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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー
第296話 楽しいことは良い事です (3) (side:植松咲子)
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”行け~、まくれまくれ~!そこだ~!”
”馬鹿そこは躱すんだよ、強引に逃げても捕まるだけだぞ!”
遠くから聞こえる声援と喧騒。香る緑茶のいい匂い。
段々と意識がはっきりして来る。ここは確かのっぺり佐々木氏のお宅。
私はいったい何を・・・。
「目覚められたようですね。お二人ともまずはこちらのお茶を飲まれて、一旦気を落ち着かせてはいかがですか?」
メイドに促されるまま湯呑のお茶をいただく。熱くもなく温くもない、丁度飲み頃の渋めのお茶。
やがて頭が動き出す、そうだ私たちはのっぺり氏に”カップルさん、いらっしゃ~い”の番組収録について相談に来ていたんだった。
「お、目が覚めたみたいですね。渋いお茶って行けるでしょ、何か疲れまでスッキリ取れる気がしません?」
のっぺり氏はいつもの飄々とした口調でこちらに笑い掛けてきた。
「いや~、本当にすみません。一気に話を進め過ぎたみたいで、思考が追い付かなくなると人間って本当に止まっちゃうんですね、びっくりしました。
俺が話した話の内容って覚えてます?まぁ、概要でも覚えてれば御の字なんですが、一応ボイスメモを録っておいたんで、今植松さんのスマホに送りますね。
内容は後で確認しておいてください。それでこれは植松さんに一度持ち込もうと思っていた企画なんですけど、ちょうどいい機会何で見て貰ってもいいですか?」
のっぺり氏は私たちをリビングの大型モニターの前に案内した。
そこに映し出されていたのは鬼ごっこ同好会のヨウツーベ動画映像。
「鬼ごっこ同好会の投稿動画ですでに紹介されているんでご存じかも知れませんが、これ”One On One”ってルールの一対一で行う鬼ごっこです。今映ってるのは三分耐久交代制五ラウンド勝負ですね、三分でも全力で走るとかなりきついですよ。
障害物の設置次第で戦略も違ってくるし、工夫の要素は多いと思うんですよね。
他にも前に話した捕縛王、これも名前をキャッチ・ミーにして番組で最強の逃げ子を用意すれば参加型企画で行けるんじゃないかと。個人参加じゃなく五人から六人のグループ参加なら、かなりの数を回せると思うんですよ。
個人じゃなく団体競技にするところがポイントですね、逃走王との差別化が図れますし、競技の一ジャンルとして確立する可能性が出てきますから。
こういったのって植松さん得意でしょ、ぜひやってみてくれませんか?」
私は思わず開いた口が塞がらなかった。彼は諦めていなかったのだ。逃走王を乗っ取られ、締め出され、くだらないアイドル紹介番組に貶められても。彼はずっと機会を待っていたのだ。
しかもより工夫し大衆に受け入れられる新たな競技に進化させて。
”はいこれ”と気軽に渡された番組企画資料。そこには”One On One”のルール、時間制限の違いでの体感の違い、投稿動画の反応やコメントなど事細かにまとめられていた。
「キャッチ・ミーの方はまだ具体案が固まってなくって、試しにやってみた動画がこちらになります。」
それは迫力の映像だった。限られた空間を走る走る。まるで後ろにも目があるかのように避け続ける逃げ子、空間全体を把握しクロスプレーでも決してぶつからない彼ら。
「逃げ子の方は現役引退した三年生、追い子は新部長をはじめとした二年生で五対五でやったバージョンですね。一般の場合、障害は大きな三角コーンを用意したりして、安全に配慮して行うのがいいんじゃないですか?これを真似したら大怪我しちゃいますからね。」
彼はすでに一本の番組迄作り上げていた。これを番組企画としてやってみませんかと言った。
私は逃走王を守れなかった女だ、そんな私にもう一度チャンスをくれるというのか?
「植松さん、俺たちに熱い戦いを教えてくれたのは貴女なんですよ。お願いです、もう一度戦う舞台を用意してください。」
深々と頭を下げる佐々木君。浅田社長と目が合う、彼女は無言で頷いた。
「分かりましたなのです。私植松咲子、必ずやこの企画を通してみせるのでありますよ。そしてまたいつか、熱い戦いを用意してみせるのであります。」
がっしりと固い握手を交わす佐々木君と私。
仕事がまた増えてしまったけど、心はこれまでになく晴れやかになるのでした。
”馬鹿そこは躱すんだよ、強引に逃げても捕まるだけだぞ!”
遠くから聞こえる声援と喧騒。香る緑茶のいい匂い。
段々と意識がはっきりして来る。ここは確かのっぺり佐々木氏のお宅。
私はいったい何を・・・。
「目覚められたようですね。お二人ともまずはこちらのお茶を飲まれて、一旦気を落ち着かせてはいかがですか?」
メイドに促されるまま湯呑のお茶をいただく。熱くもなく温くもない、丁度飲み頃の渋めのお茶。
やがて頭が動き出す、そうだ私たちはのっぺり氏に”カップルさん、いらっしゃ~い”の番組収録について相談に来ていたんだった。
「お、目が覚めたみたいですね。渋いお茶って行けるでしょ、何か疲れまでスッキリ取れる気がしません?」
のっぺり氏はいつもの飄々とした口調でこちらに笑い掛けてきた。
「いや~、本当にすみません。一気に話を進め過ぎたみたいで、思考が追い付かなくなると人間って本当に止まっちゃうんですね、びっくりしました。
俺が話した話の内容って覚えてます?まぁ、概要でも覚えてれば御の字なんですが、一応ボイスメモを録っておいたんで、今植松さんのスマホに送りますね。
内容は後で確認しておいてください。それでこれは植松さんに一度持ち込もうと思っていた企画なんですけど、ちょうどいい機会何で見て貰ってもいいですか?」
のっぺり氏は私たちをリビングの大型モニターの前に案内した。
そこに映し出されていたのは鬼ごっこ同好会のヨウツーベ動画映像。
「鬼ごっこ同好会の投稿動画ですでに紹介されているんでご存じかも知れませんが、これ”One On One”ってルールの一対一で行う鬼ごっこです。今映ってるのは三分耐久交代制五ラウンド勝負ですね、三分でも全力で走るとかなりきついですよ。
障害物の設置次第で戦略も違ってくるし、工夫の要素は多いと思うんですよね。
他にも前に話した捕縛王、これも名前をキャッチ・ミーにして番組で最強の逃げ子を用意すれば参加型企画で行けるんじゃないかと。個人参加じゃなく五人から六人のグループ参加なら、かなりの数を回せると思うんですよ。
個人じゃなく団体競技にするところがポイントですね、逃走王との差別化が図れますし、競技の一ジャンルとして確立する可能性が出てきますから。
こういったのって植松さん得意でしょ、ぜひやってみてくれませんか?」
私は思わず開いた口が塞がらなかった。彼は諦めていなかったのだ。逃走王を乗っ取られ、締め出され、くだらないアイドル紹介番組に貶められても。彼はずっと機会を待っていたのだ。
しかもより工夫し大衆に受け入れられる新たな競技に進化させて。
”はいこれ”と気軽に渡された番組企画資料。そこには”One On One”のルール、時間制限の違いでの体感の違い、投稿動画の反応やコメントなど事細かにまとめられていた。
「キャッチ・ミーの方はまだ具体案が固まってなくって、試しにやってみた動画がこちらになります。」
それは迫力の映像だった。限られた空間を走る走る。まるで後ろにも目があるかのように避け続ける逃げ子、空間全体を把握しクロスプレーでも決してぶつからない彼ら。
「逃げ子の方は現役引退した三年生、追い子は新部長をはじめとした二年生で五対五でやったバージョンですね。一般の場合、障害は大きな三角コーンを用意したりして、安全に配慮して行うのがいいんじゃないですか?これを真似したら大怪我しちゃいますからね。」
彼はすでに一本の番組迄作り上げていた。これを番組企画としてやってみませんかと言った。
私は逃走王を守れなかった女だ、そんな私にもう一度チャンスをくれるというのか?
「植松さん、俺たちに熱い戦いを教えてくれたのは貴女なんですよ。お願いです、もう一度戦う舞台を用意してください。」
深々と頭を下げる佐々木君。浅田社長と目が合う、彼女は無言で頷いた。
「分かりましたなのです。私植松咲子、必ずやこの企画を通してみせるのでありますよ。そしてまたいつか、熱い戦いを用意してみせるのであります。」
がっしりと固い握手を交わす佐々木君と私。
仕事がまた増えてしまったけど、心はこれまでになく晴れやかになるのでした。
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