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先輩、俺と付き合ってみますか?ver.初めての大皿料理DX
②
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瞬時に俺の頭が高速で回転し始める。
――これは絶対に誰かの悪戯に違いない。だって、こういうのは共学であったなら絶対にバッシングを受けるほどタブーとされているお題で、男子校である我が校ではネタになるとは思われるが、ネタ以外であるならば、見に来ている可愛い誰かの妹とか、他校の女子とか、俺以外だったならきっと選んでいただろう。だが、俺は先輩に勘違いされたくない。でも、先輩は怪我をしている。だから、だから……。
「先輩! 来てください!」
俺は一直線に先輩のもとに駆け寄った。
「いや、え? なんだよ?」
先輩は戸惑った顔をしていた。なかなか立ち上がろうとしないのは、きっと、足の怪我の所為だろう。
「おんぶするんで! 白組の勝利が掛かってるんです! 俺だって真剣なんです!」
――あなたに真剣なんです!
俺は先輩に背を向けてしゃがみ込んだ。「なんでおんぶなんだよ?」と文句を言いながらも俺の誠意に気が付いたのか、先輩は俺の要請に応じてくれた。
「次はお姫様抱っこ出来るようにしておきますから」
そう言いながら小走りで係のもとに向かう俺。
「次はねぇよ、馬鹿」
先輩は俺の背中で文句を言った。今、どんな顔をしているのか、見たい。でも、俺は聞いていないフリをして、係の生徒に紙を見せながら先輩も一緒に見せた。紙は意地でも回収させない。
「はい、オッケーです」
軽い感じで言われ、二着でゴールした。一着目も白で、白組の勝利に近付いた。
「俺は何も言わないぞ? おめでとう、とか、頑張ったな、とか」
そんなことを言う先輩を背負ったまま、俺は二着の旗を持つ教師のもとに急いだ。ただ、そこに並ぶためではない。
「先生、このまま先輩を保健室に連れて行きます。先輩、足、怪我してるんで」
「そうなのか? やっぱり、さっきので……――分かった。代わりに係の生徒を並ばせておく」
俺が近付いて言うと、先生もさっきの騎馬戦の戦いを見ていたらしく、すぐに許可が出た。その足で保健室に向かう。
「お前、気付いてたのか?」
人混みから少し離れてから、先輩が小さな声で言った。多分、恥ずかしくて誰にも顔を見られないように俺の肩に顔を伏せてると思う。
「当たり前でしょう? ほぼ毎日一緒にいるんです、気付かないわけがない」
――どれだけあなたの顔が好きで、どれだけあなたが好きで……。
「失礼します。先生、先輩足に怪我してて」
「あ、じゃあ、そっちのベッドの方の椅子に座ってて、この二人の傷、消毒してからだから」
校庭に面する扉から入った保健室には、競技で走って転んだのか、先に肘や膝に擦り傷を作った生徒が二人居た。そして、保健室の先生が指差した先にはベッドがあり、少しだけカーテンが引かれている。
「分かりました」
言われた通りに俺はカーテンの向こう側に行き、先輩を下ろした。それから俺は椅子に座った先輩の前にしゃがみ、先輩と視線を出来るだけ合わせた。
「なに、ニコニコしてんだよ。礼とか、別に言わねぇからな」
ムスッとした顔で、先輩はまた俺から視線を逸らした。
「……」
でも、俺は何も言わなかった。ただ、黙って、先輩のことを見ていた。初めて先輩の役に立てたような気がして嬉しかったからだ。
「なんで、何も言わねぇんだよ。――……さっきの」
変わらない表情で、でも、チラッとこちらを見て、先輩は言葉の最後に小さな声で何かを言った。
「はい?」
「だから、さっきのお題、なんだったんだよ?」
俺が聞き返すと、先輩は少し大きな声で言った。カーテンの向こう側にいる先生たちに俺との会話を聞かれたくないのだろう。俺も先輩との時間をほんとは誰にも邪魔されたくはない。
「これです」
体育着のズボンのポケットからさっきのお題の紙を取り出し、何の躊躇いもなく、俺は先輩の目の前に広げてみせた。
――これは絶対に誰かの悪戯に違いない。だって、こういうのは共学であったなら絶対にバッシングを受けるほどタブーとされているお題で、男子校である我が校ではネタになるとは思われるが、ネタ以外であるならば、見に来ている可愛い誰かの妹とか、他校の女子とか、俺以外だったならきっと選んでいただろう。だが、俺は先輩に勘違いされたくない。でも、先輩は怪我をしている。だから、だから……。
「先輩! 来てください!」
俺は一直線に先輩のもとに駆け寄った。
「いや、え? なんだよ?」
先輩は戸惑った顔をしていた。なかなか立ち上がろうとしないのは、きっと、足の怪我の所為だろう。
「おんぶするんで! 白組の勝利が掛かってるんです! 俺だって真剣なんです!」
――あなたに真剣なんです!
俺は先輩に背を向けてしゃがみ込んだ。「なんでおんぶなんだよ?」と文句を言いながらも俺の誠意に気が付いたのか、先輩は俺の要請に応じてくれた。
「次はお姫様抱っこ出来るようにしておきますから」
そう言いながら小走りで係のもとに向かう俺。
「次はねぇよ、馬鹿」
先輩は俺の背中で文句を言った。今、どんな顔をしているのか、見たい。でも、俺は聞いていないフリをして、係の生徒に紙を見せながら先輩も一緒に見せた。紙は意地でも回収させない。
「はい、オッケーです」
軽い感じで言われ、二着でゴールした。一着目も白で、白組の勝利に近付いた。
「俺は何も言わないぞ? おめでとう、とか、頑張ったな、とか」
そんなことを言う先輩を背負ったまま、俺は二着の旗を持つ教師のもとに急いだ。ただ、そこに並ぶためではない。
「先生、このまま先輩を保健室に連れて行きます。先輩、足、怪我してるんで」
「そうなのか? やっぱり、さっきので……――分かった。代わりに係の生徒を並ばせておく」
俺が近付いて言うと、先生もさっきの騎馬戦の戦いを見ていたらしく、すぐに許可が出た。その足で保健室に向かう。
「お前、気付いてたのか?」
人混みから少し離れてから、先輩が小さな声で言った。多分、恥ずかしくて誰にも顔を見られないように俺の肩に顔を伏せてると思う。
「当たり前でしょう? ほぼ毎日一緒にいるんです、気付かないわけがない」
――どれだけあなたの顔が好きで、どれだけあなたが好きで……。
「失礼します。先生、先輩足に怪我してて」
「あ、じゃあ、そっちのベッドの方の椅子に座ってて、この二人の傷、消毒してからだから」
校庭に面する扉から入った保健室には、競技で走って転んだのか、先に肘や膝に擦り傷を作った生徒が二人居た。そして、保健室の先生が指差した先にはベッドがあり、少しだけカーテンが引かれている。
「分かりました」
言われた通りに俺はカーテンの向こう側に行き、先輩を下ろした。それから俺は椅子に座った先輩の前にしゃがみ、先輩と視線を出来るだけ合わせた。
「なに、ニコニコしてんだよ。礼とか、別に言わねぇからな」
ムスッとした顔で、先輩はまた俺から視線を逸らした。
「……」
でも、俺は何も言わなかった。ただ、黙って、先輩のことを見ていた。初めて先輩の役に立てたような気がして嬉しかったからだ。
「なんで、何も言わねぇんだよ。――……さっきの」
変わらない表情で、でも、チラッとこちらを見て、先輩は言葉の最後に小さな声で何かを言った。
「はい?」
「だから、さっきのお題、なんだったんだよ?」
俺が聞き返すと、先輩は少し大きな声で言った。カーテンの向こう側にいる先生たちに俺との会話を聞かれたくないのだろう。俺も先輩との時間をほんとは誰にも邪魔されたくはない。
「これです」
体育着のズボンのポケットからさっきのお題の紙を取り出し、何の躊躇いもなく、俺は先輩の目の前に広げてみせた。
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