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先輩、俺と付き合ってみますか?ver.初めての大皿料理DX
⑥
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◆ ◆ ◆
先輩のあとすぐに風呂から出て、結局、先輩のお父さんの服を借りて俺が居間に行くと、やっぱりそこは騒がしかった。
「あら、あらあらあら、お父さんに雰囲気がそっくり!」
先輩のお母さんが俺を色んな角度から見て、なんだか喜んでいる。俺はどんな顔をすればいいのか分からない。喜んでくれているのなら良いのだろうか?
「似てるわけねぇだろ」
台所から、いつもと同じ不機嫌そうな顔で冷たく言う先輩。
「パパみたいー」
やんちゃそうな小さな男の子は目を輝かせながら俺の周りを走り回り
「「……」」
一番小さく見える二人の女の子(多分、双子)が俺を黙ってジッと見つめ
「いいな、俺も背でかくなりたい」
少し大きい男の子がこちらを見上げながら俺の横に並び
「いや、お父さんよりイケメンでしょ」
一番大きく見える女の子が少し離れたところからクールに言った。
正直言って、俺は混乱している。誰が誰だか分からない。ただ言えることがある。
――はぁあ、みんな可愛い! ここは天国か!
「先輩! まるで小さな先輩がいっぱいですね! めちゃくちゃ可愛い……!」
「おい」
俺がキョロキョロと先輩の家族のことを見ていると、急に先輩が台所からこちらに近付いてきて、俺の顎をぐっと掴んだ。そして、そのままの力で俺の視線が自分の方に向くように動かし
「お前は俺だけ見てろ」
と強い口調で言った。
「先輩……」
まさかそんなことを言ってもらえるとは思っていなかった俺は感激しながら先輩の目をジッと見つめた。それなのに
「その穢れた瞳で妹たちを見るな」
と、まるで憎しみでも籠もっているかのようなうんと低い声で先輩に言われた。なんだ、俺は警戒されているのか。
――さっきまでの優しい先輩はどこへ……。
少し落ち込む俺の横から先輩が忽然と消えた。と思ったら、なにやら料理の乗った大皿を持って台所から出てきて、丸くて背の低い大きなテーブルに並べていく。そして、定位置でもあるのだろう、先輩はそこに座った。
「さ、席座れ。お前は俺の隣な?」
自分の隣をトントンと叩いて先輩が俺を呼んだ。もう別の席には小さい子たちと先輩のお母さんが座っている。
「右から小6の奈央、小5の隼人、小2の寬太、小1の紬と望。それだけ覚えときゃいい。いただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
先輩の掛け声で、みんなが一斉にいただきますの挨拶をする。俺もワンテンポ遅れて「い、いただきます」と言ったが、小さい子たちのことはまだまだ覚えられなかった。
「これ、ナスの揚げ浸しな。簡単だから覚えとけ。フライパンに油入れて、なす揚げて、めんつゆの入ったでかい器に移して、混ぜて、最後擦った生姜を上から掛けまくる。かつおぶし忘れんなよ? で、これは串に刺さない焼き鳥な。長ネギと鶏肉をフライパンで焼くだけだが、鶏肉に酒、砂糖、塩を揉み込んで寝かしておくともっと美味くなる。で、タレは醤油、砂糖、みりん、水と片栗粉な」
「あ、え、あ、はい」
先輩が口頭で説明してくれているのを聞いている間に、周りから伸ばされたたくさんの手によって料理がどんどん無くなっていく。俺は完全にタイミングを逃してしまった。
――これは……、これは戦いだ……!
「何やってんだ、お前は」
突然、怪訝そうな顔をした先輩に俺は自分の箸を奪われた。
「うちは食べ盛りばっかりだから、すぐ料理が無くなる。だから、ちゃんと自分のもんは自分で確保しないとダメなんだよ」
そう言いながら、先輩が俺の箸で俺の皿にナスやら焼き鳥やらを取ってくれる。そして、「ほらよ」と手元に戻された。
「すみません、ありがとうございます」
お礼を言って、白米に乗せた焼き鳥を食べようとしたときだった。俺はハッとしてしまった。箸を持った手がカタカタと震え始める。
――もしかして、先輩、妹たちに遠慮して、栄養を取られているのでは……!? だから、こんなに華奢で、折れそうで……。
「先輩、あとでお話があります」
ピタっと手の震えを止めて、俺は静かに言った。いつもより大分静かな声音で言った。
「お、おう」
「いただきます」
少しビビっているような気がする先輩の横で改めて言って、俺は焼き鳥と白米を口に運んだ。
「うっま!」
口に入れてひと噛みした瞬間からタレの甘みと肉の旨味が広がって、止まらなくなった。
――この家に入ったときから良い匂いがしていたから、先輩のお母さんが作ったのだろうけど、先輩の料理と同じ味がする! 最高の味が引き継がれている! 先輩のお母さんには申し訳ないが、これはもう実質先輩が作っ――
「うっさいんだよ、黙って食え」
口に出して言っていなかったはずなのに、先輩に注意された。そして、小さい子たちに笑われた。ちなみにこの間、俺は先輩の言いつけを守って先輩の顔しか見ていなかった。
先輩のあとすぐに風呂から出て、結局、先輩のお父さんの服を借りて俺が居間に行くと、やっぱりそこは騒がしかった。
「あら、あらあらあら、お父さんに雰囲気がそっくり!」
先輩のお母さんが俺を色んな角度から見て、なんだか喜んでいる。俺はどんな顔をすればいいのか分からない。喜んでくれているのなら良いのだろうか?
「似てるわけねぇだろ」
台所から、いつもと同じ不機嫌そうな顔で冷たく言う先輩。
「パパみたいー」
やんちゃそうな小さな男の子は目を輝かせながら俺の周りを走り回り
「「……」」
一番小さく見える二人の女の子(多分、双子)が俺を黙ってジッと見つめ
「いいな、俺も背でかくなりたい」
少し大きい男の子がこちらを見上げながら俺の横に並び
「いや、お父さんよりイケメンでしょ」
一番大きく見える女の子が少し離れたところからクールに言った。
正直言って、俺は混乱している。誰が誰だか分からない。ただ言えることがある。
――はぁあ、みんな可愛い! ここは天国か!
「先輩! まるで小さな先輩がいっぱいですね! めちゃくちゃ可愛い……!」
「おい」
俺がキョロキョロと先輩の家族のことを見ていると、急に先輩が台所からこちらに近付いてきて、俺の顎をぐっと掴んだ。そして、そのままの力で俺の視線が自分の方に向くように動かし
「お前は俺だけ見てろ」
と強い口調で言った。
「先輩……」
まさかそんなことを言ってもらえるとは思っていなかった俺は感激しながら先輩の目をジッと見つめた。それなのに
「その穢れた瞳で妹たちを見るな」
と、まるで憎しみでも籠もっているかのようなうんと低い声で先輩に言われた。なんだ、俺は警戒されているのか。
――さっきまでの優しい先輩はどこへ……。
少し落ち込む俺の横から先輩が忽然と消えた。と思ったら、なにやら料理の乗った大皿を持って台所から出てきて、丸くて背の低い大きなテーブルに並べていく。そして、定位置でもあるのだろう、先輩はそこに座った。
「さ、席座れ。お前は俺の隣な?」
自分の隣をトントンと叩いて先輩が俺を呼んだ。もう別の席には小さい子たちと先輩のお母さんが座っている。
「右から小6の奈央、小5の隼人、小2の寬太、小1の紬と望。それだけ覚えときゃいい。いただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
先輩の掛け声で、みんなが一斉にいただきますの挨拶をする。俺もワンテンポ遅れて「い、いただきます」と言ったが、小さい子たちのことはまだまだ覚えられなかった。
「これ、ナスの揚げ浸しな。簡単だから覚えとけ。フライパンに油入れて、なす揚げて、めんつゆの入ったでかい器に移して、混ぜて、最後擦った生姜を上から掛けまくる。かつおぶし忘れんなよ? で、これは串に刺さない焼き鳥な。長ネギと鶏肉をフライパンで焼くだけだが、鶏肉に酒、砂糖、塩を揉み込んで寝かしておくともっと美味くなる。で、タレは醤油、砂糖、みりん、水と片栗粉な」
「あ、え、あ、はい」
先輩が口頭で説明してくれているのを聞いている間に、周りから伸ばされたたくさんの手によって料理がどんどん無くなっていく。俺は完全にタイミングを逃してしまった。
――これは……、これは戦いだ……!
「何やってんだ、お前は」
突然、怪訝そうな顔をした先輩に俺は自分の箸を奪われた。
「うちは食べ盛りばっかりだから、すぐ料理が無くなる。だから、ちゃんと自分のもんは自分で確保しないとダメなんだよ」
そう言いながら、先輩が俺の箸で俺の皿にナスやら焼き鳥やらを取ってくれる。そして、「ほらよ」と手元に戻された。
「すみません、ありがとうございます」
お礼を言って、白米に乗せた焼き鳥を食べようとしたときだった。俺はハッとしてしまった。箸を持った手がカタカタと震え始める。
――もしかして、先輩、妹たちに遠慮して、栄養を取られているのでは……!? だから、こんなに華奢で、折れそうで……。
「先輩、あとでお話があります」
ピタっと手の震えを止めて、俺は静かに言った。いつもより大分静かな声音で言った。
「お、おう」
「いただきます」
少しビビっているような気がする先輩の横で改めて言って、俺は焼き鳥と白米を口に運んだ。
「うっま!」
口に入れてひと噛みした瞬間からタレの甘みと肉の旨味が広がって、止まらなくなった。
――この家に入ったときから良い匂いがしていたから、先輩のお母さんが作ったのだろうけど、先輩の料理と同じ味がする! 最高の味が引き継がれている! 先輩のお母さんには申し訳ないが、これはもう実質先輩が作っ――
「うっさいんだよ、黙って食え」
口に出して言っていなかったはずなのに、先輩に注意された。そして、小さい子たちに笑われた。ちなみにこの間、俺は先輩の言いつけを守って先輩の顔しか見ていなかった。
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