転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora

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こんにちは、転生勇者様

第18話 転生者、魔力を知る

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「ケビンお兄ちゃん、僕にエミリーと同じ技を教えてください!」

「ケビン兄ちゃん僕からもお願い、お兄ちゃんエミリーに一体何を教えたの?」

「ケビンや、儂からも頼む。こやつらにもエミリーの“纏い”を教えてやってくれんかの。流石に儂も十日やそこらで“纏い”が使える様に成るような指導法なんぞしらなんだ。儂はこやつらが授けの儀で魔法適性に目覚めたら指導するつもりでおったのじゃが。授けの儀の前にあれ程の“纏い”が出来るなどと言う話しは聞いた事もない。」

ジェイクとジミー、そしてボビー老人は揃ってケビンに教えを請うた、エミリーが見せた一振はそれ程迄に衝撃的な一打であった。

「う~ん、それは構わないんだけど、これは僕が考えた独自のやり方だからかなり一般的なものとは異なると思うんだけどそれでもいいかな?と言っても僕も一般的な考えなんて知らないんだけどね。」
そう言い困った顔で笑うケビンお兄ちゃん。エミリーが見せたあれを自分で考えたの?ケビンお兄ちゃんってもしかして天才?凄過ぎて理解が追い付かないんだけど。
ケビンの言葉に唖然とする一同。ケビンはそんな彼らに苦笑いしながら先ほどエミリーが見せた技についての説明を始めるのだった。

「先ず前提として、どんな人にも大なり小なり魔力があるって事は分かるかな?魔力っていうのは魔法を使う為の素みたいなもの、火を焚く時の薪と同じだね。ここで言う魔法は属性魔法じゃなくて生活魔法、僕に言わせればあれも立派な魔法だしその為の魔力は必要、つまり誰にでも使える生活魔法がある以上魔力は誰にでもあるって事だね。
それでこの魔力、身体の中にあるんだけど表面に“纏わせる”ことが出来るんだよ。僕はこれを“魔力纏い”って呼んでいるんだけど、この“魔力纏い”を手で持った物にまで延長させたのがさっきエミリーちゃんがやった技だね。
ジミーから聞いてるけどボビーお爺さんもこの“魔力纏い”を出来るんだってね、ボビーさんは風属性の魔力を纏ってるみたいだけどエミリーちゃんのは純粋な魔力、属性変化させる前のモノだね。これは基本的に誰にでも出来るよ。ただ属性魔法に慣れちゃった人には難しいかな?身体が勝手にその属性の魔力に変えようとしちゃうから。これはお母さんとお父さんに試して貰ったから分かったんだけどね。でも大々的に検証したわけじゃないからおそらくはって話しなんだけど。
それでどうやってエミリーちゃんにこの“魔力纏い”を教えたかって言うと、まずエミリーちゃんに自分の中の魔力を想像してもらって、それを握った手からヨシの茎に流し込んで素振りをするって事をして貰っただけ。始め魔力ってのがよく分からないって言ってたから僕からエミリーちゃんに魔力を流し込んでどんなものか感じて貰ったりしたけどね。
でね、この訓練、折れやすいヨシを使うのが重要でね、ヨシって凄く折れやすいでしょ?自然振る側は折れるなって考えながら振り下ろすんだけど、魔力がきちんと流れていれば魔力によって折れない効果が付与されるんだ。魔法の効果は人の思いだからね。しかもヨシは比較的魔力の通りが良い植物なんだ、これ程訓練に向いた植物も他にはないかな。
世の中には魔力を通しやすい金属もあるみたいだけど、どれも高価だから。その点身近な植物ならタダだしね。それとさっきエミリーちゃんにあげた木刀は森の奥に生えてる大樹の枝から削り出した物だね。この大樹、目茶苦茶魔力の通りが良いんだよね、何故だかは知らないんだけど。それとジェイク君の持ってるその木刀、それも魔力伝達が良さそうだから慣れたら色々出来ると思うよ。」

そう言いジェイクの木刀を借りるケビン。ケビンはジェイクの木刀を二~三回軽く振ってから訓練場の周りに生えている立木に近寄り“ほいっ”。
抜けた掛け声と共に軽く振り下ろされた木刀、しかして“ドサッ、バッサー”。
立木は鋭利な刃物で切り裂かれたかの様な綺麗な断面を残し、袈裟斬りに斬り倒されてしまったのであった。


儂は今何を見せられておるのじゃろう。目の前では村の子供ケビンがジェイクから借りた”木刀”を振り下ろし、訓練場の周りに生える子供の胴ほどの太さの立ち木を一刀のもとに断ち切ってみせ、このままでは邪魔であろうとそのまま”木刀”で枝払い迄し始めておる。こんな事は剣術の達人でもそうそう出来るモノではないし、何よりそんな気合も入らん軽い動作でやられてはこっちの立つ瀬がないではないか。
昔とある剣術の巧者に聞いたことがある、剣術を極めればまるで息をするがごとく全てを断つ事が出来る様になると。その者の師に当たるものがその様な達人であったと。だが目の前のケビンはそう言った類のものとは違う。力の抜け具合、体幹の動きはとても自然であり剣の道に通じるものがあると言えなくもないが、彼奴のそれは単に今行っている行為が当たり前のモノであるからこその脱力、力む必要を感じないからこその自然体。追い求め、極め辿り着いた末の自然体とは違う、ただあるがまま。
”石は誰が思おうとしなくても石である”。儂に剣術の手解きをしてくれた村の老人の言葉、今の今までその意味が本当には理解出来ておらなんだと言う事が、あ奴を見て初めて分かる。あ奴は何を目指すでもない、ただそうだから、ただそう思ったからそうしている、それだけなのであろう。


「はい、ジェイク君、どうもありがとう。この木刀は本当にいい品だから大事にしてね。出来ればヨシを折れずに振れる様になってから使った方がいいかな。素振りや普段の稽古ならいいけど、狩りの時や大福と遊ぶ時は大きさの同じ別の物を使った方がいいよ、折れたりしたら勿体無いから。」
ケビンはこの場の者の顔を一通り眺めた後満足そうに頷き笑いながら続けた。

「練習方法はエミリーちゃんのやっている所を見ていたから分ると思うけど、分からないことがあったらいつでも聞いてね。後エミリーちゃんはある程度その木刀の扱いに慣れたら、普通の練習用木刀でも同じ事が出来るように訓練すること。ジミー、その練習用木刀貸して。」
ケビンはジミーから普段訓練場で使っている練習用木刀を借り受ける。
”スパン、スパン、スパン、スパン”

ケビンはその練習用の木刀を振るい、横倒しになった立ち木を薪の長さに切り分けた後、”ね、便利でしょ?”と言って微笑むのであった。


――――――――――――――――

「ケビンお兄ちゃん、僕にエミリーと同じ技を教えてください!」

エミリーちゃんの悩みを解決すべく色々と動いていた俺氏、彼女の進捗状況はミランダさんに聞いて把握していたので本日はその仕上げとしてご神木様の枝製の木刀をお持ちしたんですが、何か転生勇者様に教えを懇願されてしまった。しかも弟のジミー君と元冒険者のお爺さんのおまけつき。
って言うか爺さん、あんた”魔纏い”とやらが出来るんならそれを教えてあげなさいよ、そうしたら俺がこんな事しなくても良かったのに。ちゃんとジミーから聞いて知ってるんだからね、物事には段階があるってのは分かるけど、それでエミリーちゃんを苦しめるのは何か違うと思うんだけど?
えっ?授けの儀を行って魔法適性を授からないと教えられない?それが一般的?授けの儀の前だって魔法適性がある子はしっかり発動するんですけど?実例がすぐ横で目をキラキラさせてるじゃないですか、その辺って・・・考えないんでしょうね、それが安全な治世の為、為政者の情報操作ってスゲ~。
調べる方法なんて簡単なんだけどな~、属性魔法の初級呪文”ボール”シリーズを唱えさせるだけ。属性魔法の何が凄いってイメージもへったくれもなく発動すれば現象が起こるって所なんだよな~。そんで初級魔法のボールシリーズはそんな属性魔法の底辺、魔法適性さえあれば誰でも使える便利魔法、つまり王都や領都の学園とやらに行かなくても使えちゃうんですね~。無論授けの儀の前であっても適性さえあれば可能。レッツトライってなもんです。ま、俺は駄目だったんですけどね。
仕方がないのでエミリーちゃんにやって貰った”魔力纏い”の訓練を説明する事にしました。このヨシを使った訓練、思いついたのは単なる偶然、ほら、男の子なら長めの棒があったら普通振り回すもんじゃん?野原に生えるヨシの茎よ、当然ぶん回すでしょうが。でもこのヨシがすぐ折れちゃう。悔しいから魔力を流して強化してビュンビュンやってたんですけど、これがまた調子が良くってですね~。どうやらこのヨシと言う植物、他の棒よりも魔力の通りが優れてまして、少量の魔力でもバッチリ強化可能だったんですね~。しかもかなりの量の魔力にも耐える高性能、これなら魔力纏い初心者の訓練にはもってこいってなもんで、エミリーちゃんには頑張って貰っちゃった訳です。
それで本命はご神木様の枝から削り出した木刀ですね。ご神木様は根っこが動く不思議植物、当然の様に魔力の通りが抜群でして、魔力纏いによる強化も凄まじいことになるんですね~。正直驚きの性能、自分で作っておいてドン引きしましたから。
エミリーちゃんの悩みは自身の怪力が制御出来ずに木刀をへし折っちゃうこと何で、魔力で折れない木刀を作ればいいんじゃないって言うかなり脳筋の解決法ですね。後は魔力制御をこの木刀で慣れてもらって次第に対象を広げていくって方向性で。
ただこのままだとただの脳筋戦士になっちゃうんでいずれ別の訓練、力の制御にもチャレンジして貰うんですが。やり方は簡単、魔力なしでヨシの茎を振り回せるようになること。これはテレビでやってた自身を釣りキチガイと名乗る少年のアニメでやってた話を参考にさせていただきました。
あの話だとこのヨシを釣竿にして魚を釣ってたんだよな~。振り回すよりさらに難易度高めだよ~。俺も田舎暮らしの住民としていずれその領域に到達したいもの、精進あるのみです。
で、以上の話しを踏まえての実践をお見せしたんですが、みんなしてお口ぽか~んって。元冒険者のお爺さんがやってたんじゃないの?あれと基本は同じだから。動きが違う?こちとらただの村人よ?歴戦の戦士と同じにしないで頂戴。いつも片手斧に纏わしてやる作業をジェイク君の木刀をお借りして行ってみました。ただ木刀何で切断面に鋭利な刃物状に尖らせた魔力を使用、木刀を芯としたミニ斬馬刀って言った所でしょうか。ついでに枝葉もスパンスパンと。こんなもんで如何でしょうか?
最後にエミリーちゃんの当面の目標として普通の練習用の木刀での実演を披露。こんなに長い木があっても邪魔なんで、薪に加工しやすい長さに調整。やっぱ魔力って便利だわ~。
”田舎暮らしの必須技能魔力纏い”、他にも怪我の予防とか身体能力強化とか応用の幅はアイディア次第、みんなも工夫して豊かな辺境ライフを、レッツ魔力纏い♪
ジェイク君とエミリーちゃんが目をキラキラさせ尊敬の眼差しを向け、元冒険者のお爺さんが呆然とする中、一人ジト目を向ける我が弟ジミー。その目は”良い事を言ってるみたいだけどどうせ心の中ではくだらない事を考えてるんでしょう?”と言いたげな眼差し。ジミーよ、お前はエスパーか!?

何が起きようとも冷静に全てを見透かす弟ジミーに戦慄を覚える、兄ケビンなのでありました。
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