スーベニア・イン・ザ・スカイ ~僕が青春を忘れた理由~

純鈍

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8.【居場所】Side光

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 ◆ ◆ ◆

「俺さ、一人暮らしがしたいんだよね」

 親父の家へ向かう車中、俺はボソリと呟いた。親父は俺に一緒に暮らそうと言ってくれたが、既に親父には新しい家族が居る。新しい奥さんとその奥さんが連れていた小学生の娘が二人。こんなデカい息子が急に来たんじゃ、困るだろう。

「気使ってんのか?」

「いや、俺の夢なんだよ」

 気を使っていないわけではない。小さいが、これが俺の夢なのだ。働いて、一人で暮らすのが。

「良いけど、高校卒業したらな?それまではうちに居て、うちの嫁さんを手伝ってくれ」

「え?」

「三人目が産まれるんだよ」

 親父がニヤける顔なんて、初めて見た。運転席に座る親父は、まだ見ぬ赤ん坊を想像して夢を膨らませている。

「そんなん、尚更ダメじゃん」

「子育ては大変なんだよ。手伝ってくれよ。な? 頼むよ、光。高校卒業したら、ちょっとした支援はするから」

 親父の方が俺に気を使っているんだと思った。久しぶりに会った親父は、昔より、余裕があるように見えたのは、今が幸せだからなのかもしれない。

「ちょっとした支援……」

「これだよ、これ」

 助手席で眉をひそめる俺に、親父はやけにいやらしい顔をして、右手の親指と人差し指で丸を作った。俺の解釈が間違っていなければ、それはお金だ。

「まじで? じゃあ、俺、もう一つの夢叶えられるかもしれない!」

 今より、もっと小さかった頃のことは残念ながら思い出せないが、雰囲気だけは何となく心に残っている。俺が忘れた青春は戻って来ない。それでも……。

「なんだよ? まだ夢あったのか? 強欲だな」

「無いよりマシだろ?」

 車中は、ずっと賑やかで幸せな空間だった。我慢してきた傷にスッと染み込むよう
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