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今日、会わなかったら、きっと……
①
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「……点数落ちた」
戻ってきた定期考査の結果を見て、私は溜息を吐いた。
いままでより総合的に順位が落ちてしまったからだ。
クラスのみんなも自分たちの結果を見て、教室中がざわめいている。
「えー? これで下がったとか言ってんの?」
「大丈夫だよ、仲里さん」
「そうそう、私も真ん中くらいだし」
気付けば後ろから進藤さんたちが私の結果を覗き見してて、そう言われた。
頭のいいこの学校で、みんなそこそこの成績を取ってるからすごい。
しかも、そんなに可愛くおしゃれしてるのに。ぬかりない。
「今日の放課後、特別補講を行います。赤点を取った生徒はもちろん、復習したい人は来てください」
教壇のところで担任の先生が言った。
今日は図書館で颯馬くんと約束している。
でも、勉強しないと……。
私から唯一出来ることを消してはならない。
補講なんて、きっと一時間くらいで終わるよね。
きっと、颯馬くんは待っててくれるよね。
そう思って、私は補講に参加することにした。
◆ ◆ ◆
「ここの問題が解けてない人が多かったから気をつけるように。じゃあ、いまのを踏まえて、小テストを配る」
補講で全科目やってくれるのは助かるけど、まさか、小テストまであるとは思わなかった。
「はぁ、終わったー」
しんと静まり返った教室の中で誰かが終わりを告げる。
私も終わった。
数学の小テストを終えたところで、もう五時を過ぎていた。
放課後に突入してから一時間半も経っている。
学校から出て走れば十分くらいで図書館に着くはず。
そう思っていたのに……
「仲里さん」
後ろから声を掛けられた。
落ち着いた大人の女性の声。
学校カウンセラーの先生だった。
「ちょうど探してたのよ、会えてよかった。少しいい?」
「あの……」
どう答えようかと思ってしまった。
用事がある、と言えばよかったかもしれない。
迷ったことによって、カウンセラーの先生の瞳が光った気がした。
「こっち来て、少し話したいの」
ニコッと笑った先生が私をカウンセラー室に招く。
ここで逃げたら、きっとおかしいと思われる。
両親に何か言われるかもしれない、と考えてしまった。
「最近はどう?」
カウンセラー室に入って、丸いテーブルを挟んで先生の向かいの椅子に座ると、先生はさっそく、そう尋ねてきた。
「えっと……」
先生が何について、どうかと聞いているのかは分かる。
きっと、お姉ちゃんが死んで、大丈夫か? と聞きたいんだ。
でも、大丈夫なんて言えるわけないし、颯馬くんのことも言えない。
じゃあ、私はなんて答えればいいの?
なにが正解?
「悪夢を見たりはする?」
先生は質問の仕方を変えた。
「いえ、夢は見ません」
私は淡々と答えた。
「じゃあ、ご両親はどう? 優しくしてくれる?」
さらに先生は質問を変えた。
「はい」
まるで割れ物に触れるように……。
ぎゅっと両手で握ったスカートが皺になりそう。
どう答えれば、この質問責めは終わる?
嘘でも大丈夫と言えばいい?
「仲里さん、何か話したいことはない?」
どうして、カウンセラーの先生はこういうやわらかい話し方をするんだろう。
淡々と話したら怖いから?
でも、私はこっちのほうが探ろうとされてるみたいで怖い。
戻ってきた定期考査の結果を見て、私は溜息を吐いた。
いままでより総合的に順位が落ちてしまったからだ。
クラスのみんなも自分たちの結果を見て、教室中がざわめいている。
「えー? これで下がったとか言ってんの?」
「大丈夫だよ、仲里さん」
「そうそう、私も真ん中くらいだし」
気付けば後ろから進藤さんたちが私の結果を覗き見してて、そう言われた。
頭のいいこの学校で、みんなそこそこの成績を取ってるからすごい。
しかも、そんなに可愛くおしゃれしてるのに。ぬかりない。
「今日の放課後、特別補講を行います。赤点を取った生徒はもちろん、復習したい人は来てください」
教壇のところで担任の先生が言った。
今日は図書館で颯馬くんと約束している。
でも、勉強しないと……。
私から唯一出来ることを消してはならない。
補講なんて、きっと一時間くらいで終わるよね。
きっと、颯馬くんは待っててくれるよね。
そう思って、私は補講に参加することにした。
◆ ◆ ◆
「ここの問題が解けてない人が多かったから気をつけるように。じゃあ、いまのを踏まえて、小テストを配る」
補講で全科目やってくれるのは助かるけど、まさか、小テストまであるとは思わなかった。
「はぁ、終わったー」
しんと静まり返った教室の中で誰かが終わりを告げる。
私も終わった。
数学の小テストを終えたところで、もう五時を過ぎていた。
放課後に突入してから一時間半も経っている。
学校から出て走れば十分くらいで図書館に着くはず。
そう思っていたのに……
「仲里さん」
後ろから声を掛けられた。
落ち着いた大人の女性の声。
学校カウンセラーの先生だった。
「ちょうど探してたのよ、会えてよかった。少しいい?」
「あの……」
どう答えようかと思ってしまった。
用事がある、と言えばよかったかもしれない。
迷ったことによって、カウンセラーの先生の瞳が光った気がした。
「こっち来て、少し話したいの」
ニコッと笑った先生が私をカウンセラー室に招く。
ここで逃げたら、きっとおかしいと思われる。
両親に何か言われるかもしれない、と考えてしまった。
「最近はどう?」
カウンセラー室に入って、丸いテーブルを挟んで先生の向かいの椅子に座ると、先生はさっそく、そう尋ねてきた。
「えっと……」
先生が何について、どうかと聞いているのかは分かる。
きっと、お姉ちゃんが死んで、大丈夫か? と聞きたいんだ。
でも、大丈夫なんて言えるわけないし、颯馬くんのことも言えない。
じゃあ、私はなんて答えればいいの?
なにが正解?
「悪夢を見たりはする?」
先生は質問の仕方を変えた。
「いえ、夢は見ません」
私は淡々と答えた。
「じゃあ、ご両親はどう? 優しくしてくれる?」
さらに先生は質問を変えた。
「はい」
まるで割れ物に触れるように……。
ぎゅっと両手で握ったスカートが皺になりそう。
どう答えれば、この質問責めは終わる?
嘘でも大丈夫と言えばいい?
「仲里さん、何か話したいことはない?」
どうして、カウンセラーの先生はこういうやわらかい話し方をするんだろう。
淡々と話したら怖いから?
でも、私はこっちのほうが探ろうとされてるみたいで怖い。
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