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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー
第181話 月子さん、デビューです (side : 北川良子)
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「代表、この度は私の我が儘をお聞き届け頂きありがとうございます。」
スタジオS&B。昨年設立されたばかりの新規参入芸能事務所。その執務室で良子は事務所代表のマザー佐々木に深々と頭を下げた。
「いいのよ、北川。それに元々あなたがこの会社にいるのだって今回の件が目的でしょう?
一から才能を育てたい。幸いスタジオS&Bも大分体力のある事務所に成長してきたわ。一人二人の育成に時間を掛けたからってそうそう潰れないから好きにしなさい。
いざとなったら貴女を拾った張本人に責任を取らせるから大丈夫よ。」
良子の目を見詰めニヤリと笑う代表。
ソファーの前に置かれたローテーブルにはカップが二つ。
"そう言えば彼女と初めて出会った時もこんな香りがしていたわね。"
出されたインスタントコーヒーに口をつけ、良子は口元を緩めるのだった。
「チーフ、中央都テレビの岸田様よりお電話です。次のドラマの件だそうです。」
「その件なら社長の承認は貰っています。後の対応はあなたに任せるわ、バックアップはするからやってみなさい。頑張ってね。」
「は、はい!お待たせ致しました。本件につきまして窓口をさせて頂きます田中と申します。」
皆しっかり育ってきた。
私達はここ西京芸能事務所に置いて、アイドルグループ"ジャイアント"を担当するマネジメントチーム。ジャイアントを裏から支え現在のトップアイドルへと押し上げて来たのは、一重に彼女らの献身的な仕事に他ならない。
良子は自らが見いだし作り上げてきたこのチームを、アイドルグループ”ジャイアント”を誇りに思っていた。
「チーフ、内線で社長から部屋に来て欲しいとの連絡です。」
「分かったわ。今すぐ向かうと伝えて頂戴。」
現在の社長西方澄子は二代目の社長だ。良子が先代に拾われた頃はまだ学生だったが、今では立派にこの事務所を切り盛りしている。失礼な事ではあるが、妹の成長を見る様だととても嬉しく思っていた。
”コンコンコン“
「失礼します、北川良子です。御呼びにより参りました。」
”開いているわ、入って頂戴。”
ドアを開け中に入る。室内には社長の西方ともう一人。
「北川、わざわざ悪かったわね。そこに座って頂戴。
吉村君も座ってくれる?これからの話もあるから。」
吉村勇気、確か社長が引っ張って来た途中入社のマネージャーだったかしら。
余りいい評判は聞かないがといぶかしむ良子。次の瞬間それは驚愕に代わった。
「北川、今までご苦労様。明日からアイドルグループ”ジャイアント”のチーフマネージャーはこの吉村君になるから。
あなたはそうね、営業部にでも移ってもらおうかしら。」
は?
今この女は何を言ったのだろうか。言葉は聞こえる、だが意味が分からない。
自身がアイドルグループ”ジャイアント”のマネジメントから手を引く?
彼らを発掘しここまで育てたのが誰なのか、この女はそれが分かっているのだろうか。
「北川さん、そう言う事ですから。まぁ、貴女が今まで頑張ってきた事は評価しますよ?でもいかんせん貴女のやり方は古い。
先代社長を尊敬するその姿勢は良いですが、やり方をそのまま継承し続けるってのはね~。今時アイドルが挨拶回りって、今や彼らはこの国のトップアイドルですよ?
いつまでも売れない三流事務所気分でいられては、こちらの価値が下がると言うものです。もはやウチは挨拶される側の人間なんです。その事が貴女には分ってない。
そういう人がトップアイドルのチーフマネージャーではね~。
もう必要ないんですよ、貴女は。」
「そうね~、やっぱり貴女じゃ営業も厳しいかしらね~。自主退職してくれるんなら今までの実績もあるし退職金は弾むわよ?
その方が周囲であらぬ噂も立たないでしょうしね。」
見詰め合いニヤニヤいやらしい笑みを浮かべる男女。
そう言う事か。
良子は深々と頭を下げると、独り部屋を後にした。
アイドルグループ”ジャイアント”。彼らは良子が自らスカウトして結成したアイドルだった。アイドルと言うものを何も知らない彼らに、一から全てを与えてきたのは彼女だった。その献身は正に母と言っても良いものであった。
”あの子たちに何と言って話したらいいのだろう。”
良子は重くなる気持ちを奮い立たせ、最後は毅然とした態度で話そうと、彼らのいる控室に足を向けた。
「ぎゃはははは、聞いたかよ、ついにあのおばさん首だってよ。」
「聞いた聞いた、何でも今度は吉村さんが仕切ってくれるようじゃない、やっぱ女に仕切られるのってダサいと思ってたんだよね。」
「そうそう、何が”あなた達の事は私が必ずトップアイドルにして見せます”だよ、おばさんの手なんか借りなくってもなってたっつうの。本当何様のつもりなんだろうね。」
えっ、良子は自分の耳を疑った。昨日まで彼女を慕い共に頑張ってきていると思っていた彼らが、彼女の事をそんな風に思っていたなんて。
「おい、お前らうるさいぞ、少し黙れ!」
剛田君。剛田猛、アイドルグループ”ジャイアント”のリーダー。良子が初めてスカウトした男。このグループは彼の為に作ったと言っても過言じゃない。その美貌、カリスマ、ジャイアントは正に彼を中心としたグループなのだ。
”彼が私について来てくれると言うのなら。”
自らの全てを掛けて彼をプロデュースしよう、始めは小さいかもしれないがどこにも負けないくらいの芸能事務所を作ろう。
良子は己の心に灯った決意と共に、目の前の扉を大きく開こうとした。
「下僕が一人いなくなっただけでいちいち騒ぐな。俺たちはジャイアントだ、少しは自覚を持て。」
・・・・下僕?
彼にとって自身の存在はその程度でしかなかったのか。
そこから先の事はよく覚えてはいない。
西京芸能事務所マネジメント統括部
アイドルグループ”ジャイアント”担当
チーフマネージャー 北川良子
彼女のマネージャー人生が、その日終了したのだった。
スタジオS&B。昨年設立されたばかりの新規参入芸能事務所。その執務室で良子は事務所代表のマザー佐々木に深々と頭を下げた。
「いいのよ、北川。それに元々あなたがこの会社にいるのだって今回の件が目的でしょう?
一から才能を育てたい。幸いスタジオS&Bも大分体力のある事務所に成長してきたわ。一人二人の育成に時間を掛けたからってそうそう潰れないから好きにしなさい。
いざとなったら貴女を拾った張本人に責任を取らせるから大丈夫よ。」
良子の目を見詰めニヤリと笑う代表。
ソファーの前に置かれたローテーブルにはカップが二つ。
"そう言えば彼女と初めて出会った時もこんな香りがしていたわね。"
出されたインスタントコーヒーに口をつけ、良子は口元を緩めるのだった。
「チーフ、中央都テレビの岸田様よりお電話です。次のドラマの件だそうです。」
「その件なら社長の承認は貰っています。後の対応はあなたに任せるわ、バックアップはするからやってみなさい。頑張ってね。」
「は、はい!お待たせ致しました。本件につきまして窓口をさせて頂きます田中と申します。」
皆しっかり育ってきた。
私達はここ西京芸能事務所に置いて、アイドルグループ"ジャイアント"を担当するマネジメントチーム。ジャイアントを裏から支え現在のトップアイドルへと押し上げて来たのは、一重に彼女らの献身的な仕事に他ならない。
良子は自らが見いだし作り上げてきたこのチームを、アイドルグループ”ジャイアント”を誇りに思っていた。
「チーフ、内線で社長から部屋に来て欲しいとの連絡です。」
「分かったわ。今すぐ向かうと伝えて頂戴。」
現在の社長西方澄子は二代目の社長だ。良子が先代に拾われた頃はまだ学生だったが、今では立派にこの事務所を切り盛りしている。失礼な事ではあるが、妹の成長を見る様だととても嬉しく思っていた。
”コンコンコン“
「失礼します、北川良子です。御呼びにより参りました。」
”開いているわ、入って頂戴。”
ドアを開け中に入る。室内には社長の西方ともう一人。
「北川、わざわざ悪かったわね。そこに座って頂戴。
吉村君も座ってくれる?これからの話もあるから。」
吉村勇気、確か社長が引っ張って来た途中入社のマネージャーだったかしら。
余りいい評判は聞かないがといぶかしむ良子。次の瞬間それは驚愕に代わった。
「北川、今までご苦労様。明日からアイドルグループ”ジャイアント”のチーフマネージャーはこの吉村君になるから。
あなたはそうね、営業部にでも移ってもらおうかしら。」
は?
今この女は何を言ったのだろうか。言葉は聞こえる、だが意味が分からない。
自身がアイドルグループ”ジャイアント”のマネジメントから手を引く?
彼らを発掘しここまで育てたのが誰なのか、この女はそれが分かっているのだろうか。
「北川さん、そう言う事ですから。まぁ、貴女が今まで頑張ってきた事は評価しますよ?でもいかんせん貴女のやり方は古い。
先代社長を尊敬するその姿勢は良いですが、やり方をそのまま継承し続けるってのはね~。今時アイドルが挨拶回りって、今や彼らはこの国のトップアイドルですよ?
いつまでも売れない三流事務所気分でいられては、こちらの価値が下がると言うものです。もはやウチは挨拶される側の人間なんです。その事が貴女には分ってない。
そういう人がトップアイドルのチーフマネージャーではね~。
もう必要ないんですよ、貴女は。」
「そうね~、やっぱり貴女じゃ営業も厳しいかしらね~。自主退職してくれるんなら今までの実績もあるし退職金は弾むわよ?
その方が周囲であらぬ噂も立たないでしょうしね。」
見詰め合いニヤニヤいやらしい笑みを浮かべる男女。
そう言う事か。
良子は深々と頭を下げると、独り部屋を後にした。
アイドルグループ”ジャイアント”。彼らは良子が自らスカウトして結成したアイドルだった。アイドルと言うものを何も知らない彼らに、一から全てを与えてきたのは彼女だった。その献身は正に母と言っても良いものであった。
”あの子たちに何と言って話したらいいのだろう。”
良子は重くなる気持ちを奮い立たせ、最後は毅然とした態度で話そうと、彼らのいる控室に足を向けた。
「ぎゃはははは、聞いたかよ、ついにあのおばさん首だってよ。」
「聞いた聞いた、何でも今度は吉村さんが仕切ってくれるようじゃない、やっぱ女に仕切られるのってダサいと思ってたんだよね。」
「そうそう、何が”あなた達の事は私が必ずトップアイドルにして見せます”だよ、おばさんの手なんか借りなくってもなってたっつうの。本当何様のつもりなんだろうね。」
えっ、良子は自分の耳を疑った。昨日まで彼女を慕い共に頑張ってきていると思っていた彼らが、彼女の事をそんな風に思っていたなんて。
「おい、お前らうるさいぞ、少し黙れ!」
剛田君。剛田猛、アイドルグループ”ジャイアント”のリーダー。良子が初めてスカウトした男。このグループは彼の為に作ったと言っても過言じゃない。その美貌、カリスマ、ジャイアントは正に彼を中心としたグループなのだ。
”彼が私について来てくれると言うのなら。”
自らの全てを掛けて彼をプロデュースしよう、始めは小さいかもしれないがどこにも負けないくらいの芸能事務所を作ろう。
良子は己の心に灯った決意と共に、目の前の扉を大きく開こうとした。
「下僕が一人いなくなっただけでいちいち騒ぐな。俺たちはジャイアントだ、少しは自覚を持て。」
・・・・下僕?
彼にとって自身の存在はその程度でしかなかったのか。
そこから先の事はよく覚えてはいない。
西京芸能事務所マネジメント統括部
アイドルグループ”ジャイアント”担当
チーフマネージャー 北川良子
彼女のマネージャー人生が、その日終了したのだった。
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