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オリエンテーション合宿はトラブルがいっぱい!
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◆ ◆ ◆
予想していたより、合宿は本当にスムーズに進んだ。
二日を掛けてのこの地を知るための謎解きハイキングは雫ちゃんとなんとか制覇したし、お昼も楽しく二人で作ったし、夜寝泊まりするところは今回だけ親衛隊の特権で一人部屋で、すごく平和だった。
生徒会の四人と接触する前に「雪くん」って雫ちゃんが声を掛けてくれるから、初日の朝以降、彼らと会ってない。
雫ちゃんはこの合宿が終わっても私と友達で居てくれるだろうか。
はぁ……、あとはこの後にあるキャンプファイアーで、ぼーっとしてれば終わるはず。
「雪くん」
辺りが暗くなり始めて、広場の中央でバチバチとキャンプファイヤーが燃え始めた頃、雫ちゃんが私の手を握ってきた。
顔を見ると、何か困っているみたい。
「どうしたんですか?」
困ってる人には手を差し伸べるように、と家では教育されてて、私は雫ちゃんに尋ねた。
「あの、私、昼間に落とし物しちゃったみたいで、一緒に……探しに行ってくれたりしますか?」
もじもじしながら雫ちゃんが泣きそうな顔で言う。
こんな表情をするくらいだ、きっと相当大切な物を落としたに違いない。
ダメという理由が見つからなかった。
「行きましょう。山のほうですかね?」
「おそらく……。ごめんなさい、本当に」
あまりに謝ってくれるから、心が痛む。
探してあげなければ、と私は彼女と一緒に山に足を踏み入れた。
「くしゅんっ」
しばらく歩いていると、彼女が可愛らしいくしゃみをした。
春といっても、やっぱり夜は少し冷える。
しかもここは山中だから、さらに。
こんなとき、男の子だったら、女の子に上着を貸すよね。
怪しまれないために、ここは少し我慢すれば……。
「これどうぞ」
「雪くん、ありがとうございます」
私なんかが貸したジャージを雫ちゃんは何の躊躇いもなく自分の肩に羽織ってくれた。
「そういえば、何を落としたんですか?」
内容を聞くのを忘れたな、と思って、部屋にあった懐中電灯で道を照らしながら、雫ちゃんに問う。
もしかして、この小さな池に落としたとか?
昼間、ここを通った気するもんね。
「お父様にいただいたリボンの髪留めを落としてしまって……」
池を覗き込んでいると、真後ろから雫ちゃんの声がした。
――あれ? 雫ちゃん、髪留めなんて使ってたっけ?
そう思った瞬間だった。
バシャンッ!
気付いたときには、私は近くにあった小さな池に落とされていた。
こちらを振り返ることなく、走り去っていく雫ちゃん。
懐中電灯を取られてしまって、周りがほとんど見えない。
「あー、騙されちゃったかな……」
もしかして、私が知らないだけであの子、天使組じゃなくて悪魔組の子だったのかな。興味なくてB組から他の組の子のこと、全然知らなかった。
やっぱり私、まだ恨まれてたか……。
でも、まあ、ぐじぐじしててもしょうがないし、とりあえず、どうするか考えよう。
ライトがないから帰る道が分からなくて、しかも、池が小さいといっても胸元まで水に浸かってしまったから、今の状態で歩くと白いティーシャツが透けて、さらしと人間のハート印がたぶん、見えちゃうな。
ここから出て、とりあえず乾かす?
今なら誰も気付いてなくて、誰も来なさそうだもんね。
「そっか、誰も、気付いてないのか……」
自分で考えて、自分で呟いて、ちょっと虚しくなる。
誰かを試したかったわけじゃないけど、誰にも言わずに行動してしまったことを後悔した。
――私、馬鹿みたいだな。友達が出来るかも、なんて甘い考え持っちゃって。
ガサガサっ!
「ひっ!」
自然は私に傷心する時間も与えてくれない。
急に何かが近くで動く音がして、小さな悲鳴が出た。
どっちだろう、右? 左? それとも、私の後ろ?
クマだったら、どうしよう……。
「この二日間俺たちを避けてたこと、許さねぇからな?」
「ひぃぃぃ!」
すべての恨みを込めたような低い声が背後から聞こえてきて、私は飛び上がった。
あれ、でも、このしゃべり方……
「晩くん……?」
後ろを振り返ってみれば、そこには懐中電灯で自分の顔を下から照らす晩くんが立っていた。
「首輪がねぇから、探すの苦労したぞ? まったく……、知らねぇ女と組みやがって」
怒った怖い顔がさらに怖いです。
「お前さ、ちょっとは警戒心持ったらどうなんだよ?」
「そうですよね、すみません」
私、晩くんのことを苛立たせてる。
でも、たしかにそうだ。
誰かに言ってから行動しなかった私が悪い。
なんとなく、晩くんとは加賀美先生のところから連れ戻された日からギクシャクしていて、こんな風に話すのは久しぶりのような気がした。
予想していたより、合宿は本当にスムーズに進んだ。
二日を掛けてのこの地を知るための謎解きハイキングは雫ちゃんとなんとか制覇したし、お昼も楽しく二人で作ったし、夜寝泊まりするところは今回だけ親衛隊の特権で一人部屋で、すごく平和だった。
生徒会の四人と接触する前に「雪くん」って雫ちゃんが声を掛けてくれるから、初日の朝以降、彼らと会ってない。
雫ちゃんはこの合宿が終わっても私と友達で居てくれるだろうか。
はぁ……、あとはこの後にあるキャンプファイアーで、ぼーっとしてれば終わるはず。
「雪くん」
辺りが暗くなり始めて、広場の中央でバチバチとキャンプファイヤーが燃え始めた頃、雫ちゃんが私の手を握ってきた。
顔を見ると、何か困っているみたい。
「どうしたんですか?」
困ってる人には手を差し伸べるように、と家では教育されてて、私は雫ちゃんに尋ねた。
「あの、私、昼間に落とし物しちゃったみたいで、一緒に……探しに行ってくれたりしますか?」
もじもじしながら雫ちゃんが泣きそうな顔で言う。
こんな表情をするくらいだ、きっと相当大切な物を落としたに違いない。
ダメという理由が見つからなかった。
「行きましょう。山のほうですかね?」
「おそらく……。ごめんなさい、本当に」
あまりに謝ってくれるから、心が痛む。
探してあげなければ、と私は彼女と一緒に山に足を踏み入れた。
「くしゅんっ」
しばらく歩いていると、彼女が可愛らしいくしゃみをした。
春といっても、やっぱり夜は少し冷える。
しかもここは山中だから、さらに。
こんなとき、男の子だったら、女の子に上着を貸すよね。
怪しまれないために、ここは少し我慢すれば……。
「これどうぞ」
「雪くん、ありがとうございます」
私なんかが貸したジャージを雫ちゃんは何の躊躇いもなく自分の肩に羽織ってくれた。
「そういえば、何を落としたんですか?」
内容を聞くのを忘れたな、と思って、部屋にあった懐中電灯で道を照らしながら、雫ちゃんに問う。
もしかして、この小さな池に落としたとか?
昼間、ここを通った気するもんね。
「お父様にいただいたリボンの髪留めを落としてしまって……」
池を覗き込んでいると、真後ろから雫ちゃんの声がした。
――あれ? 雫ちゃん、髪留めなんて使ってたっけ?
そう思った瞬間だった。
バシャンッ!
気付いたときには、私は近くにあった小さな池に落とされていた。
こちらを振り返ることなく、走り去っていく雫ちゃん。
懐中電灯を取られてしまって、周りがほとんど見えない。
「あー、騙されちゃったかな……」
もしかして、私が知らないだけであの子、天使組じゃなくて悪魔組の子だったのかな。興味なくてB組から他の組の子のこと、全然知らなかった。
やっぱり私、まだ恨まれてたか……。
でも、まあ、ぐじぐじしててもしょうがないし、とりあえず、どうするか考えよう。
ライトがないから帰る道が分からなくて、しかも、池が小さいといっても胸元まで水に浸かってしまったから、今の状態で歩くと白いティーシャツが透けて、さらしと人間のハート印がたぶん、見えちゃうな。
ここから出て、とりあえず乾かす?
今なら誰も気付いてなくて、誰も来なさそうだもんね。
「そっか、誰も、気付いてないのか……」
自分で考えて、自分で呟いて、ちょっと虚しくなる。
誰かを試したかったわけじゃないけど、誰にも言わずに行動してしまったことを後悔した。
――私、馬鹿みたいだな。友達が出来るかも、なんて甘い考え持っちゃって。
ガサガサっ!
「ひっ!」
自然は私に傷心する時間も与えてくれない。
急に何かが近くで動く音がして、小さな悲鳴が出た。
どっちだろう、右? 左? それとも、私の後ろ?
クマだったら、どうしよう……。
「この二日間俺たちを避けてたこと、許さねぇからな?」
「ひぃぃぃ!」
すべての恨みを込めたような低い声が背後から聞こえてきて、私は飛び上がった。
あれ、でも、このしゃべり方……
「晩くん……?」
後ろを振り返ってみれば、そこには懐中電灯で自分の顔を下から照らす晩くんが立っていた。
「首輪がねぇから、探すの苦労したぞ? まったく……、知らねぇ女と組みやがって」
怒った怖い顔がさらに怖いです。
「お前さ、ちょっとは警戒心持ったらどうなんだよ?」
「そうですよね、すみません」
私、晩くんのことを苛立たせてる。
でも、たしかにそうだ。
誰かに言ってから行動しなかった私が悪い。
なんとなく、晩くんとは加賀美先生のところから連れ戻された日からギクシャクしていて、こんな風に話すのは久しぶりのような気がした。
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