男女比世界は大変らしい。（ただしイケメンに限る）

第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第103話 鬼ごっこ同好会の衝撃 （３）

"眩し～い　太陽の下～で"

"コンコンコンッガチャ"
｢ちーすっ、斉藤部長居ますか～。例の奴出来上がったって聞いて来たんですが？｣

｢やぁ、佐々木君。今ちょうど確認作業をしていた所だ。君も見て行くだろう？｣

｢流石部長、いつもながら仕事が早いですね。それじゃ遠慮なく見させて頂きます。｣

斉藤部長に頼んでいたのは夏の合宿の時に撮ったデータの編集。
ヨウツーベ用以外にもう一本、｢Summer Beach｣ミュージックビデオ版を作ってもらったのだ。
無論、参加者には事前に動画使用承諾書に保護者共々サインを頂いております。
つまり、転用もあり。
詳細迄読まない君たちが悪いのだよ。
人の仕事を増やしていちゃこらしやがって、目にもの見せてくれようぞ。（私怨）

｢でも部長、最終日って映像研究会の人たちもみんな遊んでましたよね？これって、いつの間に撮影したんですか？｣

｢あぁ、これは宿の女将さんに相談してな。夏の思い出にって言ったら、従業員総出で撮影してくれたぞ。｣

はぁ？
だからあの時やたらカメラ持ったお姉様方が多かったのか。
てっきり、ビーチで遊ぶ男どもが珍しくて集まってたんだと思ってた。
｢海の宿　潮風亭｣、本当にいい旅館だったな～。

「それと別件で頼まれていたもう一本の方なんだが、これ本当に使う気か？」

斉藤部長には「Summer Beach」のミュージックビデオの使い道を伝えてある。
そしてもう一本も…。

「まあ、目的が綱紀の粛正ですからね。盛り上げた後はしっかり締めとかないと、上げて落とすは基本ですから。」

「佐々木君って本当そう言う所あるよね、今回のビデオも本命はこっちだろ？」
な～んか俺を覗き込むように見て来るんですけど。
そう言う斉藤部長だって悪い顔してるじゃないですか、お互い様ですって～♪


（side：女子生徒）

「ねえねえ、三保聞いた？放課後の緊急集会。
参加は自由らしいんだけど、例の同好会の一連の騒ぎのやつらしいよ。なんでも伝説の仕掛人キューピットって人が講演するんだって。今回の大量カップル発生のテクニック伝授って参加するしかなくない？」

「うん、行く行く！
ひろし様は最高だけど、どちらかというと画面の向こうの存在だしね。やっぱ私も彼氏欲しいもん。」

「「だよね～♪」」

放課後の体育館。
粗ほぼ全校集会の様相を呈した会場は、よく見ればすべてが女子生徒。

”本日は当講演会にお集まりいただき、大変ありがとうございます。
講演に先立ちまして、一本のミュージックビデオを鑑賞していただきます。
そこには皆様のお知りになりたかったことが詰まっております。
ぜひ、お楽しみください。”

窓のカーテンが閉められる。
プロジェクターの光と共に、私の大好きな曲、hiroshi様の「Summer Beach」が流れる。

”眩し～い　太陽の下～で
君と二人で遊んだ～”
えっ、何？
なんか白い砂浜で男子と女子が水着でビーチバレー！？
これって何のファンタジー？
私何を見せられてるの？

”この夏のうーみを　忘れは　しないさ”
あ、石川生徒会長。水着の女の子と水の掛けっこしてはしゃいでいらっしゃる。
尊い。
と言うか私もあそこに加わりたいんですけど！！

”君～の　眩し素～肌に
僕はくらくらしちゃうよ”
ちょっと待てちょっと待て～、何あの男女、ビーチパラソルの下で日焼け止めの塗りっこしてるんですけど！！
これって十八禁動画じゃないの？いいのこんなの流して、しかもこれってウチの生徒よね、大人なの？大人の階段上っちゃったの？
頭パンクしそうなんですけど！？

”思い出　だ～けには　しないさ～”

はあ、はあ、講演会始まってないのにやたら疲れた。
最後の方に出てきたカップルの二人、夕日のシルエットだったけど女の子めちゃくちゃ美人だったんですけど。男の子のほうも後ろ姿超絶イケメン。広背筋から上腕にかけての膨らみがとってもセクシー。
なによ鬼ごっこ同好会、最高かよ。
この講演会を聞けば私たちにもこんな青春が？

”では皆様お待たせいたしました。
本日の講師は伝説の仕掛人キューピット、元男性専門病棟介護士、西城ひかる先生です。”

「皆さん、始めまして。
本日の講師を務めさせていただきます、西城ひかると申します。
今回は元男性専門病棟ナースの立場から、『相手に受け入れられる”男性との接し方”』というテーマでお話しさせていただきます。
周りにいる男性がどういう存在か、皆さんは考えたことがあるでしょうか？
私の医療勤務の経験からすれば、男性というものは…」

凄い、私今までそうやって男子に接した事なかったんだけど。
男の子ってそんな風に考えてたの、私のやってきた事って逆効果？
えっ、映像研究会の連中、この講義を受けてそんなに変わってたの？

「と言う様に、男性が持つ女性に対する固定概念を変化させることこそが、男女交流の第一歩になるわけです。
最後に、まずはこちらのVTRをご覧ください。」

体育館の照明が再び落ちる。
プロジェクターの光、家庭のリビングの様子が映る。
ピアノの美しくも寂しい伴奏が始まる。

”テーブルの隅　一輪挿しの　花が揺れる
二人で買った　コーヒー　カ～プ～
芝生の庭も　広いベットも　あなた～は　いない
街の散歩道　公園の広場　二人で笑ったね
離れた心　もうわからない
あなたを待っている

芝生の庭も　広いベットも　あなたは　もういない
街の景色が　移り変わって　もうすぐ冬が来る
二つ並んだ　コーヒーカップ　見詰めて
あなたを想う～”

「私は仕事柄、多くの男性患者を診てきました。
また同じようにそのご家族も見てきました。
現在わが国で結婚されている多くのご家庭が、男性がたまに帰って来る”通い婚”と言う形式をとっています。
そのこと自体をとやかく言うつもりはありません。
ただその中で心が離れ、独りでいる時の何倍も悲しみ苦しむ女性が数多くいるのです。
私は男女とはお互いに理解し合い惹かれ合うべきものと考えます。
互いに理解し合い、相手と自分両方から惹かれ合う、そんな関係が築けることを切に願います。」

私は言葉が出なかった。
浮かれていた。興奮していた。
その感情の全てに水を掛けられたかのような。
見えていなかった現実を突き付けられた。

変わらないといけない。
まずは自分から。
私は強く決心した。