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6.【星】Side光
①
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小岩井が学校から消えて三日が経った。あいつが疑われたのは、停学処分になってしまったのは俺の所為だ。俺が純なんかと連んでいたから。
ごめんなさい、ありがとう、嫌だ、断る、助けて。いつから俺は自分の言葉をはっきり言えなくなっていたのだろうか。小岩井に謝らなければ。
暗闇の中、一つ灯りの下、俺は耳に携帯をあて、上を見上げた。出てくれるか分からないが……いや、出てほしい。
「もしもし?」
小さな音が聞こえ、電話が繋がった気がして俺は問い掛けてみた。
「なんだ? なんか用か?」
聞き慣れた声に少しだけホッとした。顔は見えないが、元気そうだと思った。
「外、見えるか?」
小岩井の部屋は二階だと聞いていた。真夜中の一時だというのは迷惑かもしれないというのは分かっているが、どうしても顔を見て話したかったのだ。昼間は小岩井の母親が居て、落ち着いて話せない。
カーテン越しに光の点いた部屋の中を人影が移動するのが見えた。隙間からこちらを覗いているようだ。
「見えるけど、こんな時間に何の用だ?」
怒っている。当たり前だよな。俺の所為で、更に嫌な目に遭って。
「謝りたくてさ、ごめんな、本当に。謝って、どうにかなる問題じゃないってことは分かってるけど」
これ以上、言葉が見つからない。
「ならば、王子様。僕をここから連れ出してくれないか?」
電話が切れ、カーテン越しに電気がパッと消えた。小岩井は一体、何を言っているのだろうか? 怒って、寝ようとしているのだろうか?
「小岩井?」
名前を口に出しても、届くことはない。電波は途切れてしまった。一瞬、不安になったが、暫くして玄関の扉から小岩井がそっと姿を現した。
「お前、外出て大丈夫なのかよ?」
「しっ、静かに。みんな寝てるから」
そう言って、小岩井は何処に行こうというのか、何も目的地を告げぬまま歩き出した。
「小岩井、どこに行く気だ?」
横に停めていたチャリを動かし、俺は小岩井の後を追った。足早に進む先には一体、何があるのだろうか?
「星が見たいんだ。ここからじゃ、よく見えない」
たまには夜中に抜け出して、夜遊びをしたい。ただ夜空を見上げて、星を確認するだけなのに、どうして、僕は出来ないのか。都会の空は明る過ぎて上手く見えない。土手に行けば見えるかもしれない。
小岩井は寂しそうに、そう言った。前の俺と同じ。夜の世界に逃げ出したいのかもしれない。
「後ろ、乗るか?」
「おう」
早く土手に行こうと思って、俺は小岩井をチャリの後ろに乗せて夜道を走り出した。酔っ払いさえ一人もいない。二人の世界。二人だけの世界が続く。この世界だけが唯一、平和な気がした。
「……僕は怒ってない。弱い自分にイライラしてるだけだ」
俺は何も言っていないが、小岩井がぼそりと呟く。また、話を聞いて欲しかったんだろうか?たったの三日、されど三日、小岩井は本当の自分を隠していたのだ。そうなっても仕方がない。
「うん」
「ほんと生きづらいよな?」
「うん」
「親が、僕を女子高に編入させようとしてる」
俺の服を掴む両手にグッと力が入る。何を言えば良いか分からない。何もしてやれない俺は、やっぱり無力で、俺こそが弱い人間なんだと思う。
高校生の弱さは、高校生にしか分からない。親の金で暮らし、親が居なければ、何も出来ない。
こんなこと、クラスの大半の奴らは考えていないだろう。
テスト勉強どうしようとか部活が楽しいとか、そんなことばっかり。
俺らは特別。嬉しくもない特別なんだよ。
「嫌だって、言ったのか?」
「言った。聞いてもらえなかった」
「そうか……」
お前が問題を起こしてこうなったんだ、黙ってろ。それが親の答えだ。子を守るのが役目なら、どうして、縛り付けるだけで話を聞いてくれないのか。金を与えるだけで、放置するのか。
愛はくれるが、話を聞かず、本当の自分を見てくれない親。自由をくれるが、愛を与えない親。どの親が一体、正解なのだろうか。
未成年の俺らに人生を選ぶ権利は無いのだろうか?
そもそも正しさって本当にあるのか?
ごめんなさい、ありがとう、嫌だ、断る、助けて。いつから俺は自分の言葉をはっきり言えなくなっていたのだろうか。小岩井に謝らなければ。
暗闇の中、一つ灯りの下、俺は耳に携帯をあて、上を見上げた。出てくれるか分からないが……いや、出てほしい。
「もしもし?」
小さな音が聞こえ、電話が繋がった気がして俺は問い掛けてみた。
「なんだ? なんか用か?」
聞き慣れた声に少しだけホッとした。顔は見えないが、元気そうだと思った。
「外、見えるか?」
小岩井の部屋は二階だと聞いていた。真夜中の一時だというのは迷惑かもしれないというのは分かっているが、どうしても顔を見て話したかったのだ。昼間は小岩井の母親が居て、落ち着いて話せない。
カーテン越しに光の点いた部屋の中を人影が移動するのが見えた。隙間からこちらを覗いているようだ。
「見えるけど、こんな時間に何の用だ?」
怒っている。当たり前だよな。俺の所為で、更に嫌な目に遭って。
「謝りたくてさ、ごめんな、本当に。謝って、どうにかなる問題じゃないってことは分かってるけど」
これ以上、言葉が見つからない。
「ならば、王子様。僕をここから連れ出してくれないか?」
電話が切れ、カーテン越しに電気がパッと消えた。小岩井は一体、何を言っているのだろうか? 怒って、寝ようとしているのだろうか?
「小岩井?」
名前を口に出しても、届くことはない。電波は途切れてしまった。一瞬、不安になったが、暫くして玄関の扉から小岩井がそっと姿を現した。
「お前、外出て大丈夫なのかよ?」
「しっ、静かに。みんな寝てるから」
そう言って、小岩井は何処に行こうというのか、何も目的地を告げぬまま歩き出した。
「小岩井、どこに行く気だ?」
横に停めていたチャリを動かし、俺は小岩井の後を追った。足早に進む先には一体、何があるのだろうか?
「星が見たいんだ。ここからじゃ、よく見えない」
たまには夜中に抜け出して、夜遊びをしたい。ただ夜空を見上げて、星を確認するだけなのに、どうして、僕は出来ないのか。都会の空は明る過ぎて上手く見えない。土手に行けば見えるかもしれない。
小岩井は寂しそうに、そう言った。前の俺と同じ。夜の世界に逃げ出したいのかもしれない。
「後ろ、乗るか?」
「おう」
早く土手に行こうと思って、俺は小岩井をチャリの後ろに乗せて夜道を走り出した。酔っ払いさえ一人もいない。二人の世界。二人だけの世界が続く。この世界だけが唯一、平和な気がした。
「……僕は怒ってない。弱い自分にイライラしてるだけだ」
俺は何も言っていないが、小岩井がぼそりと呟く。また、話を聞いて欲しかったんだろうか?たったの三日、されど三日、小岩井は本当の自分を隠していたのだ。そうなっても仕方がない。
「うん」
「ほんと生きづらいよな?」
「うん」
「親が、僕を女子高に編入させようとしてる」
俺の服を掴む両手にグッと力が入る。何を言えば良いか分からない。何もしてやれない俺は、やっぱり無力で、俺こそが弱い人間なんだと思う。
高校生の弱さは、高校生にしか分からない。親の金で暮らし、親が居なければ、何も出来ない。
こんなこと、クラスの大半の奴らは考えていないだろう。
テスト勉強どうしようとか部活が楽しいとか、そんなことばっかり。
俺らは特別。嬉しくもない特別なんだよ。
「嫌だって、言ったのか?」
「言った。聞いてもらえなかった」
「そうか……」
お前が問題を起こしてこうなったんだ、黙ってろ。それが親の答えだ。子を守るのが役目なら、どうして、縛り付けるだけで話を聞いてくれないのか。金を与えるだけで、放置するのか。
愛はくれるが、話を聞かず、本当の自分を見てくれない親。自由をくれるが、愛を与えない親。どの親が一体、正解なのだろうか。
未成年の俺らに人生を選ぶ権利は無いのだろうか?
そもそも正しさって本当にあるのか?
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