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第一章 男女比世界へようこそ
第21話 俺様、再び。 (side:木村英雄)
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「本当によろしいのですか?
もう少しリハビリを行ってからの方が…」
「いや、構わない。
心配はもっともだが、何時までも立ち止まっている訳にもいかない。」
俺は西城の言葉を遮り、毅然と答えた。
病院でのリハビリは順調に進んだ。
治療開始当初は自分の母親や姉たちにすら、謎の恐怖心を抱いたものだ。
あの時母さんは、「生きていてごめんなさい、ごめんなさい。」と連呼するし、姉たちは白目を剥いて倒れるしで大変だった。母さんが果物ナイフを手にした時、西城が羽交い絞めにしていたが、あれはリンゴの皮を剥こうとしていたんだぞ?母さんは、俺がリンゴ好きなのを知っているからな。
まあ、そんな事もあったが、鈴木医師の治療方針は的確であったのだろう。
今では特に何か異常が現れると言うこともない、退院の日も近い。
鈴木医師や西城との別れも…。
このまま病気が治らなければ…。
駄目だな、こんな事を考えるとは、二人に失礼過ぎる。
どうも俺は心が弱くなってしまっている様だ。
今日の熱砂スパランドでのリハビリは、俺にとっての最終試験でもある。
俺が完治したことを証明し、二人を安心させなければ。
更衣室の鏡に写る自分にそう言い聞かせ、プールサイドで待つ西城の元へ向かった。
西城はすぐに見つかった。白いビキニに身を包んだ彼女は、誰よりも人目を引く存在感を放っていた。
「待たせたな。」
「いえ、その様な事は。
それよりも幾つかのアトラクションがございますが、どちらから参りましょうか?」
確かにここのプールには、様々なアトラクションがある。巨大なバケツから滝の様に水が掛けられるのも面白そうだが、本日の目的はリハビリの最終試験だ。謎の恐怖に打ち勝つには、恐怖を克服する必要がある。俺は迷うこと無く絶叫系アトラクション、"巨大ウォータースライダー"へと、足を向けるのであった。
「そこで何をしている。」
スライダーの入口付近には、多くの人だかりが出来ていた。その中でも、一際騒がしい集団が気になり目を向けると、一人の少年が複数の女性に取り囲まれていた。
少年と女性たちは知り合いと言う風でもない。それよりも、少年のあの目。
俺はあの目をよく知っている。鏡に写る俺の目だ。
気が付けば、俺は彼等に声を掛けていた。
「なんだい、今良いところなんだから邪魔しないでくれないかい?」
「あら、こっちの彼もなかなかイケメンじゃない?」
「ねえねえ、君一人?良かったら一緒に遊ばない?」
は~っ、全く度しがたい。これは一つ教育してやらねばならないな。
「お前たち、さっきから見ていれば、何も解っていない。そんな態度では、相手にされる訳がないではないか。そこの彼が怯えているのに気が付かなかったのか?」
本気で気が付いていなかった様だ。
こちらの問いかけに目を見開く女性たち。
彼女たちは、男性に接する機会もなかったのだろう。少男女多の昨今、こうした女性は珍しくはないのだ。
俺は手前の女性に近づくと、その頬に触れ、目を見詰めながら話し掛けた。
「なぜそんなに自分を貶める。
お前たちの瞳はこんなにも美しいのに、お前たち自身がその美しさを歪めている。
もっと自身を大切にしろ。」
そう語り掛け、頬の手を頭にやり、幼子にする様に優しく髪を撫でた。
「そこの君、同行の者がいるのではないか?心配しているかもしれない。
早く戻ってやるといい。」
少年にそう促すと、彼は丁寧な礼を述べてから、家族であろう連れの元へ戻って行った。
「ママ~、お顔が赤くなってるよ?
お熱があるの~?」
声がする方を振り向くと、先ほどの女性の側に、小学校低学年くらいの女の子が立っていた。
なんだ、何が起きている?
手足が震える、息が苦しい。
怖い、あの少女が怖い。
西城、西城はどこだ…。
「木村様、どうかなさいましたか?
西城はここに居ります。」
あぁ、西城。
呼吸が徐々に整い始める。
大丈夫、俺は大丈夫。
「木村様、久しぶりの人混みで、少々お疲れが出た様に見受けられます。
あちらの喫茶コーナーで、少しの間、お休みになられてはいかがでしょうか?」
「あぁ、そうだな。西城の言う通りかもしれない。少し休むとしよう。」
俺は女性たちに断りをいれ、その場を後にするのだった。
もう少しリハビリを行ってからの方が…」
「いや、構わない。
心配はもっともだが、何時までも立ち止まっている訳にもいかない。」
俺は西城の言葉を遮り、毅然と答えた。
病院でのリハビリは順調に進んだ。
治療開始当初は自分の母親や姉たちにすら、謎の恐怖心を抱いたものだ。
あの時母さんは、「生きていてごめんなさい、ごめんなさい。」と連呼するし、姉たちは白目を剥いて倒れるしで大変だった。母さんが果物ナイフを手にした時、西城が羽交い絞めにしていたが、あれはリンゴの皮を剥こうとしていたんだぞ?母さんは、俺がリンゴ好きなのを知っているからな。
まあ、そんな事もあったが、鈴木医師の治療方針は的確であったのだろう。
今では特に何か異常が現れると言うこともない、退院の日も近い。
鈴木医師や西城との別れも…。
このまま病気が治らなければ…。
駄目だな、こんな事を考えるとは、二人に失礼過ぎる。
どうも俺は心が弱くなってしまっている様だ。
今日の熱砂スパランドでのリハビリは、俺にとっての最終試験でもある。
俺が完治したことを証明し、二人を安心させなければ。
更衣室の鏡に写る自分にそう言い聞かせ、プールサイドで待つ西城の元へ向かった。
西城はすぐに見つかった。白いビキニに身を包んだ彼女は、誰よりも人目を引く存在感を放っていた。
「待たせたな。」
「いえ、その様な事は。
それよりも幾つかのアトラクションがございますが、どちらから参りましょうか?」
確かにここのプールには、様々なアトラクションがある。巨大なバケツから滝の様に水が掛けられるのも面白そうだが、本日の目的はリハビリの最終試験だ。謎の恐怖に打ち勝つには、恐怖を克服する必要がある。俺は迷うこと無く絶叫系アトラクション、"巨大ウォータースライダー"へと、足を向けるのであった。
「そこで何をしている。」
スライダーの入口付近には、多くの人だかりが出来ていた。その中でも、一際騒がしい集団が気になり目を向けると、一人の少年が複数の女性に取り囲まれていた。
少年と女性たちは知り合いと言う風でもない。それよりも、少年のあの目。
俺はあの目をよく知っている。鏡に写る俺の目だ。
気が付けば、俺は彼等に声を掛けていた。
「なんだい、今良いところなんだから邪魔しないでくれないかい?」
「あら、こっちの彼もなかなかイケメンじゃない?」
「ねえねえ、君一人?良かったら一緒に遊ばない?」
は~っ、全く度しがたい。これは一つ教育してやらねばならないな。
「お前たち、さっきから見ていれば、何も解っていない。そんな態度では、相手にされる訳がないではないか。そこの彼が怯えているのに気が付かなかったのか?」
本気で気が付いていなかった様だ。
こちらの問いかけに目を見開く女性たち。
彼女たちは、男性に接する機会もなかったのだろう。少男女多の昨今、こうした女性は珍しくはないのだ。
俺は手前の女性に近づくと、その頬に触れ、目を見詰めながら話し掛けた。
「なぜそんなに自分を貶める。
お前たちの瞳はこんなにも美しいのに、お前たち自身がその美しさを歪めている。
もっと自身を大切にしろ。」
そう語り掛け、頬の手を頭にやり、幼子にする様に優しく髪を撫でた。
「そこの君、同行の者がいるのではないか?心配しているかもしれない。
早く戻ってやるといい。」
少年にそう促すと、彼は丁寧な礼を述べてから、家族であろう連れの元へ戻って行った。
「ママ~、お顔が赤くなってるよ?
お熱があるの~?」
声がする方を振り向くと、先ほどの女性の側に、小学校低学年くらいの女の子が立っていた。
なんだ、何が起きている?
手足が震える、息が苦しい。
怖い、あの少女が怖い。
西城、西城はどこだ…。
「木村様、どうかなさいましたか?
西城はここに居ります。」
あぁ、西城。
呼吸が徐々に整い始める。
大丈夫、俺は大丈夫。
「木村様、久しぶりの人混みで、少々お疲れが出た様に見受けられます。
あちらの喫茶コーナーで、少しの間、お休みになられてはいかがでしょうか?」
「あぁ、そうだな。西城の言う通りかもしれない。少し休むとしよう。」
俺は女性たちに断りをいれ、その場を後にするのだった。
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