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6.【星】Side光
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「何をだ?」
純は怪訝そうな顔をした。
「ほら、あれだよ。小岩井をさ? 俺も知りてぇよ」
凄いよなぁ、というニュアンスで純に尋ねる。翼と葵も「俺も聞きたい」「俺も」と言った。人の習性は面白い。誰かと同じことをしようとする。弱い者なら尚更だ。
「聞きてぇのか? まあ、もうお前別れたんだもんな? 良いぜ? 教えてやるよ」
群の頂点に立つ者は、讃えられると自慢気に語り出す。自信に満ち溢れた口調で言葉を紡ぎ出す。それが正しかろうと、そうでなかろうと。
「思い出したんだよな。小学校ん時にさ、なんか見せられなかったか? タバコだか、麻薬だか、詐欺だか分かんねぇけど、それに気をつけましょうみたいな動画」
全校生徒だか、高学年だけだか、小学校の時に体育館に集められて犯罪予防のビデオを見せられた。その記憶は俺の中にもある。翼も葵も「あるある」と頷いた。
「そん中でさ、ガラの悪い奴がさ、靴紐結ぶから、その間だけタバコ持っててくれって女子高生に持たせてさ、陰から写真撮って脅すのがあったんだよ」
俺の記憶力すげぇだろ? みたいな純の言い方に俺は自分の眉がピクリと動くのを感じた。
「まさか、嵌るとは思ってなかったけど、小岩井も馬鹿だよな」
がはははは、と純が愉快そうに笑う。
「ああ、馬鹿だよな……」
馬鹿だ、本当に馬鹿だ。
「だろう? ざまあみろって感じ──」
「馬鹿なのは、お前だよ」
俺は純の言葉を遮った。
馬鹿なのは、お前だ、村上純。人の人生を滅茶苦茶にするなんざ、最低だ。
「は? 今なんつった?」
いくら自分の人生が滅茶苦茶であろうと、自分が不幸であろうと。
「おい、光やめろよ」
「お前が大馬鹿過ぎて笑えるって言ったんだよ」
葵は俺を言葉で制止したが、迫ってくる純に対して俺は鼻で笑った。本当に腹が立つ。友人を馬鹿にされるほど胸糞悪いものはない。
「ふざけんなよ! 光!!」
「っ!」
勢い良く俺の顔面に純の右の拳が飛んできた。鈍い痛みと血の味が口の中に広がる。喧嘩などする気はない。怒鳴ったところで、殴ったところで、それに意味がないことを俺は知っている。
ただ、言わずにはいられなかったのだ。友のために、自分のために。
「お前って可哀想な奴だよな」
居場所のない俺よりも、本当の自分を認めて貰えない小岩井よりも、お前の方が何倍も惨めだ。誰かを不幸にしないと生きられないお前の方が何倍も何十倍も。
「くそ! 殺してやるッ! お前なんか! ぶっ殺してやる!!」
矢継ぎ早に純の拳や蹴りが繰り出され、俺はコンクリートの床に倒れ込んだ。俺は手を出さなかった。もう何処が痛むのかも分からない。身体中が痛い。翼と葵が純を止める声が聞こえたが、暫く、俺への攻撃は続いていた。
「翼! 葵! 行くぞ? そんな奴、放っとけ!」
騒がしい声たちが去って行った。顔面を殴られ、瞼が腫れ上がっているのかもしれない。視界が狭い、ボヤける。
冷静になってみれば、俺も大概大馬鹿野郎だ。無駄な戦いに変わりはない。若いから感情を抑えることが出来なかった、と言い訳をしても良いだろうか。
言う相手など、どこにも居ないけれど。
笑い合える相手なんて、どこにも……。
手探りで携帯をポケットから取り出し、自分の顔ギリギリに近付ける。
──良かった、壊れてない。救急車……、いや、小岩井……に先に……。
純は怪訝そうな顔をした。
「ほら、あれだよ。小岩井をさ? 俺も知りてぇよ」
凄いよなぁ、というニュアンスで純に尋ねる。翼と葵も「俺も聞きたい」「俺も」と言った。人の習性は面白い。誰かと同じことをしようとする。弱い者なら尚更だ。
「聞きてぇのか? まあ、もうお前別れたんだもんな? 良いぜ? 教えてやるよ」
群の頂点に立つ者は、讃えられると自慢気に語り出す。自信に満ち溢れた口調で言葉を紡ぎ出す。それが正しかろうと、そうでなかろうと。
「思い出したんだよな。小学校ん時にさ、なんか見せられなかったか? タバコだか、麻薬だか、詐欺だか分かんねぇけど、それに気をつけましょうみたいな動画」
全校生徒だか、高学年だけだか、小学校の時に体育館に集められて犯罪予防のビデオを見せられた。その記憶は俺の中にもある。翼も葵も「あるある」と頷いた。
「そん中でさ、ガラの悪い奴がさ、靴紐結ぶから、その間だけタバコ持っててくれって女子高生に持たせてさ、陰から写真撮って脅すのがあったんだよ」
俺の記憶力すげぇだろ? みたいな純の言い方に俺は自分の眉がピクリと動くのを感じた。
「まさか、嵌るとは思ってなかったけど、小岩井も馬鹿だよな」
がはははは、と純が愉快そうに笑う。
「ああ、馬鹿だよな……」
馬鹿だ、本当に馬鹿だ。
「だろう? ざまあみろって感じ──」
「馬鹿なのは、お前だよ」
俺は純の言葉を遮った。
馬鹿なのは、お前だ、村上純。人の人生を滅茶苦茶にするなんざ、最低だ。
「は? 今なんつった?」
いくら自分の人生が滅茶苦茶であろうと、自分が不幸であろうと。
「おい、光やめろよ」
「お前が大馬鹿過ぎて笑えるって言ったんだよ」
葵は俺を言葉で制止したが、迫ってくる純に対して俺は鼻で笑った。本当に腹が立つ。友人を馬鹿にされるほど胸糞悪いものはない。
「ふざけんなよ! 光!!」
「っ!」
勢い良く俺の顔面に純の右の拳が飛んできた。鈍い痛みと血の味が口の中に広がる。喧嘩などする気はない。怒鳴ったところで、殴ったところで、それに意味がないことを俺は知っている。
ただ、言わずにはいられなかったのだ。友のために、自分のために。
「お前って可哀想な奴だよな」
居場所のない俺よりも、本当の自分を認めて貰えない小岩井よりも、お前の方が何倍も惨めだ。誰かを不幸にしないと生きられないお前の方が何倍も何十倍も。
「くそ! 殺してやるッ! お前なんか! ぶっ殺してやる!!」
矢継ぎ早に純の拳や蹴りが繰り出され、俺はコンクリートの床に倒れ込んだ。俺は手を出さなかった。もう何処が痛むのかも分からない。身体中が痛い。翼と葵が純を止める声が聞こえたが、暫く、俺への攻撃は続いていた。
「翼! 葵! 行くぞ? そんな奴、放っとけ!」
騒がしい声たちが去って行った。顔面を殴られ、瞼が腫れ上がっているのかもしれない。視界が狭い、ボヤける。
冷静になってみれば、俺も大概大馬鹿野郎だ。無駄な戦いに変わりはない。若いから感情を抑えることが出来なかった、と言い訳をしても良いだろうか。
言う相手など、どこにも居ないけれど。
笑い合える相手なんて、どこにも……。
手探りで携帯をポケットから取り出し、自分の顔ギリギリに近付ける。
──良かった、壊れてない。救急車……、いや、小岩井……に先に……。
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