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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー
第79話 のっぺりのお宅訪問 (4)(side:野口絵実)
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それから二年が経った。
小学校の勉強はリモート授業、提出物は郵送で行う事で何とかなった。男子の不登校児童対策で、こうしたケアは簡単に受ける事が出来たのだ。
通信でのメンタルケアの時、養護教諭の先生から、私の様な立場に追いやられ、不登校になっている女子生徒が他にもいる事を始めて知った。
小学校に行かなくなってからは、一人で家から出ることも無くなった。
母親と買い物に出る時が唯一外出する機会となった。
その頃から外出先での人の目が気になる様になった。
たまに見る男性からの値踏みする様な視線、私たちを愛玩動物かの様に見る視線。そんな私たちに嫉妬する女性の視線。
私は段々と人に会うのが嫌いになって行った。
4月になり中学校に進学する事となった。
中学校に上がれば、周辺地域の小学校から子どもたちが集まるため、今迄とは違うコミュニティを作る事も出来るはずだ。
だがしかし、学校には当時の事を知る女子生徒も沢山いるはず。
私は髪をオサゲにし、黒縁の伊達メガネを掛け、マスクをして、なるべく地味になる様に努めるのだった。
入学式を終え、クラスの教室で各自の自己紹介をしていた時だ。
「いつまで俺を待たせれば気が済むんだ!いい加減にしろ!」
私は自らの心臓が締め付けられるかと思った。
男子こいつらは中学生になっても何も変わらない。むしろ酷くなる一方だ。嫌だ、もうこんな所には来たくない。
次の日から、私は学校へ行くのを諦めた。
アイツが現れたのは、それから一週間ほど経った頃だった。
アイツの印象は訳の分からないやつ。いきなり現れて人の母親に鼻の下を伸ばす変態。誘われたからって初対面の人の家に図々しく上がり込む無遠慮な奴。
私はすぐに二階に上がり、部屋のドアを閉めた。
小学校の時のクラス担任の様に、部屋の前で何か騒ぎ立てるのではないか。
私の警戒を余所に、アイツはそれ以上踏み込んでは来なかった。
次の日も、また次の日も、アイツはやって来た。私は部屋に籠り、じっと気配を消していた。
一階からは、時々楽しそうな笑い声が聞こえて来る様になった。
「お母さんの笑い声を聞いたのって何時振りだろう…。」
思い起こせば私が小学校に行かなくなってから、すっかり笑わなくなっていたような…。そんな事にも気が付かなかったなんて。
お母さんに甘え、負担を強いていた。
その事実に気が付いた時、私は溢れる涙を止める事が出来なかった。
それからもアイツは訪れ続けた。そんなアイツを出迎えるお母さんの顔は、日に日に明るくなって行った。
夜、お母さんにおやすみの挨拶をしに居間に行くと、何やらタブレット画面でヨウツーベの動画を観ている所であった。
軽快なリズム感の有る音楽、跳び箱を飛び越える青年、平均台を滑り込みで潜り抜ける少年、それを追いかけ片手で飛び越える青年。駆ける、翔ぶ、跳ねる、躍動する男子たち。
何これ、私こんな男の子知らない!私の知るどの男性とも違う、生き生きとした目をした男の子たちが、其処には映し出されていた。。
"男子鬼ごっこ同好会、始動!!"
私は自分のスマホを取り出すと、すぐにチャンネル登録をするのだった。
「絵実ちゃんも気に入った?この動画ね、佐々木君たちなの~。もうお母さん、すっかりファンになっちゃった♪」
えぇ、これがアイツ!?
そういえば、前に渡された名刺にも"鬼ごっこ同好会"って書いてあった様な。
いくつか上がっている動画を観て見ると…、いた!
逆光のシルエットに映る姿、確かにアイツだ!
其処には颯爽と走り、鬼から逃げ続ける佐々木の姿があった。
"ドクンッ"
自分の鼓動の高鳴りが止まらない。
私はその晩、遅く迄動画を見続けるのであった。
「お邪魔しました。」
本当にアイツは何なんだ。
毎日飽きもせずやって来て、只お母さんとお茶をして帰って行く。
"あんたは私を迎えに来たんでしょう"
いや、私は何を考えているのよ、近頃自分がよく分からない。
「お母さん、アイツもう帰ったの?」
一階に降り、すでに分かりきっている事を聞く。
「絵実ちゃんもお茶にする?お茶菓子は佐々木君の残りで悪いんだけど。」
お母さんはとてもいい笑顔で聞いてきた。
私はこの笑顔を奪っていたんだ。
このままじゃ、私は私を許せなくなる。
私は男子が嫌いだ。大っ嫌いだ。
それに迎合する女子も嫌いだ。
でもあんな目をするアイツなら…
「お母さん、今まで心配ばかり掛けてごめんなさい。
私、明日から学校へ行って見ようと思う。」
まずは一歩を踏み出そう。
大好きなお母さんと一緒に笑う為に。
小学校の勉強はリモート授業、提出物は郵送で行う事で何とかなった。男子の不登校児童対策で、こうしたケアは簡単に受ける事が出来たのだ。
通信でのメンタルケアの時、養護教諭の先生から、私の様な立場に追いやられ、不登校になっている女子生徒が他にもいる事を始めて知った。
小学校に行かなくなってからは、一人で家から出ることも無くなった。
母親と買い物に出る時が唯一外出する機会となった。
その頃から外出先での人の目が気になる様になった。
たまに見る男性からの値踏みする様な視線、私たちを愛玩動物かの様に見る視線。そんな私たちに嫉妬する女性の視線。
私は段々と人に会うのが嫌いになって行った。
4月になり中学校に進学する事となった。
中学校に上がれば、周辺地域の小学校から子どもたちが集まるため、今迄とは違うコミュニティを作る事も出来るはずだ。
だがしかし、学校には当時の事を知る女子生徒も沢山いるはず。
私は髪をオサゲにし、黒縁の伊達メガネを掛け、マスクをして、なるべく地味になる様に努めるのだった。
入学式を終え、クラスの教室で各自の自己紹介をしていた時だ。
「いつまで俺を待たせれば気が済むんだ!いい加減にしろ!」
私は自らの心臓が締め付けられるかと思った。
男子こいつらは中学生になっても何も変わらない。むしろ酷くなる一方だ。嫌だ、もうこんな所には来たくない。
次の日から、私は学校へ行くのを諦めた。
アイツが現れたのは、それから一週間ほど経った頃だった。
アイツの印象は訳の分からないやつ。いきなり現れて人の母親に鼻の下を伸ばす変態。誘われたからって初対面の人の家に図々しく上がり込む無遠慮な奴。
私はすぐに二階に上がり、部屋のドアを閉めた。
小学校の時のクラス担任の様に、部屋の前で何か騒ぎ立てるのではないか。
私の警戒を余所に、アイツはそれ以上踏み込んでは来なかった。
次の日も、また次の日も、アイツはやって来た。私は部屋に籠り、じっと気配を消していた。
一階からは、時々楽しそうな笑い声が聞こえて来る様になった。
「お母さんの笑い声を聞いたのって何時振りだろう…。」
思い起こせば私が小学校に行かなくなってから、すっかり笑わなくなっていたような…。そんな事にも気が付かなかったなんて。
お母さんに甘え、負担を強いていた。
その事実に気が付いた時、私は溢れる涙を止める事が出来なかった。
それからもアイツは訪れ続けた。そんなアイツを出迎えるお母さんの顔は、日に日に明るくなって行った。
夜、お母さんにおやすみの挨拶をしに居間に行くと、何やらタブレット画面でヨウツーベの動画を観ている所であった。
軽快なリズム感の有る音楽、跳び箱を飛び越える青年、平均台を滑り込みで潜り抜ける少年、それを追いかけ片手で飛び越える青年。駆ける、翔ぶ、跳ねる、躍動する男子たち。
何これ、私こんな男の子知らない!私の知るどの男性とも違う、生き生きとした目をした男の子たちが、其処には映し出されていた。。
"男子鬼ごっこ同好会、始動!!"
私は自分のスマホを取り出すと、すぐにチャンネル登録をするのだった。
「絵実ちゃんも気に入った?この動画ね、佐々木君たちなの~。もうお母さん、すっかりファンになっちゃった♪」
えぇ、これがアイツ!?
そういえば、前に渡された名刺にも"鬼ごっこ同好会"って書いてあった様な。
いくつか上がっている動画を観て見ると…、いた!
逆光のシルエットに映る姿、確かにアイツだ!
其処には颯爽と走り、鬼から逃げ続ける佐々木の姿があった。
"ドクンッ"
自分の鼓動の高鳴りが止まらない。
私はその晩、遅く迄動画を見続けるのであった。
「お邪魔しました。」
本当にアイツは何なんだ。
毎日飽きもせずやって来て、只お母さんとお茶をして帰って行く。
"あんたは私を迎えに来たんでしょう"
いや、私は何を考えているのよ、近頃自分がよく分からない。
「お母さん、アイツもう帰ったの?」
一階に降り、すでに分かりきっている事を聞く。
「絵実ちゃんもお茶にする?お茶菓子は佐々木君の残りで悪いんだけど。」
お母さんはとてもいい笑顔で聞いてきた。
私はこの笑顔を奪っていたんだ。
このままじゃ、私は私を許せなくなる。
私は男子が嫌いだ。大っ嫌いだ。
それに迎合する女子も嫌いだ。
でもあんな目をするアイツなら…
「お母さん、今まで心配ばかり掛けてごめんなさい。
私、明日から学校へ行って見ようと思う。」
まずは一歩を踏み出そう。
大好きなお母さんと一緒に笑う為に。
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