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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第249話 蠢くモノたち (4)

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「のっぺりどうした、なんか元気ない。」

あ、月子さんですか、来てたんですね。今お茶を入れますね。

「いい、私がやる。のっぺりはそこで休んでいると良い。美味しいコーヒーを淹れてあげよう。」
月子さんはそう言うと、キッチンのコーヒーメーカーにコーヒー豆をセットしスイッチを入れた。

「で、どうした。のっぺりが元気ないのは稀。お姉さんに話すといい。」
月子さんはコーヒーが出来るまで俺の話を聞いてくれるらしい。コーヒーメーカーからはコーヒー豆を挽く音が響いている。

「いえね、俺昨日までフロンティア連合国にモデルの仕事で行ってたんですよ。そこで大々的に”Noir”の宣伝をすることになりましてね、あ、”Noir”って言うのは俺のもう一つのモデル名なんですけど、まぁ、ショーに参加してきた訳ですよ。
そこビックバレー国立公園って言う場所なんですけどね、そこの動物園に舞台を設置しての大々的なショーでして、前日は併設されたホテルでパーティーを開いたりってかなり盛り上がってたんですよ。」
俺はそこで一旦話を切ると、抱えていたぬいぐるみをギュッと抱きしめた。

「ショーの途中までは良かったんですよ、会場も盛り上がって"Noir"の御披露目も無事に行えましたし。問題はその後だったんですよ。」

"ピピピピッ"
コーヒーメーカーから鳴る完了のサイン。月子さんはサーバーからカップにコーヒーを注ぎ淹れる。
部屋いっぱいに広がる香ばしい匂い。
俺は差し出されたカップを受け取り口を付けた。

「最後のランウェイ、途中興奮して舞台に上がって来ちゃう観客なんかもいたんですが、そこはね、これでも逃走王ですから、上手い事捌いたんですよ。でもその時動物園で事件が起きまして。
動物の大脱走です。それも全部の気配がファッションショー会場を目指した不自然極まりない。
舞台に飛び込んで来た虎を見て分かりました。血走った目、流れ出る涎、薬が使われてるって。
動物を使った大規模テロだったんですよ。
幸い会場に侵入した虎は被害者を出す前に警備の人に射殺されたんですけどね。
この虎、ビックボスの愛称で親しまれた人気者だったんですよ。
俺も前日にホテルでぬいぐるみを買いましたから。」
愛おしそうにぬいぐるみを撫でる。その首元にはBig Boss と刻まれたネームプレートが下がっていた。

「俺、凄く悲しかったんですよ。利用され死んでいった動物たち、巻き込まれ恐怖のどん底に叩き落された人々、操られこんな事をしてしまった人たち。
色んなものに縛られ、身動きが出来ず、雁字搦めのこの世界。
俺、こんな奴だからしばらくしたらケロッとしてるとは思うんですけど、せめて今だけはそんな彼らに思いを向けておこうかなって。」

月子は何も言わない。自ら淹れたコーヒーを持ち、彼の隣にそっと寄り添う。
そこにはただ穏やかな時間だけが流れるのであった。


(side:??)

「被害の状況は」

”は、会場において監視を行っていた者、遠隔をもって監視していた全ての者からその異能が無くなっている事が確認されました。また施された術式も消失しており、新たに術を組もうにも付与術師からその力が失われています。我々教会の全施設から地脈・聖域・龍脈とのアクセスが完全に絶たれ、封印されし怪異がすべて解き放たれたとの報告が上がっております。
結果、これら異能を利用した通信手段、隠蔽手段、防衛攻撃手段の全てが復旧不可能となっています。”

「一体何が起きたというのですか、引き続き情報の収集・分析、解決策の検討を行いなさい。」

”Noir”の排除作戦を決行してから二日、未だ実行部隊及び異端審問官からの報告は上がって来ません。会場となったビックバレー国立公園内での動物脱走騒動は終息したとの報道が流れる一方、モデル”Noir”の行方は未だ掴めぬまま。
なぜこうも思い通りに行かないのです。

”ガランゴン~、ガランゴン~、ガランゴン~“
これは教会の鐘の音、しかも教皇の崩御を知らせる物ではないですか!?
一体誰がこのような事を!
私は急ぎ大聖堂へと向かいました。

荘厳な扉を開け中へ入ると天井から垂れる赤き布、これは教皇及び法王の崩御の時にしか使用しない装飾。正面祭壇には横たわり両の手を組む人物、あれは私?

「教皇様、お待ちしておりました。フロンティア連合国へ派遣されておりました異端審問官Bでございます。」
異端審問官、彼らはその性質上全員が名前を剝奪され、コードネームが与えられます。またその魂は厳重に制約がなされ、決して協会に逆らえない様になっているのですが、その異端審問官がなぜ?

「教皇様、今回私は残念なお知らせをお伝えしなければなりません。この世界はすでに彼の者によって汚染されてしまいました。ここはもう美しい世界ではなくなってしまったのです。」
朗々と歌い上げるようにその事を伝えるB。
よく見れば聖堂の長いすには多くの配下が座っています。皆裏の仕事や裏工作に従事する者、教会の要職について私のために働く者たちです。

「ですから私は教皇様を美しい世界へと御送りせねばなりません。
ご安心ください、旅路には多くの仲間が付いています。決して寂しい事はありません。」
祭壇が暗い闇に包まれる。そこにはまるで空間に穴が開いたかの様に巨大なトンネルが見える。

「さあ、参りましょう、新たなる世界フロンティアへ。」
立ち上がり動き出す配下。彼らから延びる手は私を掴んで離さない。

「や、止めろ、止めるのです!私は教皇です、私を離しなさい!離せ~!止めろ~!」

”ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ”

集団がゆっくりと暗闇の中へと消えていく。
その光景を見守る黒いベールを掛けた喪服姿の貴婦人。
「御久しぶりでございます、公爵夫人。」

ゆっくりと振り返る貴婦人、その背後には一人のメイドが立っていた。
「あら、本当に久しぶりね、ノエル。あなたも解放されていたのね。」
「はい、つい先だって。今回は先を越されてしまったようでございますね。」

二人は再び闇を見詰める。
「彼らは色々やり過ぎていたから。世界の歪みは多くの澱みを産むわ、これは必然ね。」
「ではわたくしはここで、他にも片付けねばならない仕事がありますので。」
「そぉ?歪みの周りには澱みがあるのよ、あなたの仕事が残っているかしら?」
「物事の確認はメイドの嗜みで御座います。」
そう言い残し暗闇の中に消えてゆくメイド。

「私はどうしようかしら?暫く世界を見て歩くのも一興ね♪」

この日、多くの怪異が世に解き放たれた。
これまでのツケが、身勝手な者たちへと襲い掛かる。
世界は今、その揺り戻しの中にある。
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