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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー
第223話 いい旅、湯め気分♨ (7)
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朝の爽やかな空気の元、宿の玄関口で佇む二人の青年。
道行く人々が見守る中、撮影の合図が出された。
「おはようございます!木村君、よく眠れた?」
「おはようのっぺり、今朝の朝風呂も最高だったな。冷たく澄んだ空気の中で入る露天風呂、何という贅沢。この仕事に誘ってくれてありがとう、今心から感謝しているぞ。」
「お、おう。なんかすごいテンション高いな、おじさんちょっと着いて行けないぞ。
でもこのお宿、昨夜もそうだけどご飯がすごくおいしいの、大満足でした♪
さて木村君、本日の予定は覚えているかね?」
「勿論だ、これでも俺は逃走王の称号を授かりし者、今日こそお前の鼻を明かしてやるからな。」
「ふっふっふ、何を寝ぼけた事を。現逃走王が誰だかお忘れか?
こののっぺり佐々木、逃走王の名を出されて負ける訳にはいかんのだよ。
木村君、湯の華温泉郷名物、湯の華神社奉納レースで勝負だ!!」
ギャーギャー騒ぎながら町へ歩いて行く二人を背中越しに映し、場面は進んでいく。
「到着しました湯の華神社。御祭神様が韋駄天様と言う温泉地とは全く関係なさそうな神社なんですが、どう言ういわれがあるか木村君は知ってる?」
「あぁ、昨日宿の女将に聞いたんだが、何でも韋駄天様がこの湯の華温泉郷で湯治をしていたらしい。その為ケガの治療後のリハビリに多くのスポーツ関係者が訪れるとか、この神社はアスリートにとっての聖地と呼ばれているそうだ。」
「へ~、凄い所なんだね~。じゃあ、今回の奉納レースに出たら何かいいご利益があるのかな?」
「韋駄天様はその速さが有名だが、その足を生かして泥棒を捕まえたり、食べ物を確保したりと言った逸話が残っている。足腰の健康、火難・盗難の厄除け、食事に困らないと言ったことがご利益とされているな。食いしん坊のお前にはもってこいのご利益なんじゃないか。」
「韋駄天様スゲ~、俺の欲しいご利益全部持ってる。木村君、これは益々本気で走らせてもらうよ。韋駄天様にご利益を貰うのはこの俺だ~!!」
”スパーン”
「喧しい!神様の前で欲望を垂れ流すな、そんな俗物に神様がご利益を与えて下さるはずないだろうが。奉納レースなんだ、謙虚な気持ちで走らんか。」
「痛いです、木村君。反省しています。」
「そこのお前らじゃまだ、山門前で道を塞ぐな。俺様の邪魔をするんじゃない!」
振り向くとそこにはジャラジャラと金のネックレスをしたチャラい雰囲気の大男が。
”ねぇ、あれって伊達一馬選手じゃない?”
”あ、本当だ、男子二百メートルの伊達一馬だ!私ファンなの、サイン貰えないかしら?”
ん?周りが騒がしい、このお方実は有名人?
「あぁ、すみません。私たち本日こちら湯の華神社で行われる奉納レースの取材に来たものでして、失礼ですがあの有名な御方では・・・。」
「なんだ、ここの取材に来たって事はお前たちも俺のレースを見に来たって言う事か。そうだ、俺様が本日のメインゲスト、陸上男子二百メートルの伊達一馬だ。
悪いがサインはすべて断ってるからな、男だからって特別扱いはしね~からよ。」
「はい、俺たち男子二百メートルの伊達一馬様にお会いできただけで光栄です。それでですね、俺たちテレビの取材なんですが特別に撮影許可など頂けたりするのでしょうか?ご迷惑でなかったらと言う事なんですが・・・。」
「ハハハハ、お前分ってるじゃないか、ずいぶん謙虚な様だし気に入った。好きに取材しろ。」
「はい、ありがとうございます。男子二百メートルの伊達一馬様のお邪魔にならない様に取材させていただきます。本当にありがとうございます。」
深々と礼を述べる二人。笑いながら去っていく大男。
「ねぇ、木村君。久々に楽しい方と出会っちゃったね~。」
「そうだな、ぜひ同じレースで走りたいものだな。」(ニヤリ)
「いや~、男性参加者って少ないだろうから大丈夫なんじゃないかな~。逃走王とどっちが早いのか、今からワクワクが止まらないよ~。」(ニヤリ)
「「ハハハハハハ」」
互いに目を合わせ悪い笑みを浮かべる二人なのでした。
(side:伊達一馬)
ふん、なんだってこの俺様がこんな田舎の神社にわざわざ来ないといけないんだ。
俺は陸上男子二百メートルの伊達一馬だぞ、スポンサー企業からの懇願で仕方なく来てやったが、アスリートの聖地?アスリートだったら聖地は競技場だろうが。
マネージャーの話だと韋駄天が主神だとか。だったら俺様を祀れよな、俺様より早い奴なんざいないんだからよ。
「伊達一馬選手、本日は湯の華神社の祭事、奉納レースにお越しいただきましてありがとうございます。私この神社の巫女頭を務めさせていただいております、小林志乃と申します。
控室のご用意がございますので、そちらまでご案内させていただきます。」
「おう、俺が伊達一馬だ。今日は俺が世界の走りってのを見せてやるからよ、しっかり拝んでおくんだな。アッハハハハ。」
ふん、どうせ地方の走り自慢とかいう馬鹿が出場するんだろ?田舎者たちに世界の壁って奴を教え込んでやる。
”いよいよ湯の華神社奉納レースも最後のくみを残すだけとなりました。これまでのレースを振り返ってどうでしたかね、本条さん。”
”そうですね~、私もこちらのレースは拝見させていただきましたが、例年にない気迫を感じるいいレースだったと思います。特に注目する点は、これまでにない男性参加者の数です。皆真剣な表情で走られていて、こちらもワクワクしてしまいました。
これには韋駄天様もお喜びになられているのではないでしょうか?”
”はい、それは私も感じました。会場全体が例年にない盛り上がりを見せていますし、記憶に残る奉納レースになったのではないでしょうか。
さて最終組ですが、注目はやはり陸上男子二百メートルの伊達一馬選手でしょうか?”
”そうですね、伊達選手は国内陸上男子最速と言われている注目選手です。
他の参加者が彼の走りにどれほど食らいつくかが、レースの鍵になるでしょうか。”
ほぅ、解説は世界陸上四百メートル銀メダリストの本条まなみじゃないか。こんな田舎の祭りと馬鹿にしていたが、意外や意外、抑える所は抑えて来てやがる。それにこの境内にふさわしくない本格的な百メートルコース、最新の競技場のそれと何らそん色ないと来ている。軽く走ってみたが、これならいい記録が出そうじゃないか。
軽く流して帰るつもりだったが気が変わった、お前たちツイてるな、この俺様が世界を狙う本気の走りを見せてやる。(ニヤリ)
ん?一緒に走る連中の中にさっき山門で騒いでいた馬鹿二人組がいるじゃないか、確かテレビの取材だったか。って事はこのレースもしっかり映していると、まぁ頑張って俺の速さの当て馬になってくれよ。
「位置について、用意、“パン“」
はっ、俺のスタートダッシュに付いて来れる奴なんていないんだよ、このままぶっちぎってやる。
っておい、何で視界の端に人影が写るんだよ。
チョッと待て冗談じゃない、しっかり並んでいるどころか少しリードしてるじゃないか!?
おいおいふざけるな、なんで俺様の前に二人も人間が走ってるんだよ、俺は世界の伊達一馬だぞ!
”パンパン“
「一位、のっぺり佐々木選手。二位、木村英雄選手。三位、伊達一馬選手です。」
「よっしゃ~!木村君に勝った~!」
「くそっ、また僅差で負けた、次こそ絶対勝ってやるからな!」
「ちょっと待てー--!俺様が三位だと、ふざけるな!認められる訳無いだろう!
やり直しだ!やり直しを要求する!」
「「え~~~~~。」」
「なんか見苦しい事を仰ってる方がいるんですが、どうします木村君。」
「こんな所でグダグダしてても仕方がない、もう一度走ってスッキリお帰り頂くのがいいんじゃないか?」
「そうですね~、でもほかの参加者はみんな疲れてるでしょうし~。
本条まなみ選手、申し訳ないんですが一緒に走っていただいてよろしいですか~?」
”はい、喜んで~!!”
「それじゃ、スタート地点に戻りましょうか。スタッフさーん、ちょっとメイク直したいから俺のカバン持ってきて~。」
くそ、いったいどうなってるんだ。この俺が負けただと?そんなもん記録に残される訳にはいかないんだよ!
マネージャー、今のレースは無効だ、主催者側によく言い含めておけよな!
こいつらふざけやがって、しかも次のレースは本条まなみも出るだと?
上等じゃねーか、この俺の本気中の本気、お前らなんぞ叩き潰してやる!
「準備はよろしいでしょうか?では参ります。
位置について、用意、“パン“」
よし、これまでで最高のスタートダッシュ、このまま一気にぶっちぎる!!
くそ、どうなってやがる!何で全員並んで走ってんだ、おかしいだろうが!
おい待てふざけるな、なぜまたお前らの背中が見えるんだ、しかも本条まなみまで前にいるだと!?
”パンパン“
「一位、のっぺり佐々木選手。二位、本条まなみ選手。三位、木村英雄選手です。」
「ちくしょう、またのっぺりに負けた~。」
「ハハハハ、木村君、精進したまえ♪」
”ガクッ”
膝を付き項垂れる大男。
肩で荒い息をする姿から、彼が全力を出し切ったことは明らかであった。
なぜだ、なぜこの俺様が、なぜ!
”カツンッ、カツンッ”
陸上競技コースに不自然に響く靴の音
”カツンッ、カツンッ”
顔を上げるとそこには真っ直ぐこちらに向かい歩いて来る一人の男
”カツンッ、カツンッ”
ブレのない体幹、美しいフォーム、理想のアスリートが今、目の前に
「やぁ、伊達一馬君。私のレースはどうだったかね?これが世界を知る私たちの走りだ。君も素質はある、これからの努力、期待しているよ?」
”カツンッ、カツンッ”
踵を返した美しい男は、また優雅に歩き去っていく
「あ、あの、あなたは一体」
問い掛ける男に、その美しき者は、ゆっくりと振り向いた
「あぁ、私は先ほどから傍《そば》にいた”のっぺり佐々木”だよ。
ただ別の顔も持っている。
ファッションモデル”Saki”って言うね。」
そう一言答えると、彼はゆっくりと去って行ってしまった。
「ファッションモデル、”Saki”・・・」
その名は、伊達一馬の中に深く刻まれる事となる。
目標とすべき男の背中と共に。
道行く人々が見守る中、撮影の合図が出された。
「おはようございます!木村君、よく眠れた?」
「おはようのっぺり、今朝の朝風呂も最高だったな。冷たく澄んだ空気の中で入る露天風呂、何という贅沢。この仕事に誘ってくれてありがとう、今心から感謝しているぞ。」
「お、おう。なんかすごいテンション高いな、おじさんちょっと着いて行けないぞ。
でもこのお宿、昨夜もそうだけどご飯がすごくおいしいの、大満足でした♪
さて木村君、本日の予定は覚えているかね?」
「勿論だ、これでも俺は逃走王の称号を授かりし者、今日こそお前の鼻を明かしてやるからな。」
「ふっふっふ、何を寝ぼけた事を。現逃走王が誰だかお忘れか?
こののっぺり佐々木、逃走王の名を出されて負ける訳にはいかんのだよ。
木村君、湯の華温泉郷名物、湯の華神社奉納レースで勝負だ!!」
ギャーギャー騒ぎながら町へ歩いて行く二人を背中越しに映し、場面は進んでいく。
「到着しました湯の華神社。御祭神様が韋駄天様と言う温泉地とは全く関係なさそうな神社なんですが、どう言ういわれがあるか木村君は知ってる?」
「あぁ、昨日宿の女将に聞いたんだが、何でも韋駄天様がこの湯の華温泉郷で湯治をしていたらしい。その為ケガの治療後のリハビリに多くのスポーツ関係者が訪れるとか、この神社はアスリートにとっての聖地と呼ばれているそうだ。」
「へ~、凄い所なんだね~。じゃあ、今回の奉納レースに出たら何かいいご利益があるのかな?」
「韋駄天様はその速さが有名だが、その足を生かして泥棒を捕まえたり、食べ物を確保したりと言った逸話が残っている。足腰の健康、火難・盗難の厄除け、食事に困らないと言ったことがご利益とされているな。食いしん坊のお前にはもってこいのご利益なんじゃないか。」
「韋駄天様スゲ~、俺の欲しいご利益全部持ってる。木村君、これは益々本気で走らせてもらうよ。韋駄天様にご利益を貰うのはこの俺だ~!!」
”スパーン”
「喧しい!神様の前で欲望を垂れ流すな、そんな俗物に神様がご利益を与えて下さるはずないだろうが。奉納レースなんだ、謙虚な気持ちで走らんか。」
「痛いです、木村君。反省しています。」
「そこのお前らじゃまだ、山門前で道を塞ぐな。俺様の邪魔をするんじゃない!」
振り向くとそこにはジャラジャラと金のネックレスをしたチャラい雰囲気の大男が。
”ねぇ、あれって伊達一馬選手じゃない?”
”あ、本当だ、男子二百メートルの伊達一馬だ!私ファンなの、サイン貰えないかしら?”
ん?周りが騒がしい、このお方実は有名人?
「あぁ、すみません。私たち本日こちら湯の華神社で行われる奉納レースの取材に来たものでして、失礼ですがあの有名な御方では・・・。」
「なんだ、ここの取材に来たって事はお前たちも俺のレースを見に来たって言う事か。そうだ、俺様が本日のメインゲスト、陸上男子二百メートルの伊達一馬だ。
悪いがサインはすべて断ってるからな、男だからって特別扱いはしね~からよ。」
「はい、俺たち男子二百メートルの伊達一馬様にお会いできただけで光栄です。それでですね、俺たちテレビの取材なんですが特別に撮影許可など頂けたりするのでしょうか?ご迷惑でなかったらと言う事なんですが・・・。」
「ハハハハ、お前分ってるじゃないか、ずいぶん謙虚な様だし気に入った。好きに取材しろ。」
「はい、ありがとうございます。男子二百メートルの伊達一馬様のお邪魔にならない様に取材させていただきます。本当にありがとうございます。」
深々と礼を述べる二人。笑いながら去っていく大男。
「ねぇ、木村君。久々に楽しい方と出会っちゃったね~。」
「そうだな、ぜひ同じレースで走りたいものだな。」(ニヤリ)
「いや~、男性参加者って少ないだろうから大丈夫なんじゃないかな~。逃走王とどっちが早いのか、今からワクワクが止まらないよ~。」(ニヤリ)
「「ハハハハハハ」」
互いに目を合わせ悪い笑みを浮かべる二人なのでした。
(side:伊達一馬)
ふん、なんだってこの俺様がこんな田舎の神社にわざわざ来ないといけないんだ。
俺は陸上男子二百メートルの伊達一馬だぞ、スポンサー企業からの懇願で仕方なく来てやったが、アスリートの聖地?アスリートだったら聖地は競技場だろうが。
マネージャーの話だと韋駄天が主神だとか。だったら俺様を祀れよな、俺様より早い奴なんざいないんだからよ。
「伊達一馬選手、本日は湯の華神社の祭事、奉納レースにお越しいただきましてありがとうございます。私この神社の巫女頭を務めさせていただいております、小林志乃と申します。
控室のご用意がございますので、そちらまでご案内させていただきます。」
「おう、俺が伊達一馬だ。今日は俺が世界の走りってのを見せてやるからよ、しっかり拝んでおくんだな。アッハハハハ。」
ふん、どうせ地方の走り自慢とかいう馬鹿が出場するんだろ?田舎者たちに世界の壁って奴を教え込んでやる。
”いよいよ湯の華神社奉納レースも最後のくみを残すだけとなりました。これまでのレースを振り返ってどうでしたかね、本条さん。”
”そうですね~、私もこちらのレースは拝見させていただきましたが、例年にない気迫を感じるいいレースだったと思います。特に注目する点は、これまでにない男性参加者の数です。皆真剣な表情で走られていて、こちらもワクワクしてしまいました。
これには韋駄天様もお喜びになられているのではないでしょうか?”
”はい、それは私も感じました。会場全体が例年にない盛り上がりを見せていますし、記憶に残る奉納レースになったのではないでしょうか。
さて最終組ですが、注目はやはり陸上男子二百メートルの伊達一馬選手でしょうか?”
”そうですね、伊達選手は国内陸上男子最速と言われている注目選手です。
他の参加者が彼の走りにどれほど食らいつくかが、レースの鍵になるでしょうか。”
ほぅ、解説は世界陸上四百メートル銀メダリストの本条まなみじゃないか。こんな田舎の祭りと馬鹿にしていたが、意外や意外、抑える所は抑えて来てやがる。それにこの境内にふさわしくない本格的な百メートルコース、最新の競技場のそれと何らそん色ないと来ている。軽く走ってみたが、これならいい記録が出そうじゃないか。
軽く流して帰るつもりだったが気が変わった、お前たちツイてるな、この俺様が世界を狙う本気の走りを見せてやる。(ニヤリ)
ん?一緒に走る連中の中にさっき山門で騒いでいた馬鹿二人組がいるじゃないか、確かテレビの取材だったか。って事はこのレースもしっかり映していると、まぁ頑張って俺の速さの当て馬になってくれよ。
「位置について、用意、“パン“」
はっ、俺のスタートダッシュに付いて来れる奴なんていないんだよ、このままぶっちぎってやる。
っておい、何で視界の端に人影が写るんだよ。
チョッと待て冗談じゃない、しっかり並んでいるどころか少しリードしてるじゃないか!?
おいおいふざけるな、なんで俺様の前に二人も人間が走ってるんだよ、俺は世界の伊達一馬だぞ!
”パンパン“
「一位、のっぺり佐々木選手。二位、木村英雄選手。三位、伊達一馬選手です。」
「よっしゃ~!木村君に勝った~!」
「くそっ、また僅差で負けた、次こそ絶対勝ってやるからな!」
「ちょっと待てー--!俺様が三位だと、ふざけるな!認められる訳無いだろう!
やり直しだ!やり直しを要求する!」
「「え~~~~~。」」
「なんか見苦しい事を仰ってる方がいるんですが、どうします木村君。」
「こんな所でグダグダしてても仕方がない、もう一度走ってスッキリお帰り頂くのがいいんじゃないか?」
「そうですね~、でもほかの参加者はみんな疲れてるでしょうし~。
本条まなみ選手、申し訳ないんですが一緒に走っていただいてよろしいですか~?」
”はい、喜んで~!!”
「それじゃ、スタート地点に戻りましょうか。スタッフさーん、ちょっとメイク直したいから俺のカバン持ってきて~。」
くそ、いったいどうなってるんだ。この俺が負けただと?そんなもん記録に残される訳にはいかないんだよ!
マネージャー、今のレースは無効だ、主催者側によく言い含めておけよな!
こいつらふざけやがって、しかも次のレースは本条まなみも出るだと?
上等じゃねーか、この俺の本気中の本気、お前らなんぞ叩き潰してやる!
「準備はよろしいでしょうか?では参ります。
位置について、用意、“パン“」
よし、これまでで最高のスタートダッシュ、このまま一気にぶっちぎる!!
くそ、どうなってやがる!何で全員並んで走ってんだ、おかしいだろうが!
おい待てふざけるな、なぜまたお前らの背中が見えるんだ、しかも本条まなみまで前にいるだと!?
”パンパン“
「一位、のっぺり佐々木選手。二位、本条まなみ選手。三位、木村英雄選手です。」
「ちくしょう、またのっぺりに負けた~。」
「ハハハハ、木村君、精進したまえ♪」
”ガクッ”
膝を付き項垂れる大男。
肩で荒い息をする姿から、彼が全力を出し切ったことは明らかであった。
なぜだ、なぜこの俺様が、なぜ!
”カツンッ、カツンッ”
陸上競技コースに不自然に響く靴の音
”カツンッ、カツンッ”
顔を上げるとそこには真っ直ぐこちらに向かい歩いて来る一人の男
”カツンッ、カツンッ”
ブレのない体幹、美しいフォーム、理想のアスリートが今、目の前に
「やぁ、伊達一馬君。私のレースはどうだったかね?これが世界を知る私たちの走りだ。君も素質はある、これからの努力、期待しているよ?」
”カツンッ、カツンッ”
踵を返した美しい男は、また優雅に歩き去っていく
「あ、あの、あなたは一体」
問い掛ける男に、その美しき者は、ゆっくりと振り向いた
「あぁ、私は先ほどから傍《そば》にいた”のっぺり佐々木”だよ。
ただ別の顔も持っている。
ファッションモデル”Saki”って言うね。」
そう一言答えると、彼はゆっくりと去って行ってしまった。
「ファッションモデル、”Saki”・・・」
その名は、伊達一馬の中に深く刻まれる事となる。
目標とすべき男の背中と共に。
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