16 / 20
7.【告白】Side穂花
①
しおりを挟む
◆ ◆ ◆
「小岩井さん」
「……」
突然、肩を揺すられ誰かに起こされた。ぼーっとする頭で自分が何をしていたのか、思い出してみる。
「あ、すみません、帰ります」
そうだ、そうだった。深夜三時、僕は眠れず、ベッドの上で、ただ目を閉じていた。そんな時に新山から送られてきたのが、彼と村上純が争う音声だった。そこには僕を嵌めたことを告白する村上の声も入っていて……。
「一人じゃ駄目よ、小岩井さん。ご両親がいらっしゃってるから」
椅子に座る僕を揺り起したのは婦警さんだ。送られてきた音声を持って、僕は必死に走り、近くの交番に駆け込んだのだ。
信用などしてくれないと思った。それでも、音声が残っている。婦警さんは新山を探してくれると言った。僕は新山の特徴と彼が乗っていた自転車の特徴を言い、ずっと交番で待っていた。
新山は直ぐに見つかった。どこかの車の整備場で倒れていたそうだ。病院に運ばれた、とだけ聞いて僕はホッとして交番のパイプ椅子に座ったまま眠ってしまったのだった。
顔を上げて後ろを見ると交番の外で両親が別の警官と話をしているのが見えた。頭を下げる姿も見えた。僕も人に迷惑をかけてしまったんだと気付く。
「ごめんなさい」
やっぱり、無力な僕らは誰かに頼らないと生きていけない。助け合いじゃなくて、一方的に助けられているだけ。
「お友達を助けようと思っただけよね? その気持ちは大切よ? でも、無理はしちゃダメ。女の子なんだから」
婦警さんの慰めの言葉が僕の心に突き刺さる。優しさも時には人の心を傷付けるナイフとなる。僕は、女の子じゃない。
女だったら、どうして無理をしちゃいけないのか。危ない目に遭ってはいけないのか。お淑やかにしていなければならないのか。字が綺麗でいなければならないのか。
男だからなんなんだ。女だからなんなんだ。同じ人間じゃないか。性別が違えど、分からずとも、僕らは同じ人間だ。人間で居たいんだよ。
「穂花、帰るぞ?」
ガラスの扉を開け、親父が顔を見せた。その隣で本当にすみません、と母親が婦警さんにも頭を下げる。
「ありがとうございました」
言葉だけはちゃんとして、僕は両親の後を歩き出した。「こんな早朝に」だとか「警察のお世話になるなんて」だとか、父親がぶつぶつと文句を言っているのが聞こえる。母親の「お父さん」と止める声も聞こえて居ないのだろう、親父の言葉は次第に数を増し、こちらに向かって来た。
「そんなにあの男が好きなのか?危険な夜遊びばかりして、周囲に迷惑をかけて、ただの馬鹿じゃないか。あんな男と結婚したいとか言うなよ?結婚したいなら、別の男にしろ」
「私は友達を守りたかったの」
馬鹿じゃない。親父は直ぐに人を決めつけたがる。馬鹿だとか、変だとか。
「友達? だったら、そんなに気にしなくても良いだろう? そいつの親がどうにかするさ」
「私は、ただ……」
唯一の本当の友達を守りたかっただけ。本当の自分を知る唯一の友を。唯一の味方を。
「お前も遊んでばかり居ないで将来のことを考えたらどうだ? 女子高への編入はどうなった?」
「お父さん、私は村上ってやつに嵌められたんだよ? 新山が、その証拠を録音してくれた」
そう言いながら、僕は携帯を両親に見せた。音声だって流した。
「百合子、転入手続きしてやってくれ」
でも、僕の言葉は聞いてくれなくて。いつも、聞いてくれなくて。これが、お前のため、お前の将来のため、お前が生きていくため、と押し付ける。そんなもの、僕の本当の人生ではないのに。
「聞けよ! くそ親父!!」
僕の怒鳴り声にピタリと二人の足が止まる。
「小岩井さん」
「……」
突然、肩を揺すられ誰かに起こされた。ぼーっとする頭で自分が何をしていたのか、思い出してみる。
「あ、すみません、帰ります」
そうだ、そうだった。深夜三時、僕は眠れず、ベッドの上で、ただ目を閉じていた。そんな時に新山から送られてきたのが、彼と村上純が争う音声だった。そこには僕を嵌めたことを告白する村上の声も入っていて……。
「一人じゃ駄目よ、小岩井さん。ご両親がいらっしゃってるから」
椅子に座る僕を揺り起したのは婦警さんだ。送られてきた音声を持って、僕は必死に走り、近くの交番に駆け込んだのだ。
信用などしてくれないと思った。それでも、音声が残っている。婦警さんは新山を探してくれると言った。僕は新山の特徴と彼が乗っていた自転車の特徴を言い、ずっと交番で待っていた。
新山は直ぐに見つかった。どこかの車の整備場で倒れていたそうだ。病院に運ばれた、とだけ聞いて僕はホッとして交番のパイプ椅子に座ったまま眠ってしまったのだった。
顔を上げて後ろを見ると交番の外で両親が別の警官と話をしているのが見えた。頭を下げる姿も見えた。僕も人に迷惑をかけてしまったんだと気付く。
「ごめんなさい」
やっぱり、無力な僕らは誰かに頼らないと生きていけない。助け合いじゃなくて、一方的に助けられているだけ。
「お友達を助けようと思っただけよね? その気持ちは大切よ? でも、無理はしちゃダメ。女の子なんだから」
婦警さんの慰めの言葉が僕の心に突き刺さる。優しさも時には人の心を傷付けるナイフとなる。僕は、女の子じゃない。
女だったら、どうして無理をしちゃいけないのか。危ない目に遭ってはいけないのか。お淑やかにしていなければならないのか。字が綺麗でいなければならないのか。
男だからなんなんだ。女だからなんなんだ。同じ人間じゃないか。性別が違えど、分からずとも、僕らは同じ人間だ。人間で居たいんだよ。
「穂花、帰るぞ?」
ガラスの扉を開け、親父が顔を見せた。その隣で本当にすみません、と母親が婦警さんにも頭を下げる。
「ありがとうございました」
言葉だけはちゃんとして、僕は両親の後を歩き出した。「こんな早朝に」だとか「警察のお世話になるなんて」だとか、父親がぶつぶつと文句を言っているのが聞こえる。母親の「お父さん」と止める声も聞こえて居ないのだろう、親父の言葉は次第に数を増し、こちらに向かって来た。
「そんなにあの男が好きなのか?危険な夜遊びばかりして、周囲に迷惑をかけて、ただの馬鹿じゃないか。あんな男と結婚したいとか言うなよ?結婚したいなら、別の男にしろ」
「私は友達を守りたかったの」
馬鹿じゃない。親父は直ぐに人を決めつけたがる。馬鹿だとか、変だとか。
「友達? だったら、そんなに気にしなくても良いだろう? そいつの親がどうにかするさ」
「私は、ただ……」
唯一の本当の友達を守りたかっただけ。本当の自分を知る唯一の友を。唯一の味方を。
「お前も遊んでばかり居ないで将来のことを考えたらどうだ? 女子高への編入はどうなった?」
「お父さん、私は村上ってやつに嵌められたんだよ? 新山が、その証拠を録音してくれた」
そう言いながら、僕は携帯を両親に見せた。音声だって流した。
「百合子、転入手続きしてやってくれ」
でも、僕の言葉は聞いてくれなくて。いつも、聞いてくれなくて。これが、お前のため、お前の将来のため、お前が生きていくため、と押し付ける。そんなもの、僕の本当の人生ではないのに。
「聞けよ! くそ親父!!」
僕の怒鳴り声にピタリと二人の足が止まる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
飛ぶことと見つけたり
ぴよ太郎
青春
学生時代に青春し忘れていた国語教師、押井。
受験前だというのにやる気がみえない生徒たち、奇妙な同僚教師、犬ばかり構う妻。満たされない日々を送っていたある日の帰り道、押井はある二人組と出会う。彼らはオランダの伝統スポーツ、フィーエルヤッペンの選手であり、大会に向けて練習中だった。
押井は青春を取り戻そうとフィーエルヤッペンに夢中になり、やがて大会に臨むことになる。そこで出会ったのは、因縁深きライバル校の社会教師、山下だった。
大人になっても青春ができる、そんなお話です。
ちょっと眺めの3万文字です(笑)
あいみるのときはなかろう
穂祥 舞
青春
進学校である男子校の3年生・三喜雄(みきお)は、グリークラブに所属している。歌が好きでもっと学びたいという気持ちは強いが、親や声楽の先生の期待に応えられるほどの才能は無いと感じていた。
大学入試が迫り焦る気持ちが強まるなか、三喜雄は美術部員でありながら、ピアノを弾きこなす2年生の高崎(たかさき)の存在を知る。彼に興味を覚えた三喜雄が練習のための伴奏を頼むと、マイペースであまり人を近づけないタイプだと噂の高崎が、あっさりと引き受けてくれる。
☆将来の道に迷う高校生の気持ちの揺れを描きたいと思います。拙作BL『あきとかな〜恋とはどんなものかしら〜』のスピンオフですが、物語としては完全に独立させています。ややBLニュアンスがあるかもしれません。★推敲版をエブリスタにも掲載しています。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
君だけのアオイロ
月ヶ瀬 杏
青春
時瀬蒼生は、少し派手な見た目のせいで子どもの頃からずっと悪目立ちしてきた。
テストでカンニングを疑われて担任の美術教師に呼び出された蒼生は、反省文を書く代わりにクラスメートの榊柚乃の人物画のモデルをさせられる。
とっつきにくい柚乃のことを敬遠していた蒼生だが、実際に話してみると彼女は思ったより友好的で。だけど、少し不思議なところがあった。
女子高生のワタクシが、母になるまで。
あおみなみ
青春
優しくて、物知りで、頼れるカレシ求む!
「私は河野五月。高3で、好きな男性がいて、もう一押しでいい感じになれそう。
なのに、いいところでちょいちょい担任の桐本先生が絡んでくる。
桐本先生は常識人なので、生徒である私にちょっかいを出すとかじゃなくて、
こっちが勝手に意識しているだけではあるんだけれど…
桐本先生は私のこと、一体どう思っているんだろう?」
などと妄想する、少しいい気になっている女子高生のお話です。
タイトルは映画『6才のボクが、大人になるまで。』のもじり。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる