上 下
26 / 46
今日、会わなかったら、きっと……

しおりを挟む
「……点数落ちた」

 戻ってきた定期考査の結果を見て、私は溜息を吐いた。
 いままでより総合的に順位が落ちてしまったからだ。
 クラスのみんなも自分たちの結果を見て、教室中がざわめいている。
 
「えー? これで下がったとか言ってんの?」
「大丈夫だよ、仲里さん」
「そうそう、私も真ん中くらいだし」

 気付けば後ろから進藤さんたちが私の結果を覗き見してて、そう言われた。
 頭のいいこの学校で、みんなそこそこの成績を取ってるからすごい。
 しかも、そんなに可愛くおしゃれしてるのに。ぬかりない。

「今日の放課後、特別補講を行います。赤点を取った生徒はもちろん、復習したい人は来てください」

 教壇のところで担任の先生が言った。

 今日は図書館で颯馬くんと約束している。
 でも、勉強しないと……。
 私から唯一出来ることを消してはならない。

 補講なんて、きっと一時間くらいで終わるよね。
 きっと、颯馬くんは待っててくれるよね。
 
 そう思って、私は補講に参加することにした。

 ◆ ◆ ◆

「ここの問題が解けてない人が多かったから気をつけるように。じゃあ、いまのを踏まえて、小テストを配る」

 補講で全科目やってくれるのは助かるけど、まさか、小テストまであるとは思わなかった。

「はぁ、終わったー」

 しんと静まり返った教室の中で誰かが終わりを告げる。
 私も終わった。

 数学の小テストを終えたところで、もう五時を過ぎていた。
 放課後に突入してから一時間半も経っている。

 学校から出て走れば十分くらいで図書館に着くはず。

 そう思っていたのに……

「仲里さん」

 後ろから声を掛けられた。
 落ち着いた大人の女性の声。

 学校カウンセラーの先生だった。

「ちょうど探してたのよ、会えてよかった。少しいい?」
「あの……」

 どう答えようかと思ってしまった。
 用事がある、と言えばよかったかもしれない。
 迷ったことによって、カウンセラーの先生の瞳が光った気がした。

「こっち来て、少し話したいの」

 ニコッと笑った先生が私をカウンセラー室に招く。
 ここで逃げたら、きっとおかしいと思われる。
 両親に何か言われるかもしれない、と考えてしまった。

「最近はどう?」

 カウンセラー室に入って、丸いテーブルを挟んで先生の向かいの椅子に座ると、先生はさっそく、そう尋ねてきた。

「えっと……」

 先生が何について、どうかと聞いているのかは分かる。
 きっと、お姉ちゃんが死んで、大丈夫か? と聞きたいんだ。
 でも、大丈夫なんて言えるわけないし、颯馬くんのことも言えない。

 じゃあ、私はなんて答えればいいの?
 なにが正解?

「悪夢を見たりはする?」

 先生は質問の仕方を変えた。

「いえ、夢は見ません」

 私は淡々と答えた。

「じゃあ、ご両親はどう? 優しくしてくれる?」

 さらに先生は質問を変えた。

「はい」

 まるで割れ物に触れるように……。

 ぎゅっと両手で握ったスカートが皺になりそう。

 どう答えれば、この質問責めは終わる?
 嘘でも大丈夫と言えばいい?

「仲里さん、何か話したいことはない?」

 どうして、カウンセラーの先生はこういうやわらかい話し方をするんだろう。
 淡々と話したら怖いから?
 でも、私はこっちのほうが探ろうとされてるみたいで怖い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。 そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。 しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。 アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。 カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。 「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」 「そんな変な男は忘れましょう」 一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

処理中です...