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第三章 ある少年の回顧録
第326話 俺ってこの世界の主役じゃね? (2)
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朝になった。
自分の状況が分かったのかと聞かれれば全く分かっていないと言うのが正直な所だ。
どうやら俺は俺であって俺でないと言うよく分からない事になっているらしい。今目の前でにこにこ笑いながら食事をしている美女は、自称俺の母親と言う事になっている。
いやいやいや、俺の母親はもっとおばさんだったハズだ。とは言えここ何年も電話すらしていないので現在どう言う顔かと聞かれれば自信を持ってこれと言えないのが情けない所だが。
それにこの身体、これって粉うことない子供の身体だよな。一体何がどうなってるって言うんだ。正直今にも叫びだしたいが、目の前の女性を心配させたくないと言う思いが強く湧いて来る。
「あのお母さん、昨夜は突然騒いだりしてごめんなさい。ちょっと怖い夢を見てたんだ。長い事囚われて無理やり仕事をさせられ続ける夢。
それで何とか逃げ出せたと思って大きな声をあげちゃって。
本当にごめんなさい。」
とりあえず昨夜の事はこれで誤魔化せるだろうか、状況が分からない以上大人しくしているしかないんだが。
「ひろし君、そんなに酷い夢を見てたのね。ママ気が付かなくってごめんなさい。やっぱりこれからもママと一緒に寝ましょ?ひろし君が大きくなったから一人で寝ますって言った時はまま寂しくって胸が張り裂けそうだったんだもの。一緒に寝れば怖い夢なんか見ないわよ、今夜からそうしましょうよ。」
はっ?こんな美女と添い寝?いくら母親でも勘弁してくれ、俺のメンタルはそこまで強靭じゃないんだっての。
一人で寝る宣言をした前の俺の気持ち分かるわ~、少しでも自我が芽生えれば恥ずかしくなっちゃうよな、マジで。
今にもこちらに抱き付いて全力で甘やかそうとする”母親”に戦慄しつつ、次の対策に移るとする。
「お母さんご馳走様。僕ちょっと調べたい事があるからお部屋に戻るね。お昼はカレーが食べたいな、お願いしちゃっていい?」
「もうひろし君たら急に大人びて来ちゃって、ママ寂しいぞ。それに全然”ママ”って呼んでくれないし。ママって呼んでくれないとニンジン一杯入れちゃうんだから。」
「う、うん、ごめんね。でもニンジンは体にいいから大歓迎だよ。それじゃお昼が出来たら呼んでね。」
俺は余計なボロが出ない内にそそくさと自室に戻るのだった。後ろから”ひろし君の意地悪~”とか聞こえるが、気にしたら負けだな、うん。
まずは自分自身の確認が必要だ。昨夜は突然の事で考える事自体を放棄して寝てしまったからな。朝ご飯を食べて少し余裕が出て来たからか、大分頭が回り始めている様だ。
ゆっくりと食事を摂るなんて何年ぶりだっただろうか、いかん泣きそう。落ち着け俺、まだまだ問題は山積みだぞ。
俺の名前はひろし、これは今のこの身体の名前だ。では前の身体、本来の名前はと言えば・・・、まったく思い出せない。しかも記憶がかなりあいまいだ、あの地獄の日々は覚えているのに会社名や自称上司の名前すら出てこない。今すらっと出て来たのは隣のデスクの松本の名前、でも下の名前が分からん。
これはあれか、もしかしなくても死んだか、俺?
まぁ、いつ死んでもおかしくないような会社ではあったからな。こんな事なら仕事なんて放り出して失踪でもすればよかった。労働基準局にでも逃げ込めば命くらいは助かったかもしれないのに、下手に今後の生活なんて考えるから。先の不安より今の命だろうに。
まぁいいや、おそらくどうにもならないだろう。それより今の状況だ、転生か憑依か、転生ならまだいいが憑依だと最悪だぞ。俺なんかがこのひろし君の人生を乗っ取っていい訳が無いからな、俺はただのんびり生きたいだけなんだ、人に迷惑を掛けたい訳じゃない。あんな自称上司みたいにだけは絶対になるもんか。
目を瞑り心を落ち着かせる。これは会社の研修と言う名目で無理やり行かされたセミナー(取引会社主催)で教わった瞑想法。徹夜続きで意識がおかしくなりそうな時、自身を無理やりリセットするのにずいぶんと重宝したもんだった。
俺は、そうだ、僕はひろし。お母さんが大好きなひろし。なんか色んな記憶が蘇って分からなくなっちゃったけど、思い出した。僕はひろしなんだ。
そうか、今までなんか変だと思っていたこの違和感は前世の記憶が原因だったんだ。
最近お母さんに抱き付かれて恥ずかしくなってたけど、前の記憶の影響を受けていたんなら仕方がないよね。
でもそれも僕の一部だ。前の僕、今までお疲れ様でした。
君の思いは僕がちゃんと引き継ぐよ。今度こそ幸せな人生を歩んで見せるから。もう苦しまなくってもいいからね。
ゆっくり目を開ける。僕の名前はひろし、新たに人生を始めたばかりの四才のお子様だ。
自分の状況が分かったのかと聞かれれば全く分かっていないと言うのが正直な所だ。
どうやら俺は俺であって俺でないと言うよく分からない事になっているらしい。今目の前でにこにこ笑いながら食事をしている美女は、自称俺の母親と言う事になっている。
いやいやいや、俺の母親はもっとおばさんだったハズだ。とは言えここ何年も電話すらしていないので現在どう言う顔かと聞かれれば自信を持ってこれと言えないのが情けない所だが。
それにこの身体、これって粉うことない子供の身体だよな。一体何がどうなってるって言うんだ。正直今にも叫びだしたいが、目の前の女性を心配させたくないと言う思いが強く湧いて来る。
「あのお母さん、昨夜は突然騒いだりしてごめんなさい。ちょっと怖い夢を見てたんだ。長い事囚われて無理やり仕事をさせられ続ける夢。
それで何とか逃げ出せたと思って大きな声をあげちゃって。
本当にごめんなさい。」
とりあえず昨夜の事はこれで誤魔化せるだろうか、状況が分からない以上大人しくしているしかないんだが。
「ひろし君、そんなに酷い夢を見てたのね。ママ気が付かなくってごめんなさい。やっぱりこれからもママと一緒に寝ましょ?ひろし君が大きくなったから一人で寝ますって言った時はまま寂しくって胸が張り裂けそうだったんだもの。一緒に寝れば怖い夢なんか見ないわよ、今夜からそうしましょうよ。」
はっ?こんな美女と添い寝?いくら母親でも勘弁してくれ、俺のメンタルはそこまで強靭じゃないんだっての。
一人で寝る宣言をした前の俺の気持ち分かるわ~、少しでも自我が芽生えれば恥ずかしくなっちゃうよな、マジで。
今にもこちらに抱き付いて全力で甘やかそうとする”母親”に戦慄しつつ、次の対策に移るとする。
「お母さんご馳走様。僕ちょっと調べたい事があるからお部屋に戻るね。お昼はカレーが食べたいな、お願いしちゃっていい?」
「もうひろし君たら急に大人びて来ちゃって、ママ寂しいぞ。それに全然”ママ”って呼んでくれないし。ママって呼んでくれないとニンジン一杯入れちゃうんだから。」
「う、うん、ごめんね。でもニンジンは体にいいから大歓迎だよ。それじゃお昼が出来たら呼んでね。」
俺は余計なボロが出ない内にそそくさと自室に戻るのだった。後ろから”ひろし君の意地悪~”とか聞こえるが、気にしたら負けだな、うん。
まずは自分自身の確認が必要だ。昨夜は突然の事で考える事自体を放棄して寝てしまったからな。朝ご飯を食べて少し余裕が出て来たからか、大分頭が回り始めている様だ。
ゆっくりと食事を摂るなんて何年ぶりだっただろうか、いかん泣きそう。落ち着け俺、まだまだ問題は山積みだぞ。
俺の名前はひろし、これは今のこの身体の名前だ。では前の身体、本来の名前はと言えば・・・、まったく思い出せない。しかも記憶がかなりあいまいだ、あの地獄の日々は覚えているのに会社名や自称上司の名前すら出てこない。今すらっと出て来たのは隣のデスクの松本の名前、でも下の名前が分からん。
これはあれか、もしかしなくても死んだか、俺?
まぁ、いつ死んでもおかしくないような会社ではあったからな。こんな事なら仕事なんて放り出して失踪でもすればよかった。労働基準局にでも逃げ込めば命くらいは助かったかもしれないのに、下手に今後の生活なんて考えるから。先の不安より今の命だろうに。
まぁいいや、おそらくどうにもならないだろう。それより今の状況だ、転生か憑依か、転生ならまだいいが憑依だと最悪だぞ。俺なんかがこのひろし君の人生を乗っ取っていい訳が無いからな、俺はただのんびり生きたいだけなんだ、人に迷惑を掛けたい訳じゃない。あんな自称上司みたいにだけは絶対になるもんか。
目を瞑り心を落ち着かせる。これは会社の研修と言う名目で無理やり行かされたセミナー(取引会社主催)で教わった瞑想法。徹夜続きで意識がおかしくなりそうな時、自身を無理やりリセットするのにずいぶんと重宝したもんだった。
俺は、そうだ、僕はひろし。お母さんが大好きなひろし。なんか色んな記憶が蘇って分からなくなっちゃったけど、思い出した。僕はひろしなんだ。
そうか、今までなんか変だと思っていたこの違和感は前世の記憶が原因だったんだ。
最近お母さんに抱き付かれて恥ずかしくなってたけど、前の記憶の影響を受けていたんなら仕方がないよね。
でもそれも僕の一部だ。前の僕、今までお疲れ様でした。
君の思いは僕がちゃんと引き継ぐよ。今度こそ幸せな人生を歩んで見せるから。もう苦しまなくってもいいからね。
ゆっくり目を開ける。僕の名前はひろし、新たに人生を始めたばかりの四才のお子様だ。
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