所で役に立つなんて、あの地獄を生き抜いたんだ、これから先もそうそうへこたれる事は無いだろう。

「はい、ひろし君リクエストのニンジンカレーで~す。今ならまだ間に合うわよ~、これからもママって呼んでくれるんならニンジンさんを減らしちゃうんだけどな~。」

なんかかわいらしい言い方でろくでもない交渉を持ちかけるお母さん。ごめんねお母さん、前世の俺って好き嫌いなかったんだ、そんな事言える余裕もなかったしね。だから今の僕はニンジンどころか生ピーマンも美味しく頂けちゃうんだよ、ドレッシング無しでも。

「うん、おいしそう。いつもありがとうね”お母さん”。いただきま~す。」

”もぐもぐもぐ”
うん、旨い。まともなご飯ってやっぱり美味しいわ。カップ麺やコンビニ弁当ばかりだとどうしても脂っこさがね。カロリーバーのみで二週間ってどこの特殊部隊だよ全く。

「えっ、ひろし君いつの間にそんなにお野菜が好きになったの?子供の成長って早いって言うけど、ひろし君てやっぱり特別ね。私の子は凄い。」
”ありがとうお母さんか~、ウヘヘヘヘ、悪くないわね。”

なんか小声でぶつぶつ言ってるけど全部聞こえてるからね?これからもお母さん呼びは変えないから、そう言う事でお願いします、”お母さん”。


「ご馳走様でした。」

「はい、よく残さずに食べました。流石はひろし君、えらいえらい♪」

本当に美味しかったわ~。前世は甘口カレーって苦手だったけど、今は味覚がお子様なせいか、ちょうどいいお味。これから徐々に好みも変わるだろうけど、あまり拘らず自然体にあるがままで受け入れて行こう。

「ちょっといいかな?ひろし君に重要なお話があります。」

真剣な顔をするお母さん。これは本当に珍しい。
僕は姿勢を正し話を聞く体勢に入る。

「お母さん、そろそろ仕事に復帰しようと思います。それでお母さんが仕事に行くようになったら、ひろし君には幼稚園に行ってもらおうと思うんだけど、いいかしら?」

初めて聞いた新事実、お母さん今までずっと産休してました。えっ、僕四才だよね、産休長くない?母子家庭ならこれが当たり前?凄いなこの国。
新しい人生は社会保障が充実した世界の様です。

「それでね、ひろし君はずっとお母さんと暮らしていたから知らない事がいっぱいあると思うの。ちょっと難しいと思うけどお話聞いてくれるかな?」

そう言えば僕ってこの家から外に出た事なかったよね。今まで全く気にしてなかったけど、これってかなり異常だよね?その謎がついに明らかになると、これはちゃんと聞かなければいけないですね。

「まず初めになんで今までひろし君をお外に連れて行かなかったかって言うと、誘拐されちゃうからなの。」

はっ?ただの過保護?そりゃ児童の誘拐は心配だろうけど、そこまで過敏にならなくても。

「今の世の中ってね、男の子がとっても少ないの。八人に一人くらいの割合かな?だから男の人って余り人前に出てこないのよ。テレビを見てても出てくるのって女の人の方が多いでしょ?」

確かに言われてみればそうだった。ニュースアナウンサーはもちろんお笑い芸人やドラマの俳優迄、男性の比率は極端に少なかった。

「だから社会に出るとプライベートで男の人に会う機会ってほとんどなくなっちゃうのよ。それで魔が差して誘拐事件を起こす。結構あるのよね、これって。」

何と言う事も無いように言ってのけるお母さん、ちょっと待ってください、本気で怖いんですが。

「だからママ、今までずっとお仕事お休みしてひろし君の成長を見守っていたの。男の子のいる家庭には男の子手当って言う補助金も下りるしね。
でもそろそろ仕事に復帰してくれって事務所にせっつかれてるのよね~。ママね、これでも男優さんなのよ♪」

ん?またまた謎ワード、お母さんが男優?よく分からないんだけど?

「うんとね、さっきも言ったけどこの世の中男性が少ないのよ。だから男性は何処に行っても大歓迎、するとどうしても楽な仕事や地位のある仕事に行きがちなのよね。テレビや舞台の俳優みたいに人前に晒されるようなお仕事って、そういう人からは忌避されがちなのよ。でも現場では男性の役が必要、そこで男性の役をする俳優、”男優”が生まれたって訳。
ママこれでも売れっ子なんだから~。」

なるほど、某歌劇団の男役みたいなもんか。需要と供給、世の中は良く出来ている。

「そうなるとひろし君は今迄みたいにお家にいる事が出来ないでしょ?一人でお留守番なんてさせられないし。だから幼稚園に行ってもらおうと思って。
でもさっきも言ったけど幼稚園も女の子ばっかりなの。ひろし君気が付いてないかもしれないけど物凄いイケメンなのよ、まさに理想の王子様みたいに。だからそのまま幼稚園に行ったら多分ボロボロにされて引き籠りや病院通いになっちゃうかもしれないの。」

”ブフォッ”
何その恐怖の未来予想、しかもかなり具体的。否定する要素皆無じゃないか、もしかしなくてもこれからずっとそうなの?

「頭の良いひろし君の事だから気が付いたかもしれないけど、これはひろし君に一生付き纏う問題なの。だけどママはひろし君に引き籠りになって女の子に怯えたり女の子を嫌ったりする様な子にはなって欲しくないの。
ひろし君には理想の王子様になって欲しいのよ。その為に必要なテクニックは全てママが教えてあげる。だってママの一番得意な役が”女性の理想の王子様”なんだから。」

幼稚園に通うのは今から一か月後。
その日からお母さんと僕の特訓の日々が始まった。
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