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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第202話 苦労するのはいつも現場 (2)

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「おい、マネージャー、帰るから準備しろ!
何なんだ全く、お前もこんな仕事回してくるんじゃねーよ。ウチの事務所が嘗められるだろうが!
天下の西京芸能事務所だぞ、少しは自覚を持て!」

「は、はい!すみませんでした、すぐに準備いたします。
それでは町田先輩、私はここで。
ゴードンさんお待ちください、今車を回しますので。」

「待ってください西京さん、急に帰られては撮影が!今すぐ撮影に入りますので、現場入りしてください、お願いします。」

頭を下げるAD、助監督も急ぎ駆け寄ってくる。

「うるさいな~、もう帰るって決めたんだ、俺に構うな。さっきも言ったがこんな役案山子でも出来るだろうが。そうだな~、おい、そこのぼーっとした奴、お前だお前。お前代わりにやっておけ。
こんな現場にいるんだ、お前も付き人か何かなんだろう?ビックチャンス到来じゃないか。
俺が直々に指名してやったんだ感謝しろ。」

・・・?

えっ?俺?何言ってんのアイツ、訳分からないんだけど?

「ゴードンさん、準備が整いました。皆様申し訳ありませんがこれで失礼させていただきます。」

嵐のように去っていく二人。
残され頭を抱える現場ADと助監督。

町田さんチョッと。あれ一体何?

「あぁ、彼は去年から西京事務所に入った新人で剛田清史。西京事務所の一押しアイドルグループ”ジャイアント”リーダー、剛田猛の弟です。」

へ~、前にジャイアントの事は聞いてたけど、典型的な俺様。もしかしなくてもこの業界ってあんな奴ばっかりとか?やっぱり俺帰っていい?

「あぁ~、まあ否定はしませんが、良い方もいるにはいるんですよ?先ほどの木村君の話ではないですが、一つの作品がすべて主役級の人間で出来上がっている訳ではないですから。俺様ばかりで成立するほど甘いものでもないですしね。
苦肉の策で男装した役者を使う事はままありますけど、やはり視聴者が求めるのは”本物の男性”ですから、こればかりは。」

苦笑いで答える町田さん。舞台とかだとほとんどがそうした男装役者による演劇だとか、現状だと仕方がないのかな~。
男装の麗人、執事喫茶楽しかったな~。(遠い目)

「S&Bの町田さん、申し訳ありません。急遽代役が必要になりまして、急ぎ手配いたしますので今しばらくお待ちいただく訳にはいかないでしょうか?」

目の前で米つきバッタのように頭を下げる助監督。あなたは何も悪くないって言うのに、必死にこの作品を作り上げようとしている。

ねぇ、助監督?さっき出て行った俺様が言ってたけど、彼の役って本当に案山子でも出来るような役なの?

「いえ、その、基本のアクションは今回お願いしたそちらの御二方が行いますので、なんとか。今回一度だけ登場するボスですので、それなりのカリスマ性を表現したかったのですが、先ほどのトラブルでして。」

ふ~ん、それって顔を隠して誰か分からなくする事でも可能じゃない?正体不明のボス、それなりの雰囲気でそうなんだけど。

「そうですね、それなら視聴者の想像力を掻き立てますし、悪くないかも・・・。」

それにほら、俺ってさっきご指名いただいちゃったから。小道具でフードなり仮面なり用意して貰って、その場を立ち去ればなんとか形にはなると思うんですけど。

「う~ん、分りました。監督と脚本家に提案してきます。今しばらくお待ちいただけますでしょうか?」

うん、早く行った方がいいよ?結構慌ててるみたいだし。

急ぎ走り去っていく助監督。
「若、よろしかったのですか?」

まぁ、仕方がないかな。ちらっと台本見たけど、ほとんどのアクションシーンは木村君たちがやるし、何とかなるでしょう?

「すみません~、それではこちらの仮面を付けていただいて登場と言う形でお願いします。大体の流れはお分かりでしょうか?」

木村君たちのリハーサル見ていたから何とか。さっきADさんが代役を務めていたボス役をやればいいんだよね?

「はい、時間も押していますし、着替えていただいたら本番に移ります。」
了解しました。控室へ案内して貰えますか?

ボスの衣装へ着替え、俺は一人仮面と向き合う。
何も装飾のない目元だけが開いた仮面 。
名前もない、経歴も分からないボス。
彼は何を想いこの仮面を被ったのか。
正体を隠すため?あのような配下木村君たちを従えてそんな事があるのか?
主張のないマスク。拒絶、孤独、孤高、集う配下、カリスマ、脳裏に浮かぶ前世の記憶。あの物語の主人公は、

「準備お願いします、本番入ります。」

ゆっくり立ち上がり鏡に映る自分を見る。
幕は上がった、さあ、舞台へ。


(side:一文字勇気)

「ここがアイツらの根城か。奴らを倒せばみんなが解放されるんだな?」
街外れの廃工場、俺たちは声を潜め様子を窺った。

「えぇ、情報が正しければこの奥にみんなが囚われているはず。覚悟は良いかしら?」
心配そうな目でこちらを見詰めるジュン。そんな彼女に勇気はニヒルな笑みを浮かべる。

「誰に言ってるんだよ、この俺、一文字勇気、やると言ったらやる男だぜ?
それに俺は一人じゃない、お前らと言う仲間が付いてるんだ。」
ジュンを含む多くの仲間、相手は袋のネズミ、負ける訳がない。

「いくぜ、正面突破だ!」
「「「おう!」」」

”ドカンッ“
ドアを蹴破り中に入ると、薄暗い室内にたむろする男達。

「なんだお前ら。」
抑揚も無く問いかける長身の男。

「もうお前らはお仕舞だ、俺たちの仲間を返してもらおうか!
みんな、行くぞ!」
「「「はい!」」」

みんなを助けるんだ、その一心で敵に掴み掛る仲間たち。
殴る、蹴る、だがそのすべての攻撃を避ける、なす、躱す。
拮抗する両者。

”ゴソッ“
大きな気配が動いた。

”コツンッ、コツンッ”
ゆっくり立ち上がったそれは、一歩ずつ、確実に、こちらへと近づいて来る。

”ザザッ”
自然と道が開く、誰も身動きが出来ない、言葉を発する事も許されない。

”コツンッ、コツンッ”
ただ一人、仮面の男が発する靴の音だけが、廃工場の中に響き渡る。

”カンッ”
逆光を浴び、シルエットだけが見える。
仮面の男は背中越しに振り返る、こちらを凝視しているのだろうか。

「行くぞ。」
低く闇から聞こえてくるその声音。
その抑揚のないそれでいて強い言葉は、この場にいる者を釘付けにする。

静かに去っていく仮面の男とその仲間たち。
残され呆然と佇む勇気たち。
”ピリリリリリ“
鳴り響くスマホの着信音、スピーカー越しに聞こえる二階堂の声。

「一文字、無事か?俺たちは嵌められた、連中は三丁目の倉庫街にいる。そこの廃工場には絶対近づくな!!そこにいるのは”支配者”だ、奴らには絶対に手を出すな、聞いているのか、一文字!」

支配者、決して手を出してはいけない者。
先ほどの光景を思い出した勇気の背中には、冷たい汗が流れるのであった。

(参考文献「狼王ロボ」著者:アーネスト・トンプソン・シートン )
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