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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第115話 支配者の誤算 (2)

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"すめらぎ会長様、奥様。
ようこそ御出おいで下さいました。私立桜泉学園中等部文化祭"Sin"新作発表会会場はこちらになります。
関係者席へご案内させて頂きます。
どうぞ此方へ。"
"私立桜泉学園中等部文化祭"Sin"新作発表会へようこそ。
報道関係者席は此方へなります。ご案内させて頂きます。"
"生徒保護者様の席は此方です。十分な席数を用意しておりますので、慌てずゆっくりとお進み下さい。"
"サロン会員の皆さん、私たちの行動が学園のいてはひろし様の評判に繋がります。くれぐれも忘れぬ様、自らを律して行動して下さい。"
"「「「はい、ひろし様のために。」」」"

「鬼龍院校長、盛況ではないですか。これも全て校長の手腕の御陰、我々理事会としても鼻が高いですな~、ははははは。」
「これは田辺理事、ようこそ御出下さいました。お褒めの言葉、痛み入ります。
今日のファッションショーに向けて、我が校の男子生徒たちも大変気合いが入っていると報告が届いております。
田辺理事を含め理事会の皆様にも大変有意義な時間と成るでしょう。
どうぞ御ゆるりとお楽しみ下さい。」
「はははは、それは楽しみだ。期待していますよ、鬼龍院校長。」
「はい、では後程。」

私立桜泉学園中等部文化祭での"Sin"新作発表会。
多少のゴタゴタもあり心配ではありましたが、無事本番を迎える事が出来ました。
今日のファッションショーは一つのターニングポイント。此れを切っ掛けとして、我が私立桜泉学園は更なる発展を遂げるでしょう。
私は高鳴る胸を抑え、会場へ向かうのでした。

「鬼龍院校長、素晴らしいではないですか。いや、流石に我々も我が校の男子生徒たちがこれ程のショーを行う事が出来るとは、想定していませんでした。何でも外部の案件を数多く請け負い、男子生徒たちに現場の空気を学ばせたとか。
鬼龍院校長の手腕には我々も脱帽せざるを得ませんな。いや、お見事です。」
「いえ、此れも全て生徒たち自身の努力の賜物。お褒めの言葉は後程是非、生徒たちに掛けてあげて下さい。」
「どんな時でも常に生徒たちを立てる、鬼龍院校長は正に教育者の鏡ですな~。これは我々も心強い。
今後ともよろしくお願いしますよ、鬼龍院校長。」
「はい、精進致します。」

我が校の男子生徒たちがモデルを務める"Sin"新作発表ファッションショーは、本当に素晴らしい出来でした。先ほどの田辺理事の話しではないですが、雑誌の取材に加え外部企業案件を複数経験する事で、皇一すめらぎはじめ副生徒会長を筆頭とした男子生徒たちは一皮も二皮も剥けたのでしょう。
各報道関係者をはじめ、生徒保護者、財界政界等の来賓客の反応もすこぶる上々。
特に最後の皇一副生徒会長のランウェイには、皇財閥総帥である彼のご両親もいたくお喜びになっておられました。
私はこの時、ショーの成功と桜泉学園の更なる発展を確信していました。


「何なの此れは、聞いていた話しと違うじゃない!」
ショーの後半、「人と服との融合」と題してのランウェイは、私たちの想定を遥かに越えたものでした。
報告では”モデルの個性を廃し、作品をより良く見せる”試みであり、
言うなれば"意思を持ったマネキン"のランウェイであるはずでした。
ですが、目の前で繰り広げられている此れは一体何なんですか。
自信溢れる確かな歩み、一つ一つが計算された切れの有る動き、一人一人がどのファッションショーに参加しても主役を張れる程のモデル。
自らが作品と一体となり互いをより高め合っている、海外のトップモデルと比べても何ら遜色のない男性たち。
先ほどまでの我が校男子生徒によるランウェイが、私立桜泉学園の躍進が。

「鬼龍院校長、これは一体どう言う事です!これでは先ほどの我が校生徒たちによる素晴らしいショーが、ただの前座になってしまうじゃないですか!
皇会長夫妻もご覧になられているというのにこの失態、どう責任を取るつもりなんですか!」
私はこれまで築き上げて来たものが音を立てて崩れていくのを感じました。

”カツンッ、カツンッ”

それは突然始まりました。

”カツンッ、カツンッ”

全身を襲う圧迫感、肌は総毛立ち、震えが止まらない。

”ブワッサッ”

堕天使の降臨、巨大な漆黒の翼、会場に飛び広がる黒き羽。

”カツンッ、カツンッ”

それは一瞬の幻であったのか、
彼の御方は一人、無人のランウェイをあゆまれます。

”カツンッ、タンッ”

彼の御方がポーズを取られた瞬間
私は自然とひざまずいていました。
己のなんと矮小で醜い事か
彼の御方を直視するなど、なんと不敬であることか

彼の御方が去られた後も
私はしばし身動きが出来ませんでした。

会場は全ての人が放心状態でした。
私たちは一体何を見たのでしょう。
皆椅子に座り込み、ただ時間だけが過ぎて行きました。


『みんな~、おまたせ~!
”hiroshi on Stage"、はじまるよ~♪』

軽快な音楽、女子生徒による切れのいいダンス。
あぁ、そう言えばファッションショーの後はサロン主催の”hiroshi"による歌のショーが予定されているんでした。
そう、”hiroshi"による歌のショーが…。

まずい、

『では最初はこの一曲、今一番のヒットソング「Summer Beach」!』


全ては手遅れでした。
今、私はデスクの上の鍵を見て思います。
いつから間違えてしまったのかと。

以前、桜町小学校校長木村奈々子先生から聞いたあの言葉

”我が校の事を世間では”桜町小学校の軌跡”と呼んでいたりしますが、それは決して私たち教職員やひろし君だけの力で成し遂げたものではないんです。”

”ひろし君の衝撃”、その後巻き起こった数々の問題を陰ながら解決へ導いてくれたものは誰だったのか。
事前に手を打ち、最小限の被害に抑えてくれたのは。

文化祭の後、我が学園は未曾有の混乱に陥りました。
生徒の八割が欠席、各業界からの鳴りやまぬ問い合わせ。
今後我々はどうすればいいのか。

”陰の王”はもういない。
王を捨てた民は、自ら考え歩くしかないのです。
たとえそれがどんなに険しい道だとしても…。
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