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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー
第292話 陰の王はひっそりと
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季節の移り変わりは早い、木々の彩も赤や黄色の秋模様から枯葉色の冬模様へ変わりつつある。
この窓から見る景色ももうすぐ終わりを迎える。中庭には楽しげに談笑しながら歩く男子生徒と女子生徒。男女比の違いから女性が周りを囲むのは仕方が無いが、決してこれまでの様に男子が女子を見下す様な事はなく、お互い和やかに会話を楽しんでいる。
女子生徒がグループを組んでおしゃべりに花を咲かせている所もある。聞こえてくる単語は”hiroshi"君に関する話題、彼の人気は衰える事を知らない。だがこれまでと違うのは、決して狂気的に彼を求めてはいないという所だろう。アーティスト”hiroshi"の一ファンとして彼を応援する姿には健気な乙女心が垣間見える。
”コトリ”
テーブルに置かれたカップから漂うコーヒーの豊かな香り。ミルクはすでに注がれており、クルクルと渦を描いている。角砂糖を一つ入れ、スプーンでかき混ぜる。
一口含んだ瞬間に口腔に広がる甘く滑らかな舌触り。後輩の松前に言われ始めた飲み方だが、これはこれで悪くない。
砂糖の甘さが脳をリフレッシュしてくれているのだろうか。
「如月さんはこの後どうするつもり?」
僕は背後に控える如月志乃にそう尋ねる。
彼女との出会いも唐突であった。一年生の入学当初、僕はひろし君が与える学園への影響に戦々恐々としていた。正直怖かったのだ。幼稚園、小学校と長年彼の影響を受け続けた自分。頼れる親友はもういない、己の環境は己で掴み取るしかない。
肩肘を張っていた、粋がっていた。今思えばキャンキャン吠える仔犬の様なもんだった。小学校から上がったばかりの子供が何を偉そうに、よく周りの大人が動いてくれたものだと今更ながらに恥ずかしくなる。
そんな中で与えられた一つの部屋、そこにいつの間にかいたのが彼女だった。素性も不明、目的も不明。言う事と言えば“仕えさせて欲しい。”の一言だけ。
正直訳が分からなかった。
当時の僕にとって彼女の存在は恐怖でしかなかった。だって気が付くとそこにいるんだから。
しかし人間とは慣れる生き物だ。如月さんの存在も次第にそんなものかと思える様になっていった。
だが他の問題は違った、僕は理想主義だったのだ、完璧を求めすぎたのだ。上手く行かないあれこれに僕の心は徐々に摩耗していった。そして壊れた。
一年生の秋の事だった。
親友に縋ったあの無茶振り、あの時点で僕は限界を迎えてしまった。
それからの僕はただゆっくり自身の回復を行う精神患者だった。二年生の時親友から聞いた最悪の未来予想図に多少動いた事はあったが、あれは本当に少し手を出しただけ。それでもかなりのストレスではあったが、壊れるような事にはならなかった。すべてはこの彼女のお陰だ。僕に代わりこまごまと動いてくれる彼女がいたからこそ出来た事、僕一人ならまたおかしくなっていたかもしれない。
彼女は初めに言っていた。
”これからあなた様にお仕えする事をお許しください、我が君。”
彼女には僕に仕えなければならないナニカがあったのだろう。
この三年間僕は彼女の期待に応えられたのだろうか。
いつか彼女は僕の事をこう評していた。”陰の王”と。
僕は彼女の言う”陰の王”足りえていたのだろうか。
テーブルにコーヒーのカップを置き、じっと彼女を見詰める。
僕は尾崎秀悟先輩の様に己が全ての自信家ではない。
ひろし君の様に遍くすべての女性を照らす絶対的な光でもない。
ちょっと小賢しいだけのただの高木康太なのだ。
「もう一度聞くね。如月さん、君はこれからどうするの?」
この窓から見る景色ももうすぐ終わりを迎える。中庭には楽しげに談笑しながら歩く男子生徒と女子生徒。男女比の違いから女性が周りを囲むのは仕方が無いが、決してこれまでの様に男子が女子を見下す様な事はなく、お互い和やかに会話を楽しんでいる。
女子生徒がグループを組んでおしゃべりに花を咲かせている所もある。聞こえてくる単語は”hiroshi"君に関する話題、彼の人気は衰える事を知らない。だがこれまでと違うのは、決して狂気的に彼を求めてはいないという所だろう。アーティスト”hiroshi"の一ファンとして彼を応援する姿には健気な乙女心が垣間見える。
”コトリ”
テーブルに置かれたカップから漂うコーヒーの豊かな香り。ミルクはすでに注がれており、クルクルと渦を描いている。角砂糖を一つ入れ、スプーンでかき混ぜる。
一口含んだ瞬間に口腔に広がる甘く滑らかな舌触り。後輩の松前に言われ始めた飲み方だが、これはこれで悪くない。
砂糖の甘さが脳をリフレッシュしてくれているのだろうか。
「如月さんはこの後どうするつもり?」
僕は背後に控える如月志乃にそう尋ねる。
彼女との出会いも唐突であった。一年生の入学当初、僕はひろし君が与える学園への影響に戦々恐々としていた。正直怖かったのだ。幼稚園、小学校と長年彼の影響を受け続けた自分。頼れる親友はもういない、己の環境は己で掴み取るしかない。
肩肘を張っていた、粋がっていた。今思えばキャンキャン吠える仔犬の様なもんだった。小学校から上がったばかりの子供が何を偉そうに、よく周りの大人が動いてくれたものだと今更ながらに恥ずかしくなる。
そんな中で与えられた一つの部屋、そこにいつの間にかいたのが彼女だった。素性も不明、目的も不明。言う事と言えば“仕えさせて欲しい。”の一言だけ。
正直訳が分からなかった。
当時の僕にとって彼女の存在は恐怖でしかなかった。だって気が付くとそこにいるんだから。
しかし人間とは慣れる生き物だ。如月さんの存在も次第にそんなものかと思える様になっていった。
だが他の問題は違った、僕は理想主義だったのだ、完璧を求めすぎたのだ。上手く行かないあれこれに僕の心は徐々に摩耗していった。そして壊れた。
一年生の秋の事だった。
親友に縋ったあの無茶振り、あの時点で僕は限界を迎えてしまった。
それからの僕はただゆっくり自身の回復を行う精神患者だった。二年生の時親友から聞いた最悪の未来予想図に多少動いた事はあったが、あれは本当に少し手を出しただけ。それでもかなりのストレスではあったが、壊れるような事にはならなかった。すべてはこの彼女のお陰だ。僕に代わりこまごまと動いてくれる彼女がいたからこそ出来た事、僕一人ならまたおかしくなっていたかもしれない。
彼女は初めに言っていた。
”これからあなた様にお仕えする事をお許しください、我が君。”
彼女には僕に仕えなければならないナニカがあったのだろう。
この三年間僕は彼女の期待に応えられたのだろうか。
いつか彼女は僕の事をこう評していた。”陰の王”と。
僕は彼女の言う”陰の王”足りえていたのだろうか。
テーブルにコーヒーのカップを置き、じっと彼女を見詰める。
僕は尾崎秀悟先輩の様に己が全ての自信家ではない。
ひろし君の様に遍くすべての女性を照らす絶対的な光でもない。
ちょっと小賢しいだけのただの高木康太なのだ。
「もう一度聞くね。如月さん、君はこれからどうするの?」
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