転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora

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こんにちは、転生勇者様

第36話 村人転生者、助手を得る

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”コネコネコネコネ”
”ペタペタペタ”
お~い、緑~、レンガの追加をお願い~。黄色はそっちの”舟”で粘土を捏ねといて~、ちょっと足りないかも。
”ペタペタペタ”
えっ、何をやってるのか?空き家の修復ですが何か?

ヨーク村でのビッグワーム農法の実演講習会、簡単に言えば優良肥料の作り方ってだけなんですが、無事終了いたしました。ビッグワームの餌もその辺の草にスライムの細切れを混ぜて与えるだけだしね。元々は水辺のスライムを与える事で臭みを抜くと言うのがスライムを与える理由だったんですが、草原にいるスライムを餌に混ぜて与えた場合でもビッグワームの肉質は改善すると言う事が実験の結果分かっております。今後ビッグワーム農法を広めるにあたって水辺スライムがいない地域もありますからね、その辺の検証は重要ですし。ただ肥料を得るという目的であれば森のスライムだろうが下水道のスライムだろうが構わないとは思うんですけど(魔力の関係?)、飼育したビッグワームを食べるとなると臭みの事は気にしないといけませんし。ビッグワーム肉最大の欠点であった臭みも何でも食べるというビッグワームの特性から来る結果が原因でしたから。実験した事は無いんですがトイレのスライムを食べさせたらやっぱり臭みは出ると思うんですよね。それともスライム自体が分解吸収してるから全く問題ないんだろうか、この実験はちょっと怖いのでやれませんが。下水道スライムやおトイレスライムの抗菌能力って凄いんだろうな~。
以前畑にスライムを撒いて癒し草の栽培に成功しましたが、スライムの細切れは他の作物の栽培にも有効です。どうやらこの世界の植物は魔力豊富な土地の方が生育が良い様です。そりゃ魔法薬に使う高級素材が魔境や魔の森と言われる場所に行かないと取れない訳です、そう言った場所は魔力が豊富ですからね。その分魔物も精強、魔力による活性化の影響なんでしょうね。魔物は魔力が大好き、強い魔物程魔力豊富な土地にいがち。スライムを畑に撒く⇒魔力が豊富になり作物が良く育つ⇒魔物がやって来る。(orz)
そう言う訳でこの考察は”まどうのしょ”に封印されたって言う訳です。今でも我が畑の癒し草栽培区画では続けているんですけどね。だって癒し草は緑と黄色の餌ですし、ミニワームプールのポーションビッグワームにも与えないといけませんし。
守護獣が守る我が畑はいたって平和でございます。(多分)

ヨーク村からの帰り道は一度ゴルド村によって一泊。ゴルド村ではホルン村長が村でのワームプール建設の進捗状況を教えてくれました。流石は元石工職人、仕事が早い。すでに四基の建設が終了し残り五基。始めに俺が穴掘りをした村長の畑脇のワームプールは稼働を始めているとの事。冬場の時期でもビッグワームは森の落ち葉の中を漁ればすぐに見つかりますからね。スライムは村外れの貯水池にいるとの事なのでゴルド村でのスライム確保は問題ないでしょう。一応草原のスライムでも問題ない事は伝えてありますし、完成した干し肉の試食もして貰っています。俺なんかはこの風味の違いが気になったりするんですが、おじさん方は全く気にならない様です。これも世界観ギャップって言う奴なんですかね?今度ジェイク君で実験、もとい試食して貰おうかな?
で、話しは一緒に連れてきたガリガリ親子の事に。ま、気になりますよね~。見るからに難民、いつ死んでもおかしくない感じですし。
ドレイク村長代理がこの二人を連れ出した経緯をざっと説明、ホルン村長も渋い顔をなさっておられます。でもこの親子の様な話は結構ざら、辺境の地では当たり前のようにあったりします。大きな町や村、領都の様な都心ではよそ者なんて掃いて捨てるほどいて誰も気にしませんが、田舎の小さな村、辺境の様な閉塞社会ではよそ者イコール危険人物ですからね。警戒するのは当たり前、排斥排除は日常だったりします。
ゴルド村はこの辺では街に続く通過点の様な扱いなので然程よそ者は居つかない様ですが、マルセル村やヨーク村、これから向かう予定のスベル村やマルガス村には様々な理由を抱えた”よそ者”がやって来るそうです。
”粗暴な連中は困るがそうでなければうちの村に送って貰って構わないから。”
笑顔でホルン村長にそう語るドレイク村長代理、懐が広い。俺の尊敬する大人はやっぱり格好いいです。
因みに俺がキャタピラーを調理して食べた話はホルン村長始め奥様もドン引きなさっておられました。キャタピラー美味しいのに。(ぐすん)
”ウチの仮性って凄いでしょう?”ってドレイク村長代理、酷くない?

マルセル村に帰ってからは家の確保、幸い村には後二棟空き家があった為その内の一棟を貸し与える事になりました。都市部ではそうではありませんが、村の様な人口が少ない場所ではその家に誰も住まない状態、亡くなったり出て行ったりした場合はその建物は村の管理下に置かれます。誰かが管理しなければ建物が傷むという理由もありますが、一番は安全対策。不審者や野生動物、魔物なんかが住み着く恐れがあるんですよね。事件や事故で人が住まなくなった建物にゴースト系魔物が住み着いたなんて話はこの国でも普通にあるからな~。(元冒険者のお爺さん情報)
なんで空き家は村長が一括管理、閉塞社会での村長権限ってめちゃくちゃ強いんですよね。
で、現在その建物の修繕作業の真っ最中。以前村中の建物を直したって言ってなかったかって?誰も住んでない家を一々直したりしないんだよ、ヘンリーお父さんもそれほど暇じゃないんだよ、あれはあれで楽しかったけどね。

「ん。」
お、レンガ持って来てくれたの、ありがとさん。ついでに幾つか積み上げておいて。ここが終わったら次は裏に回るから、それまで休憩していて。

「ん。」
え~っと、誰かと言いますと”よそ者”の子供ケイト君ですね。お父さんはザルバさんって言います。この二人、あまりにも健康状態が悪くてですね~、仕方がないので引っ越し祝いにポーションビッグワーム入りの麦粥をですね。生きのいい方が薬効が高いんですが、それは色々とまずいんで干し肉バージョンを細切れにして少量投入。そんな病人食を三日間提供し続けた結果、懐かれました。
あの虚無を見詰める死人のような瞳にも光が戻りつつあります。ザルバさんもかなり回復し、ドレイク村長の下、村の仕事を貰って働き始めました。今は現物支給で麦や野菜、ビッグワームデチューン版の干し肉を貰って生活しています。春先くらいになれば体力も付いて畑仕事も出来る様になるんじゃないかな?ザルバさん大柄だし元々はかなりガタイも良かったみたいですしね。
よし、こっちはこんなもんでしょう。緑~、黄色~、裏に移動するよ~。道具移動して~。ケイトも移動するよ。

「ん。」
すっかり助手の様になっているケイト君。ま、本人もそれで良いみたいだし好きにさせておきますか。流石にチビッ子軍団に混ぜる訳にはいかないしね、ケイト君壊れちゃうから。
でも君付けで呼ぶとなぜか嫌がるケイトに、”これが舎弟魂か~”と妙な感心をしつつ次の作業場所に移動するケビン少年なのでありました。

―――――――――――――――――

”パチンッ、バチンッ”
暖炉で爆ぜる薪の音。煌々と燃える炎に照らされて浮かび上がるのは隣で寝息を立てるケイトの寝顔。ザルバはそんな愛し子の顔を眺め、ここ数日の目まぐるしい変化を思い起こす。出会いは突然であった。村長夫人からの急な招集、村外れの広場に向かえばそこにはヨーク村の村人全てが集められていた。広場にいたのは見知らぬ男性と少年、男性は近隣の村であるマルセル村の村長代理ドレイクと名乗り、ここヨーク村にビッグワーム農法を伝える為に来たという。ビッグワームと言えば森の落ち葉や畑の土の下に住む大きなミミズの魔物、それと農業がどう関係すると言うのか。それよりも・・・。村人全員の視線がドレイク村長代理の後ろで何やら作業を行っている少年の下へ向かっていた。その少年は巨大な足付き土鍋に火をくべ、何やら旨そうな匂いを漂わせている物を煮込んでいる様であった。

「私たちはこの周辺五箇村の農業重要地区入りを目指しています。この農業重要地区に指定されれば税金が安くなるばかりでなく、街道の整備や領兵の派遣、各村に監察官様が常駐し様々な村の困りごとに心を砕いて下さるようになります。簡単に言えば村が豊かになり食べるものに困らなくなります。」
何やらドレイク村長代理が村にとって重要そうな事を話しているが、こっちはそれ所ではなかった。ここ数日碌なものを食べてはおらず、偽癒し草を煮込んだスープでしのいで来ていたのだ。それも薪が無く枯草を薪代わりにしていた為一日一食しか食べれない状態。そんな中こんないい香りを嗅がされれば普通ではいられない。

「マルセル村では冬の食糧確保の為ビッグワーム肉の研究開発を行いました。その集大成が今日お持ちしたこの干し肉です。そしてこちらに用意したスープはビッグワームの肉入りのスープになります。」
えっ、今ドレイク村長代理は何と言った?ビッグワームの肉入りスープとか言わなかったか?あのデカミミズのビッグワームだよな?マルセル村ではそこまで追い詰められていたのか?あのミミズを食ったのか?
ヨーク村の村人の反応は一様に”こいつは一体何を言っているんだ?”と言ったものであった。こちらを馬鹿にしているとかの問題ではない、ビッグワームを食べるという発想が信じられなかったからだ。

「うん、寒い時期に食べるビッグワーム肉のスープは最高ですね。ですがやはりビッグワーム肉、忌避感を感じるのは当然、そんな方に無理やりこの肉を食べろとは言いません。無論ビッグワーム農法もきちんとお教えします。ビッグワーム肥料による収益の増加はマルセル村で実証されていますから。
興味を持たれた方はまずこのスープを食べてみてください。農法の実演講習は明日の午前中にお話しさせて頂きます。」
ドレイク村長代理は椀によそったビッグワームの肉入りスープを美味しそうに食べると、集まったヨーク村村民の反応を待った。
こうした誰かが実験台にならねばならない時、最初に生贄にされるのは私たち親子の様な”よそ者”だ。私は同調圧力の高まる村人から弾き出される様に、ドレイク村長代理の前へ歩み出るのだった。

差し出されたスープ、椀に盛られたそれは温かな湯気を上げ、具には野菜と肉片が踊っていた。
”ゴクリッ”
自然となる喉、香りは極上、立ち昇る香気に躊躇する意思とは関係なくスプーンを持つ手が伸びる。
「「!?」」
思わず目を見開き我が子の方を向く、気持ちは同じ、やる事は一つ。それからはもう止まらない、止められない。口腔に広がる甘み、塩味、旨味、それらがまるで怒涛の川の流れのごとく心と身体を満たしていく。久しく感じた事の無い喜びの感情、”旨い”という言葉の意味を思い出す。蘇る幸せだったあの日々、自然と零れ落ちる涙。我が子は感情を失った目でただ黙々と食べ進める。自分もそれに倣い只管に食べる。

「そんなに急がなくてもまだまだスープはたくさんありますからね。お代わりをしてもいいんですよ?」
ドレイク村長代理から伝えられる神の如き言葉、この後次々とヨーク村の者達もビッグワームの肉入りスープを食べ、その美味しさに皆が驚愕の声を上げるのだった。

「今日をもってお前たちにはこの村を出て行って貰う。幸いお前たちを引き受けてもいいと言うもの好きが現れたんでな、ろくに物など無いだろうが準備が出来次第村長宅前まで来い。」
それは唐突な知らせであった。この村は排他的だ、いつかは追い出されるか飢えで死ぬか。自分一人ならいい、だが残されたこの子がどうなるのか。ヨーク村に未練はなかった、出て行けと言うのならその言葉に従うのみ。行き先があると言うのならありがたい程であった。

「草原に行ってキャタピラーを捕まえてこい、それがお前らを引き受ける条件なんだとよ。何でも今度はキャタピラーを食べるつもりらしい。昨日はビッグワームなんか食べさせようとするし、やっぱりマルセル村の連中は頭がおかしいんじゃないか?ま、俺たちはそのビッグワームの干し肉を売ってホーンラビットの干し肉を食べるがな。」

「うわ、キャタビラーがこんなに一杯。それじゃ早速試しに数匹捌いてみますね。」
村長宅前に言われた通りキャタピラーを捕まえて籠に詰めて持って行くと、ビッグワーム農法の実演講習会を終えたドレイク村長代理と助手らしき少年が戻って来た。少年は捕まえて来たキャタピラーを見るや目を輝かせて調理に取り掛かった。
手際よく捌かれるキャタピラー、昨日もそうだったが、この少年は料理人の職か解体のスキルでも授かっているのだろうか。

「出来ました、キャタピラーの串焼きと包焼きの完成です。」
小一時間程して料理は完成、少年の前には香ばしい香りを漂わせたキャタピラーの丸焼きと焼けた土の塊。
”コンコンコン、パカン”
少年が焼けた粘土を割って剥がすと、辺り一面に香草の香りが広がり、湯気を立てた蒸し焼きにされたキャタビラーが姿を現した。
見た目はまんまキャタピラー、ヨーク村の皆が”こいつ、正気か!?”と見守る中、少年は一人美味しそうにキャタピラーを食べ進めるのだった。

そんな“異食食いの里”、マルセル村に二日掛けて到着した私たち親子。確かに食べる物には困らないだろうが、これから一体何を食べさせられるのだろうか。そんな私の不安を余所にマルセル村の少年、ケビン君から差し出されたのは一杯の麦粥であった。
「これまであまり食べて来られなかった様子、行き成り固いものを食べたりすると逆に身体に触ります。これから暫く僕が料理を提供しますから、今は身体を休める事に集中してください。」
それは望外に掛けられた優しい言葉であった。

「これは村長代理に言われて持って来た布団だが、寝室に運んでおくぞ。簡単な調理器具は後からトーマスと言う者が持ってくる。」
この村の村人たちは私たち親子を邪魔とは思わない、仲間として迎え入れてくれる。久しく感じた事の無い人の優しさ、その晩私は涙で布団を濡らすこととなった。


「ケイト、こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまうぞ?お父さんが運んでやるからな。」
暖炉脇で眠る我が子を抱き起こしベッドへと運ぶ。この子はこんなにも軽かったのか。今までこの子にどれほどの苦労を掛けてしまったのか。
親として情けないばかりだが、その償いはこれから少しずつ行っていこう。この村でなら私たちはやり直せる。私は腕の中で穏やかに眠る我が子に、固く誓うのだった。

「それじゃお父さんはドレイク村長の所に行って来る。後でケビン君が来るからそれまで留守番を頼んだよ。」

「ん、いってら。」
「!?」
それは数年ぶりに聞いた娘の声であった。ある事が切っ掛けで生涯聞く事の出来ない筈だった美しい声であった。

「ケイト、お前、声が。」
「ん。まだ、少し、だけ。」
そう言い少しだけ、ほんの少しだけ微笑むケイト。
”ガバッ”
娘を強く抱きしめた私は、その場でただ泣き崩れるのであった。
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