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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第276話 夏の合宿は女の戦場 (2)

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お前たちスコップは持ったか?

「「「はい!」」」

帽子はちゃんと被れよ、熱中症はシャレにならんからな。具合が悪かったら作業途中でもちゃんと申告する事、水分と塩分の摂取は欠かすなよ。それじゃ出発。

今年は昨年好評だった凸凹フカフカ砂浜ダッシュからスタートです。映像研究会部長の吉田は昨年部長だった三峯先輩ドSと違って常識人。映像の撮り方も迫力のあるアクション系ではなく表情やら人間性を切り抜く様なドキュメンタリーチックなものを好んで作ります。
玄人好みと言うかあまり大衆向けではない気がしなくもないんですが、ヨウツーベのアップはあくまで部活動の一環。当初の目的である不登校生徒問題や部費確保、同好会存続の為の実績作りはすでにこなし終わってるので、うるさく言うつもりはありません。
流石に三年目ともなると他の動画配信者のクオリティーも上がってきているため、以前の様なトップ配信者の先行利益的な売り上げは無くなっていますが、これは最初から分かっていた事。今後ヨウツーベ配信をどうするか、映像の方向性をどうするかは次の世代が考えるべき問題。俺たちは下地を作っておしまい、老兵はただ去るのみなのです。

吉田~、そっちの準備は大丈夫か?
「おう、佐々木。ウチの連中もだいぶ慣れて来てるからな。ヨウツーベ動画の方は任せてくれ。あと映像研究会の各映像大会出品作品の為にそっちの映像を使わせてもらう件、了承撮れたか?」

あぁ、ウチの連中は問題ない。あらかじめ映像コンテンツへの使用は同意書取ってるからな。その辺は抜かりないさ。
じゃあ、今年もよろしく。体調管理だけは気を付けろよ、お前の所の女子、夢中になると我を忘れるから。
「アハハハ、面目もない。水分摂取はこまめに摂らせる事にする。こっちこそよろしく。」

俺たちは互いの拳を打ち鳴らし、海岸沿いの砂浜戦場に向かうのであった。


(side:野口絵実)

「みっちゃんくみちゃん、今日もお疲れ~。」
私は一日の訓練を終え備品の整理を行っている二人に声を掛けた。

「お疲れ絵実ちゃん。佐々木君今日も飛ばしてたね~、まさか初日から全員と砂浜ダッシュ勝負するとは思わなかったよ。どれだけ体力有るんだか。でも不思議なのがあれだけフカフカの砂浜の上を走ってるのに、佐々木君だけ全然砂を飛ばしてないの。
ろくに足跡すら残らないってどうなってるの?
それでいて自己鍛錬とか言ってる時にはしっかり砂を蹴飛ばしてるんだよね、訳分かんない。絵実ちゃん何か知ってる?」

「う~ん、流石に私もあれはよく分かんなかった。佐々木君て時々人間離れすることがあるから、そう言う事もあるのかもって軽く流すことにしてるし。
深く考えたら負けなんだと思うよ、きっと。」

「お~、流石は佐々木君の飼い主。彼の事がよく分かっていらっしゃる。本当に冗談抜きでしっかり手綱を握っておいてね、私たちまだ死にたくないから。」
真剣な顔をして私に懇願する二人。本当に去年の合宿でこの二人に何があったの?

「でも絵実ちゃんもこの合宿で決めに行くんでしょ?」
ん?何の事だろう。私が訝しげな顔をすると呆れたような顔をする二人。

「もう絵実もしっかりしてよ、私たち三年生なんだよ?もう半年もしたら卒業なんだよ?ここで意中の相手をしっかりGETしておかないと、チャンスはいつまでも待ってはくれないんだよ?」
「そうだよ、男子たちはそれぞれどの学校に行くか分からないんだから、しっかりとした関係を築いておかないと。懐かしい青春の思い出なんて言ってたら泣きを見るのはこっちなんだからね。」
二人に言われハッと気付く、もう卒業なんだ。あまりにも騒がしく、あまりにも刺激的で、あまりにも濃厚な日々で。だから勘違いをしていた、思い違いをしてしまっていた、こんな毎日がいつまでも続くだなんて。
佐々木君があまりに飄々としているから、いつもバカやってのっぺりしてるから。
彼は本当は凄い人だって言う事をすっかり忘れてしまっていた。
鬼ごっこ同好会を立ち上げて、不登校をなくして、モデルをやって、ドラマにも出て、作曲家で、自身も芸能人で。
私は何にもない、でも彼の傍にいたい、彼の傍にいるって決めたじゃないか。

女野口絵実、この夏、本気見せます獲りに行きます
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