33 / 48
こんにちは、転生勇者様
第33話 村人転生者、四箇村を巡る 二村目ヨーク村
しおりを挟む
「ケビン君、行こうか。」
いつの間にか年が明け、春の訪れに心躍らせる今日この頃。迎春とか言ってもこれからまだまだ寒いじゃないかとツッコミを入れたあの日々が懐かしい。この国では年明けに一斉に一才歳を重ねると言った風習はなく、ちゃんと誕生月がございます。一年は十二カ月、一月は三十日、一週間は六日、光の日から始まり火の日・土の日・水の日・風の日・闇の日に分かれています。
お貴族様なんかは六歳と十二歳の誕生月にお祝いをするそうです。六歳は無事その歳まで育ってくれたと言うお祝いに、十二歳は言わずと知れた”授けの儀”絡みですね。お貴族様に年に四回集団で行う”授けの儀”を待つなどと言う我慢強さはございません、それぞれ寄進と言う使用料と共にVIPルームにて特別に儀式を行うそうです。
この授けの儀の面白い所はちゃんと十二歳にならないと職業を授かれないと言う所、堪え性の無いお貴族様の中には時々適応年齢前に儀式を行おうとする輩もおられるのですが、いくら寄進額を積もうともうんともすんとも言わないそうです。
もうひとつ面白いのが教会での儀式を行わないと職業を授かれないと言う事。これは鑑定スキルで十二歳になった子供を鑑定すると年齢は十二歳なのにも関わらず”職業無し”になっている事からも明らかです。こうした事実から”職業は女神さまからの慈悲である”と言うのが教会関係者の主張であり、教会の権力基盤の裏付けにもなっています。
ま、これらの情報はみんな今目の前で無茶振りをしているドレイク村長代理から教えていただいた情報なんですが。一体この御方は朝早くから何を訳の分からない事を仰っているのでしょうか。
健康広場での朝の体操、それが終わったのを見計らったかの様に告げられたドレイク村長代理の言葉に困惑の色を隠せないケビン少年。
「いや~、ケビン君のホーンラビット牧場建設が昨日終了したと聞いてね、それならば早いところ他の村々も回ってしまおうと思い立った訳なんだ。春近くになると畑の準備も忙しくなるだろう?やるなら年明けから二月に掛けてのこの時期しかないんだよ。」
いや、その話は分からなくもないですけど、毎回言いますが予め俺に話しを通してくださいよ。こっちにも心の準備や下準備がありますから。前回みたいな事は勘弁ですからね。
「ハハハ、あれは申し訳なかったよ。今回はちゃんと泊りの行程だから。流石にゴルド村の更に先の村に行って日帰りは無謀過ぎるからね。初日は今回の目的地ヨーク村まで移動、二日目に実演講習を行い午後にゴルド村まで戻り一泊、三日目にマルセル村に戻って来る予定だよ。ゴルド村の宿泊許可はすでに取ってあるから大丈夫、その際に作業の進捗状況なんかを聞ければと思っているんだ。あと実際のビッグワームの飼育の仕方なんかを話せればいいと思っている。なんせどの村も初めての試みだからね、書面で説明書きに起こしてはいるけど、分からない事は多いはずだから。」
ドレイク村長代理、相変わらず無駄に仕事が早い。まあ俺も今日はのんびりしようと思っていたんでいいんですけど、本日の予定は団子と紬に癒される一択でしたし。
寒風の中一人黙々とホーンラビット牧場の建設作業に励むと言うのは思いのほか精神に来た様です。私、本日は”仕事したくないでござる”状態でございました。
俺はドレイク村長代理に暫し時間を貰い畑にGO。緑と黄色に子供たちのお守りを頼みます。やっぱ投球にはバッターが必要でしょう、大福先生もキャッチャーに専念すればふっ飛ばされることもありませんから。何かジミーが大福を吹き飛ばしたって盛り上がってるみたいですんで、ここは一つ先生方のお力を思い知らせてあげてください。
チビッ子軍団が更なる高みに至る事を夢見て斜め上の試練を追加する、弟妹思いのケビン少年なのでありました。
カバンよし、スコップよし、各種ポーション全てよし。それでドレイク村長代理、今回向かうヨーク村って言うのはどう言った所なんですか?
「う~ん、簡単に言えばウチと同じような最果ての地だね。ただウチと違って森とは離れているんでそこまで危険性はないかな。食糧事情はこの辺の村々は何処も似たり寄ったり、毎年春先に”よく生き残ったね”って言うのが挨拶代わりだよ。」
えっ、あれって挨拶だったんですか?小さい頃行商人様に毎年春になる度に言われ続けていて、何でだろうって思っていたんですよね。最近はそれだけ生活環境が厳しいからなんだろうなって思っていたんですけど、この辺ではそれが当たり前すぎて挨拶にまで昇華していたんですね。恐ろしい現実です。
「ハハ、まったく笑えない話だけどこれが事実なんだよね。だからケビン君がビッグワーム肉の肉質改良をしてくれた事は本当に助かっているんだよ、少なくともこれで冬場の餓死者はいなくなるからね。後は村の人達に食用ビッグワームが受け入れられるかどうかなんだけど、こればかりは忌避感が先に立ってしまうとどうしようもない。少なくともビッグワーム肥料は作れるから農作物の収益は上がる、最悪その資金でホーンラビット肉でも買ってもらえればいいと思っているんだよ。」
そんな生きるか死ぬかで贅沢言ってちゃ生き残れるものも生き残れないと思うんですけどね。臭み抜きをしていないビッグワームは流石に毎日食べたいとは思いませんでしたけど。
後は乾燥野菜なんかを作って冬場の野菜需要に備えるのも一つの手だと思いますよ?
この辺の土地は冬場乾燥した寒風が吹きますから乾燥野菜を作るのに適していると思うんですよね。根茎野菜なんかを育ててザルで干しておけば村長代理みたいにマジックバックを持っていなくても野菜の保存は出来るんですよ。これって村のお婆さんなんかはよくやってる方法みたいですし、ヨーク村にも知ってる人はいると思うんですよね。前回のゴルド村でも思ったんですけど、村の改革の前に食糧事情の改善が急務だど思うんですよ。ですんで今回はこの乾燥野菜とビッグワーム肉の干物を持って行ってあげたらいいと思うんですがどうでしょうか?その方が村人の関心度も高まると思うんですよ。野菜と干し肉は俺の畑に寄って貰えればお分けする事が出来ますよ?無論木札支払いになりますが。
「うん、そこまでは考えていなかったよ。やっぱりケビン君年齢偽ってない?それと商売の持って行き方が秀逸です。お互いの利益になるっていう提案は受け入れやすいからね。それに木札支払いの提案って言うのがまた上手い。それなら今現金が無くても後からの利益で支払えるって言う心の余裕から判断が甘くなるからね。ケビン君は将来凄腕の商人にでもなるのかな?今から楽しみだよ。」
そう言いニコニコ笑って俺の提案を受け入れるドレイク村長代理、そんな村長代理にお知らせです。俺は生涯一村人ですから!凄腕商人になんてなりませんから!
俺は”またまた~、実は狙ってるんでしょう?”と言った顔でニヤニヤするドレイク村長代理に抗議しつつ、畑の納屋(度重なる改装ですでに家と呼んでも遜色のない物になっています)から乾燥野菜と出荷用デチューン版ビッグワーム干し肉を馬車の荷台に積み込むのでした。
ドレイク村長代理、この辺って本気で何もないんですね。
どこまでも続く草原、遠くに見える森の木々、そして遥か先にはフィヨルド山脈の山々がその姿を白銀に染め聳え立っている。馬車の旅も二度目ともなると前回ほどテンションが上がると言う事もなく、ガタガタ揺れる馬車道を唯々揺られて移動して行きます。よく駅馬車に大勢の旅人がすし詰めになり揺れの衝撃でお尻を痛めながら移動するなんて話がございますが、我々”魔力纏い”集団にはその様な心配はございません。
”揺れの衝撃?そんなモノはお尻に魔力を纏って防げばいいじゃないか。”そんな脳筋思考にもしっかり対応してくれるのがこの”魔力纏い”、まさに魔力万能説。田舎暮らしの必須技能”魔力纏い”、この技術が世界に広がれば人類は更なるステージへ旅立てる、そう確信しております。でも広めないけどね。
だってこの世界、民度が目茶苦茶低いんだもん。人々を導くお貴族様ですら無茶苦茶なんだもん。”衣食足りて礼節を知る”とは何処の言葉だったか。衣食住を高いレベルでお持ちのお貴族様ですら己の欲望のままに他者を虐げ我が儘を貫くこのご時世、己の力が全てだと言わんばかりに無法を働く冒険者すらいると言うのにそんな彼らに更なる”力”を与えてどないするってんですか。人々の自浄作用に期待してってそこに至るまでの多くの犠牲を蔑ろに出来るほど私の心は強靭ではないのですよ。
学びたい?ならば教えてあげましょう、”エミリーちゃん方式”で。ヨシの茎を折らずに全力で振れる様になれば君も立派な”魔力纏い”マスターだ。
代り映えのしない景色に暇を持て余しくだらない事を考えつつ、キャタピラー繊維紐に魔力を送ってウネウネと形を変えて遊ぶケビン君なのでありました。
尚その光景にドレイク村長代理がギョッとしていたことは言うまでもありません。
「ケビン君お待たせ、あそこがヨーク村だよ。」
うん、ザ・寒村。ぱっと見修復が必要って建物が所々に何軒も、この村ってちゃんと人が住んでます?
「ハハハハ、まぁ辺境の寒村と言えばどこもこんな様なものさ。ウチの村やゴルド村の方が珍しい部類だね。ゴルド村の村長ホルンさんは元石工職人だからね、建物の補修は自分で出来るし、ウチの村はケビン君が”土属性魔導士ケビン、ここに推参”とか言ってお父さんのヘンリーさんと一緒に直してくれたからね。その節は大変お世話になりました。」
そう言えばそんな事もあったな~。あの時は”ブロック”の生活魔法を覚えてテンションが上がって、家の修理に嵌ってヘンリーお父さんと一緒に村中の建物を修繕しまくったんだよな~。齢六歳、若気の至りでございます。
そう考えると俺って両親に迷惑掛け捲り、凄い落ち込むわ~。
俺が過去の自分にショックを受けている最中にも馬車は順調に移動、一軒のお屋敷の前に停車いたしました。
「ごめんください、マルセル村村長代理ドレイクです。ケイジ村長は御在宅でしょうか。」
”ドッカドッカドッカ”
家の中からは外からでも分かるほどの大きな足音を立てて、一人の体格の良い男性が顔を出しました。すみません、取り繕いました、”肥満体”の男性が顔を出しました。
えっ、ここって食べるのにも困って冬場に餓死者が出る寒村地帯だよね?そんな村で肥満体って凄くない?もしかしてドレイク村長代理みたいに優秀な村長だとか?
「なんだ、大きな声がするから何事かと思えば”最果ての人身御供”ドレイクじゃないか。それにさっきの挨拶、ついに村長の座も首になったか?このところ調子に乗ってると聞いていたがついに化けの皮が剥がれたか?嫁に逃げられ、村長の座も追われ、変に欲を掻くからこういうことになる。とっとと息子にその座を譲っていればまだ楽隠居出来たのかも知れなかったのにな。
で、そんな”村長代理”がこの由緒正しい村長であるケイジ・ヨーク様に一体何の用があると言うんだ?」
・・・帰っていい?駄目ですか、そうですか。この村の実務は奥さんが取り仕切っていると、このお飾り村長は気にしなくていいと、了解です。
まるでマイケル・マルセル村長”候補”が壮年になったかのような見事な馬鹿村長。これって村の窮状が何も見えてないんだろうな~。苦労させてまともにしようにもその苦労で村全体が滅んでしまっては本末転倒、結果お飾り馬鹿村長の出来上がりって所なんだろうか。変に決定権があるから質が悪い、これは早い事”農業重要地区“に指定して貰ってこの馬鹿から実権を奪わないと村が滅ぶぞ。
「これはこれはケイジ村長、御健勝の様で何よりです。本日はかねてから我が村で実証実験を重ねましたビッグワーム農法の件でお伺いいたしました。」
「あぁ、何でも質のいい肥料を作って収量を上げる試みだったか。で、実際どうなんだ、そのビッグワーム農法とやらは。」
「はい、監察官様にもお褒めの言葉を頂けるほどに目に見える形で収量が上がっております。事実我が村からの税収も昨年度比で二倍に増えています。我が村に多大なご指導を頂きました監察官様は、これらの実績でこの度周辺五箇村の総合監察役に就任なさいました。我がマルセル村といたしましても監察官様の恩に報いようと、こうしてビッグワーム農法の啓蒙に励んでいると言う訳です。」
「はっ、何の事は無い、監察官への尻尾振りではないか。まぁいい、我が村の収益が上がるのは歓迎すべき事だからな。だがこれだけは言っておく、余計なマネをして我が村に損害を与えた場合は只で済むと思わない事だ。この村は全てこの俺様の物なのだからな。」
「はい、決してそのような事の無い様に励まさせて頂きます。我々といたしましても監察官様の覚えが悪くなるようなまねはしたくありませんから。」
「ふんっ、気に入らない男だ。その監察官とやらの為に精々励むんだな。おい、誰かこいつの相手をしてやれ。」
ふくよかな男性はそれだけを言い残すとまたドカドカと大きな足音をさせ屋敷の奥へと戻って行きました。
・・・ねぇドレイク村長代理、もしかして残りの二つの村もこんな感じなんて事は流石に無いですよね。
「あ~、うん、まぁ、ハハハハハ。」
ドレイク村長代理!?
俺は今後に残された二箇村の現状に、恐れを抱かずにはいられないのでした。
いつの間にか年が明け、春の訪れに心躍らせる今日この頃。迎春とか言ってもこれからまだまだ寒いじゃないかとツッコミを入れたあの日々が懐かしい。この国では年明けに一斉に一才歳を重ねると言った風習はなく、ちゃんと誕生月がございます。一年は十二カ月、一月は三十日、一週間は六日、光の日から始まり火の日・土の日・水の日・風の日・闇の日に分かれています。
お貴族様なんかは六歳と十二歳の誕生月にお祝いをするそうです。六歳は無事その歳まで育ってくれたと言うお祝いに、十二歳は言わずと知れた”授けの儀”絡みですね。お貴族様に年に四回集団で行う”授けの儀”を待つなどと言う我慢強さはございません、それぞれ寄進と言う使用料と共にVIPルームにて特別に儀式を行うそうです。
この授けの儀の面白い所はちゃんと十二歳にならないと職業を授かれないと言う所、堪え性の無いお貴族様の中には時々適応年齢前に儀式を行おうとする輩もおられるのですが、いくら寄進額を積もうともうんともすんとも言わないそうです。
もうひとつ面白いのが教会での儀式を行わないと職業を授かれないと言う事。これは鑑定スキルで十二歳になった子供を鑑定すると年齢は十二歳なのにも関わらず”職業無し”になっている事からも明らかです。こうした事実から”職業は女神さまからの慈悲である”と言うのが教会関係者の主張であり、教会の権力基盤の裏付けにもなっています。
ま、これらの情報はみんな今目の前で無茶振りをしているドレイク村長代理から教えていただいた情報なんですが。一体この御方は朝早くから何を訳の分からない事を仰っているのでしょうか。
健康広場での朝の体操、それが終わったのを見計らったかの様に告げられたドレイク村長代理の言葉に困惑の色を隠せないケビン少年。
「いや~、ケビン君のホーンラビット牧場建設が昨日終了したと聞いてね、それならば早いところ他の村々も回ってしまおうと思い立った訳なんだ。春近くになると畑の準備も忙しくなるだろう?やるなら年明けから二月に掛けてのこの時期しかないんだよ。」
いや、その話は分からなくもないですけど、毎回言いますが予め俺に話しを通してくださいよ。こっちにも心の準備や下準備がありますから。前回みたいな事は勘弁ですからね。
「ハハハ、あれは申し訳なかったよ。今回はちゃんと泊りの行程だから。流石にゴルド村の更に先の村に行って日帰りは無謀過ぎるからね。初日は今回の目的地ヨーク村まで移動、二日目に実演講習を行い午後にゴルド村まで戻り一泊、三日目にマルセル村に戻って来る予定だよ。ゴルド村の宿泊許可はすでに取ってあるから大丈夫、その際に作業の進捗状況なんかを聞ければと思っているんだ。あと実際のビッグワームの飼育の仕方なんかを話せればいいと思っている。なんせどの村も初めての試みだからね、書面で説明書きに起こしてはいるけど、分からない事は多いはずだから。」
ドレイク村長代理、相変わらず無駄に仕事が早い。まあ俺も今日はのんびりしようと思っていたんでいいんですけど、本日の予定は団子と紬に癒される一択でしたし。
寒風の中一人黙々とホーンラビット牧場の建設作業に励むと言うのは思いのほか精神に来た様です。私、本日は”仕事したくないでござる”状態でございました。
俺はドレイク村長代理に暫し時間を貰い畑にGO。緑と黄色に子供たちのお守りを頼みます。やっぱ投球にはバッターが必要でしょう、大福先生もキャッチャーに専念すればふっ飛ばされることもありませんから。何かジミーが大福を吹き飛ばしたって盛り上がってるみたいですんで、ここは一つ先生方のお力を思い知らせてあげてください。
チビッ子軍団が更なる高みに至る事を夢見て斜め上の試練を追加する、弟妹思いのケビン少年なのでありました。
カバンよし、スコップよし、各種ポーション全てよし。それでドレイク村長代理、今回向かうヨーク村って言うのはどう言った所なんですか?
「う~ん、簡単に言えばウチと同じような最果ての地だね。ただウチと違って森とは離れているんでそこまで危険性はないかな。食糧事情はこの辺の村々は何処も似たり寄ったり、毎年春先に”よく生き残ったね”って言うのが挨拶代わりだよ。」
えっ、あれって挨拶だったんですか?小さい頃行商人様に毎年春になる度に言われ続けていて、何でだろうって思っていたんですよね。最近はそれだけ生活環境が厳しいからなんだろうなって思っていたんですけど、この辺ではそれが当たり前すぎて挨拶にまで昇華していたんですね。恐ろしい現実です。
「ハハ、まったく笑えない話だけどこれが事実なんだよね。だからケビン君がビッグワーム肉の肉質改良をしてくれた事は本当に助かっているんだよ、少なくともこれで冬場の餓死者はいなくなるからね。後は村の人達に食用ビッグワームが受け入れられるかどうかなんだけど、こればかりは忌避感が先に立ってしまうとどうしようもない。少なくともビッグワーム肥料は作れるから農作物の収益は上がる、最悪その資金でホーンラビット肉でも買ってもらえればいいと思っているんだよ。」
そんな生きるか死ぬかで贅沢言ってちゃ生き残れるものも生き残れないと思うんですけどね。臭み抜きをしていないビッグワームは流石に毎日食べたいとは思いませんでしたけど。
後は乾燥野菜なんかを作って冬場の野菜需要に備えるのも一つの手だと思いますよ?
この辺の土地は冬場乾燥した寒風が吹きますから乾燥野菜を作るのに適していると思うんですよね。根茎野菜なんかを育ててザルで干しておけば村長代理みたいにマジックバックを持っていなくても野菜の保存は出来るんですよ。これって村のお婆さんなんかはよくやってる方法みたいですし、ヨーク村にも知ってる人はいると思うんですよね。前回のゴルド村でも思ったんですけど、村の改革の前に食糧事情の改善が急務だど思うんですよ。ですんで今回はこの乾燥野菜とビッグワーム肉の干物を持って行ってあげたらいいと思うんですがどうでしょうか?その方が村人の関心度も高まると思うんですよ。野菜と干し肉は俺の畑に寄って貰えればお分けする事が出来ますよ?無論木札支払いになりますが。
「うん、そこまでは考えていなかったよ。やっぱりケビン君年齢偽ってない?それと商売の持って行き方が秀逸です。お互いの利益になるっていう提案は受け入れやすいからね。それに木札支払いの提案って言うのがまた上手い。それなら今現金が無くても後からの利益で支払えるって言う心の余裕から判断が甘くなるからね。ケビン君は将来凄腕の商人にでもなるのかな?今から楽しみだよ。」
そう言いニコニコ笑って俺の提案を受け入れるドレイク村長代理、そんな村長代理にお知らせです。俺は生涯一村人ですから!凄腕商人になんてなりませんから!
俺は”またまた~、実は狙ってるんでしょう?”と言った顔でニヤニヤするドレイク村長代理に抗議しつつ、畑の納屋(度重なる改装ですでに家と呼んでも遜色のない物になっています)から乾燥野菜と出荷用デチューン版ビッグワーム干し肉を馬車の荷台に積み込むのでした。
ドレイク村長代理、この辺って本気で何もないんですね。
どこまでも続く草原、遠くに見える森の木々、そして遥か先にはフィヨルド山脈の山々がその姿を白銀に染め聳え立っている。馬車の旅も二度目ともなると前回ほどテンションが上がると言う事もなく、ガタガタ揺れる馬車道を唯々揺られて移動して行きます。よく駅馬車に大勢の旅人がすし詰めになり揺れの衝撃でお尻を痛めながら移動するなんて話がございますが、我々”魔力纏い”集団にはその様な心配はございません。
”揺れの衝撃?そんなモノはお尻に魔力を纏って防げばいいじゃないか。”そんな脳筋思考にもしっかり対応してくれるのがこの”魔力纏い”、まさに魔力万能説。田舎暮らしの必須技能”魔力纏い”、この技術が世界に広がれば人類は更なるステージへ旅立てる、そう確信しております。でも広めないけどね。
だってこの世界、民度が目茶苦茶低いんだもん。人々を導くお貴族様ですら無茶苦茶なんだもん。”衣食足りて礼節を知る”とは何処の言葉だったか。衣食住を高いレベルでお持ちのお貴族様ですら己の欲望のままに他者を虐げ我が儘を貫くこのご時世、己の力が全てだと言わんばかりに無法を働く冒険者すらいると言うのにそんな彼らに更なる”力”を与えてどないするってんですか。人々の自浄作用に期待してってそこに至るまでの多くの犠牲を蔑ろに出来るほど私の心は強靭ではないのですよ。
学びたい?ならば教えてあげましょう、”エミリーちゃん方式”で。ヨシの茎を折らずに全力で振れる様になれば君も立派な”魔力纏い”マスターだ。
代り映えのしない景色に暇を持て余しくだらない事を考えつつ、キャタピラー繊維紐に魔力を送ってウネウネと形を変えて遊ぶケビン君なのでありました。
尚その光景にドレイク村長代理がギョッとしていたことは言うまでもありません。
「ケビン君お待たせ、あそこがヨーク村だよ。」
うん、ザ・寒村。ぱっと見修復が必要って建物が所々に何軒も、この村ってちゃんと人が住んでます?
「ハハハハ、まぁ辺境の寒村と言えばどこもこんな様なものさ。ウチの村やゴルド村の方が珍しい部類だね。ゴルド村の村長ホルンさんは元石工職人だからね、建物の補修は自分で出来るし、ウチの村はケビン君が”土属性魔導士ケビン、ここに推参”とか言ってお父さんのヘンリーさんと一緒に直してくれたからね。その節は大変お世話になりました。」
そう言えばそんな事もあったな~。あの時は”ブロック”の生活魔法を覚えてテンションが上がって、家の修理に嵌ってヘンリーお父さんと一緒に村中の建物を修繕しまくったんだよな~。齢六歳、若気の至りでございます。
そう考えると俺って両親に迷惑掛け捲り、凄い落ち込むわ~。
俺が過去の自分にショックを受けている最中にも馬車は順調に移動、一軒のお屋敷の前に停車いたしました。
「ごめんください、マルセル村村長代理ドレイクです。ケイジ村長は御在宅でしょうか。」
”ドッカドッカドッカ”
家の中からは外からでも分かるほどの大きな足音を立てて、一人の体格の良い男性が顔を出しました。すみません、取り繕いました、”肥満体”の男性が顔を出しました。
えっ、ここって食べるのにも困って冬場に餓死者が出る寒村地帯だよね?そんな村で肥満体って凄くない?もしかしてドレイク村長代理みたいに優秀な村長だとか?
「なんだ、大きな声がするから何事かと思えば”最果ての人身御供”ドレイクじゃないか。それにさっきの挨拶、ついに村長の座も首になったか?このところ調子に乗ってると聞いていたがついに化けの皮が剥がれたか?嫁に逃げられ、村長の座も追われ、変に欲を掻くからこういうことになる。とっとと息子にその座を譲っていればまだ楽隠居出来たのかも知れなかったのにな。
で、そんな”村長代理”がこの由緒正しい村長であるケイジ・ヨーク様に一体何の用があると言うんだ?」
・・・帰っていい?駄目ですか、そうですか。この村の実務は奥さんが取り仕切っていると、このお飾り村長は気にしなくていいと、了解です。
まるでマイケル・マルセル村長”候補”が壮年になったかのような見事な馬鹿村長。これって村の窮状が何も見えてないんだろうな~。苦労させてまともにしようにもその苦労で村全体が滅んでしまっては本末転倒、結果お飾り馬鹿村長の出来上がりって所なんだろうか。変に決定権があるから質が悪い、これは早い事”農業重要地区“に指定して貰ってこの馬鹿から実権を奪わないと村が滅ぶぞ。
「これはこれはケイジ村長、御健勝の様で何よりです。本日はかねてから我が村で実証実験を重ねましたビッグワーム農法の件でお伺いいたしました。」
「あぁ、何でも質のいい肥料を作って収量を上げる試みだったか。で、実際どうなんだ、そのビッグワーム農法とやらは。」
「はい、監察官様にもお褒めの言葉を頂けるほどに目に見える形で収量が上がっております。事実我が村からの税収も昨年度比で二倍に増えています。我が村に多大なご指導を頂きました監察官様は、これらの実績でこの度周辺五箇村の総合監察役に就任なさいました。我がマルセル村といたしましても監察官様の恩に報いようと、こうしてビッグワーム農法の啓蒙に励んでいると言う訳です。」
「はっ、何の事は無い、監察官への尻尾振りではないか。まぁいい、我が村の収益が上がるのは歓迎すべき事だからな。だがこれだけは言っておく、余計なマネをして我が村に損害を与えた場合は只で済むと思わない事だ。この村は全てこの俺様の物なのだからな。」
「はい、決してそのような事の無い様に励まさせて頂きます。我々といたしましても監察官様の覚えが悪くなるようなまねはしたくありませんから。」
「ふんっ、気に入らない男だ。その監察官とやらの為に精々励むんだな。おい、誰かこいつの相手をしてやれ。」
ふくよかな男性はそれだけを言い残すとまたドカドカと大きな足音をさせ屋敷の奥へと戻って行きました。
・・・ねぇドレイク村長代理、もしかして残りの二つの村もこんな感じなんて事は流石に無いですよね。
「あ~、うん、まぁ、ハハハハハ。」
ドレイク村長代理!?
俺は今後に残された二箇村の現状に、恐れを抱かずにはいられないのでした。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
身体強化って、何気にチートじゃないですか!?
ルーグイウル
ファンタジー
病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。
そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?
これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。
初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる