後輩くんは先輩の手料理が食べたい

純鈍

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先輩、こんなゲームしませんか?ver.カラフル弁当with you

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 ◆ ◆ ◆

 やっとのことで昼休みになった。授業はちゃんと受けたはずだが、正直あんまり覚えていない。先輩が弁当を作ってきてくれたことが嬉しすぎて、浮かれて、このまま先輩のところに行けば一緒に食べてくれるんじゃないかと考えて……、淡い期待を抱いて行動してしまった自分を少し馬鹿だなと思った。

「あ……」

 どうにかこうにか、先輩が三組の教室にいるのを見つけ出したが、先輩は二人の友達と一緒に弁当を広げようとしていた。女子みたいに机はくっ付けたりしないが、明らかにそれは友人との昼食タイムだった。

「一年? どうした?」
「いや、あの染谷先輩……いえ、なんでもないです! すみません!」

 俺と同じくらいの身長の見知らぬ先輩に声を掛けられて、思わず先輩の名前を口にしてしまったけれど、俺は逃げるようにその場から離れた。

 その足で中庭に向かう。そして、青々とした芝生の上に直接腰を下ろして、爽やかな空を見上げた。

 ――いつか先輩と弁当食べられたり、しないか……。

 そう思ったあとに弁当の包みに視線を落としたときだった。
 
 急に誰かが俺の横にどさりと座った。

「今日だけ、だからな」

 先輩だった。

「先輩……! 良いんですか?」
「二度は言わない」

 こちらは向かず、先輩は自分の弁当を広げようとしている。先輩のは赤色の包みだ。

「俺も弁当、開けて良いですか?」
「……」

 先輩からの返事はない。ただジトッとした視線だけが俺を見た。慌てて包みを開き、三段になっている弁当箱を分解していく。

 三段目には黒ごまの掛かった白い米、二段目には肉系と卵系のおかず、一段目には野菜系のおかずが入っていた。赤、黄、緑、オレンジ、白とカラフルで綺麗だ。

「これ、アスパラのベーコン巻きな。茹でて、巻いて焼くだけ。卵焼きは毎日だと飽きるから、中に色んな具入れる。今日はしらす。カルシウムも取れよ」

 ――何も言わなくても説明してくれる! 相変わらず、説明上手じゃないけど……好きだ。こんなに手先器用なのに、そういうところは不器用なんて。

 先輩は説明しながら、自分の弁当を食べ始めた。

「あと、その、たこのウインナーはお前を辱めようと思って入れた。なのにお前ってやつは……いいや、めんどうくさい」

 ――誰かに見られたら俺が恥ずかしいように俺のだけ、わざわざタコさんにしてくれたんですね? それなのに、俺、先輩と食べてるから、失敗しちゃったんですね?

「すみません」
「謝んな、逆にイラッとする」

 そう言う先輩は少し悔しそうだ。どうしても俺を辱めたかったのなら、俺を追ってきてくれなくて良かったのに。先輩は優しい。

「いただきます」

 先輩が作ってくれたお弁当を待たせるのも悪いので、俺も食べ始めることにした。まず、最初に口に運んだのが、そのタコさんウインナーで……。

「え、うっま! これ、なんか特殊なことしてます?」

 口に入れた瞬間、何故かコッテリとした酸味が口内に広がった。それが物凄く美味い!

「馬鹿か、マヨネーズを足の下に忍ばせてるだけだ」

 先輩が、自分のただの真っ直ぐなウインナーを食べながら、さらっと言う。

 ――忍法マヨネーズ走りの術!? それだけで、こんなに美味しくなるのか! このタコさん!

「天才ですね!」
「ただし、カロリーはすげぇ高い。お前は気にしないだろうがな。あと、マヨネーズで炒める方法もある。これもカロリー高くなるけどな」
「いやぁ、全部美味いです!」
「話聞けよ」

 夢中になって白米と二段目のおかずを食っていると、先輩にそう言われた。多分、呆れてだけど、先輩がちょっとだけ笑っていたように見えた。

「野菜はどんな感じですか?」
「見たら分かるだろ? レンコン塩焼きにして、にんじんはバターと砂糖で炒めて、お前が嫌がるようにピーマンをゴマ油とめんつゆで炒めて、鰹節まぶしたやつをこれでもかと詰めた」

 一瞬、俺の視線が弁当箱の一段目に釘付けになる。たしかに緑が多い、と思いながらそれを口に運ぶ。

「俺、ピーマン嫌いじゃないっすよ? しかも、この味! すげぇ好きです!」
「う、うるさいんだよ! もう黙れ……」

 ――先輩、顔赤いな……。照れてる、のかな……?

「そういえば、先輩」

 ああ、また先輩との楽しい時間で忘れるところだった。

「これ破ったときの罰どうします?」

 俺はゴソゴソと制服の上着から生徒手帳を取り出して、そこからさらに小さく畳んだ先輩との契約書を取り出した。
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