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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー
第236話 雪山ラプソディー (3) (side : 大塚丈一郎)
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吹き付ける雪、止まぬ風、天候は最悪。
折れたであろう右足、要救助者二名、彼女たちが無事なのが唯一の救いか。
俺は大木脇に簡易的に作った塹壕に身を寄せ、これまでの事を思い起していた。
それは俺がスキーの初心者講習を行っている時の事だった。
「先生、慌てている様ですがどうしたんですか?」
「あぁ、大塚生徒会長。先ほどスキー場の監視員の方から、この辺の天候が荒れそうだから至急生徒をロッジに戻して欲しいと連絡があったの。インストラクターの方々も各コースを回って警告してくれている様なんだけど生徒の何名かが未だ戻っていなくて。」
先生は参加者名簿にチェックを入れ、生徒一人一人の安否を確認しているところだと言っていた。
「先生、それなら俺も周辺を確認してみます。見つけ次第、ロッジに戻る様促せばいいんですね?」
「それじゃ、お願い出来る?初心者講習の生徒は先生の方で誘導しておくわ。」
俺は急ぎリフト乗り場に向かい、生徒が行きそうなコースを見回る事にした。
「おーい、そこの女子、これから天候が荒れる予報が出てる。急いでロッジに戻るんだ!」
「「は~い、大塚生徒会長分かりました~♪」」
これで粗方回ったか?
空を見ればさっきより雲が厚くなっている。そろそろ俺も戻らないと不味いな。
"ダレカ…"
ん!?
今何か声が聞こえてた様な。
"ダレカ…"
!?確かに聞こえた。こっちだと、くそ、コースアウトして斜面に落ちたのか。
「おーい、今行くぞー。怪我はないかー!」
"は~い、怪我は大丈夫ですけど体勢が。身動きが出来なくて。助けて下さい~!"
ふ~、それなら俺一人でも何とかなるか。
その心の隙が不味かったのだろうか。
「イヤー、誰か止めてー!そこ危な~!」
「な、ちょっと待って」
"ドカッ"
「「うゎー!」」
"ガッ、ドサッ、ゴッ、ゴキッ"
「うぅ~ん、酷い目にあったわ~。あの~、大丈夫ですか?」
「ウグッ、本当に勘弁してくれ。それよりまずは俺の上から退いてくれないか。」
「あ、ごめんなさい、すぐに退きますね。」
"アガッ!"
「えっ?だ、大丈夫ですか、ど、何処か痛いんですか?」
「あ、足が、くそ、悪いがスキー板を外してくれ。恐らく折れている。」
「あ、えー、それって大事じゃないですか!どっどうしたら、そっそうだ救急車、救急車呼びましょう。あの、スマホスマホ。」
「だから落ち着け!
それと悪いがその辺に身動きの取れなくなった女子生徒がいるはずだ。助けてやってくれないか?」
「え、え~!
だ、誰かいるんですか~?返事をしてください~!」
"ここでーす。お願いします、助けて下さいー。"
声のする場所には木の影に出来たのだろう隙間に頭から滑り落ち、身悶える女子生徒の姿があった。
「大塚生徒会長、私たちどうなっちゃうんですか、助かるんですか?」
「うぅ、私のせいで。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
状況は最悪、取り乱す女性たち。回りが混乱すると逆に自身は冷静になると言うが、どうやら本当の事だったらしい。
「落ち着け、大丈夫だ。確かに雪山は恐ろしい。この吹雪では捜索隊もすぐには助けに来れないだろう。二重遭難になって仕舞うからな。
だが止まない吹雪はない。助けは必ずくる。
それまでここで大人しく待つんだ。
心配なら俺に言え、話しは聞いてやる。」
俺はゴーグルを外し、なるべく優しげな笑みを浮かべ堂々とした態度で話し掛けた。
そこから俺たちは色んな話しをした。俺にぶつかった女性は木島由香と言うらしい。高校の二年生でやはり校外学習の為にこのスキー場に来ていたそうだ。同じ班の仲間は男子生徒と先に戻ってしまい、取り残されていたとの事だった。
「ハハハ、私いつもこんな感じなんですよね。男子には疎まれるし女子からは馬鹿にされるし。本当に何やってるんだか…。」
「ふん、何を言っている。男子が相手にしてくれない?女子がその事を馬鹿にする?
お前は阿呆か?お前の人生は男のオマケか?
お前はお前だろうが、もっと自分を好きになれ。人は何時でも変われる、俺はそれを知っている。
今の自分が嫌なら変わればいい、自信がないなら俺に言え、俺が変えてやる。」
俺は木島由香の目を真っ直ぐに見詰め語りかけた。彼女はその言葉がよほど意外だったのか、目を見開いたまま固まってしまった。
「ビックジョー、なんか変わったね。自信家なのは相変わらずだけど、他人を見下すような所とか無くなって思いやれる様になったって言うか。」
もう一人の女子生徒は渡辺真由美、演劇部の部長だった。
「何を言っている。もし俺が変わったのだとしたら、俺を変えたのはお前たちだろうが。確かに俺は滝沢先輩に近づきたくて演劇部に入ったが、今は純粋にお前たちと舞台を作り上げる事に喜びを感じている。
舞台に立つお前たちは誰よりも輝いていて素敵だからな。それを支える事が出来るんだ、嬉しく無い訳ないだろう。」
俺は普段語る事の無い本心を渡辺真由美部長に語って聞かせた。
雪山での遭難は黙り込む事が最も不味い。思考が悪い方へと引っ張られるばかりか、意識を失いかねない。
装備もない状態で眠る事、それは即ち死に直結する行為に他ならない。
突然音が消えた。
先程までの吹雪が。
なり止まぬ風鳴りが。
"フワリッ"
目の前にゆったり舞い落ちる何か。
黒い羽根?
上空から舞い落ちる無数の黒羽根。
その光景をただ呆然と眺める俺たち三人。
"カツンッ、カツンッ、カツンッ"
鳴り響く靴の音。
雪山で?この積雪の中で!?
混乱する思考、これは死を前にして見る幻覚なのか。
「ハハ、木島さん、渡辺部長、どうやら俺はここまでらしい。助ける事が出来なくてごめん。
渡辺部長、最後でこんな事言うのもなんだけど、演劇部に入れてくれてありがとう。凄く楽しかった。」
目の前に佇むは黒き六枚の翼を背負った天使。
その姿を見たのを最後に、俺は意識を手放したのであった。
折れたであろう右足、要救助者二名、彼女たちが無事なのが唯一の救いか。
俺は大木脇に簡易的に作った塹壕に身を寄せ、これまでの事を思い起していた。
それは俺がスキーの初心者講習を行っている時の事だった。
「先生、慌てている様ですがどうしたんですか?」
「あぁ、大塚生徒会長。先ほどスキー場の監視員の方から、この辺の天候が荒れそうだから至急生徒をロッジに戻して欲しいと連絡があったの。インストラクターの方々も各コースを回って警告してくれている様なんだけど生徒の何名かが未だ戻っていなくて。」
先生は参加者名簿にチェックを入れ、生徒一人一人の安否を確認しているところだと言っていた。
「先生、それなら俺も周辺を確認してみます。見つけ次第、ロッジに戻る様促せばいいんですね?」
「それじゃ、お願い出来る?初心者講習の生徒は先生の方で誘導しておくわ。」
俺は急ぎリフト乗り場に向かい、生徒が行きそうなコースを見回る事にした。
「おーい、そこの女子、これから天候が荒れる予報が出てる。急いでロッジに戻るんだ!」
「「は~い、大塚生徒会長分かりました~♪」」
これで粗方回ったか?
空を見ればさっきより雲が厚くなっている。そろそろ俺も戻らないと不味いな。
"ダレカ…"
ん!?
今何か声が聞こえてた様な。
"ダレカ…"
!?確かに聞こえた。こっちだと、くそ、コースアウトして斜面に落ちたのか。
「おーい、今行くぞー。怪我はないかー!」
"は~い、怪我は大丈夫ですけど体勢が。身動きが出来なくて。助けて下さい~!"
ふ~、それなら俺一人でも何とかなるか。
その心の隙が不味かったのだろうか。
「イヤー、誰か止めてー!そこ危な~!」
「な、ちょっと待って」
"ドカッ"
「「うゎー!」」
"ガッ、ドサッ、ゴッ、ゴキッ"
「うぅ~ん、酷い目にあったわ~。あの~、大丈夫ですか?」
「ウグッ、本当に勘弁してくれ。それよりまずは俺の上から退いてくれないか。」
「あ、ごめんなさい、すぐに退きますね。」
"アガッ!"
「えっ?だ、大丈夫ですか、ど、何処か痛いんですか?」
「あ、足が、くそ、悪いがスキー板を外してくれ。恐らく折れている。」
「あ、えー、それって大事じゃないですか!どっどうしたら、そっそうだ救急車、救急車呼びましょう。あの、スマホスマホ。」
「だから落ち着け!
それと悪いがその辺に身動きの取れなくなった女子生徒がいるはずだ。助けてやってくれないか?」
「え、え~!
だ、誰かいるんですか~?返事をしてください~!」
"ここでーす。お願いします、助けて下さいー。"
声のする場所には木の影に出来たのだろう隙間に頭から滑り落ち、身悶える女子生徒の姿があった。
「大塚生徒会長、私たちどうなっちゃうんですか、助かるんですか?」
「うぅ、私のせいで。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
状況は最悪、取り乱す女性たち。回りが混乱すると逆に自身は冷静になると言うが、どうやら本当の事だったらしい。
「落ち着け、大丈夫だ。確かに雪山は恐ろしい。この吹雪では捜索隊もすぐには助けに来れないだろう。二重遭難になって仕舞うからな。
だが止まない吹雪はない。助けは必ずくる。
それまでここで大人しく待つんだ。
心配なら俺に言え、話しは聞いてやる。」
俺はゴーグルを外し、なるべく優しげな笑みを浮かべ堂々とした態度で話し掛けた。
そこから俺たちは色んな話しをした。俺にぶつかった女性は木島由香と言うらしい。高校の二年生でやはり校外学習の為にこのスキー場に来ていたそうだ。同じ班の仲間は男子生徒と先に戻ってしまい、取り残されていたとの事だった。
「ハハハ、私いつもこんな感じなんですよね。男子には疎まれるし女子からは馬鹿にされるし。本当に何やってるんだか…。」
「ふん、何を言っている。男子が相手にしてくれない?女子がその事を馬鹿にする?
お前は阿呆か?お前の人生は男のオマケか?
お前はお前だろうが、もっと自分を好きになれ。人は何時でも変われる、俺はそれを知っている。
今の自分が嫌なら変わればいい、自信がないなら俺に言え、俺が変えてやる。」
俺は木島由香の目を真っ直ぐに見詰め語りかけた。彼女はその言葉がよほど意外だったのか、目を見開いたまま固まってしまった。
「ビックジョー、なんか変わったね。自信家なのは相変わらずだけど、他人を見下すような所とか無くなって思いやれる様になったって言うか。」
もう一人の女子生徒は渡辺真由美、演劇部の部長だった。
「何を言っている。もし俺が変わったのだとしたら、俺を変えたのはお前たちだろうが。確かに俺は滝沢先輩に近づきたくて演劇部に入ったが、今は純粋にお前たちと舞台を作り上げる事に喜びを感じている。
舞台に立つお前たちは誰よりも輝いていて素敵だからな。それを支える事が出来るんだ、嬉しく無い訳ないだろう。」
俺は普段語る事の無い本心を渡辺真由美部長に語って聞かせた。
雪山での遭難は黙り込む事が最も不味い。思考が悪い方へと引っ張られるばかりか、意識を失いかねない。
装備もない状態で眠る事、それは即ち死に直結する行為に他ならない。
突然音が消えた。
先程までの吹雪が。
なり止まぬ風鳴りが。
"フワリッ"
目の前にゆったり舞い落ちる何か。
黒い羽根?
上空から舞い落ちる無数の黒羽根。
その光景をただ呆然と眺める俺たち三人。
"カツンッ、カツンッ、カツンッ"
鳴り響く靴の音。
雪山で?この積雪の中で!?
混乱する思考、これは死を前にして見る幻覚なのか。
「ハハ、木島さん、渡辺部長、どうやら俺はここまでらしい。助ける事が出来なくてごめん。
渡辺部長、最後でこんな事言うのもなんだけど、演劇部に入れてくれてありがとう。凄く楽しかった。」
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