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こんにちは、転生勇者様
第46話 森の賢者御一行、魔境マルセル村に到着する
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「ドレイク村長、貴方は本当に人が良いと言うか。行き成りこれ程の人数を引き受けて、マルセル村の冬場の食料は大丈夫なのですか?うちの村からも協力出来れば良いのですが、お恥ずかしい話し私の所も一杯一杯なものでして。」
荷馬車に揺られる事半日、何とか日が落ちる前にゴルド村に辿り着いた我々マルセル村一行は、ゴルド村のホルン村長の歓待を受けるも、呆れられると言うか心配されると言うか。まぁ、普通に考えれば辺境の、しかも冬場の寒村が引き受けていい人数の移民じゃないわな~。
でもホルン村長、忘れてはおりませんかな?我が村に何があるのかを。
「ハハハハ、全く持ってお恥ずかしい。私も若かったと言いますか、ビッグワーム農法を皆さんが受け入れてくれた事に気が大きく成ってしまったと言いますか。幸いスルベ村とマルガス村の両村長にはこのビッグワーム農法の普及を機会に互いに和解する事を了承して頂けました。
ですがそうなると問題になるのが両村の間に緩衝地帯の様に建てられた彼ら“よそ者”の居住区なんですよ、この居住区は今後の両村の関係に暗い影を落としかねない。
そこで私達は彼ら“よそ者”居住区の人達と話し合いを行い、我がマルセル村に移住して頂く事としたのです。これも全ては五箇村の農業重要地区入りの為の布石、それに彼らは今後のマルセル村発展に力を貸してくれる大切な仲間です。共に手を取り合うのは必然だった訳ですよ。
最大の理由としては我が村にはビッグワーム農法がある、美味しい干し肉なら売る程有りますからね。」
そう言い悪戯そうにウインクをするドレイク村長代理、役者だな~。ついさっき迄完全に廃人状態だったとはとても思えない、元商人は伊達ではない、流石です。
えっ、それじゃスルベ村ではどうしたのかって?そんなものこのケビンが丸め込んだに決まってるじゃないですか。マルス村長に“実は”と言って声をひそめながら、“良さげな食い詰め者を見つけたので、ビッグワーム肉で釣ってマルセル村の新規事業の為に労働力として役立てる事にした。”って言って悪そうな顔でニヤリとしたら、お主も悪よの~って感じで同様に悪そうな顔で握手してくれました。
やっぱりこの村長ノリがいいわ。“よそ者”地区のバラック小屋は一応全部解体してあるけどやたらな人間が住み着きでもしたら大変なので後片付けを依頼、マルガス村のセージ村長にも連絡しておいて欲しいとの伝言を頼み、スルベ村を後にしたって訳です。
で、肝心のスラム住民ですが、現在村長宅周辺にテントを建てて夕食の準備をしておられます。薪はバラック小屋解体時に大量に手に入りましたからね、食材は余ったビッグワーム干し肉、本来はホルン村長宅にお礼がてらお渡しする予定だったんですが事情が事情なんで諦めて頂きました。ですのでそんなに悲しそうな顔をしないで下さい、今度また持って来ますから。それに暫く待てばゴルド村でも売る程生産出来ますからね?ビッグワームって繁殖力が強い上に成長も早いからな~。ちゃんと収穫しないと緑や黄色見たいにデカくなる可能性もありますから、注意して下さいね。
それでちょっと皆さんの様子が気に成ったんでテントにお邪魔したんですけど、このテント、めっちゃ暖かいの。保温率が目茶苦茶良いと言うか、少しの熱で内部全体が暖まる断熱仕様、これって絶対普通の素材じゃないよね?ドレイク村長代理にバレない様にしてね、こんなもの見たらあの人目の色変わっちゃうから。元商人ってのは伊達じゃないのよ、何でも商材にしようとするから。
この手の商品を売り出すのにはまだマルセル村は弱過ぎます。ビッグワーム肉改もそうですが、優れた商品はそれを売り出す為の大きな後ろ支えが必要。そうじゃないとあっという間に野獣どもに食い荒らされて終わってしまいますからね。
ドレイク村長代理が周辺五箇村の農業重要地区入りなんて迂遠な方法を取るのだって、自分の思いを正しく実現させる為に必要な事だから。
本気でこれらの商品を売り出したかったら、最低でもグロリア辺境伯爵様から直接売り出して頂くくらいの事をしないと命がいくつあっても足りない。
ですので皆さん十分気を付けて下さいね、言い訳や次善策の準備は必須ですからね。
俺の諸注意に初め何の事かとボケッとしていた住民達も、次第に理解したのか表情を真剣なものへと変える。ま、そうは言っても便利な物を使わないなんて馬鹿なことはしたくない、だったら頭を使いましょうって話しなんですが。
「ねぇケビン君、貴方は本当にただの村の子供なのですか?老獪な長命種の者が姿を変えているとかではなく?」
表情を引き攣らせながらしゃがれ声でそんな事をのたまうお婆さん(偽)。口調が元に戻ってますよ?凄い違和感。
でも失礼じゃね?俺って何処をどう見ても純真な少年じゃないですか。まぁ、顔付きは父親似なんでワイルド系ですが。・・・すみません、取り繕いました、オーガ系です。
何故だ、弟ジミーは柔らかな甘い顔付き、でも甘過ぎないクッキー系?母メアリー似のややタレ目、お姉様方のハートを掴んで離さない仔犬系男子。
でも気を付けて、彼って中身が修羅だから、笑いながら戦場に飛び込むタイプだから!
方や私《わたくし》顔面オーガの小鬼タイプ、黙ってるだけで怒っていると間違われかねない損な顔。中身は角無しホーンラビット、根回し詐術は当たり前、危険は絶対回避でござる。
本当にこれでよく隠れ里に入れて貰えたよな~、えっ、雰囲気が全く違ってた?物腰の柔らかい紳士に見えた?
うん、全てはドレイク村長代理の教えの賜物ですね、あの人以前は目茶苦茶悪人顔をしていたのに交渉事が得意だったもんな~。実はあの方、寒村の村長の癖にやたら太ってたんっすよ~。それでですね。
その後もマルセル村の事や村長の話題で盛り上がるケビン少年なのでありました。
―――――――――――――――
「さぁ皆さん、ここがマルセル村です。特になにもない寒村ではありますが、干し肉には困りませんのでご安心下さい。」
ドレイク村長代理に紹介されたマルセル村は、本当に何処にでもある牧歌的な寒村と言った所でした。でもよくよく考えるとその時点で既におかしい事に気が付きます。何も無い筈の辺境の寒村が牧歌的?チラリと覗いた村のお年寄りの女性はとても血色が良く健康的、これ迄そんな寒村を見たことがあったでしょうか?
ケビン君に指摘されてはじめて気が付いた違和感、確かにこれは目に留まってしまいますね。かつて私が作り上げた集落も皆の健康には気を配っていました。それがボロ屋に住む弾かれ者としてはおかしな事であるとも気付かずに。
「それでは皆さんを村の者へご紹介致します。今の時分はボビー師匠の訓練場にいると思いますので。」
そう言い村の中を案内する村長代理、その道中目にする家屋はどれも綺麗に修復されており、困窮している村といった雰囲気は見られない。これもビッグワーム農法とやらの恩恵なのでしょうか。
それは驚きの光景でした。おそらくこの村の住民であろう女性が、男性が、子供が、老人が。
「だからいつも言ってるだろうが、少しは家事を手伝えグータラ爺~!!」
“ドカドカドカドカ”
「喧しい、冬場くらいのんびりさせろ!それともっと晩酌を寄越せオーガ婆~!!」
“ドガドガドガドカ”
「行くよ、ジミー君!複合魔法剣、火炎旋風斬!」
“ゴフーッ”
「フッ、魔力の収縮が甘いな。無魔法剣術一の型、瞬転無双。」
“バシュ、ドドドドドッ”
自分達は一体何を見せられているのか、ここは辺境の寒村ではなかったのか。これはどう見ても国家に対抗出来るだけの戦力、油断をすれば騎士団ですら数刻と待たずに壊滅せしめる戦闘集団、マルセル村は国からの独立でも目論んでいると言うのか!?
移住者たちはこの信じられない光景に、冬の寒さなど忘れたかの様に背中に冷たい汗を流す。
「はい皆さん、剣術ごっこはその辺にしてこちらを向いて下さい。」
はっ?ドレイク村長代理は今何と?マルセル村ではあれだけの激しい戦闘訓練も、ただのお遊びだとでも言うのか。
だが声を掛けられた村人たちは、まるで何もなかったかの様にすんなりと集まって来る。つまり彼らにとって先程迄の訓練はその程度の事だったと言うことなのだ。
「皆さんにご紹介致します。今度我がマルセル村の一員と成られました移住者の方々です。言わなくても分かると思いますが所謂訳アリの方々となります。皆さんよろしくお願いします。」
「ドレイク村長代理、これだけの人数では家の数が足らないのではないですか?」
村人の一人が声を掛けるがドレイク村長代理は直ぐに答えを返す。
「暫くは共同生活をして頂きます。今ある空き家に五名、残りの方はケビン君の改装小屋を利用して頂くつもりです。」
“ザワザワザワ”
先程までの統制は何処へやら、一斉に騒ぎ始める村人達、彼らは一様に“あそこは慣れてからでないとまずいのでは”と口にする。中には自分の家で数名引き受けてもいいと言う村人も出る程、一体ケビン君の改装小屋に何があると言うのか!?
「まぁそうですよね。僕、ちょっと呼んで来ますんで、少々待って貰ってもいいですか?」
そう言い何処かへと走り出すケビン君。待つこと暫し、しかしてそれは現れた。
“ゾゾゾゾゾゾッ”
濃紺色の煌めく鱗、二体の巨大な蛇!?
“ボヨンッボヨンッ”
跳び跳ねる漆黒の体、それはスライム、いや、あのサイズはビッグスライム?それにしても大きくはないだろうか。
“タッタッタッタッ”
その脇を走るケビン君、頭に乗るのはキャタピラー、そして腕に抱える魔物はホーンラビット!?
えっ?なんで?
「こいつらは僕のペットですね。実験用魔物一号スライムの“大福”、二号三号ビッグワームの“緑”に“黄色”、四号ホーンラビットの“団子”、五号キャタピラーの“紬”です。仲良くしてあげて下さいね。」
そう言い魔物達と戯れるケビン君。彼って授けの儀の前だったよね?なんで魔物を使役出来てるの?いくら最下層魔物とは言えおかしくない?それもこんなに沢山。
「そうそう、前にスライムとビッグワームって目茶苦茶強いって話したじゃないですか。今それを御見せしますね。」
飛び交う魔法弾、ぶつかり合い弾け飛ぶ三匹の魔物とケビン君。それを離れた場所で眺めながら“やっぱり村一番の仮性は半端無いね~”とか“あれでいて準備運動って、子供は元気だよね~”とか語り合う村人達。
目の前で繰り広げられている激闘がただの準備運動!?金級冒険者が裸足で逃げ出しそうなこれが!?
笑顔で囃し立てる大人達、参加したそうに目を輝かせる子供たち、これがマルセル村。
自分たちはとんでもない魔境に来てしまったのかも知れない。
森の賢者と謳われ、数々の魔術を自在に操るエルフ族の女性は、自分さえいればどうとでもなると言う絶対的な自信がただの慢心であったのだと、“うちの村の人間はみんな大なり小なり似た様な事が出来ますから”と言ったケビン少年の言葉が真実であったのだと、そのとんでもない事実をまざまざと見せつけられ、偽った姿である事も忘れその場に立ち尽くすのであった。
荷馬車に揺られる事半日、何とか日が落ちる前にゴルド村に辿り着いた我々マルセル村一行は、ゴルド村のホルン村長の歓待を受けるも、呆れられると言うか心配されると言うか。まぁ、普通に考えれば辺境の、しかも冬場の寒村が引き受けていい人数の移民じゃないわな~。
でもホルン村長、忘れてはおりませんかな?我が村に何があるのかを。
「ハハハハ、全く持ってお恥ずかしい。私も若かったと言いますか、ビッグワーム農法を皆さんが受け入れてくれた事に気が大きく成ってしまったと言いますか。幸いスルベ村とマルガス村の両村長にはこのビッグワーム農法の普及を機会に互いに和解する事を了承して頂けました。
ですがそうなると問題になるのが両村の間に緩衝地帯の様に建てられた彼ら“よそ者”の居住区なんですよ、この居住区は今後の両村の関係に暗い影を落としかねない。
そこで私達は彼ら“よそ者”居住区の人達と話し合いを行い、我がマルセル村に移住して頂く事としたのです。これも全ては五箇村の農業重要地区入りの為の布石、それに彼らは今後のマルセル村発展に力を貸してくれる大切な仲間です。共に手を取り合うのは必然だった訳ですよ。
最大の理由としては我が村にはビッグワーム農法がある、美味しい干し肉なら売る程有りますからね。」
そう言い悪戯そうにウインクをするドレイク村長代理、役者だな~。ついさっき迄完全に廃人状態だったとはとても思えない、元商人は伊達ではない、流石です。
えっ、それじゃスルベ村ではどうしたのかって?そんなものこのケビンが丸め込んだに決まってるじゃないですか。マルス村長に“実は”と言って声をひそめながら、“良さげな食い詰め者を見つけたので、ビッグワーム肉で釣ってマルセル村の新規事業の為に労働力として役立てる事にした。”って言って悪そうな顔でニヤリとしたら、お主も悪よの~って感じで同様に悪そうな顔で握手してくれました。
やっぱりこの村長ノリがいいわ。“よそ者”地区のバラック小屋は一応全部解体してあるけどやたらな人間が住み着きでもしたら大変なので後片付けを依頼、マルガス村のセージ村長にも連絡しておいて欲しいとの伝言を頼み、スルベ村を後にしたって訳です。
で、肝心のスラム住民ですが、現在村長宅周辺にテントを建てて夕食の準備をしておられます。薪はバラック小屋解体時に大量に手に入りましたからね、食材は余ったビッグワーム干し肉、本来はホルン村長宅にお礼がてらお渡しする予定だったんですが事情が事情なんで諦めて頂きました。ですのでそんなに悲しそうな顔をしないで下さい、今度また持って来ますから。それに暫く待てばゴルド村でも売る程生産出来ますからね?ビッグワームって繁殖力が強い上に成長も早いからな~。ちゃんと収穫しないと緑や黄色見たいにデカくなる可能性もありますから、注意して下さいね。
それでちょっと皆さんの様子が気に成ったんでテントにお邪魔したんですけど、このテント、めっちゃ暖かいの。保温率が目茶苦茶良いと言うか、少しの熱で内部全体が暖まる断熱仕様、これって絶対普通の素材じゃないよね?ドレイク村長代理にバレない様にしてね、こんなもの見たらあの人目の色変わっちゃうから。元商人ってのは伊達じゃないのよ、何でも商材にしようとするから。
この手の商品を売り出すのにはまだマルセル村は弱過ぎます。ビッグワーム肉改もそうですが、優れた商品はそれを売り出す為の大きな後ろ支えが必要。そうじゃないとあっという間に野獣どもに食い荒らされて終わってしまいますからね。
ドレイク村長代理が周辺五箇村の農業重要地区入りなんて迂遠な方法を取るのだって、自分の思いを正しく実現させる為に必要な事だから。
本気でこれらの商品を売り出したかったら、最低でもグロリア辺境伯爵様から直接売り出して頂くくらいの事をしないと命がいくつあっても足りない。
ですので皆さん十分気を付けて下さいね、言い訳や次善策の準備は必須ですからね。
俺の諸注意に初め何の事かとボケッとしていた住民達も、次第に理解したのか表情を真剣なものへと変える。ま、そうは言っても便利な物を使わないなんて馬鹿なことはしたくない、だったら頭を使いましょうって話しなんですが。
「ねぇケビン君、貴方は本当にただの村の子供なのですか?老獪な長命種の者が姿を変えているとかではなく?」
表情を引き攣らせながらしゃがれ声でそんな事をのたまうお婆さん(偽)。口調が元に戻ってますよ?凄い違和感。
でも失礼じゃね?俺って何処をどう見ても純真な少年じゃないですか。まぁ、顔付きは父親似なんでワイルド系ですが。・・・すみません、取り繕いました、オーガ系です。
何故だ、弟ジミーは柔らかな甘い顔付き、でも甘過ぎないクッキー系?母メアリー似のややタレ目、お姉様方のハートを掴んで離さない仔犬系男子。
でも気を付けて、彼って中身が修羅だから、笑いながら戦場に飛び込むタイプだから!
方や私《わたくし》顔面オーガの小鬼タイプ、黙ってるだけで怒っていると間違われかねない損な顔。中身は角無しホーンラビット、根回し詐術は当たり前、危険は絶対回避でござる。
本当にこれでよく隠れ里に入れて貰えたよな~、えっ、雰囲気が全く違ってた?物腰の柔らかい紳士に見えた?
うん、全てはドレイク村長代理の教えの賜物ですね、あの人以前は目茶苦茶悪人顔をしていたのに交渉事が得意だったもんな~。実はあの方、寒村の村長の癖にやたら太ってたんっすよ~。それでですね。
その後もマルセル村の事や村長の話題で盛り上がるケビン少年なのでありました。
―――――――――――――――
「さぁ皆さん、ここがマルセル村です。特になにもない寒村ではありますが、干し肉には困りませんのでご安心下さい。」
ドレイク村長代理に紹介されたマルセル村は、本当に何処にでもある牧歌的な寒村と言った所でした。でもよくよく考えるとその時点で既におかしい事に気が付きます。何も無い筈の辺境の寒村が牧歌的?チラリと覗いた村のお年寄りの女性はとても血色が良く健康的、これ迄そんな寒村を見たことがあったでしょうか?
ケビン君に指摘されてはじめて気が付いた違和感、確かにこれは目に留まってしまいますね。かつて私が作り上げた集落も皆の健康には気を配っていました。それがボロ屋に住む弾かれ者としてはおかしな事であるとも気付かずに。
「それでは皆さんを村の者へご紹介致します。今の時分はボビー師匠の訓練場にいると思いますので。」
そう言い村の中を案内する村長代理、その道中目にする家屋はどれも綺麗に修復されており、困窮している村といった雰囲気は見られない。これもビッグワーム農法とやらの恩恵なのでしょうか。
それは驚きの光景でした。おそらくこの村の住民であろう女性が、男性が、子供が、老人が。
「だからいつも言ってるだろうが、少しは家事を手伝えグータラ爺~!!」
“ドカドカドカドカ”
「喧しい、冬場くらいのんびりさせろ!それともっと晩酌を寄越せオーガ婆~!!」
“ドガドガドガドカ”
「行くよ、ジミー君!複合魔法剣、火炎旋風斬!」
“ゴフーッ”
「フッ、魔力の収縮が甘いな。無魔法剣術一の型、瞬転無双。」
“バシュ、ドドドドドッ”
自分達は一体何を見せられているのか、ここは辺境の寒村ではなかったのか。これはどう見ても国家に対抗出来るだけの戦力、油断をすれば騎士団ですら数刻と待たずに壊滅せしめる戦闘集団、マルセル村は国からの独立でも目論んでいると言うのか!?
移住者たちはこの信じられない光景に、冬の寒さなど忘れたかの様に背中に冷たい汗を流す。
「はい皆さん、剣術ごっこはその辺にしてこちらを向いて下さい。」
はっ?ドレイク村長代理は今何と?マルセル村ではあれだけの激しい戦闘訓練も、ただのお遊びだとでも言うのか。
だが声を掛けられた村人たちは、まるで何もなかったかの様にすんなりと集まって来る。つまり彼らにとって先程迄の訓練はその程度の事だったと言うことなのだ。
「皆さんにご紹介致します。今度我がマルセル村の一員と成られました移住者の方々です。言わなくても分かると思いますが所謂訳アリの方々となります。皆さんよろしくお願いします。」
「ドレイク村長代理、これだけの人数では家の数が足らないのではないですか?」
村人の一人が声を掛けるがドレイク村長代理は直ぐに答えを返す。
「暫くは共同生活をして頂きます。今ある空き家に五名、残りの方はケビン君の改装小屋を利用して頂くつもりです。」
“ザワザワザワ”
先程までの統制は何処へやら、一斉に騒ぎ始める村人達、彼らは一様に“あそこは慣れてからでないとまずいのでは”と口にする。中には自分の家で数名引き受けてもいいと言う村人も出る程、一体ケビン君の改装小屋に何があると言うのか!?
「まぁそうですよね。僕、ちょっと呼んで来ますんで、少々待って貰ってもいいですか?」
そう言い何処かへと走り出すケビン君。待つこと暫し、しかしてそれは現れた。
“ゾゾゾゾゾゾッ”
濃紺色の煌めく鱗、二体の巨大な蛇!?
“ボヨンッボヨンッ”
跳び跳ねる漆黒の体、それはスライム、いや、あのサイズはビッグスライム?それにしても大きくはないだろうか。
“タッタッタッタッ”
その脇を走るケビン君、頭に乗るのはキャタピラー、そして腕に抱える魔物はホーンラビット!?
えっ?なんで?
「こいつらは僕のペットですね。実験用魔物一号スライムの“大福”、二号三号ビッグワームの“緑”に“黄色”、四号ホーンラビットの“団子”、五号キャタピラーの“紬”です。仲良くしてあげて下さいね。」
そう言い魔物達と戯れるケビン君。彼って授けの儀の前だったよね?なんで魔物を使役出来てるの?いくら最下層魔物とは言えおかしくない?それもこんなに沢山。
「そうそう、前にスライムとビッグワームって目茶苦茶強いって話したじゃないですか。今それを御見せしますね。」
飛び交う魔法弾、ぶつかり合い弾け飛ぶ三匹の魔物とケビン君。それを離れた場所で眺めながら“やっぱり村一番の仮性は半端無いね~”とか“あれでいて準備運動って、子供は元気だよね~”とか語り合う村人達。
目の前で繰り広げられている激闘がただの準備運動!?金級冒険者が裸足で逃げ出しそうなこれが!?
笑顔で囃し立てる大人達、参加したそうに目を輝かせる子供たち、これがマルセル村。
自分たちはとんでもない魔境に来てしまったのかも知れない。
森の賢者と謳われ、数々の魔術を自在に操るエルフ族の女性は、自分さえいればどうとでもなると言う絶対的な自信がただの慢心であったのだと、“うちの村の人間はみんな大なり小なり似た様な事が出来ますから”と言ったケビン少年の言葉が真実であったのだと、そのとんでもない事実をまざまざと見せつけられ、偽った姿である事も忘れその場に立ち尽くすのであった。
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