239 / 525
第二章 中二病には罹りません ー中学校ー
第237話 雪山ラプソディー (4)
しおりを挟む
数メートル先もハッキリとしない猛吹雪、まるで白い天幕に覆われ自分だけが隔離されて仕舞った様な感覚。ホワイトアウトとは良く言ったものだ。視界が白一色で、距離感がまるで分からない。
そんな危険極まりない野外に連れ出されたのは誰か?はい、私お茶の間の箸休め、のっぺり佐々木で御座います。
緊急事態であるのにも拘らず、山姫さんはこののっぺりに何の用なんでしょうか?先程から悪い予感が止まりません。 連れて来られた先にあるのはスノーモービル?後方には二台のソリが連結されています。
「なぁ少年、あの山で滝行をやってるって事は、もう気配は読める様になったんだよね?」
山姫さんの言っている事は増山のおっちゃんが話していた感覚の事だろうか。
「メイドのお嬢さんが言うにはかなり広範囲で気配を飛ばす事も出来るそうじゃないか。
私も出来るには出来るんだけど、規模が大きいのと大雑把でね。大体の方向性は分かるんだけど、ピンポイントの特定が苦手で。
普段は代わりのモノが捜索を担当するんだけど生憎今回はいなくてね。少年に代わりを頼みたい。」
えぇ~、行き成り言われてもそんな事出来る訳・・・うん、なんか出来そう。
「とりあえずの方向は、ロッジから見て左側かな。」
俺は山姫さんが指差す方向を向きゆっくりと目を閉じた。
あ、本当に何かいる。
「見つけた様ね、現場に近づいたら指示をお願い。運転は任せてちょうだい、ここの地形は完璧に把握してるから。目隠ししたって山頂まで行けるわよ?」
俺たちは白い闇の中をただひたすら駆け抜けた。山姫さんはその言葉通り、完全にコースを把握しているようだった。
「少年、本当に気配はこの辺なのね?
そうするとコースアウトした可能性が大ね。
もう一度、細かく探って見てくれる?」
俺はゴーグルを外し、目を閉じる。
焦る心を沈めただただ周囲と一体化する。
全ての音が消える。吹雪の音も、木々の間から聞こえる風鳴りも、スノーモービルのエンジン音も。
ここは舞台、俺はそこに立つ一人のモデル。
"ミツケタ"
自然と身体が動く。
雪山だと言うのに雪に沈む事もなく、優雅に進める歩み。
地形の把握、重心の掛け方、身体の使い方。
鬼ごっこで鍛えてきた、モデルとして培ってきた。
その全てが融合し昇華する。
"ふわっ"
舞い降りる。
彼はそうとしか表現が出来ない程、優しく優雅に三人の遭難者の元に現れた。
こちらを見て何か呟くビックジョー。救助が来た事でこれ迄の緊張の糸が切れたのだろう、彼は意識を手放してしまった。側に寄り添う女性二名も同様にゆっくりと倒れ込むのだった。
「"要救助者三名発見。発見時には意識があったが、現在意識不明。一名は右足に負傷が診られる模様、搬送準備頼む。此れよりそちらに移送する。"」
"了解。こちらの準備は完了している。順次移送されたし。"
「"了解。連絡を終わる。"」
「ビックジョー、良く頑張ったな。お前は大した漢だよ。」
俺は両手で彼を抱き上げると、やりきった顔の男にそっと語り掛けるのであった。
(side : 大塚丈一郎)
「う、う~ん。」
ゆっくりと目を開く。徐々に覚醒していく意識、ここは一体…。
「あ、目が覚めたんだ。」
声のする方へ顔を向けると柔らかな髪を靡かせた一人の天使。
「やはり俺は死んだのか・・・。」
短かったが悪くない人生だった。悔やまれるのはあの二人を助ける事が出来なかった事。
「渡辺真由美、お前も死んでしまったんだな。助ける事が出来なくて悪かった。」
俺は目の前の天使に深く頭を下げるのだった。
「何言ってるのよ、助かったの。私たちみんな救助されたの、ここは病院よ。何、あなた未だ寝惚けてるの?」
「いや、だってお前は天使になって、だってそんなに綺麗になって…。」
「ば、馬鹿、何言っちゃってんのよ。それより足の方はどうなのよ、痛んだりしてないかしら?」
顔を朱に染めながら聞いてくる彼女。
そう言えば確か右足を骨折してたはず、俺は布団を剥いで右足を確認する。その足は骨折のため大きく腫れ上がって…いない?包帯は巻かれているが足はスラッとしたままだ。無理に動かさない限り痛みも無いだろう。
それに身体に全く疲れが溜まっていない。
一体どうしたというのか?
「もしかして貴方も?私も以前傷めて可動域が狭くなっていた肩が、スムーズに回るようになってるのよね。」
そう言えば彼女は舞台裏で肩を痛めた事があったはず。その肩をぐるぐる回す彼女に目を見開く俺。
じゃあ、俺が見たあの天使は本当の事だったってのかよ。
「それより貴方に伝えたい事があったの。私を助けに来てくれてありがとう。」
"チュッ"
言うや否や頬に軽い口づけをする彼女。
え?いや、その、えぇ~!?
"バンッ"
突然開かれる扉、
「大塚さ~ん、心配じだんでずじょ~!」
そこには涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした木島由香が立っていた。
「待て、待つんだ木島さん、取り敢えずタオルで顔を拭こう。」
「大塚ざ~ん。」
「うゎ~!待ってくれ、渡辺部長~、どうにかしてくれー!」
「あっはははははっ。」
そこには無事生還したことを喜び会う若者たちの姿があった。
そんな危険極まりない野外に連れ出されたのは誰か?はい、私お茶の間の箸休め、のっぺり佐々木で御座います。
緊急事態であるのにも拘らず、山姫さんはこののっぺりに何の用なんでしょうか?先程から悪い予感が止まりません。 連れて来られた先にあるのはスノーモービル?後方には二台のソリが連結されています。
「なぁ少年、あの山で滝行をやってるって事は、もう気配は読める様になったんだよね?」
山姫さんの言っている事は増山のおっちゃんが話していた感覚の事だろうか。
「メイドのお嬢さんが言うにはかなり広範囲で気配を飛ばす事も出来るそうじゃないか。
私も出来るには出来るんだけど、規模が大きいのと大雑把でね。大体の方向性は分かるんだけど、ピンポイントの特定が苦手で。
普段は代わりのモノが捜索を担当するんだけど生憎今回はいなくてね。少年に代わりを頼みたい。」
えぇ~、行き成り言われてもそんな事出来る訳・・・うん、なんか出来そう。
「とりあえずの方向は、ロッジから見て左側かな。」
俺は山姫さんが指差す方向を向きゆっくりと目を閉じた。
あ、本当に何かいる。
「見つけた様ね、現場に近づいたら指示をお願い。運転は任せてちょうだい、ここの地形は完璧に把握してるから。目隠ししたって山頂まで行けるわよ?」
俺たちは白い闇の中をただひたすら駆け抜けた。山姫さんはその言葉通り、完全にコースを把握しているようだった。
「少年、本当に気配はこの辺なのね?
そうするとコースアウトした可能性が大ね。
もう一度、細かく探って見てくれる?」
俺はゴーグルを外し、目を閉じる。
焦る心を沈めただただ周囲と一体化する。
全ての音が消える。吹雪の音も、木々の間から聞こえる風鳴りも、スノーモービルのエンジン音も。
ここは舞台、俺はそこに立つ一人のモデル。
"ミツケタ"
自然と身体が動く。
雪山だと言うのに雪に沈む事もなく、優雅に進める歩み。
地形の把握、重心の掛け方、身体の使い方。
鬼ごっこで鍛えてきた、モデルとして培ってきた。
その全てが融合し昇華する。
"ふわっ"
舞い降りる。
彼はそうとしか表現が出来ない程、優しく優雅に三人の遭難者の元に現れた。
こちらを見て何か呟くビックジョー。救助が来た事でこれ迄の緊張の糸が切れたのだろう、彼は意識を手放してしまった。側に寄り添う女性二名も同様にゆっくりと倒れ込むのだった。
「"要救助者三名発見。発見時には意識があったが、現在意識不明。一名は右足に負傷が診られる模様、搬送準備頼む。此れよりそちらに移送する。"」
"了解。こちらの準備は完了している。順次移送されたし。"
「"了解。連絡を終わる。"」
「ビックジョー、良く頑張ったな。お前は大した漢だよ。」
俺は両手で彼を抱き上げると、やりきった顔の男にそっと語り掛けるのであった。
(side : 大塚丈一郎)
「う、う~ん。」
ゆっくりと目を開く。徐々に覚醒していく意識、ここは一体…。
「あ、目が覚めたんだ。」
声のする方へ顔を向けると柔らかな髪を靡かせた一人の天使。
「やはり俺は死んだのか・・・。」
短かったが悪くない人生だった。悔やまれるのはあの二人を助ける事が出来なかった事。
「渡辺真由美、お前も死んでしまったんだな。助ける事が出来なくて悪かった。」
俺は目の前の天使に深く頭を下げるのだった。
「何言ってるのよ、助かったの。私たちみんな救助されたの、ここは病院よ。何、あなた未だ寝惚けてるの?」
「いや、だってお前は天使になって、だってそんなに綺麗になって…。」
「ば、馬鹿、何言っちゃってんのよ。それより足の方はどうなのよ、痛んだりしてないかしら?」
顔を朱に染めながら聞いてくる彼女。
そう言えば確か右足を骨折してたはず、俺は布団を剥いで右足を確認する。その足は骨折のため大きく腫れ上がって…いない?包帯は巻かれているが足はスラッとしたままだ。無理に動かさない限り痛みも無いだろう。
それに身体に全く疲れが溜まっていない。
一体どうしたというのか?
「もしかして貴方も?私も以前傷めて可動域が狭くなっていた肩が、スムーズに回るようになってるのよね。」
そう言えば彼女は舞台裏で肩を痛めた事があったはず。その肩をぐるぐる回す彼女に目を見開く俺。
じゃあ、俺が見たあの天使は本当の事だったってのかよ。
「それより貴方に伝えたい事があったの。私を助けに来てくれてありがとう。」
"チュッ"
言うや否や頬に軽い口づけをする彼女。
え?いや、その、えぇ~!?
"バンッ"
突然開かれる扉、
「大塚さ~ん、心配じだんでずじょ~!」
そこには涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした木島由香が立っていた。
「待て、待つんだ木島さん、取り敢えずタオルで顔を拭こう。」
「大塚ざ~ん。」
「うゎ~!待ってくれ、渡辺部長~、どうにかしてくれー!」
「あっはははははっ。」
そこには無事生還したことを喜び会う若者たちの姿があった。
1
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる