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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第300話 うちらの村に来て下さい (2)

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「「お見合い大作戦"うちらの村に来て下さい" in 朝日町~!」」
「みんな~、お婿さんが欲しいか~。」

「「「は~い!」」」
会場には色とりどりのドレスに身を包んだ華たちが咲き誇っている。

「うん、素直でよろしい。今回、三名もの男性が名乗りをあげてくれたぞ~、全員拍手~!」
"パチパチパチパチパチパチ~”
緊張しながらも会場入りする男性陣。それでも控室での怯えはもう見られない、それぞれが真剣な表情だ。

「早速行きますよ~、ぐるぐる紹介タイム~!
桜庭アナウンサー、説明をお願いします。」
「はい、会場にセットされた十のテーブルに各々三名ずつの女性参加者が待機しています。そこを男性参加者が一つのテーブルにつき五分間訪れます。皆さん、頑張ってアピールしてくださいね!」

「こらこら、煽らない煽らない。男性はグイグイ来過ぎると逆に逃げて行くもんなのよ!お姉さんたち~、事前学習はバッチリかな~?焦りは禁物だからね~。
ではグルグル紹介タイム、スタートです!」
決められたテーブルに分かれて行く男性陣、女性たちの歓声が会場を包んでいった。


「桜庭アナウンサー、四番のテーブル、ちょっとテンション上がり過ぎですね~。女性陣に声掛けして来て貰えますか?のっぺりは男性のフォローに入りますんで。」
「はい、了解です。」
桜庭アナウンサーが女性たちの方に向かっていく。その間俺はインカムで男性参加者の小林さんを呼び出した。

「小林さん、大丈夫だった?顔引き攣ってたけど。」
「う、うん。やっぱりああやってぐいぐい来られると驚いちゃうね。みんな顔が真剣で欲望の目って感じじゃないからまだよかったかな。僕ってそんなに容姿がいい人間じゃないでしょ?しかも太ってるし。ああやって真面目に結婚を望んでる人と話すのって実は初めてだったかもしれない。
これまでとの価値観のギャップに、僕自身戸惑ってるってのが正直な気持ちかな。」

「そっか~、でも小林さん自身がこうやって真剣に考えてくれるって事は女性たちにもしっかり伝わっていると思いますよ。
大分落ち着いたみたいですね、頑張って行って来てください。」
「うん、行ってくるよ。」

ボテボテとテーブルに戻る小林さん。かっこいいぞ。

「今度は七番テーブルでトラブル発生の様です。のっぺり佐々木、出動いたします。」
そこでは泣き出してしまった女性を慰める残りの女性と、困った顔の武田さん。

「武田さん武田さん、如何どうしちゃったのさ一体?」
「いやな、こっちの子があまり俺の顔の事ばかり言うもんだから、ついな。俺なんて容姿だけの引き籠り俺様だし、それに比べほかの参加者は皆社会に出て頑張ってるんだ。他にいい奴がいるのに顔だけ男を褒めるなんておかしいだろってつい。
よくよく考えれば彼女たちの方が数段頑張ってる上に、立派に独り立ちしてるんだ。おこがましい事を言っちまった。悪かったよ。」
頭を掻きながら女性陣に頭を下げる武田さん。
長年培った俺様系わがまま男子を脱却するのって案外大変なんだな~。まぁ、容姿の事ばっかり言われれば他に何も無い奴って言われている様なもんだし、イラっとするのも分かるけど。
でも素直に頭を下げれる武田さんは偉いと思います。
女性の方も男性にどう接すればいいのか分からなくって、テンパっちゃったんだと思うよ。これは仕方がないのかな?


「すみません、今番組収録中ですので関係者以外の方はお入りにならないようお願いいたします。」
「うるせえな、お前なんかに用はねぇんだよ、洋子ー、いるんだろう、出てこいや!わざわざ俺様が来たって言うのにこんな所でお見合いだ!ふざけんな、てめーは俺の嫁だろうが、とっとと出てこいや!」
”ブフォ”
会場入り口で喚き散らす男性、大慌てのスタッフ。これは特級トラブルの発生ですか~!?
洋子さんって言うと十番テーブルの方ですね。なんか震えてるんですけど、大丈夫でしょうか。

「すみません。小川洋子さんですね?あちらの男性とはいったいどう言ったご関係で?」
「すみませんすみません、別れた夫なんです。わがまま放題で碌に働きもしないで、お金の無心ばかりする夫だったんです。こちらが何か言うとすぐ物に当たって暴れて。ずっと我慢していたんですけど、hiroshi君や逃走王、鬼ごっこ同好会の動画を見ていたらそんな自分の方が間違ってる気がしてきて思い切って一年半前に離婚したんです。今は実家のミカン果樹園を手伝ってるんですけど、あのプライドの塊の夫がこんな場所まで追って来るなんて。本当にすみませんでした。」

小川さんの告白に、会場の何人かは身に詰まされる様な顔をしていた。
皆プロフィールに離婚歴がある女性だ。
この世界、働く女性が男性と知り合う事は難しい。離婚した女性はそのハードルがさらに上がる。彼女たちはその現実を身に染みて知っているのだ。

喚き散らす男性に一人の人物が近づいて行った。それはお見合い参加者男性の山田博人さんだった。

「よう、ご機嫌じゃないか。今聞いたよ、あんたも嫁に逃げられたんだってな。俺と同じかよ、他にもいたんだなそんな奴。」
山田さんは苦笑いを浮かべながらなおも話し掛ける。

「アンタもあれだろ、”なんで俺様が嫁に逃げられなけらならない、俺が捨てる事があっても俺を捨てるなんてふざけるな!”って考える口だろ?なんで離婚されなきゃいけないんだって理由なんか分からないんだよな。俺もそうだったし、正直今も分かってるとは言い難いんだけどな。
本当に何がいけなかったんだか。多分相手の口から聞いても納得なんか一生出来ないんじゃないか?俺たちってのはそんな存在なんだと思うぞ。
俺がわざわざテレビ番組のお見合いに参加したのだって、俺を捨てた嫁たちを見返したかったからだしな。こころざし低いだろ?俺。
アンタがこの会場に乗り込んだのも自分を差し置いて新しい相手を見つけようとするってのが気に入らなかっただけなんだよな。分かるわその気持ち。
やっぱ俺たち最低だよな。」
「ち、違う。俺はお前みたいな底辺なんかじゃないぞ。ただちょっと嫁に話があっただけだ。」
「おいおいおい、お前さんもう離婚してるんだろ?離婚届出された時鼻で笑って好きにしろとか言ったんじゃないのか?どうせ後から泣き付いて来るだろうってたかを括って。俺がそうだったからな。
本当に思考や行動が一緒なんだよな、俺たちみたいな奴って。笑っちゃうだろ?
もういいじゃないか、ほっとけよ。
俺たちみたいな他人に縋らないと自信が持てない奴なんて社会の片隅でひっそり生きるのがお似合いなんだって。」
「ば、馬鹿野郎、お前みたいなクズと俺を一緒にするな!俺は一人だって立派に生きてるし生きていけるぞ!」
力拳を握り叫ぶ侵入者。山田さんはそんな彼を羨ましそうな目で見詰める。

「お前は強いな。お前なら俺と違って新しい人生を進む事が出来るかもな。」

「ふん、言われるまでもない。洋子!お前はこの田舎で一生くすぶってるがいい、俺は俺の人生を生きる、あばよ!」
踵を返し去っていく不審者。肩をすくめ会場に戻る山田さん。

「のっぺりさん、同類がお騒がせして申し訳ない。お見合いを再開しようか?」
苦笑いを浮かべる山田さん、超格好いい~!

「「「山田さ~ん!」」」
思わず抱き着く俺を含めた参加者面々。
惚れてまうやろ~~~~!
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