22 / 38
第5話 アップグレード オブ 心霊写真
②
しおりを挟む
◆ ◆ ◆
季節が進み、少し外が暑くなってきた。
本日、訳あり新聞部では甲斐枝部長が……
「タマ~」
まだタマさんを探しています。
「すみません、弟と私のせいですよね」
部長がタマさんを探しているのを見ると、とても申し訳ない気持ちになる。
でも、何回でも言わせてください。
タマさん、その金属の棚の中には絶対に入ってないと思います。
「いいや、呪いっていうのは元々不安定なんだよ。人のいうことはきかないし、君たちのせいでもない」
棚から頭を出してそんなことを言うけれど、部長、すごいタマさんのことたくみに操っていた気がするんですけど。
憎い、憎い、って……。
コンコンッ
部室の戸がノックされたのは、甲斐枝部長がまた棚に頭を突っ込もうとしたときだった。
「はい、どうぞ」
戸のほうを見ながら部長が返事をする。
カラカラと軽い音を立てて戸は横に開いた。
「まさか、笠原先生がいらっしゃるとはね」
そこに立った人物を見て、部長は興味深そうににっこりと笑った。
笠原先生とは2年3組の担任である男の先生だ。
たしか、まだ三十代だったと思う。
まあ、学年が違うから私はあまり詳しくないんだけど。
「なにかご用ですか?」
楽しそうに部長が笠原先生に問いかける。
どうするんですか、2年生である部長がなにかヘマをして怒るために来られてたら。
という気持ちは隠して、私は部長の隣からジッと笠原先生のことを見つめた。
「助けてほしいんだ」
笠原先生の声は緊張していた。
部長がやらかしたわけじゃなかった。
「僕らの訳あり新聞を信じてくださるってことなんですかね?」
悪い目してるなぁ、部長。
なに考えてるか、ぜんぜん分かんないけど。
「ああ、信じるよ」
緊張したままの表情で笠原先生はうなずいた。
「なら、どうぞ。詳しいご説明を」
窓際の椅子に座って、足を組む甲斐枝部長。
なんか、今日、すごい偉そうだ。
いつも偉そうだけど、さらに偉そう。
「家族と旅行に行って、なんの変哲もない工場跡で写真を撮ったんだけど、なんかそのときはいなかったはずの不気味な女が後ろに写ってて、さらに俺の腕が消えてたんだ。それから、ずっと後ろから誰かにつけられてる感じがして……」
自分の左腕を右手で押さえながら笠原先生は眉間にしわを寄せた。
「その写真、見せてもらっても?」
ください、というふうに部長が先生に向かって右手を伸ばす。
「実は……、その写真はスマホで撮ったんだけど、こわくてデータを消してしまったんだ。写真はもうどこにもない」
ずっとなにかにびくびくしているように先生はそう言った。
「ということはお焚き上げができないんですね」
「その通りなんだ、すまない」
ふーん、というように部長は数回うなずき、笠原先生は頭を下げた。
普通、心霊写真や呪われたお人形は神社やお寺に持っていって、お焚き上げをしてもらうことによって、供養されるんだって。
「写真がない、と」
考えるように部長が自分の顎の下に手を添える。
探偵のポーズだ。
「甲斐枝、助けてくれ。たまに腕を引っ張られる感覚もするんだ。俺だけじゃなくて、妻や娘にも被害が拡がるかもしれない。俺は家族を守りたいんだ」
そこまでする? というくらい、笠原先生は部長の足下に両膝をついてお願いした。
先生、家族想いのいい人なんだな。
「写真がないからお寺に行けない、と。そうだなぁ……じゃあ、上書きしちゃえばいいんだ。笠原先生、僕いい場所知ってるんで、写真撮りに行きましょう」
一体なにを考えているのか、そう言って、部長はグーサインを前に突き出した。
それも満面の笑みを浮かべて。
季節が進み、少し外が暑くなってきた。
本日、訳あり新聞部では甲斐枝部長が……
「タマ~」
まだタマさんを探しています。
「すみません、弟と私のせいですよね」
部長がタマさんを探しているのを見ると、とても申し訳ない気持ちになる。
でも、何回でも言わせてください。
タマさん、その金属の棚の中には絶対に入ってないと思います。
「いいや、呪いっていうのは元々不安定なんだよ。人のいうことはきかないし、君たちのせいでもない」
棚から頭を出してそんなことを言うけれど、部長、すごいタマさんのことたくみに操っていた気がするんですけど。
憎い、憎い、って……。
コンコンッ
部室の戸がノックされたのは、甲斐枝部長がまた棚に頭を突っ込もうとしたときだった。
「はい、どうぞ」
戸のほうを見ながら部長が返事をする。
カラカラと軽い音を立てて戸は横に開いた。
「まさか、笠原先生がいらっしゃるとはね」
そこに立った人物を見て、部長は興味深そうににっこりと笑った。
笠原先生とは2年3組の担任である男の先生だ。
たしか、まだ三十代だったと思う。
まあ、学年が違うから私はあまり詳しくないんだけど。
「なにかご用ですか?」
楽しそうに部長が笠原先生に問いかける。
どうするんですか、2年生である部長がなにかヘマをして怒るために来られてたら。
という気持ちは隠して、私は部長の隣からジッと笠原先生のことを見つめた。
「助けてほしいんだ」
笠原先生の声は緊張していた。
部長がやらかしたわけじゃなかった。
「僕らの訳あり新聞を信じてくださるってことなんですかね?」
悪い目してるなぁ、部長。
なに考えてるか、ぜんぜん分かんないけど。
「ああ、信じるよ」
緊張したままの表情で笠原先生はうなずいた。
「なら、どうぞ。詳しいご説明を」
窓際の椅子に座って、足を組む甲斐枝部長。
なんか、今日、すごい偉そうだ。
いつも偉そうだけど、さらに偉そう。
「家族と旅行に行って、なんの変哲もない工場跡で写真を撮ったんだけど、なんかそのときはいなかったはずの不気味な女が後ろに写ってて、さらに俺の腕が消えてたんだ。それから、ずっと後ろから誰かにつけられてる感じがして……」
自分の左腕を右手で押さえながら笠原先生は眉間にしわを寄せた。
「その写真、見せてもらっても?」
ください、というふうに部長が先生に向かって右手を伸ばす。
「実は……、その写真はスマホで撮ったんだけど、こわくてデータを消してしまったんだ。写真はもうどこにもない」
ずっとなにかにびくびくしているように先生はそう言った。
「ということはお焚き上げができないんですね」
「その通りなんだ、すまない」
ふーん、というように部長は数回うなずき、笠原先生は頭を下げた。
普通、心霊写真や呪われたお人形は神社やお寺に持っていって、お焚き上げをしてもらうことによって、供養されるんだって。
「写真がない、と」
考えるように部長が自分の顎の下に手を添える。
探偵のポーズだ。
「甲斐枝、助けてくれ。たまに腕を引っ張られる感覚もするんだ。俺だけじゃなくて、妻や娘にも被害が拡がるかもしれない。俺は家族を守りたいんだ」
そこまでする? というくらい、笠原先生は部長の足下に両膝をついてお願いした。
先生、家族想いのいい人なんだな。
「写真がないからお寺に行けない、と。そうだなぁ……じゃあ、上書きしちゃえばいいんだ。笠原先生、僕いい場所知ってるんで、写真撮りに行きましょう」
一体なにを考えているのか、そう言って、部長はグーサインを前に突き出した。
それも満面の笑みを浮かべて。
14
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
秘密のキューピットは学校のユーレイ
碧月 あめり
児童書・童話
中学一年生の武部紗良は、おとなしい女の子。そんな紗良は、同じクラスの高橋楓真に片想いをしている。三学期の席替えで高橋と隣同士の席になれた紗良だが、消極的な性格のせいで、クラスの人気者の高橋になかなか話しかけることができない。
勇気を出して、バレンタインデーの日に手作りクッキーを渡して告白しようとするが、あえなく失敗。
せめて教室の高橋の机にクッキーを入れて帰ろうとすると、制服姿のユーコという少女が窓から入ってくる。彼女は「片想いをしている子たちの、恋を応援するユーレイ」だと言い、紗良の恋を成就させるために協力しようとする。
スカートの中、…見たいの?
サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。
「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ルーカスと呪われた遊園地(下)
大森かおり
児童書・童話
ルーカスと呪われた遊園地(上)(中)のつづきです。前回のお話をご覧いただく方法は、大森かおりの登録コンテンツから、とんで読むことができます。
かつて日本は、たくさんの遊園地で賑わっていた。だが、バブルが崩壊するとともに、そのたくさんあった遊園地も、次々に潰れていってしまった。平凡に暮らしていた高校二年生の少女、倉本乙葉は、散歩に出かけたある日、そのバブルが崩壊した後の、ある廃墟の遊園地に迷い込んでしまう。そこで突然、気を失った乙葉は、目を覚ました後、現実の世界の廃墟ではなく、なんと別世界の、本当の遊園地に来てしまっていた! この呪われた遊園地から出るために、乙葉は園内で鍵を探そうと、あとからやってきた仲間達と、日々奮闘する。
ルーカスと呪われた遊園地(中)
大森かおり
児童書・童話
ルーカスと呪われた遊園地(上)のつづきです。前回のお話をご覧いただく方法は、大森かおりの登録コンテンツから、とんで読むことができます。
かつて日本は、たくさんの遊園地で賑わっていた。だが、バブルが崩壊するとともに、そのたくさんあった遊園地も、次々に潰れていってしまった。平凡に暮らしていた高校二年生の少女、倉本乙葉は、散歩に出かけたある日、そのバブルが崩壊した後の、ある廃墟の遊園地に迷い込んでしまう。そこで突然、気を失った乙葉は、目を覚ました後、現実の世界の廃墟ではなく、なんと別世界の、本当の遊園地に来てしまっていた! この呪われた遊園地から出るために、乙葉は園内で鍵を探そうと、あとからやってきた仲間達と、日々奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる