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4.【バイト】Side光

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 ◆ ◆ ◆

「ごめん」

 チャリを引きながら、ぼそりと言った。俺が変な奴らと連んでいるから、小岩井に嫌な思いをさせてしまった。俺と小岩井の住む世界はやはり、違うのだろうか。

「いいよ、別に。馬鹿な奴は放っとこうぜ。バイト、履歴書出しに行くんだろ?」

 三つ折りにした履歴書を振りながら小岩井が言った。初めてのバイトに、どんな夢を描いているだろうか?夢は描けているだろうか?

「……そうだな、出しに行こう」

 こっから、そのスーパーまでは直ぐだ。団地と公園の近く。ひっそりとやっているようなスーパーだ。ただ、団地に住む人間や近くの住民が夕方によく使っているから潰れないらしい。

「なあ、そういえば、新山ってどんな奴なんだ?」

「え?」

 変な聞き方をする、と思った。目の前に居る人間に、まるで他人のことを聞いているような。

「あんまり話さないなと思ってさ、新山は自分のこと」

 小岩井と友人になって、一週間は経った。だが、確かに俺は自分のことは話していない。俺には小岩井のような秘密はない。何も持っていない。

「普通の何も面白くない人間だよ。ただ生きてるだけのような。家族にも見捨てられてる」

 大人になったら、一人で暮らすようになったら、何か楽しみを見出して日常を過ごしていけるだろうか。

「将来の明白な目標って、本当に分からないよな。大きな目標なんて持っちまっても、それが上手く行く保証なんてないし」

 真っ直ぐ前を見つめたまま、小岩井がそんなことを言った。今だって、お互い安定しない生活なのに、夢なんて持てるかよ。それが俺たちの考えだ。きっと、同じだ。

「何がしたいのか、分からない。何が出来るのかも分からない」

 この世には可能と不可能しかない。出来るかもしれない、という考えはない。何が終着点なのかも分からない。大人だって、知らないだろう。

 死にたい、とネットで検索したならば、自殺防止相談の電話番号が出たり、偉い坊さんの呪文のような偉いお話が聞ける。だから、なんだ? と言いたくなる。結論なんて、まったく見つからない。

「俺たちって、死にたいと思わないだけ偉いよな」

 死にたい、とは思っていないのだ。生き方が分からないだけ。生きる希望が見えないだけ。これを、ただの不器用という言葉で済ませられるだろうか。

「ああ、そうだよな。僕も死にたいとは思ってない。生きてるとも思ってないけど」

 小岩井は俺と違う意味で同じことを言っていると思った。小岩井は本当の自分として、という意味だろう。生きている心地などしない。それは分かる。俺も毎日、なんのために生きているのかが分からない。

 話をしていると、時間というものは足早に過ぎて行くんだな、と最近知った。前回のレトロな喫茶店でも、時間が過ぎるのが早かった。

「ここだ、小岩井」

 公園の脇にチャリを止め、俺はスーパーの前に立った。バイトをすると決めたのは俺だが、少し緊張している。一年ぶりだし、実は知らない人間と話すのも苦手だ。

 正直に言うと小岩井が居て良かったと思っている。

「ほら、貼ってあるだろ?」

「貼ってある」

 店の入り口には、まだバイト募集の張り紙が貼ってあった。小岩井は今、どんな気分なのだろうか。緊張しているだろうか? ワクワクしているだろうか?

 店に入り、ハゲ頭の店長に話をして履歴書を渡し、面接なんてせずに俺たちの夏のバイトは決まった。相当、人手に困っていたんだろうな。時給は870円。学生だから安いらしい。給料は手渡しだから、銀行に口座を持たない小岩井でも大丈夫だった。

 一週間後、俺たちはバイト三昧の日々を送るのだろう……。
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