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第5話 アップグレード オブ 心霊写真

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 ◆ ◆ ◆

 季節が進み、少し外が暑くなってきた。
 本日、訳あり新聞部では甲斐枝部長が……

「タマ~」

 まだタマさんを探しています。

「すみません、弟と私のせいですよね」

 部長がタマさんを探しているのを見ると、とても申し訳ない気持ちになる。
 
 でも、何回でも言わせてください。
 タマさん、その金属の棚の中には絶対に入ってないと思います。

「いいや、呪いっていうのは元々不安定なんだよ。人のいうことはきかないし、君たちのせいでもない」

 棚から頭を出してそんなことを言うけれど、部長、すごいタマさんのことたくみに操っていた気がするんですけど。
 
 憎い、憎い、って……。

 コンコンッ

 部室の戸がノックされたのは、甲斐枝部長がまた棚に頭を突っ込もうとしたときだった。

「はい、どうぞ」

 戸のほうを見ながら部長が返事をする。
 カラカラと軽い音を立てて戸は横に開いた。

「まさか、笠原先生がいらっしゃるとはね」

 そこに立った人物を見て、部長は興味深そうににっこりと笑った。
 
 笠原先生とは2年3組の担任である男の先生だ。
 たしか、まだ三十代だったと思う。
 まあ、学年が違うから私はあまり詳しくないんだけど。

「なにかご用ですか?」

 楽しそうに部長が笠原先生に問いかける。
 どうするんですか、2年生である部長がなにかヘマをして怒るために来られてたら。
 という気持ちは隠して、私は部長の隣からジッと笠原先生のことを見つめた。

「助けてほしいんだ」

 笠原先生の声は緊張していた。

 部長がやらかしたわけじゃなかった。

「僕らの訳あり新聞を信じてくださるってことなんですかね?」

 悪い目してるなぁ、部長。
 なに考えてるか、ぜんぜん分かんないけど。

「ああ、信じるよ」

 緊張したままの表情で笠原先生はうなずいた。

「なら、どうぞ。詳しいご説明を」

 窓際の椅子に座って、足を組む甲斐枝部長。
 なんか、今日、すごい偉そうだ。
 いつも偉そうだけど、さらに偉そう。

「家族と旅行に行って、なんの変哲もない工場跡で写真を撮ったんだけど、なんかそのときはいなかったはずの不気味な女が後ろに写ってて、さらに俺の腕が消えてたんだ。それから、ずっと後ろから誰かにつけられてる感じがして……」

 自分の左腕を右手で押さえながら笠原先生は眉間にしわを寄せた。

「その写真、見せてもらっても?」

 ください、というふうに部長が先生に向かって右手を伸ばす。

「実は……、その写真はスマホで撮ったんだけど、こわくてデータを消してしまったんだ。写真はもうどこにもない」

 ずっとなにかにびくびくしているように先生はそう言った。

「ということはお焚き上げができないんですね」
「その通りなんだ、すまない」

 ふーん、というように部長は数回うなずき、笠原先生は頭を下げた。

 普通、心霊写真や呪われたお人形は神社やお寺に持っていって、お焚き上げをしてもらうことによって、供養されるんだって。

「写真がない、と」
 
 考えるように部長が自分の顎の下に手を添える。
 探偵のポーズだ。

「甲斐枝、助けてくれ。たまに腕を引っ張られる感覚もするんだ。俺だけじゃなくて、妻や娘にも被害が拡がるかもしれない。俺は家族を守りたいんだ」

 そこまでする? というくらい、笠原先生は部長の足下に両膝をついてお願いした。
 先生、家族想いのいい人なんだな。

「写真がないからお寺に行けない、と。そうだなぁ……じゃあ、上書きしちゃえばいいんだ。笠原先生、僕いい場所知ってるんで、写真撮りに行きましょう」

 一体なにを考えているのか、そう言って、部長はグーサインを前に突き出した。
 それも満面の笑みを浮かべて。
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