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7.【告白】Side穂花

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 ◆ ◆ ◆

「小岩井さん」

「……」

 突然、肩を揺すられ誰かに起こされた。ぼーっとする頭で自分が何をしていたのか、思い出してみる。

「あ、すみません、帰ります」

 そうだ、そうだった。深夜三時、僕は眠れず、ベッドの上で、ただ目を閉じていた。そんな時に新山から送られてきたのが、彼と村上純が争う音声だった。そこには僕を嵌めたことを告白する村上の声も入っていて……。

「一人じゃ駄目よ、小岩井さん。ご両親がいらっしゃってるから」

 椅子に座る僕を揺り起したのは婦警さんだ。送られてきた音声を持って、僕は必死に走り、近くの交番に駆け込んだのだ。

 信用などしてくれないと思った。それでも、音声が残っている。婦警さんは新山を探してくれると言った。僕は新山の特徴と彼が乗っていた自転車の特徴を言い、ずっと交番で待っていた。

 新山は直ぐに見つかった。どこかの車の整備場で倒れていたそうだ。病院に運ばれた、とだけ聞いて僕はホッとして交番のパイプ椅子に座ったまま眠ってしまったのだった。

 顔を上げて後ろを見ると交番の外で両親が別の警官と話をしているのが見えた。頭を下げる姿も見えた。僕も人に迷惑をかけてしまったんだと気付く。

「ごめんなさい」

 やっぱり、無力な僕らは誰かに頼らないと生きていけない。助け合いじゃなくて、一方的に助けられているだけ。

「お友達を助けようと思っただけよね? その気持ちは大切よ? でも、無理はしちゃダメ。女の子なんだから」

 婦警さんの慰めの言葉が僕の心に突き刺さる。優しさも時には人の心を傷付けるナイフとなる。僕は、女の子じゃない。

 女だったら、どうして無理をしちゃいけないのか。危ない目に遭ってはいけないのか。お淑やかにしていなければならないのか。字が綺麗でいなければならないのか。

 男だからなんなんだ。女だからなんなんだ。同じ人間じゃないか。性別が違えど、分からずとも、僕らは同じ人間だ。人間で居たいんだよ。

「穂花、帰るぞ?」

 ガラスの扉を開け、親父が顔を見せた。その隣で本当にすみません、と母親が婦警さんにも頭を下げる。

「ありがとうございました」

 言葉だけはちゃんとして、僕は両親の後を歩き出した。「こんな早朝に」だとか「警察のお世話になるなんて」だとか、父親がぶつぶつと文句を言っているのが聞こえる。母親の「お父さん」と止める声も聞こえて居ないのだろう、親父の言葉は次第に数を増し、こちらに向かって来た。

「そんなにあの男が好きなのか?危険な夜遊びばかりして、周囲に迷惑をかけて、ただの馬鹿じゃないか。あんな男と結婚したいとか言うなよ?結婚したいなら、別の男にしろ」

「私は友達を守りたかったの」

 馬鹿じゃない。親父は直ぐに人を決めつけたがる。馬鹿だとか、変だとか。

「友達? だったら、そんなに気にしなくても良いだろう? そいつの親がどうにかするさ」

「私は、ただ……」

 唯一の本当の友達を守りたかっただけ。本当の自分を知る唯一の友を。唯一の味方を。

「お前も遊んでばかり居ないで将来のことを考えたらどうだ? 女子高への編入はどうなった?」

「お父さん、私は村上ってやつに嵌められたんだよ? 新山が、その証拠を録音してくれた」

 そう言いながら、僕は携帯を両親に見せた。音声だって流した。

「百合子、転入手続きしてやってくれ」

 でも、僕の言葉は聞いてくれなくて。いつも、聞いてくれなくて。これが、お前のため、お前の将来のため、お前が生きていくため、と押し付ける。そんなもの、僕の本当の人生ではないのに。

「聞けよ! くそ親父!!」

 僕の怒鳴り声にピタリと二人の足が止まる。
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