転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora

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こんにちは、転生勇者様

第32話 村人転生者の弟、ジミーの悩み

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子供は風の子元気の子、冬の寒さにも負けず外で走り回る子供たち。子供の少ないこの村では、そんな彼らの笑い声は何よりの癒しになっていた。
そして今日も宿敵|(でっかいスライム)に挑む為村外れの水辺に集まる彼らは、近頃新しい戦い(遊び)を取り入れていた。

「行くぞ、デカスライム!今日こそは俺の速球をめり込ませてやる!」
宿敵に指を指して高らかに宣言するジェイク少年。

“ビヨンビヨンポヨ~ン”
対するデカスライムの大福は、触手をプラプラさせて余裕の構え。

「ムッカ~、行くぜ!ファイアー、ファイアー、ファイアー、ファイアー!」
撃ち出されたのは四連射の高速ファイアーボール。元々詠唱短縮のスキルを所持していた彼は、“だったら魔法名も短縮出来るんじゃね?”の発想の下、遂に短縮版ファイアーボールの開発に成功したのである。これは王都の魔法使い達が言葉を失うほどの大偉業であるのだが、“常識の破壊者”ケビンお兄ちゃんの薫陶を受けた彼らちびっこ軍団にその事を指摘出来る者はおらず、“やるなジェイク君”だけで済ませてしまっているのである。

“カキカキカキカキーン”
だがその程度で崩せる程奴の牙城は柔ではない。全弾を全て安全な上空に打ち上げ余裕の跳びはねを見せる“大福”、華麗に討ち取られたジェイク少年は、ガックリ膝を付き地面に項垂れるのであった。

「ジェイク君交代、次はエミリーの番なんだから。」
堂々とした歩み、そこにはかつて木刀を壊し涙した彼女はいない。
全てはケビンお兄ちゃんが教えてくれた、木刀を壊さずに全力で振る方法も、魔力に頼らずに木刀を操る技術も。そして新たにケビンお兄ちゃんが与えてくれたもの、それは魔法。ケビンお兄ちゃんは言っていた、魔力の使い方は発想次第であると。ならば魔法も同じ筈。
ジェイク君は凄い。魔法を詠唱無しに魔法名だけで撃ち出すんだから。ケビンお兄ちゃんは“いずれエミリーちゃんにも出来るよ”と言ってくれたけど、そんなに直ぐに出来るとは思えない。
エミリーはならばと発想を変えた。ケビンお兄ちゃんは言った、“魔法の詠唱は起きる現象への条件付けである”と。ならば少しくらい条件を足しても良いよね?

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を討ち滅ぼせ、<いかづちの如く>、ライトボール”」

“ドゴンッ”
エミリーの掌から撃ち出されたそれはまさに落雷の如く瞬時に標的にぶち当たった。その撃ち出しの衝撃波は凄まじく、彼女の後ろにいたジェイク少年がひっくり返る程のものであった。
そして標的はと言えば。
“バゴン”

「「「はっ!?」」」
大福は無傷であった。その身体を若干後ろに反らしたもののこれと言った問題もなく、逆にポョンポヨン跳ねて大喜びであった。肝心のライトボールもあの一瞬で上空に打ち上げる徹底ぶり。エミリーは魔法に“新たに条件を加える”と言う試みで必要以上に魔力を消費、魔力枯渇でその場にへたり込んでしまった。

「やい、デカスライム、今日はこの辺にしておいてやる!これで勝ったと思うなよ!次こそはズタンズタンのギッタンギッタンなんだからな!」

ちびっこ軍団は去り際にいつもの負け惜しみを吐いて帰って行く。水辺に残されたデカスライムの大福は、楽し気にポョンポヨン跳ね回るのであった。

「それじゃジミー君、またね。明日は奴に今日考えた三連攻撃“重撃陣形”をお見舞いしてやろうね♪次こそはズタンズタンのギッタンギッタンだ~!」
元気よく帰って行く親友ジェイク。ジミーはそんな彼を見送り家路につく。
胸に去来するモヤモヤした感情。
華麗な魔法連射を行うジェイク、凄まじいライトボールを撃ち出したエミリー。
分かっている、自分のこの感情はただの無い物ねだり、幼い自分の身勝手な嫉妬。魔法適性の無い自分ではどう足掻いてもどうする事も出来ないただの妬み。
ジミーは自分の心に溜まっていく薄汚い感情を、悔しげに受け入れるしかないのであった。

「ジミー、今帰り?どうしたの、浮かない顔をして。」
それは仕事帰りの兄ケビンの声であった。冬場の農家は然程仕事は多くない。畑の作物が育たないのだから当然ではあるのだが。だが兄ケビンは毎日忙しなく働いている。ミランダおばさんのところに行っては調薬の仕事を行い、ドレイク村長代理に頼まれては村外れの草原にホーンラビット牧場の建設に行き、最近は糸紬の為に村のお婆さんのところに通っているらしい。

「ケビンお兄ちゃん・・・。」
頑張る兄に元気よく“お帰り”と言おう。そう思っていてもうまく言葉が出ない。

「う~ん、その様子だとジミーも相当溜まってるみたいだね。分かる、分かるよ。そりゃ周りでバカスカ“魔法”を撃たれたら羨ましくもなるよね。」

「僕はそんな・・・。」
咄嗟に否定しようとした。ジェイクとエミリーは幼馴染みの親友、そんな二人にこんな感情を抱いてはいけない。
でもその言葉が出なかった。
兄ケビンはそんな弟ジミーに慈愛の籠った眼差しを向け、言葉を続けた。

「さっきも言ったけど、ジミーの気持ちはよく分かるよ。お兄ちゃん自身魔法に憧れて属性ボール魔法(偽)を作っちゃったくらいだもん、あの二人が羨ましいったらないよ。あ~、“ファイアーボール”ってやりて~!!
でも無いものはどうしようも無いしね。だったら違う道を進むのも一つの手ではあるんだけど・・・、そんな大人な解決なんて、ロマンがないよね?」
兄ケビンはそう言いジミーの肩をポンと叩くと、ニカッと満面の笑みを浮かべるのであった。


「さぁ、デカスライム、今日こそはお前を泣かせてやるからな、覚悟しろ!」
午前中のボビー師匠の訓練も終わり、子供たちはいつもの様に宿敵デカスライムの大福の下へとやって来ていた。

「ジェイク君、ちょっといいかな?」
三人の中で一番背丈が大きく体格も良い、普段はあまり自分から積極的に発言する事の無いジミーからの言葉に、どうしたのかと彼の方を向くジェイク。

「うん、今日は最初にちょっと試したいことがあるんだ。」
そう言い一歩前に出るジミー。彼は大きく深呼吸をすると、デカスライム“大福”を正面に見据えた。
掌に握られた基礎魔力の魔力球。
「行くぞ。」
それは彼の決意、一切の小細工はいらない。力と力、技と技とのぶつかり合い。
ジミーは自らの胸の前に魔力球を持って行くと、身体を大きく捻り全身をしならせて渾身の一投を撃ち放った。

“ゴウンッ”
上背のある体躯、強靭な筋肉、鍛え抜かれ研ぎ澄まされた剛腕から繰り出された一投は、空間を切り裂き正確に標的を穿った。

“ガッドゴーン”
大福の反応は見事であった、確実に魔力球を捉え打ち返すかに見えた。だがその一撃は、膨大な質量を伴って大福に襲い掛かった。結果大福は弾き跳ばされ、これまでの戦いの中で初めてその身体を宙に浮かせる事となった。

「ウォーーーーー!!」
吠えるジェイク、
「キャー、凄い凄い!!」
歓声をあげるエミリー、
“ポョンポョンポョン”
飛び跳ねて好敵手を称賛する大福。

自分の掌をじっと見詰めるジミー。彼はその手をグッと握り締め、後ろで喜びの声を上げる二人の親友に振り返る。
「二人とも、今日こそはあのデカスライムをズタンズタンのギッタンギッタンにするよ。」

そう言うジミーの表情は、何かが吹っ切れた様にとても爽やかなものであった。

――――――――――――――――

「ケビンお兄ちゃん・・・。」
ドレイク村長代理に頼まれたホーンラビット牧場建設も残すところ壁一枚、横三十メートル、縦四十メートル、高さ一メートル二十センチのちょっとしたお屋敷の外壁サイズの外周はこの広い草原からすると狭く小さく見えるものの一々レンガを積み上げている身としては目茶苦茶広く感じる。因みに中央に設置予定のレンガドームはまだ作っておりません。ドレイク村長代理がどれくらいの頭数の飼育をするのか分からないってのもあるんだけど、飼育作業の観点やこのスペースでの最適飼育頭数の割り出しなど、ドレイク村長代理の目指す”グロリア辺境伯領から飢えを無くす”試みには多くのデータが必要ですからね。村長代理はこの村での実験飼育の結果を携えて領都のグロリア辺境伯様にホーンラビット牧場を大々的に行っていただく様に献策するつもりの様だ。”私の人生最大の仕事になりそうだよ”と笑顔で話す村長代理は格好良かったよな~。途中で変な横やりが入って歪んだ情報が広まらない様に、その下準備として農業重要地区の指定を目指すあたりドレイク村長代理の本気度が伺える。
ホーンラビット牧場が変な形で広まれば、その被害も尋常じゃないからね。森の悪魔、超危険生物ホーンラビットは伊達ではないのですよ。最低でも二カ月から三カ月に一度の角削りは欠かせない、放置し過ぎれば子供をばかすか増やしてホーンラビットに村が乗っ取られかねない、その辺の危険度もしっかり注意喚起する必要がありますしね。

で、そんな真冬のお仕事から帰ってくれば我が愛しの弟ジミー君が珍しく暗い表情、思わず御声掛けをした次第であります。
ま、理由なんて聞かなくても分かっちゃいますけどね、だって幼馴染二人が”魔法”をばかすか撃ってるのよ?そんな中自分一人指をくわえて見てるのよ?しかもジェイク君のファイヤーボールプロ野球選手の速球並みに速いのよ?羨ましくない訳ないでしょうが。おいらみたいな特殊な人間(勇者病仮性)でなくても羨ましいわ。”爆ぜろ、ファイヤーボール”とかやりたいわ、”ドビュン”ですよ”ドビュン”。

「僕はそんな・・・。」
何とか否定しようとしているジミー君。親友に嫉妬なんてとか、無いもの強請りの自分が恥ずかしいとか真面目な事を考えてるんだろうな~。全然恥ずかしくないんだからね、むしろ当たり前だから、ジミーは我慢し過ぎだから。ヘンリーお父さんを見て見なさい、普段寡黙にすべてを受け入れて我慢している様に見えて実は武器を磨いて悦に浸る勇者病患者なんだからね?ありゃ真性の症状ですから。トーマスおじさんに聞いたらお父さんの若い頃はそりゃ凄かったらしいですから。ジミーはそんなお父さんや俺からしたら眩しいくらいに輝いているんだからね?ジミーは絶対メアリーお母さん似だね、お兄ちゃんが保証しよう。
ここで普通の大人だったら”魔法の適性なんて関係ない”とかそれぞれの個性を生かせばいいんだよ、ジミーには剣術の道があるじゃないか”とか一見良さ気で実は何の解決にもなっていない事を言いそうだけど、お兄ちゃんは自覚した勇者病仮性、そんな取り繕った様な戯言は言いません。だってそんなの”ロマン”がないじゃん、折角魔法があるんだから楽しまないと。そんな訳でジミー君にはこれからお兄ちゃんが特別授業を行いたいと思います。
俺はジミーの肩をポンと叩くと、ニカッと満面の笑みを浮かべるのでした。


先ず前提として魔法の属性は二つの性質に分けられます。一つが肉体に影響を与える性質の属性、もう一つは精神に影響を与える性質のある属性です。これはその属性の作り出す”魔法”の特徴とは一致しない部分もあるので気を付けてください。”何となくそんな傾向があるんだ”くらいに考えて貰えればいいです。
肉体に影響を与える属性としては火・土・風・水の四属性、精神に影響を与える属性は光・闇の二属性になります。それぞれの特徴としては火が力、土が防御や堅牢さ、風が素早さ、水が持久性や耐久性、光が覚醒や閃き、闇が安定や安息って言った感じ。これはそれぞれの属性の魔力が自分自身に与える影響って考えてもいいかな?例えば光属性魔力を身体に纏えば眠気が取れたり難しい話しを理解しやすくなったりするし、闇属性魔力を纏えばよく眠れたり緊張が解けたりって感じ。
力仕事の時には火属性魔力、身を守る時には土属性魔力、疲れた時や持久戦の時、病気の回復なんかには水属性魔力、風属性魔力はボビー師匠が実践してるからよく知ってるよね。
でね、これらは魔力の特性だから魔法とは無関係、つまりジミーや俺、ヘンリーお父さんにも使えるって事。魔力の恩恵は全ての人が受けれるって事だね。
でもこれはあくまで恩恵、ジミーの悩みの解決には少し弱いよね。そこで必要になって来るのが今ジミーたちや村のみんなが練習実践している基礎魔力による”魔力纏い”。この基礎魔力による魔力纏いは全ての魔力操作の基本であり奥義と言っていいものなんだ。さっき言った属性魔力による恩恵もこの魔力纏いの熟練度によって効果に雲泥の差が出る、そして基礎魔力の魔力操作は属性が無い者の方がより上手に精密に行う事が出来るんだ。各属性を持っている者はどうしてもその属性の力が強く出ちゃうからね、属性に引っ張られちゃうんだよ。
例えば四属性持ちのジェイク君の光魔法よりもエミリーちゃんの光魔法の方が熟練度が上がり易かったり精度が良かったりって感じだね。その辺は二人の事をよく見ているジミーの方が分かると思うよ。

ジミーは兄の話しを必死に咀嚼しようと頭をフル回転させていた。兄の話しはなるほどと思わされることが多々あった、ボビー師匠の剣技の鋭さや速さは風属性の特徴と言われれば納得だし、ジェイクのライトボールよりもエミリーの放った強烈なライトボールの事を想えば、属性特化の強みとも一致する。

じゃあ続きね、僕たち”無属性”の者は無属性の魔法、つまり基礎魔力魔法に特化してるんじゃないかって言うのが僕の仮説なんだ。そして基礎魔力魔法の特徴は”全ての属性魔力の制御”、その繊細な操作において属性魔力所持者よりも上なんだよ。
俺はそう言うと背中から六本の色違いの腕を生やす。赤く燃え盛る火属性の腕、全体を土で構成された土属性の腕、水の流れる水属性の腕、風の渦巻く風属性の腕、光り輝く光属性の腕、暗く闇に沈んだ闇属性の腕。そしてそんな腕を出した状態でスッと二メートルほど舞い上がる。その身体を支えてるのは基礎魔力により構成された透明の腕。

ね、”魔法”は使えないけど”魔力”は属性魔法使いよりも使える、これが無属性魔法の特徴なんだよ。
俺は全ての腕を消し去り再び地面に降りるとジミーの目を見てこう言った。
ジミーはすでに手段を持っているんだよ、魔法は思い、ヨシの束に“折れない”と念じれば折れずに打ち合い迄出来ちゃう、それが魔法。身体の各部分に纏う事でより滑らかにより素早く動かすことも出来る、あの肥満体のドレイク村長代理が鋭い素振りを見せたみたいにね。
今は変に属性魔力の特徴を生かすよりも基礎魔力の操作精度を上げる事をお勧めするよ、それが出来れば属性操作なんて本当に簡単に出来るから。
“絶対に打ち返させはしない、大福を吹き飛ばして見せる”、その想いをこの魔力球に込めて。
俺は右手に魔力球を作り出すと、その辺の立ち木に向かいピッチングフォームを取った。そして・・・。

”ズゴンッ、ガサガサガサ、ドッシャ~ン”
後はジミー次第、よく考えて、工夫して、がんばってみて。

俺は横たわる倒木を無言で見詰めるジミーに、心からのエールを送るのだった。
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