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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第86話 新たなる王の誕生 (side:鬼龍院静香)

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彼の者は理想であった
希望であった
光であった
その輝きに 眩しさに
すべての女性が照らされて
心の底から魅せられて
"光の王"
世界を照す我らが
〔フェンランド童話 「幸福の王子様」 翻訳 平田恵子〕


彼の事は何度も警告されていました。

曰く、全ての女性を魅了するものである。
曰く、全ての混乱の元である。
曰く、彼は全てを破壊する。

その報告の全てが荒唐無稽であり、信じるに値しないものでした。
彼の出身校である桜町小学校での”男子不登校児童ゼロの奇跡”は、教育業界の話題を独占しました。その業績は評価されるに値するものでしょう。しかしながら、同校からもたらされた彼の情報は、余りにも非現実的過ぎるものであり、その意図を計りかねるものでした。
桜町小学校の木村菜々子校長は、一体何がしたいのか。正直彼女の良識を疑っていました。

我が私立桜泉学園中等部は、伝統と実績に裏付けられた一流の名門校であり、これまで数多く男子生徒を受け入れて来ました。
彼らは皆、世の女性から羨望の眼差しを向けられる、いわゆるイケメンと言われる者たちであり、我が校はそうした者たちを受け入れる為のノウハウが確立されています。
我が校の体制は万全でした。少なくとも彼、"ひろし君"が入学して来るまでは。

最初の異変は学園執行部からもたらされました。
それはとある筋からの情報により、入学式の体制に若干の修正を加えると言うものでした。
こうした事自体は然程さほど珍しい事ではありません。男子生徒の性格等を考慮し柔軟に対応するのは、割りと良くある事です。ただ、救護班の増員と言う点に若干の違和感を感じましたが。

その後の惨劇は"ひろし君の衝撃"として語られる事となりました。

彼、"ひろし君"は入学初日にしてこう呼ばれる様に成りました。
"光の王"と。

我が校の男子生徒は基本的にスカウトによって集められます。その基準はスポーツ、学力、権力、いずれかに置いて一流であり、容姿が優れていること。
彼らは我が校を目指す女子生徒の目標であり、希望。この男少女多の世の中で、優れた才能と優れた容姿を持つ理想の男性に出会うため、女子生徒は己を磨き続ける。その為の環境は私立桜泉学園我々が用意しよう。
尾崎秀悟生徒会長の口癖である"文句があるなら実力を示せ"は、我が校の理念そのものでした。
その全てが壊される。

これまでも圧倒的カリスマの持ち主は、何度か現れました。"暴虐の王"、"理不尽の王"、その者たちは皆"王"の称号をもって恐れうやまわれました。以降"王"の称号は生徒会会長・副生徒会会長を指す別名ともなりました。現生徒会長尾崎秀悟君は前者であり、副生徒会長皇一すめらぎはじめ君は後者であると言えます。
そうした意味で"ひろし君"は完全なる前者、しかも歴代最強と言っても過言ではないでしょう。
学園に混乱をもたらす"王"は、確かに存在しました。自然発生的に”王”と呼ばれたものたちは、そのカリスマから大なり小なりその傾向がありました。
我が校には、そうした場合のノウハウもマニュアルとして受け継がれ日々研鑽されて来ていました。
その全てが、"ひろし君"の前ではただの紙くずとなりました。
王の蹂躙、ひろし君は我が校の全ての女性を魅了しました。そう、それは女子生徒のみならず教職員、保護者、外部協力生、その全てに及びました。
学園の崩壊。
私の脳裏には最悪のシナリオが浮かんでいました。
ですが、その事態は想定の最小限の被害にとどまりました。

私たちは"ひろし君"について何も知らない。
私は急ぎ対策委員会を召集、彼の情報を洗い直しました。
そこで明らかになったのは、桜町小学校での戦慄の歴史でした。
女子生徒の暴走、教職員の暴走、生徒保護者の暴走。
どれもが全国ニュースとしていつ取り上げられても可笑しくないというものでした。
私に出来る事は、今まで馬鹿にしていた木村奈々子校長に恥も外聞もなく縋る事でした。
彼女はそんな私に慈愛の籠った声音で語り掛けてくれました。

「鬼龍院校長の心の内はとても理解できます。それはかつて私が通ってきた道だから。そんなあなたに、以前友人がくれた言葉を送ります。
”確かにひろし君は規格外だ。
その光で全ての女性を照すだろう。
だけど、そのかげで奔走する奴がいる。
あんたも何時か気が付く時が来るかもしれないよ。”
我が校の事を世間では”桜町小学校の軌跡”と呼んでいたりしますが、それは決して私たち教職員やひろし君だけの力で成し遂げたものではないんです。
確かそちらの学校に、当校からもう一人男子生徒が入学していたはずです。
私の友人は彼の事をこう称していました。
指揮者コンダクター
これまでの出来事をよくよく精査してみてください。
道はきっと見つかります。」

木村奈々子校長の言葉は、絶望の淵に立たされていた私に一筋の希望を与えてくれました。
彼女の言葉に従い、私たちは再び情報の洗い直しを行いました。その結果、我が校で起きたすべての事態の裏で、未然に対策を打っているものの存在に行きつきました。
桜町小学校出身、一年Aクラス高木康太。
マネジメント部の吉川を通じ様々な警告を行った少年。
”ひろし君の衝撃”を予見し、各種対策を打たせた少年。
女子生徒の暴走を予測し、理事会までもを動かして、新たな規約のもとラウンジの使用を許可させた少年。
暴走する男子生徒を誘導し、彼らを回復させた少年。

”ゾクッ“

全身に震えが走りました。
それは対策委員会に参加している職員、全ての表情からも明らかでした。

彼は表には出ない
先を読み 布石を打ち 相手に気付かせることなく
状況を操る
それはまるでオーケストラの指揮者コンダクターの様に

かげの王”
決して彼に逆らってはいけない

我々は想いを一つにしました。
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